「能 狂言『鬼滅の刃』」は新たな一歩になれば、野村萬斎や大槻文蔵が意気込む

「能 狂言『鬼滅の刃』」の制作発表より。左から木ノ下裕一、野村萬斎、大槻文蔵、大槻裕一。

吾峠呼世晴原作による「能 狂言『鬼滅の刃』」の制作発表が、本日4月5日に東京・観世能楽堂で開催された。

東京公演が7月26日から31日まで観世能楽堂で、大阪公演が12月9日から11日まで大阪・大槻能楽堂で行われる「能 狂言『鬼滅の刃』」。制作発表には監修・出演の大槻文蔵、演出・出演の野村萬斎、出演の大槻裕一、補綴の木ノ下裕一が出席した。

演出に加え、鬼舞辻無惨、竈門炭十郎、天王寺松衛門役を務める萬斎は、無惨のトレードマークである白い帽子の代わりに白い着物を着用して登壇。司会から原作を読んでの感想を聞かれると、「まず、吾峠さんの絵の素晴らしさが目に飛び込んできた。そこに描かれているのが、日本に根ざしたストーリー。鬼が主題となっていて、能狂言の世界に近いなと感じました」と答える。

また萬斎は「鬼滅の刃」をどのように能狂言化するかという質問に、「今はアニメ化や2.5次元舞台化などいろいろ行われていますが、能狂言が培ってきた手法でお見せします。しかしそれだけで収まる世界観でないところもありますので、能狂言を見慣れた方には珍しい演出もあるかと。何より、能狂言の演出の一番の肝は“見立て”(演者が持つ扇などを別のものになぞらえること)。アニメや2.5次元舞台よりも、皆さんの想像力に訴える形になるかと」と回答。続けて「鬼の描き方は、能の専売特許。また狂言も面を使って演じますが、『鬼滅の刃』にも面を着けたキャラクターがたくさん出てきます。そういう意味で非常に近い世界観であるので、ほかのジャンルとは違う見せ方でご覧いただけるかと思います」と期待を煽る。

補綴として脚本を手がける木ノ下は、原作を尊重しながら能狂言化することを心がけているそうで「筆を取る前に、世阿弥の『風姿花伝・三道』という能の劇作術を書いた指南書をノートを取りながら読みました。その後に『鬼滅の刃』の原作を読んで。だから今は頭の中に2人の先生がいます。世阿弥先生に『これ、能だとおかしくないですか?』と聞いて、吾峠呼先生には『この作品の一番のテーマはなんでしょうか?』などと心の中で聞きながら脚本を書き進めています」とコメント。また「鬼滅の刃」のファンに能狂言の魅力を知ってほしいと話し、今回の趣向について「“五番立”という上演方法を踏襲しようと思います。つまり、さまざまな種類の能が5番続いて、その間に狂言が入ってくる。原作でだいたい6巻の頭ぐらいまでのエピソードを、5つのエピソードにわけていきます」と明かした。

能楽シテ方観世流人間国宝で、能楽界全体を牽引する文蔵。能の新作を作るうえで大切にしていることを司会に聞かれ、「新作に限らず復曲するときも、やはり大事なのは作者の真意。どういうものを表現したいかを探ること」と答える。また「能 狂言『鬼滅の刃』」に登場する鬼について、「鬼にもさまざまありますが、人間的な心を持っている鬼ほど怒りと同時に悲しみを持っているわけです。悲しみを超えて怒りになるけど、悲しみも残っているという部分が大事なところ。いくつか出てくる鬼の中で、そういうものをどういうふうに表現したらいいのかをこれから探っていきます」と語る。文蔵の言葉を受け、「今も世の中に鬼いませんか?」と萬斎。「実際に人を喰っちゃうという鬼はいないですが、人の命をなんとも思わないというような“鬼”は現代にもいるような気がします。文蔵先生がおっしゃるように、鬼になるのも理由があってこそ。その因果にスポットを当てて、そこに悲しみがあるというのを描いてきたのがまさしく能。逆に、狂言は『人間は鬼で、鬼のほうが人間らしい』なんてところを見せるところもございます。そういう構造と『鬼滅の刃』の親和性もさることながら、能狂言のフィルターを通すことで『鬼滅の刃』がより輝くような成果になるといいなと思います」と話した。

竈門炭治郎役と竈門禰豆子役を務める裕一は「木下さんの書かれた台本、そして萬斎さんの演出ということで普段の能と違ったアプローチができれば」と意気込む。また「炭治郎は修行を通じて成長していく役。私自身もまだまだ修行をしている段階ですので、“修行”というところで炭治郎と私自身がリンクすればいいかなと思っております」と話す。萬斎は「皆さん、能狂言というとお年寄りのものだと思ってません?(笑) 今回、演者には名人の先生から20代の若者まで揃っております。若者らしいアグレッシブな演技もあれば、深淵なる文蔵先生の世界観もある」とアピール。「すべてを能狂言の型に嵌め込むのではなく、我々のほうも『鬼滅の刃』の世界観に入り、チャレンジしていかないと我々としてもアップデートすることができない」と能狂言の発展に関して言及した。

最後に木下は「すでに萬斎さんからさまざまアイデアをいただいているんですが、その一緒に作っていくという空気がありがたい。密度の濃い作品にして、皆さんの前にお出ししたいです」と挨拶。萬斎は「コロナも一種の鬼でしょうか。その閉塞感を打ち破るのが『鬼滅の刃』でしたが、それを能狂言というジャンルでさらに打ち破れれば」と述べる。裕一は「まずはメインビジュアルを吾峠先生に描き下ろしていただいて大変感謝しております」とコメント。続けて「『鬼滅の刃』の世界観を能狂言で演じると、どんな化学反応が起きるのかなと今からワクワクしております。この作品でいろんなことに挑戦させていただくことになると思いますので、能楽師としても1歩、2歩成長できれば」と述べる。文蔵は「皆さんにご覧いただいたときに、『”鬼滅”も従来の能とあまり変わらないな』となってしまうのか、『おっ、これはまた新しい路線が敷かれたな』となるのかは楽しみにしていただきたいですし、私どもも心配なところ」と率直なコメントで笑いを誘い、「私としては少なくても一歩違う、能の世界が広がるような一歩を作っていければ」と力強く語った。

※禰豆子の禰はネに爾、鬼舞辻の辻は1点しんにょうが正式表記。

「能 狂言『鬼滅の刃』」

日程:2022年7月26日(火)~31日(日)
場所:東京都 観世能楽堂

日程:2022年12月9日(金)~11日(日)
大阪府 大槻能楽堂

スタッフ

原作:『鬼滅の刃』吾峠呼世晴(集英社ジャンプコミックス刊)
監修:大槻文蔵
演出:野村萬斎
補綴:木ノ下裕一
主催:OFFICE OHTSUKI
協力:集英社(週刊少年ジャンプ編集部)、公益財団法人大槻能楽堂
制作:協力万作の会

主な出演

シテ方

大槻文蔵、大槻裕一

狂言方

野村萬斎、野村裕基、野村太一郎

ワキ方

福王和幸、福王知登(交互出演) ほか