アニメの現場から~コロナ禍でアニメ作りはどう変わる?~ 第2回 アニプレックス 中山信宏プロデューサー「今までのやり方を変えてでも前に進んで行かなきゃ」

アニメ制作に携わる人々へのインタビューを通して、新型コロナウイルス感染症がアニメ業界にどのような影響を与えているか、これからもアニメを楽しむために私たちアニメファンにできることは何かを考えていく、このコラム。第2回では4月から7月に放送開始が延期された「魔王学院の不適合者」などを担当する、アニプレックスの中山信宏プロデューサーに登場してもらった。

取材・文 / 柳川春香

最初に影響が出たのは1月だった

──まずは中山さんがプロデューサーとして現在携わっている作品と、そこでどんなお仕事をされているのか教えてください。

今は7月放送開始のTVアニメ「魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~」や、アニメ化が発表された「86―エイティシックス―」などを担当しています。最近だと「俺を好きなのはお前だけかよ」「ぼくたちは勉強ができない」、あとはOADの発売が決定した「ゆらぎ荘の幽奈さん」などです。メーカーにおけるプロデューサーは、企画の立ち上げにはじまり、制作会社の決定やスタッフィング、製作委員会の組成、放送枠の調整、シナリオ会議や声優さんのキャスティング、音楽制作、アフレコやダビングやV編といった実際の作業、最終的にはパッケージの発売まで、頭からお尻までの全部に携わります。プロデューサーという役割はよく船頭に例えられるんですが、「あっちに行きましょう」って先頭で旗を振って進む先を示していくような立ち位置ですね。

──「魔王学院の不適合者」も放送が1クール延期になりましたが、中山さんが新型コロナウイルス感染拡大の影響を最初に感じられたのはいつ頃でしたか?

1月末頃だったと思いますが、まず中国で感染が拡大して外出禁止になったことで、動画、仕上げなど、中国の会社にお願いしている作業が止まりました。原画などの絵素材を中国に送ったり、戻したりすることもできなくなってしまって。デジタルで作画していたものは動きが止まらなかったんですが、やっぱりまだまだ紙に描いているものが圧倒的に多いんです。その頃「魔王学院の不適合者」の制作はすでに始まっていたので、制作会社と相談して、2月の段階で早々にオンエア時期をずらすことを決定しました。悩みはしましたが、やはり制作現場の状況が、悪くなることはあってもよくなることはないだろうと。

──かなり早い段階から影響が出ていたんですね。

そうですね。その時点ではアフレコはまだ進めていたんですが、3月末に国内での状況に鑑みて、「4月いっぱいはアフレコをやめましょう」と決めました。4月はできなくても、5月からはできるだろうと思ってたんです。ですが国内の状況が悪化してしまい、丸2カ月ストップして、再開したのはつい先日です。非常事態宣言が明けて、一度に収録する人数を絞ったり時間を区切ったりして行うというやり方が見えてきたので、そういった指針に基づいて実施し始めたというところですね。

――「俺好き」の劇場上映やイベントも中止になってしまいましたよね。

はい。大きなイベント関係ですと、3月の「AnimeJapan 2020」が中止になりましたし、「ぼく勉」や「俺好き」のパッケージイベントもですね。3月はまだイベントをやる、やらないのジャッジが難しく、(本コラムの第1回に登場した)永谷さんもおっしゃっていましたが、喧々諤々ありました。2月末に「SHIROBAKO」が舞台挨拶を中止したのは、本当に英断だったと思います。個人的にもギリギリまで「ぼく勉」のイベントを中止にするかどうか考えていたときだったので、ああいった動きがあったおかげで「ああ、やっぱり優先すべきはお客さんや関係者の安全だね」って見えた部分があったかなと思います。

──アニメはもちろん自宅で1人で観ても楽しめるものですが、近年は特にイベントによって盛り上がりが増している部分も大きかったと思います。イベントが開催できないことの影響についてはどう思われますか?

パッケージイベントは作品の集大成として、ここまでお付き合いしていただいたファンの皆さんに対して、お返しをする場でもあるので、それができない状況は心苦しくもあります。現状、「これだったら絶対大丈夫です」という保証がないですから、やはり作品を背負っている以上、なかなか開催の判断をするのは難しいと思います。スタッフの打ち上げもできないんですよ。打ち上げって、例えば原作者の方に「これだけの方々に関わっていただいていたんです」とご紹介したり、監督が「これだけの方たちに支えられてたんだ」って実感できたり、関わった皆でお礼を言い合える場でもあるので……。お互い顔を合わせて「お疲れ様」って言うことができないのは、寂しいものがありますね。

アニプレックスの底力を見せた「48時間テレビ」

──アニメはたくさんの人の力が集まって作られるものですが、「集まれない」ということは、作品づくりにどのような影響がありますか?

クリエイターと直接話せないというのは、なかなか難しいところがあります。普段は制作会社のスタジオに入って作業される監督やスタッフが、今はご自宅で作業されることも多く、それでコミュニケーション不足になってしまうとよくないので、僕も現場とのコミュニケーションはなるべく取るようにしています。もう新しいタイトルも動き出しているんですが、最初の顔合わせがまずリモートで、「もしかしたらこのまま実際に顔を合わせることなくアニメが終わるんじゃないか」と言ってたりしますね。ただ、この状況下でも「アニメだったらこれができる」ということが、個人的にはあるような気がしているんです。こういうときこそエンタテインメントを届けていく、「こんな面白いもの作ります」というのを示していかないと、どんどんしょんぼりしていっちゃうので、今までのやり方を変えてでも前に進んで行かなきゃいけないと考えています。

──新しい試みで言えば、アニプレックスでは7月4日・5日に「Aniplex Online Fest」という大規模なオンラインイベントを開催されますよね。

はい。まず「AnimeJapan 2020」が中止になったときに、同日程で「アニプレックス48時間テレビ!」という配信番組をやりまして。あれもAJの中止が決まったときに会社として、「座して死を待つべからず」というか、何かやらなくてはという勢いで決まりました(笑)。もちろんAbemaTVさんの設備が整っていたことがすごく大きかったですが、限られた時間内で実現まで持っていけたのは、やっぱりアニプレックスの底力だなと思います。「Aniplex Online Fest」も同様に、海外向けイベントの「Anime Expo」が中止になってしまったので、海外で作品を楽しみにしている人たちに向けた何かを届けたいということで企画されました。

──アニメ業界も少なからずダメージを受けている中で、例えば「払い戻しになったチケット代を好きなコンテンツに使いたい」というような熱意あるファンもいるかと思います。そういった方に向けて、「こういうことが作品の応援につながります」という手段は何かありますか?

やっぱり、作品を観てもらうことですね。気に入ったら「面白かったよ」と発信していただけたらというのが、一番大きいかと思います。もちろんパッケージを買ってもらえたらありがたいのですが、結局「面白い」と思ってもらえれば観てもらえるし、パッケージも買ってもらえるっていうものだと思うので。逆に、もし「チケット代が返金されて、このお金を使う先がない」っていうファンの方がいらっしゃるなら、そのお金を払ってもいいと思えるものを、僕らが用意しなければいけないと思います。

――例えば有料の配信イベントですとか。

はい。ただ、会場に行って生でみんなで楽しむ体験と、配信イベントを観ることとのリッチ度は、なかなか一致しないとも思います。正直僕もまだその感覚はわからないですし。なので、強いて言えばその「生で観られないんだったらちょっとな……」というハードルを、少し下げてもらえるとうれしいかもしれません。僕らも可能な限り、今だからこそ観て楽しめるものを提供できるようにがんばりますので、「1回試してみるか」とか、「まあちょっと観てみるか」っていうふうに、ちょっとだけでも思ってもらえるとありがたいかなと思います。

中山信宏

アニメプロデューサー。アニプレックスでの担当作品は7月4日にTOKYO MXほかで放送が開始される「魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~」のほか、「ゆらぎ荘の幽奈さん」「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。」「ぼくたちは勉強ができない」「通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?」「俺を好きなのはお前だけかよ」など。

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