塚原重義監督×成田良悟のアニメ「クラメルカガリ」日本語の美しさにも注目

左から吉田尚記アナウンサーと塚原重義監督。

新潟市内で開催中の「第2回新潟国際アニメーション映画祭」にて、本日3月15日に長編アニメ「クラメルカガリ」がオープニング上映された。会場では上映前に塚原重義監督と数土直治プログラムディレクター、上映後に塚原監督とMCの吉田尚記アナウンサーによるトークイベントを実施。作品が生まれた経緯や、塚原監督が込めた思いなどが語られた。

トークでは「クラメルカガリ」の制作背景が明らかに。「クラメルカガリ」はもともと塚原監督が制作した長編アニメ「クラユカバ」のスピンオフ作品。塚原監督は「クラユカバ」自体は10年ほど構想を練っており、当時はいろいろなところに企画を持ち込んでいたと明かす。同作は東京都の支援もあり、2018年にアヌシー国際アニメーション映画祭にも出展。その数年後、クラウドファンディングを行いパイロットフィルムを制作していた。塚原監督は「その際、小説家の成田良悟先生にも支援いただいていた縁から、『クラユカバ』のサイドストーリー的なショートショートを書いてもらおうとして。その結果、想像以上の厚みで作品を書いていただいたんですよ。これもう映画化できるね、とプロデューサーが言い出したことで『クラメルカガリ』が生まれました」と当時を振り返る。

「クラユカバ」と「クラメルカガリ」の違いについて聞かれると、塚原監督は「物語の視点かな」と回答。「『クラユカバ』は主人公の主観が軸となっており、長年自分が構想してきたことからも、自分のドロドロとした思いが入っている。そのうえでエンタメとして見やすいように注意して制作してきました。対して『クラメルカガリ』は1つの街を舞台にした群像劇。『クラユカバ』でやりたいことはやりきったので、こっちはまっさらな気持ちで純粋にエンタメとして作りました」と述べていた。

上映後の感想として、関係者以外での初めての上映ということもあり「ネガティブな意味ではなく、実感がないですね」と話す塚原監督。そして主人公のカガリとユウヤについて、エンタメとしての主人公感があると吉田アナウンサーが伝えると、塚原監督は「基本は成田先生のシナリオを忠実に再現する方向で進めていましたが、カガリはとにかくマイペースにしたいと思っていて。そしてそんなカガリに振り回されるユウヤ。ユウヤのようなキャラクターは逆境があってこそ成長するので、スタッフ一丸となってユウヤをいじめ抜いていました(笑)」と語った。

また最後のシーンについては吉田アナウンサーも興味津々な様子を見せる。塚原監督は「最後のカガリの言葉をどう解釈するかによって我々が苦しめられますよね(笑)。僕はきれいにすべてわかりきる結末よりは、心に何か残る終わり方が好きなので、今回は皆さんの想像にお任せする形に仕上げられたかなと思います」と話した。

今後の制作作業について、この魅力的な世界をもっと広げていくのか、それとも別の作品を作りたいのかと聞かれると、「直近の気持ちとしては深堀りしていきたい。いずれはまったく違うものも作りたいと思うかもしれません」と塚原監督。「今回の作品はあくまで自分にとっての道具立てでして。言葉にするのは難しいですが、こういうビジュアル、こういう世界観で少年少女が成長して社会と関わっていく部分を描けたかなと思います」と話す。

最後に、吉田アナウンサーからこうしたレトロフューチャーな世界観の作品をぜひ作ってほしいと言われると、塚原監督「4月12日からの全国公開がうまくいけばね! あなたたちにかかってるんですよ!(笑)」と冗談めかして応援を呼びかける。吉田アナウンサーも「今日鑑賞して、もっとこの世界に浸りたいと思った人は、友達を引き連れて劇場に行ってください」と推していた。そして吉田アナウンサーが「落語研究会に所属していた身からすると、作品の日本語のセリフが素晴らしいので、今回の国際映画祭でその魅力を存分に伝えたい」と話すと、塚原監督も「そこはこだわりましたよ!」とうれしそうな表情を見せる場面もあった。最後は会場からの大きな拍手に送られ、塚原監督は降壇した。

「第2回新潟国際アニメーション映画祭」は3月20日まで開催中。長編アニメーションのコンペティションを中心に、富野由悠季と出渕裕が登壇する「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」のイベント上映などのプログラムや、高畑勲の特集上映などが行われる。