あのマンガに音楽を添えて 第3回 板垣巴留と音楽

「あのマンガに音楽を添えて」ビジュアル

あのマンガの裏には、どんな音楽があったのか?

マンガ家に自身と作品を支えた楽曲を紹介してもらう本コラム「あのマンガに音楽を添えて」では、「あの作品の執筆中に聴いていた」「やる気を出したいときに聴く」「マンガの制作に影響を与えた」といった問いから、マンガ家と音楽の関係をあぶり出す。

第3回には、週刊少年チャンピオン(秋田書店)にて「SANDA」を連載中の板垣巴留が登場。代表作である「BEASTARS」からレゴシ、ルイの“イメージソング”だと感じている楽曲を挙げてくれた。浜田省吾、中島みゆき、宇多田ヒカルらの歌詞の世界とキャラクターを重ねる板垣のメッセージも合わせて紹介する。

ヘッダーイラスト / ボブa.k.aえんちゃん 構成 / 粕谷太智

浜田省吾「J.BOY」

「BEASTARS」のレゴシのイメージソングです。 浜田省吾の歌詞は、いつも厄介な女性に恋してて、世の中にイライラしてて、 葛藤してて、声が太くて優しくて、とにかく私の中で理想の主人公を表しています。レゴシには、常に浜省の歌詞のような生き様でいてほしいと思って描いていました。

中島みゆき「悪女」

私が女性キャラクターを描くときの基盤になっているような曲です。悪女になりきれない1人の女性を歌っているのですが、マリコの部屋とか、深夜のサ店とか、夜明けの電車とか、そういう情景描写も相まって、女性が抱える悲しみと優しさが滲み出ているような美しい曲です。この曲が似合うようなドラマチックな女性キャラクターをいつか生み出したいです。

Radiohead「Creep」

次の話の展開を考えるために毎晩散歩をするのですが、そのときに一番聴いていた曲は「Creep」だと思います。なので私の中ではとても「BEASTARS」に親和性を感じる曲です。常に自分のキモさを嘆く青臭さはとてもレゴシっぽいし、「こんなに行き詰まってる私はなんてダメなんだー!!」と悲観しながら散歩していた私の姿もすごくこの曲に合っていると思います。夜の住宅街を思い出します。

宇多田ヒカル「Be My Last」

「BEASTARS」のルイの話を考えるときはなぜかよく宇多田ヒカルの曲を聴いていました。草食獣のルイは、いつも肉食獣との友情や愛情に揉まれて、そのままならなさに苦しんでいますが、この曲の宇多田ヒカルの泣くような歌声がその姿にとても合っています。「大人ぶってたのは誰?」というフレーズもルイへの問いかけに重なるようで、イメージソングと言っても過言じゃありません。

板垣巴留(イタガキパル)

2016年3月、週刊少年チャンピオン(秋田書店)にて4号連続の読み切り作「BEAST COMPLEX」でデビュー。読み切りの好評を受け、同年9月に「BEASTARS」を連載開始した。「BEASTARS」「BEAST COMPLEX」ともに、草食動物と肉食動物が共生する世界を描いている。2017年、「BEASTARS」で宝島社が刊行する「このマンガがすごい!2018」オトコ編で第2位を獲得。2018年には同作が第11回マンガ大賞、第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、第22回手塚治虫文化賞新生賞、第42回講談社漫画賞少年部門を受賞した。2021年7月より週刊少年チャンピオン(秋田書店)で、「SANDA」を連載中。単行本最新2巻が2月8日に発売された。