「白蛇伝」4Kリマスター版上映会、修復担当したスタッフ「『なつぞら』には感謝」
日本初の劇場用長編カラーアニメーション「白蛇伝」の4Kデジタルリマスター版を上映するイベントが、第32回東京国際映画祭の一環として、去る11月1日に東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズで行われた。
東映アニメーションの前身である東映動画が制作し、1958年に公開された「白蛇伝」。今年放送されたNHK連続テレビ小説「なつぞら」で主人公・なつが携わったアニメ作品「白蛇姫」のモデルとして注目を集め、東京国際映画祭では日本のアニメ文化が国際的に評価されるきっかけとなった作品として「ジャパニーズ・アニメーション」部門に選ばれている。イベントでは上映前に東映アニメーション、東映、国立映画アーカイブが行っていた本作のリマスター作業について語るトークショーを開催。リマスター作業に携わった東映ラボ・テック特別顧問の根岸誠氏および東映アニメーション制作技術室長の近藤修治氏と、映画祭のプログラミング・アドバイザーを務めるアニメ評論家・氷川竜介が登壇した。
トークの冒頭、根岸氏は本作が作られた1958年当時について「ネガを保存しとくっていう考え方が多分なかったんですね」と話し、ネガフィルムが不適切な方法で保存されていたため、その素材が湿気や熱によって劣化してしまう現象“ビネガーシンドローム”が進んでいたことを明かす。「だから今回、ちょうどギリギリのところで修復が間に合ってよかったと思います」と根岸氏が続けると、氷川は「“修復”というよりは“レスキュー”に近い印象がありますね」と笑った。
リマスター作業について根岸氏は「実際の作業より、どういう方法で、どういう考え方でリマスタリングするかという方針決めに時間がかかります」と語り、制作当時の色の塗り間違いをそのまま残すかどうかで悩まされたエピソードを披露。修復技術が発達しているがゆえに、どこまで直し、どこまで直さないかの判断を求められることが多くなっていると述べた。近藤氏は色の修復について「カラーリストにセル画を見せて色を知ってもらい、それがフィルムに変換されるとこういうふうに見えるだろうという色を考えてもらった」と作業プロセスを振り返る。根岸氏はそのセル画すら褪色が進んでいたことを付け加えつつ、「残されたさまざまな資料を参考にしながら色の調整を行いました」と語った。
修復された映像を実際に見た近藤氏は「いままでVHSやDVDでも作品を見てきましたが、色の仕上がりがそれらとは格段に違って、一言で言えばすごく見やすい。関係者への試写で若手に見てもらったときも『こんなに見やすいとは思わなかった』という感想をもらえて、若い世代にも響く仕上がりになっているのがすごいと思いましたね」とコメント。また修復で気を付けたことについて聞かれた根岸氏は「背景画の紙の質感を残すのにけっこう苦労しました」と告白する。近藤氏は紙の質感を残した判断について「質感を消したほうがわかりやすいといえばわかりやすいのですが、セル画のアニメーションであること、フィルムで作られた作品であることを大事にしたいと思いました」と説明した。
続いて氷川は「なつぞら」が「白蛇伝」の周知に及ぼした影響を尋ねる。すると近藤氏は顔をほころばせて「非常に大きい影響だったと思います」と返答。「本作を通して今までアニメーションに興味がなかった方にも関心を持ってもらうことができて、それもあってかなりいろんなところから『白蛇伝』の上映をしたいという声がかかりまして。本当に『なつぞら』には感謝しています」と言い、「『なつぞら』でも描かれていた、若い才能が集まってアニメーションを作り続けていくという精神は、今の東映アニメーションの若い世代にも引き継がれています」と続ける。
ここで近藤氏は東映アニメーションが取り組んでいる新たな人材育成プログラムの一環として企画され、若手スタッフが手がけたアニメーション作品「ジュラしっく!」を紹介。制作に関わった東映アニメーション第一映像企画部の伊藤志穂氏が壇上に姿を現した。
YouTubeで公開中の「ジュラしっく!」は、技術評論社から刊行されている書籍「リアルサイズ古生物図鑑」シリーズにインスパイアされた約1分のショートムービー。本作を作るうえで苦労した点を聞かれた伊藤氏は「監督など制作スタッフの全員が初めてその役職を担当する若手ばかりだったんですね。だからそれぞれが悩みながら、試行錯誤しながら作っていきました」と振り返る。続けて伊藤氏が「公開中の動画はMVのような作り方になっていますが、今後ストーリーを広げて大きい作品に育てていくため、今は活動している段階です」と企画が継続中である旨を語ったあと、実際に会場のスクリーンには「ジュラしっく!」が映され、上映後には観客席から拍手が贈られた。
最後に「白蛇伝」4Kデジタルリマスター版の上映を控え、登壇者から観客にメッセージが送られる。近藤氏は「60年前にこれだけの作品が作られたんだということを、ぜひその目で確かめてほしいと思います」とコメント。根岸氏は音響への注目を促し「今日皆さんが聴く音はかなりもとの音に近い、そういう修復をしたつもりです」と自信を窺わせる。続いて氷川が「『なつぞら』をご覧になった方は、『これがなつが作った作品のモデルとなったアニメなんだ』というふうに楽しんでいただければと思います」と述べ、トークショーは幕を閉じた。