アニメファンのためのVR入門 進撃、ゆるキャン△、高木さん…アニメ関連コンテンツも急増中な“VR”の世界をご案内
コミックナタリーはマンガ・アニメのニュースサイトだが、近年アニメ作品とのコラボコンテンツなどの紹介で、“VR(バーチャル・リアリティ)”に関する記事を出すことが増えてきた。最新技術を駆使したVRコンテンツは、アニメの世界に入ったような特別な体験ができたり、ここでしか味わえないオリジナルストーリーが用意されていたり、さまざまな魅力があるといえよう。しかしゲームやガジェットに詳しくない人にとっては、なんとなくハードルが高いものに感じて敬遠してしまうこともあるのではないか。
そこで今回、アニメ好きでVR文化にも詳しいWebライター・けいろー氏に、「アニメファンのためのVR入門」をテーマにコラムを寄稿してもらった。前編ではVRの魅力と現状を解説。後編ではアニメファンにオススメしたいVRコンテンツと、それをプレイするためのVRデバイスの選び方についてお届けする予定だ。
文 / けいろー
はじめに
あなたは「ソードアート・オンライン」を観たこと、あるいは読んだことがあるだろうか。
フルダイブ型VRマシンでプレイするオンラインRPGと、さまざまな仮想世界で繰り広げられる物語。主人公・キリトのような冒険を自分もしてみたい、魅力的なキャラクターたちと触れ合いたいと考えたことがある人は、きっと少なくないはずだ。
2021年現在、残念ながら「SAO」に登場するようなフルダイブ型VRマシンは実現していない。しかし一方で、「VRの世界を冒険したい」「魅力的なキャラクターと触れ合いたい」という夢が、部分的には叶いつつある。
「ゆるキャン△」や「からかい上手の高木さん」といった人気アニメが次々にVRゲーム化され、高性能で安価なVRデバイスも登場した2020年。さらにはステイホーム生活によってユーザーも急増したことで、VRコンテンツは今まさに拡大の真っ只中にある。人気タイトルの参入やVTuberイベントも盛況なことから、興味を持っている人も多いのではないだろうか。
そこで今回は、アニメファンにこそ体験してほしいVRの世界の魅力と現状を、前後編に分けて伝えていく。
今、VRがアツい!
冒頭でも触れたように、VR業界は今まさに盛り上がりの最中にある。この数年でVR関係のニュースやコンテンツについて見聞きする機会は増え、「#VR睡眠」「#バーチャルマーケット」「VRChat Plus」など、関連ワードやハッシュタグがTwitterトレンドに入ることも今や決して珍しくはない。
ビジネス面で見ても、VR市場は着実に拡大している。特に昨年はコロナ禍によるバーチャルイベント需要の高まりもあり、行政や有名IPのVR業界への参入が相次いでいた。2020年の出来事を例に、VRコンテンツの今を覗いてみよう。
人気タイトルのVRゲーム化に加えて、バーチャルイベントも盛況!
2020年は、コアなゲーマーや既存のユーザー以外にもVRが広く認知された1年だった。コロナ禍でリアルイベントの開催が困難になったことで、仮想空間を会場にしたバーチャルイベントが次々に開催。アニメやゲームの人気タイトルも続々とVRに進出している。
たとえば、バーチャルSNS・clusterでは昨年夏に「ポケモンバーチャルフェスト」をオープン。これは仮想空間の「ポケモンのテーマパーク」で遊べるイベントで、友達と一緒にアトラクションで楽しんだり、ピカチュウのダンスショーを見たりすることができた。clusterではほかにも、「SAO アリシゼーション WoU」や「転生したらスライムだった件」などのタイトルとコラボレーションしている。
バーチャルイベントが盛況な一方で、人気タイトルのVRゲーム化も外せない。
2019年には「狼と香辛料VR」「Re:ゼロ VRで異世界生活」、2020年には「からかい上手の高木さんVR」「リトルウィッチアカデミアVR ほうき星に願いを」などのタイトルが発売。中にはクラウドファンディングで想定以上の資金を集めてゲーム化に至った作品も多く、ファンからの注目度も高いことがわかる。
高品質かつ安価なVRヘッドセットも登場!
そしてもう一点、2020年のVR業界におけるエポックメイキングな出来事として無視できないのが、「Oculus Quest 2」の発売だ。
Oculus Quest 2は、Facebookの子会社が開発するVRヘッドセット。多くのVR機器が高性能ゲーミングPCとの接続を必要とするのに対し、Oculus Quest 2はコンピュータが内蔵されている“スタンドアロン型”なので、パソコンと接続する必要がない。製品を購入し、電源を付けてセットアップをしたら、そのまますぐにVRの世界へ飛び込める。
それまではVRヘッドセットといえばギーク向けのデバイスというイメージも強く、(スマホを装着して360度映像を見るタイプの簡易版VRゴーグルを除けば)基本的には専門店や通販で買うしかなかった。しかしOculus Quest 2は国内の主要な家電量販店でも取り扱いがあり、しかもVRヘッドセットとしては安い3万円台後半から買い求められる。そのような購買ハードルの低さも手伝って、世界的にも想定以上の販売数を記録しているようだ。公式発表はないものの、北米だけで約400万台を販売していたことが7月に報じられている。
以上のような出来事以外にも、昨年はさまざまな分野でVR関連の動きがあった。技術の進歩や、行政での活用、芸術分野での広がりなどに加えて、記事中では名前を挙げていない人気タイトルも数多くある。VR SNSでは企業主催のイベント規模が拡大しているほか、個人単位でもコミュニティが活性化しているし、VTuberのライブイベントも盛況だ。しかし本連載はあくまでも“アニメファン”に向けた内容とするため、そのあたりの話は割愛したい。
最初はVRアトラクションを試すのもオススメ
とはいえ「今、VRがアツい!」と言われても、まだまだ手を出しづらく感じている人も多いことだろう。以前と比べれば安価になったものの、数万円のVRヘッドセットは決して安い買い物とは言えない。「Nintendo Switchよりも少し高い程度」と聞いて安く感じるか高く感じるかは、きっと人によって異なるのではないだろうか。
そこで、VRに対してまだまだハードルの高さを感じている人にオススメしたいのが、VRを体験できる施設だ。
最近はVR体験を取り入れたテーマパークや展示施設も増えつつあり、1000~2000円程度の料金で最新のVRコンテンツを楽しめる。ここではその一例として、アニメとも関わりのあるVRアトラクション施設を紹介したい。「未体験のままVRヘッドセットを買うのは不安……」という方は、まずはこのような施設で試してみてはどうだろうか。
※ただしアトラクション施設では独自のVRシステムを採用している場合もあり、その体験も厳密には家庭用VRとは異なる。とはいえ、それでも「ヘッドセットをかぶって別世界を体験できるVRコンテンツ」であることに変わりはないため、VRの魅力を手軽に実感できる場所としてオススメしたい。
ド迫力のVR映像で味わう「攻殻機動隊」と「進撃の巨人」の世界
2018年11月、VRライド型アトラクション施設・hexaRideがお台場にオープンした。これは“ライド型”の文字通り、上下左右に大きく動くマシンに乗り込んで楽しむタイプのVRアトラクションだ。VRヘッドセットを被るだけでは得られない“体が動く”体験は、「没入感がすごい!」と評判を集めている。
その第1弾コンテンツとして公開された「攻殻機動隊GHOST CHASER」は、Production I.Gの制作。VRとの親和性が高いタイトルということもあり、発表時は話題になった。後に国際映画祭でプレミア上映されるなど、映像作品としても高く評価されている(※現在は稼働終了)。
hexaRideでは今、「進撃の巨人 崩落の塔」と「進撃の巨人 ウォール・マリア最終奪還作戦<獣の巨人戦>」の2作品が上映中。縦横無尽に飛び回る立体機動装置による戦闘を、ライド型VRならではの臨場感で体感できる。お台場を訪れる際には、ぜひ足を運んでみてほしい。
自分の足で “歩き回れる” VR体験も!
ライド型VRの魅力は、「振動や動きが体に加わることで、強い臨場感を得られる」という特徴にある。しかしVR体験としては、少し物足りなさを感じる人もいるかもしれない。というのもこの場合、ヘッドセットを通して見ているのはあくまでも「映像」に過ぎないからだ。
360度全方向にわたって作り込まれた映像を「見回す」ことはできても、自由に「移動する」ことはできない。VR空間で何か操作をしたり、キャラクターや物体に対してアクションを起こしたりすることも不可能だ。そういう意味では、映画館の4DX体験に近いものだと言えるかもしれない。
そこで併せて紹介したいのが、同じくお台場の東京ジョイポリス内にあるアトラクション「ZERO LATENCY VR」だ。ちなみにこのアトラクション、アニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」の第6話にちらっと登場している。
ZERO LATENCY VRの最大の特徴は、「6人同時プレイができるフリーローム型のゲーム」であること。フリーローム──つまり「空間を自由に動ける」タイプのゲームは、VRアトラクションとしては本作が世界初らしい(同様に「歩き回れるVR」としては「ドラゴンクエストVR」などがあるが、現在は体験できる施設がない)。
頭にVRヘッドセットを被り、背中にはパソコンの入ったバックパックを背負い、手元には銃型のコントローラーを装備。準備ができたら学校の教室2つ分はあるプレイエリアに立ち、実際に自分の足で歩きまわりながら、仲間と協力してゾンビに立ち向かう。
一見すると無機質なプレイエリアも、いざVRヘッドセットを装着して見れば、そこはゾンビがはびこる世界。目の前の景色は「映像」に過ぎないはずなのに、自分の足で自由に歩くことができてしまう。それは360度映像を「見回す」感覚とは明らかに異なる、VRならではの「体験」だ。筆者自身、実際にプレイしたときはあまりにもリアルに感じられ、迫りくるゾンビを見て思わずのけぞり、悲鳴を上げ、他のプレイヤーに助けを求めてしまうほどだった。
この「空間を歩く」タイプのVR体験は、「見回す」ことしかできない360度映像とは比較にならないほどに没入度が高い。「SAO」のような体験にはまだまだ程遠いものの、「空間」としてのVRの魅力を身近で体感するには最適なコンテンツのひとつと言えそうだ。
前編はここまで。後編では、「アニメファン向けのVRコンテンツにはどのようなものがあるのか」「VR機器にはどのような種類があり、どれを選べばいいのか」といったポイントを紹介していくので、お楽しみに。
※各VRアトラクション施設は、社会情勢を鑑みて休館となっている場合があります。訪れる際には、事前に公式サイトで営業状況をご確認ください。