映画「ゾッキ」竹中直人の原作愛が溢れる「切なさ、不思議さ、でたらめさに震えた」
大橋裕之原作による実写映画「ゾッキ」の上映が、第33回東京国際映画祭の一環として本日11月8日に東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズで行われた。この記事ではその後に行われたQ&Aの模様をレポートする。
第33回東京国際映画祭「TOKYOプレミア2020」部門に出品された「ゾッキ」は、2017年にカンゼンより刊行された大橋の作品集「ゾッキA」「ゾッキB」を原作とした作品。監督を俳優の竹中直人、山田孝之、齊藤工が務め、ありふれた日常の中で起きる不思議な笑いを描いている。
Q&Aには大橋、竹中、山田、齊藤、キャストの松井玲奈、森優作、松田龍平、脚本を担当した倉持裕が登壇。大橋が「映画化されるとは思わず描いたマンガだったので、映画になることもびっくりだったのですが、素晴らしい方に作っていただいたことも、こういう大きな会場で上映されることもびっくりで。ずっと驚いています」と挨拶すると、客席からは笑いが起こる。
松井は自身の役について「今までいろんな幽霊を演じましたが、スキンヘッドで白塗りの幽霊というのは初体験だったので、人生なんでも挑戦だなと思ってやらせていただきました」と振り返る。竹中は彼女にオファーした理由を「とてもお美しく、その中に不思議な匂いがするというか……その空気は松井さんしか出せないだろうと思ったんです」と明かした。
齊藤は森を「大橋先生のイズムを持ってらっしゃる方。カメラの前に立つだけで『ゾッキ』の世界を成立させられる稀有な俳優さんです」と絶賛。森は「齊藤監督は本当に丁寧に、最後まで寄り添いながら物作りをされる方。なので、自分ができることを一生懸命やりました」と話した。
松田は山田が監督していた現場の様子について「山田くんは終始ニヤニヤしていて、その顔を見るだけで楽しくなっちゃう感じ。僕に対してはニヤニヤするだけなのに、ほかの役者さんには熱い思いをぶつけていました。でもそれが彼のやり方なんだなって」と語る。山田は「長編初監督作なので、モニターに松田龍平が映っているとうれしくて、ずっと見ていたいなと。……ほかの方々はそれほどでもないので『やるんだよ!』と厳しく演出させていただきました」と冗談を飛ばし、会場の笑いを誘った。
映画「ゾッキ」では原作に収められた複数の短編が織り交ぜられ、1本の長編として構成されている。倉持は脚本執筆について「独立した作品をつなげるのは難しくスリリングでしたね」と振り返り、続けて「ある作品のセリフがほかの作品のテーマになったり、ある作品が隣の作品の批評のようになっていく。計算せずに、テーマが通底したのが面白かったです」と語った。大橋は映画を見た感想について「脚本の第1稿をいただいたらバラバラの短編マンガがつながっていたので、冷静に見れなかったんです。『この話がここでこう来たんだ』という驚きがあって」と明かし、「あと2、3回観たら冷静に観られるようになると思います。すごく好きな映画です」「キャスティングもばっちりでした」と述べた。
またイベント中盤には大橋の出身地で、作品のロケ地である愛知・蒲郡の市長・鈴木寿明氏も登場。「蒲郡の魅力を映像を通して引き出していただきました。お弁当や炊き出しをしてお手伝いしまして、幸せを感じました」と話した。最後には竹中が原作に出会った経緯を話しつつ「(読んだときに)とても感動してしまって……。大橋さんのマンガの切なさ、不思議さ、でたらめさに震えるような思いだったんですね。これを絶対映画にしたいと思って、その願いが2年後に形になったのはなんか……」と感慨深げ。そして突然声のトーンを高くすると「本気で夢を持っていればちゃんと叶うんだなって!」と竹中らしく喜びを表現した。「ゾッキ」は2021年春に全国で公開される。
(c)2020「ゾッキ」製作委員会