豊田徹也が村上春樹の短編小説集の装画を担当「うれしいというより厳しい体験」

豊田徹也のイラスト。

「アンダーカレント」「珈琲時間」の豊田徹也が、7月18日に発売される村上春樹の短編小説集「一人称単数」の装画を担当した。

「一人称単数」は、文學界(文藝春秋)にて掲載された8作に、表題となる書き下ろし1作を含めた作品集。短編小説集としては「女のいない男たち」から約6年、小説としては「騎士団長殺し」から約3年ぶりの刊行となる。豊田は「これまで描いた自分の作品には、どこか村上作品の残響を感じます。今回このような形で村上さんのご本に係わることになったのはまったく予想もしていなかったこと。うれしいというより厳しい体験でした」とコメントを寄せた。

豊田徹也コメント

編集者の方とサイゼリヤでお会いして、村上春樹さんの短篇小説集「一人称単数」の装画を描くように依頼されたのは、まだコロナがそこまで深刻ではなかった三月でした。「無理です」と即座にお断りしました。その方はワイン一本とその他八品を注文しました(サイゼリヤでこんなに注文した人を初めて見た)。それから彼は二時間かけて静かに説得し続け、僕はワインを飲みながら断り続けたのですが、最後の十分くらいで何故か気が変わり最終的に引き受けてしまいました。
初めのうちはいろいろ案を出したり調子よくやっていたのですが、描く絵が決まってペンを入れる段階になってから僕は自律神経を失調し、完璧に体調がおかしくなりながら描きました。村上さんの本だから緊張したというより、人の本の絵を描くということが、自分にとっては責任が重く、相当恐ろしいことだったのです。今回、カバーがいい感じに仕上がったのは、すべてデザイナーの大久保明子さんのおかげです。
村上春樹さんの小説は初期のころから大好きで繰り返し読んできましたが、まだろくに漫画を描いていなかった自分にとってあまりにも影響が強すぎると感じ、「ねじまき鳥クロニクル」以降の長篇は読まないようにしていました。それでもこれまで描いた自分の作品には、どこか村上作品の残響を感じます。今回このような形で村上さんのご本に係わることになったのはまったく予想もしていなかったこと。うれしいというより厳しい体験でした。
いろんな思いがあり反省点ばかりですが、やっぱり引き受けてよかったと思います。機会を与えてくださった村上さん、そしてサポートしてくれた編集者(扉の絵の資料のレコードプレイヤーも買ってくれた!)に感謝します。