野田彩子「ダブル」で報われない地元愛、801ちゃんが徳島県庁に「見つけて!」
野田彩子「ダブル」の1巻発売を記念したトークショー「漫画と演劇の夜」が、去る6月14日に東京・阿佐ヶ谷ロフトAで開催された。
ふらっとヒーローズ(ヒーローズ)で連載中の「ダブル」は、役者仲間の鴨島友仁と宝田多家良による物語。無名の天才役者である多家良と、彼を支える友仁の2人が世界一の役者を目指していく。イベントには野田に加え、同作の大ファンだという「となりの801ちゃん」でお馴染みの801ちゃんが登壇。野田はこれが初対面の801ちゃんに「トークショーの依頼があった直後くらいに、Twitterで801ちゃんが『ダブル』をいろんな人に広めてくださってるのを拝見しまして。そのおかげで、読んでくださる方の数も増えてきたんです」と感謝する。801ちゃんは「ダブル」について「舞台をよく観に行く友達から『絶対に好きだから読んだ方がいい』と勧められたんです。読んでみたら、本当にすごく面白くって。でもTwitterで検索したら、感想とかつぶやいてる人が全然いなかったんで『おかしいだろ!』と。怒り半分でツイートしました(笑)」と語る。
演劇にハマったきっかけを、野田は「友人に『ALTAR BOYZ』という舞台に連れて行ってもらったんです。そこに、いたんですね。私の天使が」と言う。すかさず801ちゃんが「名前教えてもらっていいですか?」と尋ねると、野田は「DIAMOND☆DOGSというグループに所属されてる森新吾さんという方なんですが、その日はたまたまなのかアドリブが炸裂してたんです。舞台上の小物を客席に投げるみたいなアバンギャルドなマネをされる方で、それを見たときに『すごい好きだ……』と思って。その後、その舞台に通えるだけ通ってというところから私の演劇人生が始まりました」と明かす。一方の801ちゃんは、ミュージカル「テニスの王子様」から演劇の世界にハマったそう。同作に出演したキャストを熱心に追いかけていたが、ここ2年ほどは舞台への熱が落ち着いてたと話す。しかし「去年、“推し”ができまして」とうれしそうに報告。観客が温かい拍手を送る中、「推しは女の子なんです。完全に気が狂って、(同じ公演を)16公演とか観に行きました」と告白した。
801ちゃんは舞台関連の仕事もしており、最近は「Alice in Deadly School 少年」という演劇に携わっているという。「現場で『ダブル』の話をすると、キャラクターが30歳という設定で(出演者たちが)ビビって読めなくなるらしいんです。30歳の時点で映像作品に出られてないのは怖い、って」と話し、「ほかの現場でも女の子は割と大丈夫なんですけど、男の子ってこういう作品を読んで気付くまで『俺はいつまでも若い』って思ってる節があるんですよね」と自説を展開する。また自分は多家良と友仁だと、友仁派だと主張。「普通に友仁の容姿がめちゃくちゃ好みってのもあるんですけど。よく私、仕事で関わってるキャストの子たちに『ファンの人は、あなたたちの未来が見たいんだよ』って言うんです。未来のために、その人がどれだけ努力してるのか。そういう点で、友仁ってがんばりの過程が見えるじゃないですか。がんばりの過程が見える人って安心して推せるんです」と語る。野田は「2人が実際にいるとしたら、私はきっと多家良を推すんです。私は根本的に何考えてるかわかんない人が好きで。この人の考えてること、私はひとつもわからないまま終わるんだろうなっていう人を推してたいという気持ちがありますね」と述べた。
ここでスペシャルゲストとして、舞台「Alice in Deadly School 少年」から氷鏡庵役の笠原彰人が登場。「ダブル」の感想を聞かれた笠原は「多家良くんと友仁くんって、人柄が対照的じゃないですか。僕の解釈だと多家良くんは感性で生きているタイプで、友仁くんは理論派。僕はどっちかというと友仁くんに近いんです。役について考えて考えて、こういうふうな演技が必要だって解釈する。でも、中には練習してる雰囲気がないのに、多家良くんみたいにパッとできちゃう方がいらっしゃったりするんです。そういうところは、役者にとってすごくリアルだと思いました」と話す。野田は「Alice in Deadly School 少年」の稽古場を見学したそうで、笠原のことを「ダンスのレッスンをされてたんですけど、振りがついてないほうの手の動きが素晴らしかった。私はミュージカル系の舞台をよく観るんですけど、ダンスで推しが決まることが多いんです。振りがないときも感性のままに動かすのではなく、意識してピシっと止めることができる人。笠原さんのダンスを見たときに、指先の演技がきちっとされてたんで『いいなあ、いいメガネだなあ』と思いました(笑)」と賞賛の言葉をかける。笠原は先輩のダンスを見て勉強したと謙虚に返し、801ちゃんは「彼、ネクストブレイクなので!」と強くプッシュした。
ここからは来場者から事前に募集した質問に、野田が答えていく。「『ダブル』の着想はどこから?」という質問に、BL作家・新井煮干し子としても活動する野田は「自分の中で役者の男2人の話をできないかと思っていたとき、ちょうど次の連載を担当編集さんと話していたんです。それで『BLを一般レーベルで描いたらどうなるだろう?』と思ったのが始まりで、そこから二転三転しました」と回答。タイトルの由来については「最初のアイデアは『世界の多家良』だったんです。でも『世界の山ちゃん』みたいだなって思ってやめて、代役のことをダブルと呼ぶこともあって今のタイトルにしました」と答える。「魅力的なセリフはどう思い付くんですか?」という質問がくると、野田は「かわぐちかいじさんのマンガを読め!」と声を大に。「かわぐちかいじさんのマンガのセリフ、すごくないですか? 超カッコいいうえに、ロマンチック。しかも短いって最高のセリフ回し!」と唸りながら、自身の作品でもセリフのリズムに気を使っていることを明かした。
またキャラクターの名前について聞かれると、野田は「私、生まれが徳島なんですよ。地元愛を出していきたいということで、徳島の地名を使ってます。赤ちゃんの名付けサイトに苗字としてその地名を打ち込んで、画数のいい名前として出てきたものを付けたり。多家良に関しては、苗字も名前も徳島の地名なんです。私の生まれた宝田町からとったのと、それに合う名前ないかなってGoogleマップで探してたら多家良という地名があって」と話す。客席から「へえー!」という感心の声が上がるも、野田は「でも、どこの徳島県の書店も絶対に私のことを追ってくれない! 徳島県の作家ですとか言って、絶対に書店で展開してくれたりしないんです。そんなこと思ってたら米津玄師さんが出てきちゃったから。もう、勝てないですよ!(笑)」と自虐し、会場の笑いを誘う。801ちゃんは徳島県県庁の方が野田を見つけてくれることを願い、イベントは幕を閉じた。