私たち、ずっと前から在宅仕事です 第3回 山本さほ編

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、新しい働き方が求められる昨今。多くの企業でテレワークが導入されるなど、世界は大きく変わりつつあるが、世の流れとは無関係に在宅で仕事をする職種も存在している。その1つがマンガ家だ。この連載では、在宅ワークのプロフェッショナルであるマンガ家に、アンケート形式で家での過ごし方のコツを聞く。

第3回は「岡崎に捧ぐ」などで知られる山本さほが登場。1日5時間はゲームをするという彼女は、そのほかはどんな時間の使い方をしているのか。「毎日の生活にハリがないと思ってる人にオススメ」というアイテムも紹介している。

取材・構成 / 松本真一

編集さんには、嘘の締め切りを伝えてもらうようにしています

──家でずっと仕事をすることは得意なほうですか?

もともとインドアな性格なので、家にずっといるのはまったくつらくありません。今の時代、買い物やゲーム、友達との連絡など、身の回りのことがだいたい家でできてしまうので本当に助かってます。ただ、オンオフの切り替えが自分次第になってしまい、そこは得意ではないので苦労しています。

──在宅ワークの良い部分はどこだと思いますか。

良い部分は、誰かに合わせる必要がないという所です。私はマンガの作業をすべて1人でしているので、自分の調子がいいときにたくさん仕事して、調子が悪いときは仕事を諦めて昼寝する、と自分のペースで仕事が進められています。通勤時間がないので、起きて10秒で仕事ができるのも助かっています。

──では逆に悪い部分は?

自分のペースで進められるからこそ、仕事をギリギリまで溜め込んでしまうことです。子供の頃、夏休みの宿題を最終日にやるどころか始業式の日の朝礼中に友達の答案用紙を丸写しするという最低な子供だった私は、その溜め込み癖に今でも悩まされています。編集さんには仕事をする前に自分がいかに溜め込み癖があるかを説明し、嘘の締め切りを伝えてもらうようにしています。

──在宅ワークの際に一番心がけていることはなんですか?

眠くなったら寝るということを徹底的にやっています。眠い状態で仕事をすると集中力がなくて簡単な仕事もダラダラ時間をかけてやってしまうので、眠れるだけ寝て、もうこれ以上眠れないよという状態にしてから仕事を始めます。おかげで昼夜が逆転したり、人から見たらいつ寝てていつ起きてるかわからない状態を繰り返しています。家族がいたら大変ですが、1人暮らしなのでできる荒業ですね。

──山本さんは「岡崎に捧ぐ」や「きょうも厄日です」といったエッセイで、かつてはアパレルショップに勤務していたことを描かれています。その後はマンガ家になり、時間の管理の仕方や精神状態など変わったことが多いと思いますが、一番の違いを実感することなんですか?

やはり人間関係の悩みがすべて解消されたのが大きいです。特に私はアパレル時代は店長をやっていて、数人のスタッフをまとめていました。接客業なのでさまざまなお客様の問題やクレームのほかに、スタッフ同士のいざこざの解決などをすべてを1人で請け負っており、それが精神的な負担になっていた気がします。

今はこの仕事になり、自分が付き合いたい人とだけ付き合えるので人間関係で悩むことはほとんどありません。生きるうえで当たり前にあると思っていたストレスが1つなくなったのはとても幸せな事だと思っています。そして、こういうふうに思えるのも一度大変な時期を経験をしたおかげなので、そういう意味ではアパレルで働いていて良かったです。

山本さほ式「これで捗る!在宅ワーク」

毎日少しずつ変化するもの

変わりばえしない毎日が続いていく中で、毎日少しずつ変化する物が好きで、気付けばいつも何かしら育てています。キノコ、シーモンキー、たまご型育成ゲーム(ぎゃおっぴ・エヴァっち)、観葉植物など、だいたいいつも何かを育ててます。

朝起きて成長をひと通り楽しんだり息抜きにお世話したりして楽しんでいます。小動物や爬虫類を飼えたらもっと楽しそうだなーと思うのですが、猫がいるので我慢しています。毎日の生活にハリがないなと思っている方、オススメです!

ゲーム

2つ目はゲームです。もともとゲーマーだったのですが、マンガ家になってからどんなに忙しくてもだいたい1日5時間はゲームするぐらいゲームが好きです。ゲームはもはや私にとって娯楽ではなく生活の一部になり、息をするのと同じくらい大切なことになっています。

原稿作業をしている間も、一戦だけ戦って仕事して、一戦だけ戦って仕事して、という感じでゲームをしながら仕事をしていることがあるくらいです。手が離せない仕事をしている間もだいたい誰かのゲーム実況を観ています。

最近ハマっているのはe-sportsの観戦で、応援している海外選手がいて、その人の試合を観戦している時が今一番楽しい時間です。

山本さほの1日

だいたいこんな感じの生活をしています。夜中じゃないと仕事のやる気が出ないわがままな身体になってしまい、いつか病気になりそうなので心配です……。皆さんは真似しないでくださいね。

読者へのメッセージ

今回の件で、意外と人間はどんな生活でも適応していく生き物なのだということがわかった気がします。今まで打ち合わせをするためには、1時間お風呂に入り化粧をして、30分かけて出版社に行き、1時間だけ打ち合わせして、また30分かけて帰って来るという、すごく疲れることをしていてその日1日が無駄になることが多いのですが、リモート打ち合わせ中心になってからすごく時間の負担が減り、すぐ仕事に戻れるようになりました。
そんな感じで新しい生活をして、新しい仕事の仕方を発見したりすることもあるので、皆さんもさまざまなスタイルのおうち生活をみつけてほしいです。

山本さほ(ヤマモトサホ)

1985年生まれ。幼少時代からの親友・岡崎さんとの友情や子供時代の思い出を描いた自伝的作品「岡崎に捧ぐ」をWebサイト・noteに掲載し、大きな話題になる。その後2015年から2018年までビッグコミックスペリオール(小学館)で「岡崎に捧ぐ」を連載。2020年6月には、日常で遭遇するトラブルについて綴った「きょうも厄日です」1巻、神戸で1人暮らしをしていた時代を描いた「この町ではひとり」という2冊の単行本が発売された。現在は週刊文春オンラインにて「きょうも厄日です」、週刊ファミ通(KADOKAWA)にて「無慈悲な8bit」を連載中。