岸本斉史が「完璧じゃなくいい」とメッセージ込めた、侍×SFの新作を語る

岸本斉史

岸本斉史原作、大久保彰作画による新連載「サムライ8 八丸伝」が、5月13日発売の週刊少年ジャンプ24号(集英社)にてスタートする。連載開始に合わせ、岸本が出席する囲み取材が3月某日に集英社にて行われた。

「サムライ8 八丸伝」は生命維持装置なしには生きられず、家から出たことすらもない虚弱な少年・八丸を主人公に描くSFもの。機械の体と人を超越した力を持つ“侍”になることを夢見ながらも毎日オンラインゲームばかりしている八丸の前に、侍を自称する猫が現れたことから物語は動き出す。

以前から侍マンガをずっと描きたかったという岸本。2014年に「NARUTO-ナルト-」を完結させ、2015年に同作の番外編にあたる「~七代目火影と緋色の花つ月~」の連載を終えた後は「『やっと解放された』という気持ちで(笑)。疲れてマンガを描く気力がなくなっちゃっていました」と笑いながらも、「子供の成長を見ながら過ごしていたんですけど、2年くらいして段々『またマンガを描きたいな』っていう気持ちになってきたんです。『NARUTO』は僕の中ではやり切った気持ちはあったんですけど、心の中には『完璧な作品じゃないな』という引っ掛かりもあって。『NARUTO』を描き終えるくらいの頃に、自分の中でやっとマンガの描き方がわかってきたような感覚もあったので、そのあたりも次の作品に生かせたらなと考えていました」と振り返る。

侍とSFを組み合わせた本作の成り立ちについては、「SFも好きなので侍ものとSFものの両方を描きたいなと思っていたんですが、年齢的にもそんなに作品をポンポン作るのは無理ですし『それだったら混ぜちゃえば一度に両方描けるな』って考えたんです。僕が初めて集英社に投稿した作品は侍マンガだったんですけど、賞に引っかからなかったのでそのリベンジ的な意味合いもちょっとありますね(笑)」と解説。「自分が新人だったらSFを選ばない」とコメントした上で、「SFって世界観を構築する専門用語がたくさん出てくるじゃないですか。最初の数ページで3つも4つも専門用語が出てきちゃったら、その時点で読者は『もういいよ』ってなるし、ジャンプでやっていたらすぐに打ち切りになっちゃう。『サムライ8』も序盤から専門用語が出てきて、『NARUTO』に比べると世界観に入るのが難しいかもしれません」と語る。そんな中でもSFに挑戦した理由については「作り手としてすごくおこがましい話ですし、普通はやってはいけないことなんですが、『NARUTO』の作者の新作だったら少しの間は我慢して読んでくれるかなという気持ちがあったんです。そういう目論見もあって序盤からSFの要素を押してはいるんですが、なるべくわかりやすいように変えていかなきゃなとは思っています」と述べた。

岸本が原作のみに徹し、長年岸本のアシスタントを務めていた大久保が作画を担当する「サムライ8」。本作で原作を担当することになった経緯について岸本は、「まずひとつ、週刊連載で絵まで自分で描くとなると、確実に締め切りを守れないというのがこれまでのデータからわかっていたんです」としながら、もう一つの理由として大久保の絵を挙げ「素直には認めたくないんですけど、心の中で『負けたな』と感じるくらいに絵が上手くて。彼の絵が世に出るのなら原作に徹してもいいかなと思ったんです。『NARUTO』の連載時から『いつになるかわからないけど、僕がネームを描くから組んでやらない?』と声をかけていました」と回想する。大久保の絵の魅力については「子供が見たがる温かみがある絵」とし、「どんなシーンを描いてもどこかに温かみがあって殺伐としていないんです。『サムライ8』は侍マンガということもあり、キャラ同士の斬り合いが入ったりしてストーリーの上では殺伐とするんですが、それをベクトルが逆の温かい絵で描くことで独特の世界感を表現できると思います」と熱弁した。

その後、会場は岸本の物語の作り方についての話題に。岸本は「作品の要素を“Aストーリー”と“Bストーリー”に分けるんです」と語り、「Aストーリーはその作品の売りになるような面白い要素のことで、忍者マンガであれば例えば『どういう忍術を使うのか?』という部分。Bストーリーはその作品で言いたいことやテーマ的な部分で、同じように忍者マンガなら『忍はどう生きるのか?』みたいなところです。Bがしっかりしていないと駄目という前提はありつつ、僕は本当に大切なのはAのほうだと思っていて」と持論を展開する。その例として映画「スパイダーマン」と「アイアンマン」を挙げ、「この2作品って要素をAストーリーとBストーリーに分けたとき、Bで言いたいことってそんなに違わないと思うんです。どちらもスーツを着て戦う作品ですけどスパイダースーツを着るのか、パワードスーツを着るのかっていうAの部分でギミックなどに差を出して視聴者を楽しませている。特に子供は説教臭いことを言われるのが大嫌いなので、Bを全面に出しすぎると少年誌ではうまくいかないと思います」と解説。「サムライ8」のAストーリーは侍のアクションであるとし、「ただ侍ものってほかにもたくさんの作品があるので、侍にSFの要素を加えてなるべくAストーリーが新鮮に見えるように作っています」と説明した。

2018年12月の「ジャンプフェスタ2019」で「サムライ8」の連載決定が発表された際に、「NARUTOより面白くするのに必死!!」とコメントしていた岸本。「『NARUTO』より面白くするために取り入れるものはあるのか?」と問われると、「『NARUTO』のときも少しは考えていたんですが、より世の中の流れとかを意識して、それを取り入れて描いていくつもりです」と思いを吐露する。さらに本作のテーマについて問われると、「作品を通して語るべきですし、あまり言葉では言うべきではないと思うんですけど(笑)」と前置きしながら、「『完璧なものが必ずしもいいというわけではない。完璧じゃなくてもいい』ということは描いていきたいと思っています。自分が『完璧な作品を描きたい』と思っているのに、『完璧なものはよくない』っていうのは矛盾ですけど(笑)。でも『NARUTO』のときも『この作品は完璧じゃないな』と思っていたのが『次の作品を描きたい』という原動力になったので、今回も完璧を目指しつつも連載が終わってみたら、完璧ではない部分が出てきてそれが次への原動力になるとは思います」と回答した。

約15年の連載となった「NARUTO」を挙げ、「構想段階ではどの程度のボリュームになるか」との質問が飛ぶと、「全然わからないですけど、10巻くらいとしておきましょうか。『NARUTO』も『15巻くらいだ』と言っていてああいうふうになったので、どうせ延びるでしょうけど(笑)」と推測。また岸本は「『NARUTO』は話のタイプで言うと、『グランドホテル型』というもので、木ノ葉の里という拠点があって外に出ても帰ってくるというタイプだったんですが、今回は旅をしていくロードムービーになります」と紹介した。