映画「犬王」舞台挨拶、アヴちゃんが森山未來にアドバイス「歌はケンカやで」

左から森山未來、アヴちゃん、湯浅政明監督。

劇場アニメ「犬王」の先行上映会と舞台挨拶が、本日5月6日に東京・新宿バルト9にて開催され、犬王役のアヴちゃん(女王蜂)、友魚役の森山未來、湯浅政明監督が登壇した。

「犬王」は古川日出男の小説「平家物語 犬王の巻」を原作に、南北朝から室町期に活躍し世阿弥と人気を二分した異形の能楽師・犬王と、平家の呪いにより盲目となった琵琶法師・友魚の友情を描いた物語。野木亜紀子が脚本、松本大洋がキャラクター原案、大友良英が音楽を務める。アヴちゃんと森山はそれぞれオレンジ色の衣装を身に着けて登場。アヴちゃんは事前の打ち合わせなくたまたま色が被ったと明かし、イベントは和やかな雰囲気でスタートした。

完成した「犬王」を観た感想を問われたアヴちゃんは、「私たちが声を当てていた頃は、基本的に棒人形に吹き出しがついていただけで。実際に絵がつくとこういう感じになっているんや、と思いました」と驚きを語る。そして私事ではありますがと前置きをしたうえで「エンドクレジットの一番最初に自分の名前が来たときに泣いちゃいました。ただ参加しただけではなくていろんなものを求められる現場で、それぞれが十二分のパフォーマンスをした結果、すごいものができたなと」と完成の感動を露わにした。森山は「日本でミュージカルと聞くと抵抗を持つ方もいらっしゃると思うんですけど、世界で最古のミュージカルと言われている能をモチーフに作られているので、歌え踊れの怒涛の波で。一番大事な言葉や思いがすべて音楽と踊りの中にぶつけられて直感的なところに当ててくるので、すごい体験したな」と話す。「犬王」の魅力を聞かれた湯浅監督は「逆境にありながらもまったく動じないような真っ直ぐな気持ちで、自分のやりたいことを貫く。でもあるときには友のために諦めることができるような理想的なキャラクターに出会えてよかったです」と映画化当初を振り返りつつ語った。

作中の作詞にも携わったアヴちゃんは「室町時代に思いを馳せて楽曲を作ることが初めてだったので、『レペゼン室町』としてどう作っていくかという中で、湯浅監督と野木さんが置いてくれたメモを私が咀嚼してまた繋いでいって。劇中でやっていくこととすごく似ているなと感じました」と、作詞時に流れるように筆が止まらなかった経験を明かす。スタジオで大友、湯浅監督、アヴちゃんに囲まれ歌を録音したと言う森山が「アヴちゃんからのトークバックで作らせていただきました」と言うと、アヴちゃんが「ひたすら『歌はケンカやで』って言っていました」と受け答え。当時のスタジオの空気感を湯浅監督は「現場ではアヴちゃん主導となっていて、どんどんブラッシュアップされていく様子がおもしろかったですね」と笑顔で話した。

アフレコ時の感想を問われた森山は「最初は棒人間が立っていただけだったので、分からないながらに2人でリハーサルみたいな感じ」だったと話し、「スタジオに行くたびに絵がどんどん変わっていくので、わがままながらもう1回録り直させてくださいと言っていました」と振り返る。アニメがポピュラーに愛されている日本で、声優じゃない人が声を当てることに敏感になる人もいるだろうと懸念していたと話すアヴちゃんは「借りてきた猫みたいになっちゃったらもったいないなと思い、思いっきりのびのびとやりました。歌の部分で言うと、マイクがない時代なので喉を潰すんじゃないかと思うくらいを意識して。ひたすらケンカを売るような感じで歌っていました」と制作時の裏話を披露した。

続いてフリップを使用した一問一答コーナーへ。出会ったときの最初の印象を聞かれると森山は「物の怪」、アヴちゃんは「広大な砂漠」と回答。森山は自身が出演したミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」の構想を考えていた時期にドラマ「モテキ」の打ち合わせで見せてもらったのが女王蜂だと話し、「アヴちゃんを見たときに、それまで構想を練ってきた『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のイメージが崩れ去ってとても大きな衝撃でした。人の閾値を超えていた」と当初の驚きを振り返る。対して森山を「とてもギラギラしていて、破滅的であった」と表現したアヴちゃんは10年ぶりの共演について、「広大な砂漠のまま、逃げずにレベルアップってすごい。やりたいことをこの角度でできるんだ、この熱量を持っていていいんだというところにシンパシーを感じて、もっと好きになりました」と語る。その後「自分にとっての日々の“バディ”は?」という質問がなされ、一問一答コーナーは終了した。

最後に森山から「音楽、色彩、アヴちゃんの歌声、湯浅監督のアニメーションだったりと、映画館で浴びるべき作品かなと思います」、アヴちゃんから「この映画に出るためにここまでやってきたんじゃないかなと。犬王としてのもうひとつの自分を手にいれたような不思議な気持ちに浸っています。応援上映したいくらいの気持ちです」と観客へメッセージが送られる。湯浅監督が「キャッチコピーの『見届けようぜ』という言葉どおりに、室町時代に生きた2人の若者の生き様を見てくれるとうれしいなと思います。ミュージカルなので歌の歌詞も聞き取れた方がより楽しめると思うのでぜひ耳を傾けてみてください」と呼びかけ、舞台挨拶は幕を下ろした。

映画「犬王」

2022年5月28日(土)全国公開

スタッフ

原作:古川日出男「平家物語 犬王の巻」(河出書房新社刊)
監督:湯浅政明
脚本:野木亜紀子
キャラクター原案:松本大洋
音楽:大友良英
総作画監督:亀田祥倫、中野悟史
キャラクター設計:伊東伸高
監督補佐:山代風我
作画監督:榎本柊斗、前場健次、松竹徳幸、向田隆、福島敦子、名倉靖博、針金屋英郎、増田敏彦、伊東伸高
美術監督:中村豪希
色彩設計:小針裕子
撮影監督:関谷能弘
編集:廣瀬清志 
音響監督:木村絵理子
音響効果:中野勝博
録音:今泉武
音響制作:東北新社
歴史監修:佐多芳彦
能楽監修:宮本圭造
能楽実演監修:亀井広忠
琵琶監修:後藤幸浩
アニメーション制作:サイエンスSARU
配給:アニプレックス、アスミック・エース

キャスト

アヴちゃん(女王蜂)、森山未來、柄本佑、津田健次郎、松重豊、片山九郎右衛門、谷本健吾、坂口貴信、川口晃平、石田剛太、中川晴樹、本多力、酒井善史、土佐和成