マンガ原作者のお仕事 第1回 サンドロビッチ・ヤバ子と「ケンガンオメガ」「ダンベル何キロ持てる?」

「ケンガンオメガ」9巻より。左がサンドロビッチ・ヤバ子によるネーム、右がだろめおんが作画した原稿。

マンガ原作者がどんな仕事をしているのか、ご存知の読者はいるだろうか? 本コラムでは“マンガ原作者の仕事”にスポットを当て、なぜマンガ原作者という仕事を選んだのか、どんな理由でマンガの原作を手がけることになったのか、実際どのようにマンガ制作に関わっているのかといった疑問に、現在活躍中のマンガ原作者に答えてもらい、“マンガ原作者の仕事”の醍醐味や奥深さに迫る。また原作者として彼らが手がけたネームと完成原稿の比較も必見だ。

第1回は「ケンガンアシュラ」や「ダンベル何キロ持てる?」などを手がけるサンドロビッチ・ヤバ子が登場。個人サイトで公開していたWebマンガが担当編集者の目に止まり、マンガ原作者としてデビューしたサンドロビッチ・ヤバ子に、マンガ原作に対する思いを聞いた。

構成 / 増田桃子

プロットの裏話、完成原稿を見たときの感想

裏話というわけではありませんが、「ケンガン」と「ダンベル」のネームに共通して意識していることは「極力無駄な要素を排除する」という点です。詳細は後ほどお答えさせていただきます。
このページに限らず、完成原稿を見るときの達成感は格別です。僕の場合、ネームの完成から原稿になるまで約半年のタイムラグがあります。「ようやく形になったか」と感慨深いですね。

マンガ原作者になったきっかけ

実は、自主的にマンガ原作者になろうと活動したことはないんです。会社員時代から個人サイトでWebマンガを公開しており、そこから現担当編集者に声をかけていただきました。
その頃には会社を辞めていて、アルバイトをしていた遺跡発掘の現場も調査が終了となり完全に無職でした。
ある意味失うものが何もない状態だったので(笑)、挑戦することに躊躇はありませんでした。
「駄目だったらほかの仕事を探せばいいか」くらいの気持ちでしたね。

もっともこだわっている作業

まずはじめに、僕はアシスタントの経験がありませんし、マンガの師匠もいません。
つまり、マンガ原作を作る技術はすべて独学で身につけたということです。
これからお話しするのは、あくまで僕の経験則に基くものであることをお断りしておきます。

最初の質問で述べさせていただいた「極力無駄な要素を排除する」ことです。
より具体的には、

  • 人物は可能な限り簡略化する
  • 背景は赤字で指定し、基本的に描かない

特に意識しているのはこの2点です。
理由は、「作業スピードの向上」です。今回のような例外もありますが、基本的に僕のネームを目にするのは担当編集と作画担当のお二方だけです。つまり、この2人にさえ内容が伝わればいいんです。僕がいくらネームの細部まで力を入れて描き込んでも、世に出るのは完成原稿だけです。
身も蓋もないことを言えば、それは力を入れる方向が間違っています。
そんなことをするぐらいなら簡略化した絵で1日でも早くネームを切るほうがいいです。細かい部分は赤字を入れて補足しています。
もう1点、「作画担当のイメージの邪魔にならない」ためです。
「ケンガン」シリーズのだろめおん先生、「ダンベル」のMAAM先生は作画のエキスパートです。
当然、僕よりもはるかに絵に関する知識、引き出しは多いです。僕がネームを詳細に描き過ぎることで、お二方のイメージを阻害することがないよう、なるべく最低限の情報に留めるよう心がけています。
ただ例外もあります。「このシーンはこういう見せ方をしてほしい」という場面に限って、ネームでもできる限り緻密に描き込んでいます。拙い絵ではありますが(笑)。

マンガ原作者という仕事の魅力

「自分が書いた作品が作画によってどう変わっていくのか?」この感覚が一番の魅力ですね。
僕は自分が作ったストーリーにもかかわらず、読者になった気分で原稿を楽しんでます(笑)。

マンガ原作者を目指す人へ

技術に関しては、僕からお伝えできることはあまり多くありません。仕事のやり方は人それぞれなので、自分に合った方法を模索していくしかないと思います。
ただ、マンガやアニメ、映画、そして舞台などをたくさん見ておいて損はないと思います。
個人的には、苦手なジャンルを無理に見る必要はないと思います。その代わり好きな作品を突き詰めて深掘りしてみましょう。
「自分が何を面白いと感じるのか」を理解することは作品づくりに大いに役立つはずです。
そのほかで声を大にして言いたいのは、

  • 締め切りを守ること
  • 健康に気を使うこと
  • 気晴らしできる趣味や習慣を持つこと

この3点はマジで大事です。何があっても遵守してください。

サンドロビッチ・ヤバ子(サンドロビッチ・ヤバコ)

自身のサイトで連載していたWebマンガ「求道の拳」が評価されてスカウトを受け、裏サンデー(小学館)にて「ケンガンアシュラ」のマンガ原作者としてデビュー。現在、裏サンデーにて「ダンベル何キロ持てる?」(MAAM作画)、「ケンガンオメガ」(だろめおん作画)を連載中。「ケンガンオメガ」は9巻まで発売中。また「ダンベル何キロ持てる?」13巻が8月10日発売予定だ。