さいとう・たかを賞受賞に岩明均「『レイリ』は僕が一兵卒だったから生まれた」

前列左から室井大資、岩明均、さいとう・たかを、沢考史氏。中列左から第1回さいとう・たかを賞を受賞した「アブラカダブラ ~猟奇犯罪特捜室~」担当編集の中山久美子氏、作者の芳崎せいむ、第2回さいとう・たかを賞を受賞した「イサック」原作者の真刈信二、担当編集者の荒井均氏。後列左から長崎尚志、やまさき十三、佐藤優、池上遼一。

第3回さいとう・たかを賞の授賞式が本日1月17日に東京・三笠会館で行われ、受賞作「レイリ」の原作者を務めた岩明均、マンガを執筆した室井大資、担当編集者の沢考史氏が登壇した。

さいとう・たかを賞は、シナリオと作画の分業により制作された優れた作品を顕彰するマンガ賞。第3回は2016年9月1日から2019年8月31日の期間中に単行本第1巻が刊行された作品を対象としており、選考委員にはさいとう・たかをのほか、池上遼一、佐藤優、長崎尚志やまさき十三が名を連ねている。

「自分にはチームでマンガを作ることができないなと思っていた」と語る岩明は、「合計6人のマンガ家の方のアシスタントをした経験があって、人に指示される形でのチーム活動はできていたんですが、自分がマンガ家になったとき(アシスタントを雇用して)人に指示することがうまくできなかったんです。(自分は)一兵卒という感じで指揮官にはなれませんでした」と自身の執筆スタイルについて説明。その上で岩明は「『レイリ』の絵を自分で描くのは(執筆)状況的にも難しかった」と述べ、「私が指揮官になって人に指示できるタイプであればまた違っていたのかもしれませんが、そうではなかった。一兵卒だったからこそ、誰かほかの人に作品をお願いするしかなくてその結果として『レイリ』という分業による作品が生まれたと言えるんじゃないか。『レイリ』に関しては全体の指揮を編集者の沢さん、マンガの指揮を室井さんにお願いして、それがうまくいったんだと思います。私のこの先の人生でチームを組んでの作品作りがあるかどうかはわからないんですが、今回こういった賞をいただけて本当にありがたく幸せです」と謝辞した。

岩明のことを元より尊敬していたという室井。「レイリ」の脚本を渡された際に「8回くらい泣いてしまった」と振り返り、「僕をこの作品のチームに入れていただけたことが光栄ですし、結果としてこのような素晴らしい賞をいただけてうれしく思っています。(執筆を通して)僕自身のアップデートも図れたと思いますし、本当に幸せな仕事でした」と喜びをあらわに。さらに「奇妙な縁なんですが(『レイリ』の)チーフスタッフの女性が元さいとう・プロにいらっしゃった方で、その方に舵をとっていろいろとやっていただきました。彼女がいなかったら『レイリ』は回らなかったと思います」と感謝した。

「レイリ」が現場の編集者としては最後の仕事だったという沢氏は「会社に入ったのは1989年で翌年岩明先生に初めて会って、そこからずっとお話をしていて。10年経った2000年くらいのときに『剣の舞』という短編を描いていただきました。そこからまた10年経って2011年ごろに『ブラック・ジャック~青き未来~』という作品に関わっていただいています。そして2020年の本日、こうして受賞できたことをうれしく思っています」と回想しながら挨拶。また「レイリ」について「岩明先生は12年原作の執筆を続け、完成してから室井先生に描いていただくまでに2年かかり、そこから3年間室井先生が一生懸命原作とぶつかってマンガを描かれました。時々先生の体調が悪くなってしまったりして心配する局面もあったんですが、決して逃げずに最後までやり通していただいて。私にとって何も言うことのない作品をくださったと思っています」と室井を称えた。

その後、選考委員を代表して長崎が「最初にさいとう・たかを先生がそれぞれの候補作に対する意見をおっしゃって、『自分としてはこの作品を推したい』と言って退席され、それから残りの4人で話し合って受賞作を決めるんです。ただ残った4人がなかなか自由な方で受賞作が決まりません。今回も各々推す作品が違っていましたが、最終的には『レイリ』に対して『これが受賞しても自分たちは文句はない』という形で落ち着きまして、『レイリ』の受賞が決まった次第です」と選考の過程を紹介。最後にさいとうが登壇し、「私はこの業界に入った頃から絵を描く才能とドラマを作る才能は別物だとずっと言ってきて、この賞を立ち上げました。分業をしてそれぞれの才能を生かせる世界を作っていけたらと思っています」とコメントした。

「レイリ」は百姓の娘ながら戦国武将・武田信勝の影武者として生きることになった、少女・レイリの姿を描く戦国時代劇。別冊少年チャンピオン(秋田書店)にて連載され、単行本全6巻が刊行されている。