アニメーターは“観察者”である、錦織敦史監督らが語る「アニメーターの醍醐味」
「第39回東京国際映画祭」アニメーション部門の一環として、「アニメーターの醍醐味」と題したシンポジウムが本日11月3日に開催された。このシンポジウムには、11月6日に映画「GROTESQQQUE-グロテスク-」の公開を控える錦織敦史監督と、世界各国のアニメーション制作現場を取材したドキュメンタリー「ウォーキング・ウィズ・アニメーターズ」のアレクサンドル・ポンセ監督が登壇。モデレーターをアニメーション部門プログラミングアドバイザーの藤津亮太氏が務めた。なお、当初登壇を予定していた夏目真悟監督は体調不良のため欠席となった。
「運がよかった」錦織監督の新人時代
「天元突破グレンラガン」のキャラクターデザインなどで知られ、「ダーリン・イン・ザ・フランキス」監督、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」総作画監督など、演出家・アニメーターとして活躍する錦織監督。「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」に衝撃を受けて上京し、東映アニメーション研究所に入って3カ月でガイナックスの求人を見つけ、「運よく」採用されたことからアニメ業界入りする。錦織監督は「受けても受からないと先生に言われたけど、こっそり受けたらあれよあれよと……。そんなに絵がうまかったわけでもアニメに詳しかったわけでもないんですが、師匠である鶴巻さんいわく、アカデミックなところを通っていない雑草感のある絵が『こんなやつがいてもいいんじゃないか』と思われたよう」と振り返る。
子供の頃はマンガ家志望だったという錦織監督だが、「アニメーターが楽しいなと思えるのは、要素が多いんですね。動きを描くだけじゃなく、カメラマンみたいなところもあるし、芝居自体も人によってどうするかの幅がある」とアニメーターという仕事の魅力を語る。また新人時代を回想し「『まほろまてぃっく』の現場には今石(洋之)さんやすしおさんがいて、『アベノ橋魔法☆商店街』では平松(禎史)さんが付いて教えてくれたので、本当に運がよかったです」と、ここでも運と人に恵まれたと控えめに語った。
文化はエッセンシャルなもの
「ウォーキング・ウィズ・アニメーターズ」のアレクサンドル・ポンセ監督は、これまでフィル・ティペット、レイ・ハリーハウゼンら、ストップモーションや特殊効果に関するドキュメンタリーを手がけてきた。その中でアニメーションについて学び、また多くのアニメーターに出会ったことが、今作の制作につながっている。同作を鑑賞したという錦織監督は「初期衝動と言いますか、プリミティブなアニメーションに対する情熱が随所で描かれていて、監督をやっていると忘れていたようなアニメーター魂を思い起こさせる感覚がありました」と感想を伝えた。
手描き、ストップモーション、切り紙、3DCGなど70人を超えるクリエイターに取材したポンセ監督は、アニメーターの共通点について「観察が仕事である」という点を挙げる。「世界を観察し、そこから何かを拾い取って描く。すべてに意図があり、“これを描いている”という意思決定自体にポイントがある」と実写との違いに触れた。錦織監督も「観察からのフィードバックは、アニメーターの根源的なもの」とうなずき、「今は自分でビデオを撮れたり検索すれば(参考になる映像が)見つかるが、その選び方が重要。例えば歩く動作でどういう人物を描きたいか、何を表すかは、アニメーターが選べるかつ選ばないといけない。無駄に労力がかかったり、悪目立ちしたりせず、演出意図を汲み取って描けるのがいいアニメーター」と続けた。
ポンセ監督は「ウォーキング・ウィズ・アニメーターズ」で伝えたいこととして、「アニメーターは長く孤独な時間を過ごすし、数秒のために数週間も作業する。そうした裏側の労力にあまり思いを馳せない人が多い。ワンクリックで動画が生成される昨今にこそ意識してほしい」と力強く語る。そして「ロックダウンになったとき、世の中でエッセンシャルワーカーとノンエッセンシャルワーカーという対立軸がありました。しかしロックダウン中に家で何をしたかというと、映画を観たりアニメを観たりしたわけです。アーティストはノンエッセンシャルワーカーとされがちですが、この作品で言いたいのは、文化ってエッセンシャルなものじゃないかということ」とメッセージを伝えた。
井上俊之が5人いればどんな作品も作れる?
「いいアニメーターとは?」という率直な質問には、錦織監督が「日本においては答えが出ていて、井上俊之が5人くらいいればどんな作品も作れる」と回答し観客の笑いを誘う。続けて「ほどほどの力でいっぱいやってくれる人もとても助かるし、数カットだけでもスペシャルなカットを上げてくれる人もアニメーション業界の宝だと思います。それぞれの持ち味、その人らしい考えが絵に出ている人が僕は好きです」と付け加えた。
さらに観客からの質疑応答では、錦織監督へアニメーターやアニメ業界の仕事を続けるモチベーションを問うものも。錦織監督は「僕も40代になり、デジタルネイティブ世代の躍進もすごいし、そこで戦っていけるかは悩むことはあるんです。でも『GROTESQQQUE-グロテスク-』をやって、やらせてもらえるうちは好きなことをやろうという開き直りができました。あとはやっぱり同世代のがんばりは励みになります。負けられないな、いいカッコしたいなというのは原動力になってます」と答える。するとポンセ監督が「自分の仕事を愛しているアーティストは引退しないですよね。『もののけ姫』で引退宣言をした宮崎駿監督も、作品づくりを続けていますよね」とコメントし、英語での発言でも内容を察した観客たちから笑いが起こる一幕も。そしてポンセ監督は「新しい世代や、テクノロジーが、と皆口々に言いますが、愛している仕事はそのまま続ければいいんじゃないかと僕は思います」と力強い言葉で結んだ。
