「ポノック短編劇場」は挑戦の場、西村代表が短編アニメーションに懸ける思い語る

「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」ビジュアル

「メアリと魔女の花」で知られるスタジオポノックの新作プロジェクト発表会が、本日3月27日に東京・東宝本社にて行われ、スタジオポノックの西村義明代表取締役兼プロデューサーと東宝の市川南常務取締役が登壇した。

会場では同スタジオの新たな取り組みとして、短編アニメーション映画のプロジェクト「ポノック短編劇場」が発表に。またその第1弾作品となる、3作の短編アニメーションを集めた作品「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」が8月24日に劇場公開されることも明らかとなった。同作はカニの兄弟の冒険ファンタジー「カニーニとカニーノ」、母と少年の人間ドラマ「サムライエッグ」、透明人間を主役に据えたスペクタクルアクション「透明人間」という3つの短編からなるアンソロジーだ。

西村プロデューサーは「もちろん長編アニメーション映画も作り続けます」と前置きしたうえで、「じゃあ、なぜ短編アニメーションを作るのか」と語り始める。アニメーションに限らず映画が増え、配信サービスも充実してきた昨今を鑑みて、「もう十分なほどに映像がある。今、新しいアニメーション映画を作るには、かつてとは違う意志を持たなければ前に進めない」という強い気持ちがあると吐露。高畑勲監督や宮崎駿監督が常に挑戦し、新たな分野を切り拓いてきたことに触れ、「僕らの先輩方がアニメーションの豊かさを信じ、アニメーション映画の可能性を追求してきたのに、彼らが作ってきた土台のうえにあぐらをかいてアニメーションを作っていていいのか」と自問し、「自分たちで挑戦の場を作らなければならない。短編アニメーションならそれができる」「そうした挑戦の場として、レーベル『ポノック短編劇場』を立ち上げました」と解説した。

市川氏は「『メアリと魔女の花』の大ヒットを記念したお食事の席で、西村さんから『ジブリに縁の深い3人の監督が、一堂に介する短編アニメーションをやろうと思うんです。東宝さんで配給してくれませんか』とご提案をいただきまして、一も二もなく『やりましょう』とお返事しました」と経緯を説明。続けて「東宝の配給で短編アニメーションというのは初めてじゃないか。スタジオポノックさんの新しいチャレンジを全面に応援しようと、100スクリーンを超える劇場を用意している」と万全のバックアップ態勢を話す。

続いて話題は今夏公開される「ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―」のことに。西村プロデューサーは「短編をやろうと決めたとき、頭の中にクリエイターは浮かんでました」と述べ、「メアリと魔女の花」の米林宏昌監督、アニメーターとして「ハウルの動く城」以降の宮崎駿監督作品の中心を担ってきた山下明彦監督、長年高畑勲監督の右腕として活躍してきた百瀬義行監督の名を挙げる。それぞれの監督に「短編を作りませんか」と提案したところ、「だったらこういうのがやりたい」という返事がすぐ帰ってきたと言い、「『ポノック短編劇場』は1人ひとりのクリエーションや才能を発表する場として、いい場所になるのではないか」と期待を寄せた。

西村プロデューサーからは各作品についての解説も。「カニーニとカニーノ」は米林監督が、自分の家族への思いを描いた作品になるそうで、「(米林監督が、自分の子供に)こう生きていってほしいんだという気持ちが込められた15分になる」と述べる。映像面では海外で活躍する日本のコンセプトアーティストや、若手のアーティストとタッグを組み、米林監督が得意とする美しくもダイナミックなアニメーションを、コンピュータ・グラフィックを駆使して作り上げていると告げられた。

「サムライエッグ」は西村プロデューサーと百瀬監督が出会った、極端な卵アレルギーを持つ少年の実話をもとにした物語に。アレルギーを描くことに対しては社内からも反対の声もあったそうだが、西村プロデューサーは「この少年の、自分の手で命を掴み取ろうとする姿にとても勇気づけられた」「彼に本当に起こった15分間の実話をモチーフにしてアニメーションを作ったら、価値のあるものになるだろう」と企画実現の決め手を語った。西村プロデューサーは続けて、百瀬監督を「スタジオジブリにCGを持ち込んだ人」と紹介。「高畑監督の演出を務める傍ら、アニメーション映画の表現を突き詰めてきた。そういう人間がある15分を描いたときにどうなるのか、ご期待いただければ」と話す。

山下監督が手がける「透明人間」は、西村プロデューサーの「アニメーションってものを動かすんですよね。もし動かすものがなかったらどうするんですか」「アニメーションで感動を伝えるとき、顔を動かしますが、感動を伝える顔がなかったらどう伝えますか」という“意地悪な質問”が起点となった作品だと明かされる。すでに完成が近づいているそうで、「“透明人間映画”というものがあるとすれば、透明人間映画史上、最高傑作ができあがる」と早くも賛辞を述べた。

西村プロデューサーは最後に「スーパーマンを描きたいわけじゃない」と切り出し、「自分たちの身の回りにいて、一生懸命生きて、何かを実現し、僕たちに勇気をくれる。そんな“ちいさな英雄”たちは、周りから見たら小さな存在かもしれないけど、アニメーション映画の作り手にとってはとても大きなヒーロー。そういうことを、今年の夏に伝えたい」とタイトルに込めた意味を明かした。キャスト・スタッフについては「諸事情につき、今回はお名前だけ」とされながらも、オダギリジョー、尾野真千子、田中泯、中田ヤスタカ、村松崇継の参加が発表されている。

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