マンガ大賞受賞とよ田みのる、「これ描いて死ね」は自分自身にいつも言っている言葉

とよ田みのる

マンガ大賞2023の結果が本日3月27日に発表され、大賞はとよ田みのる「これ描いて死ね」に決定。その授賞式が、本日東京・ニッポン放送のイマジンスタジオで行われた。

今年度の結果発表に先立ち、ステージにはマンガ大賞2022で大賞に輝いた、うめざわしゅん「ダーウィン事変」の担当編集を務める寺山晃司氏が登壇。昨年の受賞を振り返り「海外からの翻訳刊行のオファーもたくさんいただき、反響の大きさを感じました。マンガ大賞をいただいたことをきっかけに読者の方が増えたのは間違いないと思っております」と振り返った。

そして寺山氏からマンガ大賞2023の大賞作品が発表され、ステージにはとよ田が登場。受賞について「なぜ僕が、という気持ちです」という率直な思いを述べながらも「今年で(マンガ家生活)20年目くらいなんですけれども、『やっとか』という気持ちも両方ございます」と笑顔を浮かべた。司会の吉田尚記アナウンサーからタイトルの鋭さについて聞かれると「いつも連載前に自分自身を鼓舞するというか、叱咤激励を送るような気持ちで『がんばれよ』とかいろんなことを紙に書くんですね。その中でだんだん調子に乗ってきて、最後は『これ描いて死ね!』とか書いてるんです(笑)。それを見て『よし、がんばろう』と思うんだけど、そのフレーズを見て、今回のマンガにぴったりだなと。なので自分自身にいつも言っている言葉ですね。そう思ってマンガを描いています」と明かす。

また「これ描いて死ね」について「前の変なマンガ(前作『金剛寺さんは面倒臭い』)を描いているときに、全部出しきったぞ、やりきったぞっていう気持ちになって。“我”は出し切った気がしたんですね。なので次は“人のためのマンガを描こう”と思って優しいマンガにしました」と説明。吉田アナは作中の好きなセリフとして「同情は創作の敵だと考えます」を挙げる。「こんなことを言われたらマンガ家さんは『ヒャア!』ってなっちゃわないかなと思うんですけど」と語ると、とよ田は「そこは覚悟しないとダメですよ(笑)。ごく普通のことだと僕は思います」と考えを述べた。

トークの中では「主人公(安海相)が初めて描いたマンガは、娘が描いていたマンガを僕がパクって描いたんです」という秘話も明かされる。「天才の子(藤森心)が描いている絵は妻に全部任せているんです。拙いマンガは娘のを僕が真似しながら左手で描いているんです」と続け、吉田アナに「じゃあ一家総出で……」と触れられると、「そう、だから『チームとよ田の勝利だぞ!』と家族に言いました」と返した。

授賞式後、とよ田にはインタビューを実施。改めて今の気持ちを伺うと「いまだに実感がないです。なんでここにいるんだろうと(笑)。自分が獲れるなんて信じられなかったから、びっくりがずっと続いている感じです」と心境を口にする。「いつか賞を受賞したいという思いはあったか?」という問いには「そりゃあ、ありますよ。マンガを描いてる人は誰だって自分が一番面白いと思って描いてるから。だからランキングを見るたびに『ケッ!』と思ってました(笑)」と笑う。

「作品には自身のどんな思いが反映されているか」と聞くと、「マンガを描いていて特別つらかったことと、特別楽しかったことをドラマチックに描いている感じ。でも、実録ものではないので人に楽しんでもらうためのリアリティの材料として自分の仕事(の経験談など)を持ってきているだけで、そこがメインではない。単純に笑ったり泣いたり感情が揺れてくれたらうれしいなという気持ちで描いています」と述懐。また主人公の相らが純粋な気持ちで真っ直ぐ創作に挑む、眩しい姿が印象深いと話すと、「あれは島を舞台にしたのが大きいんじゃないかと思っていて。島の子だったら純朴であることにリアリティが増すんじゃないかと。島のキラキラした風景と相まってピュアさが加速してるんじゃないかと感じています」と語った。

特に思い入れのある回について聞くと、第15話の「運命じゃない」を挙げる。「マンガ家マンガってよく言われるんだけど、笠井スイさんが『これ描いて死ね』はマンガ家マンガというより『マンガマンガ』ですよねって言っていたんですよ。『これ描いて死ね』はマンガ家が主役というよりも、マンガが主役というつもりで描いているんですよね。マンガが好きっていうことが純度が高く出たのがその話だと思います」と語ってくれた。

最後に「マンガ愛にあふれたこの作品をどんな人に読んでほしいか?」と聞いてみると「全員ですね、この星の人全員(笑)。そういう気持ちです」とコメントする。そして「親戚に90歳くらいのおばがいるんだけれど、律儀に俺のマンガを全部読んでくれるんです。『金剛寺さんは面倒臭い』は『あんたのマンガはわからない!』と言われたんだけど、『これ描いて死ね』はね、『今度のはわかるわよ』って言ってくれて。すごいうれしくて、『ほら、おばあちゃんにもわかったぞ!』って(笑)。それくらい広く読んでもらいたいと思っています」と笑みを浮かべた。