Vがマンガを語る枠 第4回 犬山たまき(のりプロ)のマンガ遍歴

犬山たまき

日本のみならず世界的にも年々存在感を増しているVTuberたちには、マンガ好きが多い。業界を牽引する人気VTuberたちのマンガ遍歴をたどる本企画では、彼女らがどのようなマンガに触れてきたのか、深掘りしていく。

第4回には、マンガ家の佃煮のりおがプロデュースするバーチャルYouTuber事務所・のりプロに所属している、男の娘VTuberの犬山たまきが登場。佃煮の“息子”であり、彼女とすべての記憶を共有している犬山が、自身の誕生にもつながる1冊のりぼんとの出会いや、人生でもっとも心惹かれた「新世紀エヴァンゲリオン」との出会いを語る。また、チャンネルの名物企画となっている「対談バトル」に招いたある声優からの“ガチ”なリクエストに感動したエピソードも紹介してもらった。

取材・文 / 佐藤希

電子書籍1400冊所蔵、好みのマンガはエログロ

──本日はよろしくお願いします。基本的には犬山さんへのインタビューになりますけど、話の内容によっては、お母様ののりお先生に確認しないといけない場面もあるかと思うのですが、大丈夫そうでしょうか……?

はい、僕にはのりおママの記憶がすべてインストールされているので大丈夫です!

──それはよかったです! それでは早速ですが、現在佃煮家には何冊ぐらいマンガがあるんでしょうか?

のりおママがめちゃくちゃ引っ越し好きということもあって、紙の本がたくさんあると片付けが大変なので、紙の本はのりおママの著作以外はかなり片付けてしまっているんですよ。なので今はほぼ電子書籍なんですけど、1400冊ぐらいですかね。「ドラゴンボール」とか、長期連載のものは電子書籍で揃えていないので、そういうものも集めたら2000冊を越えるかもしれないです。

──間違いなく、この連載史上で最多です。お持ちのマンガはだいたいどういうジャンルが多いですか?

エログロが多いですかね。あとは読んでいて気持ちが重くなってくるものとか。

──犬山さんのかわいらしい見た目からはなかなか結びつかないですね。

あはは(笑)。でも最近、皆さん本当に絵がうまいなあって思います。昔はストーリーはうまいけど、絵が下手というケースもけっこうありましたし。だからのりおママは、現役でマンガ描くの辞めてよかったってたまに言っていますよ(笑)。

──佃煮先生は今はのりプロ代表として忙しくされている印象ですが、マンガ家を引退されたわけではないですよね?

どうなんですかね……あんまり考えたくないですけど、例えばYouTubeがなくなってしまったら、僕という存在がお役御免になってしまうので。のりおママは「そうなったらもう誰かのアシスタントをやろうかなあ」なんて言っているみたいですよ。

──さすがにYouTubeがなくなることはないと思いますよ!(笑)。アシスタントと言えば、犬山さんをはじめとするのりプロメンバーの日常を描いたマンガ「犬山たまきちゃんねる! ボクたちのナイショの話」が昨年発売されましたが、作画を担当されたあらと安里先生はもともと佃煮先生のアシスタントをされていたんですよね?

そうなんですよ! もともとあらと先生はのりおママが描いた「ひめゴト」のファンで、イベントに遊びに来ていただいたこともあるんです。当時は男性ファンが多い中、直接会いに来てくれる女性ファンって珍しくて、さらに絵もすごく上手で。背景のモブをアシスタントに任せようと思っていたタイミングであらと先生をスカウトして、3~4年ぐらい一緒にお仕事をしてもらいました。絵柄ものりおママが添削して、「こう描くとのりおっぽくなるよ」と教えていたので、すごく似ているんですよ。だから「犬山たまきちゃんねる!」の作画もお願いしました。

──なるほど。確かにあらと先生と佃煮先生のイラストはタッチが似ている気がします。「犬山たまきちゃんねる!」では、どのエピソードが一番印象的でしたか?

うーん、どのエピソードも楽しく描いてくださって大好きですが、一番最後に収録されている描き下ろしの回ですかね。ほかのエピソードはすべてあらと先生にお願いしていたんですけど、その回だけのりおママがプロットを担当したんですよ。自分が書いたプロットを他人にネームにしてもらうのが初めてでしたし、あらと先生ものりおママ好みの話題の拾い方をしてくれるので自分のことをわかってくれてるなって感慨深かったです。

すべての原点となった種村有菜作品との出会い

──犬山さんは子供の頃からマンガに囲まれて育ったのでしょうか?

これはのりおママの話になっちゃうんですが、父親がサンデー、ジャンプ、マガジンとすべての少年誌を買っているぐらいマンガ好きで。そのマンガを買うのはお母さんの役目だったんですけど、のりおママが生まれる前のあるとき「なんで私が買いに行かないといけないんだ!」とブチ切れてマンガをすべて処分してしまったらしいんです。だからのりおママが物心付いた頃には家にマンガが1冊もなくて。「マンガって何?」という状態で育ちました。

──先ほどの「電子書籍1400冊以上」というお話からすると、嘘みたいな話ですね。

ですよね。でも小学生になってお母さんとスーパーに買い物に行ったときに、雑誌コーナーで種村有菜先生の「時空異邦人KYOKO」が表紙だったりぼんが売っていて。「めちゃくちゃ絵がかわいいけどこれって何? 絵と文字がセットになってるけど、何?」と思ったんですよ。あんまり物をねだる子供じゃなかったのりおママが「これ欲しい、買って!」と言うので、母に買ってもらえました。で、すべてのページを穴が空くほど読んで、「充実した時間だったなー」と思った後に、こういうの描いてみたいなって絵を真似しようと思ったんです。もともとお絵描きは小さい頃から好きでしたけど、人間を描いたのは初めてで。そこからマンガが大好きになりました。種村先生のことも今でも大好きです! マンガのようなものを描いてみたのもその頃ですね。小学2年生でした。

──ちなみに、どんな内容だったか覚えていますか?

タイトルも覚えていますよ……「いちごのレストラン」(笑)。いちごちゃんという女の子が主人公なんですけど、急に異世界に飛ばされて、夢の世界のようなレストランに連れて来られて、イケメンのシェフと恋をして……っていう少女マンガのテンプレのような。学校からもらってきた画用紙を2つ折りにして、色鉛筆で描いたカラーイラストを表紙にしてマンガ本編が2ページっていう、自分なりの単行本を作っていました。

──かわいいお話ですね(笑)。少女マンガはその後も読まれていました?

たぶん少女マンガというより、種村先生の絵が好きだったんですよ。ほかの作品はあんまりピンと来なくて……。小学生のときは学童のようなものに通っていて、そこにマンガが置いてあったんですが、「神風怪盗ジャンヌ」の隣に「犬夜叉」があったんですよ。アニメもあまり観せてもらえない家庭だったので、アニメになってることも知らないぐらいだったんですが、そこから「犬夜叉」が大好きになって、高橋留美子先生の絵柄をかなり模写しましたね。だから、のりおママの絵柄は高橋留美子先生に影響を受けているかもしれないです。

「このかわいい女は誰だ!」綾波レイに夢中に

──犬山さんの、“人生でベストワン”と言える作品はなんでしょうか?

貞本義行先生の「新世紀エヴァンゲリオン」ですね。僕はアニメじゃなくてマンガからエヴァに入りました。初めて読んでみようと思った頃、アニソンの人気ランキングを発表する番組が流行っていて、「残酷な天使のテーゼ」がだいたい3位以内にはいつも入っていたんですよ。映像で綾波(レイ)が出てきて、「このかわいい女は誰だ!」って気になって。当時あんまりお金がなかったので、最初は友達の男の子から借りて読みました。その子が作中に出てくる用語を解説できるほど詳しくて、説明してもらいながら読んでいたので、「どういう意味かわからない!」っていうストレスもなく、楽しんでいました。そこからアニメを観て、新劇場版も観ました。

──そうしますと、お好きなキャラクターは綾波でしょうか。

まず綾波が好きになってハマっていったんですが、最初は綾波のほかに(渚)カヲルくんが好きだったんですよ。でもみんなカヲルくんが好きで、ライバルが多いかなあと逆張り的に(碇)シンジくん派になりました。エヴァが好きな子と仲良くなったときに、シンジくんの声真似をして、似てるって褒められたら本当にシンジくんが好きになってしまって(笑)。5巻で綾波とシンジくんが紅茶を飲むシーンが大好きで! 何度も読んで、暗唱できるようになりました。たまに配信でも披露していますよ。

──(笑)。作中でほかに印象的だったシーンは?

アニメの名シーンでシンジくんが綾波に「笑えばいいと思うよ」って言うじゃないですか。マンガだとそこは「ふつうは嬉しかったら笑うんだよ」というセリフなんです。そういう細かな違いに驚きました。マンガを先に読んでいたこともあるかもしれないですけど、マンガのほうが作画がかわいらしく感じて好きですね。アニメのキャラクターデザインを担当された貞本先生ご本人が作画をやるっていうのも信じられなくて、本当に恵まれたコミカライズだと思います。僕にとってはマンガ版が至高ですね。

──ここまでのお話を聞いていると、マンガのない家に生まれて、種村先生の絵に惹かれたことをきっかけにマンガが好きになって、とどんどん好きなことに夢中になられてきたんだなと思います。

本当にそうですね。あのりぼんに出会ったことで、マンガを描くことや、アニメの声真似をしてみたいと思いましたし、そういうことが積み重なって僕(犬山たまき)が生まれているので。すべてつながってる気がしますね。壮大な話……。種村先生は一度パーティでお会いしたことがあって「大ファンです!」と伝えたら「ありがとうね!」と握手していただいて! 神様に手を握られた!って興奮しました。

宮村優子からのガチなリクエストに感動

──犬山たまきチャンネルの名物企画といえば、VTuverのみならずマンガ家や声優などさまざまなゲストが話題の“対談バトル”ですが、この企画に「新世紀エヴァンゲリオン」の惣流・アスカ・ラングレー役で知られる宮村優子さんも出演されましたね。

いやー……あの日は汗が止まらなかったですね。わー、アスカがいる!って。そして宮村さんがのりおママのマンガを前々から読んでくれてたみたいなんですよ。打ち合わせのときに、「のりお先生のマンガ、読んでるよ」って言ってくださって。

──そうだったんですか!

アスカがのりおママのマンガを…!って感動しました。休載中の「双葉さん家の姉弟」がお好きだそうで「あれはいつ続きが読めるの?」とおっしゃっていただいて、僕は社交辞令だと思っていたんですよ。でもあの日配信終わったあとに「マンガの続き読めるの楽しみにしてるから! 今VTuber活動が忙しいと思うけど、私いつまでも楽しみにしてるから」って(笑)。

──ガチですね……。

はい、ガチで念押しされました(笑)。コラボできたことだけでもうれしいんですけど、犬山たまきのことをもともと見ていて、しかもマンガも読んでもらっていて感動の連続でした。

──「ブルーピリオド」の山口つばさ先生もゲストで登場されましたが、山口先生は以前から佃煮先生とお友達だそうですね。

のりおママが17歳ぐらいのときに知り合いになって、当時の印象は絵がすごくうまいお姉さんっていう感じでした。もう12年ぐらいのお付き合いになりますね。山口先生、僕がデビューしたときはあんまり興味なさそうだったんですけど、今やVTuberが大好きになってて「たまきくん、〇〇さんと対談してよー」なんて。いやもう立派にオタクやん!って(笑)。

神楽めあ、稲荷いろはに“エヴァハラ”

──話は変わりますが、一番最近読んだマンガはなんでしょうか?

佐藤秀峰先生の「Stand by me 描クえもん」ですね。内容は半分、佐藤先生の自伝のようなんですが、相変わらずすごいなと……。下手なホラーマンガより怖いです。

──佃煮先生のお話も聞いているでしょうから、マンガ家としての事情もわかってしまう、ということでしょうか。

はい、本当に……。佐藤先生の言い分もとてもわかりますけど、編集部の人たちの気持ちもわかってしまうので、読むとちょっと悲しくなってしまうんですよね。あと最近は「十字架のろくにん」と「夏目アラタの結婚」も読んでます。「夏目アラタの結婚」は3巻ぐらいの頃から読んでいて、確かに話は進んでいるんですけど、まだまだ本筋には触れてこないので、続きが気になっています。

──なるほど。ちなみに犬山さんは配信者のご友人がたくさんいらっしゃると思うんですが、誰かにお薦めしたい作品は?

そうですね……配信でも言ったことがあるんですが、神楽めあさんに“エヴァハラ”をしてて。のりプロゲーマーズの稲荷いろはちゃんにも「お金あげるからエヴァ買え」って言って、1万円分のギフトカードをあげました。いろはちゃんは今一生懸命読んでるみたいですよ。

──布教は一応成功してますね(笑)。めあさんには読んでもらえそうですか?

この間聞いたら、「2巻まで読んだ」って。「なめてんのか」って返しました。

──(笑)。リスナーさんには何を読んでもらいたいでしょうか。

誰が読んでも面白いのは、赤坂アカ先生と横槍メンゴ先生の「【推しの子】」が今面白くて、注目しています!今度アニメにもなるので、この機会にぜひ読んでみてほしいですね!

犬山たまき(イヌヤマタマキ)

男の娘VTuber。しゃべったり歌ったり、変わった企画をやるのが大好き。のりおママにこき使われながら、毎日活動を頑張っています。バブみがある人が好きで、ドMでメンヘラな一面も……?