アニメに懸ける熱量を体感「ルックバック展」、押山監督が雨のシーンへの思いを語る

「京本家の廊下」に飾られたはんてん

「劇場アニメ ルックバック展 ―押山清高 線の感情」が明日1月16日に東京・麻布台ヒルズギャラリーで開幕。これに先がけ、本日1月15日に内覧会イベントが開催された。

大量の原画で体感するクリエイターの熱量

藤本タツキによる同名マンガを原作とし、2024年に公開された劇場アニメ「ルックバック」。第48回日本アカデミー賞の最優秀アニメーション作品賞をはじめ国内外で数々の映画賞を受賞した。この展覧会は押山清高監督自らが主催し、監修・解説を手がけるもの。押山監督含むアニメーターたちが手がけた原画をはじめ、作中のシーンを再現したフォトスポット、押山監督の描き下ろしマンガなどを通じて「ルックバック」に懸けられたクリエイターの熱量が体感できる。

会場は大きく「映像エリア」「作画エリア」「シーンエリア」「京本家の廊下」「藤野の部屋」「特別映像エリア」から構成されており、冒頭の「映像エリア」では藤野が雨の田んぼ道をスキップする場面をフィーチャー。「作画エリア」では壁一面を原画やラフが埋め尽くす。「シーンエリア」は絵コンテ、レイアウト、実物を含む原画、背景などがストーリーに沿って展示され、藤野と京本の物語をたっぷりと追体験できるボリューム感。各シーンに押山監督の手描きコメントも添えられ、どのように作品を解釈し、どんな思いを込めたのかを垣間見ることができる。

「京本家の廊下」には京本のはんてんが飾られ、「藤野の部屋」では子供時代の藤野の部屋がリアルに再現されたフォトスポットが登場。ここにも原画などの制作資料が展示され、それぞれの場所が作品の中で重要な役割を果たしていることがわかる。「特別映像エリア」では作中のシーンやセリフと「ルックバック」の制作風景などの映像が重なり、“描く”という行為がどんなものなのかをあぶりだす。そのほか押山監督による多数の制作メモ、入場特典として配布された原作マンガのネームや、押山監督とスタジオジブリ・鈴木敏夫プロデューサーとの対談、そして押山監督の最新作にあたるオリジナルのマンガも展示されている。

“どうやって描こうかずっと考え続けていた”雨のシーン

内覧会イベントでは押山監督に加え、経済学者の成田悠輔氏が登壇。トークショーの前にまず、押山監督による3Dライブドローイングが行われた。ヘッドセットを着用し空間に線を引いていく押山監督。3Dドローイングならではの難しさなども触れつつ、約20分という限られた時間の中、雨の中スキップする藤野の姿を汗をかきながら描いていった。このシーンについて込めた思いを聞かれると「ライバルが現れてやめてしまったけど、藤野も心の中ではずっと、マンガ描きたいって思っていたんじゃないかなと。あの雨の中で走る瞬間に、ようやく本来の自分に戻ってこられたという描写だったんじゃないかと思っていて。絵を描いていると、うまく描けなかったり、つらい時期もあるんですが、それで描くのを休んでも、しばらくするとやっぱり描きたくなっちゃって。あの瞬間の藤野はそれに似たことが起こったんじゃないかなと、自分と重なる部分もあるなと思いながら描いていました」と振り返った。

そんな姿を見守っていた成田氏は、トークに移ると開口一番「押山さんは、なぜ描かれるんですか?」「描いているときの一番の快楽ってなんですか?」という質問を投げかける。押山監督は「自分の中で、こういうふうなものを描きたいという理想像をイメージしながら描いたほうが仕上がりがよりよくなるんですが、描き表したものと脳内が直結したときに脳内麻薬が出るのかもしれません。最終的にできあがったものがいい感じだと思ったら、その瞬間から2、3日はいい気持ちでいられるかもしれないです」と控えめに述べる。「ルックバック」の中にもそういった「理想形に近付いたな」と思えるシーンがあるかと聞かれると、先ほどの雨の中の藤野のシーンを挙げ「制作終盤のかなり時間がない中で描いたんですが、それまで“あのシーンどうやって描こう”ってずっと考え続けていたと思うんです。描いていた時間は1、2日なんですが、自分の中でイメージして洗練された形で、短い期間で描いた割にはうまくお客さんに伝わったんじゃないかと思います」と回答。逆にそのシーンを添削するとしたらという質問には、「地面に草をもっと増やしたいですね。電柱にもうちょっと装飾入れたりとか……キリがないです(笑)」と笑った。

AI時代のアニメ作りは? “最後の一枚”何を描く?

今回の展覧会でオリジナルのマンガを発表した押山監督。「素人マンガをこんなところに飾っていいものか……」とへりくだりつつ、「(マンガを描くのは)初めてに近いので、枠線とかを引くだけでもちょっと面白いんですよ。すごく新鮮な気持ちで描けました」と執筆を楽しんだ様子。またアニメとの違いとして「完成までめちゃくちゃ早い。アニメ作りって基本的には大きなお金と何百人というチームがないと作れないもので、僕はある種逆行する形で、なるべく少人数で作品づくりに向き合えないかということをやってきてるんですが、マンガだったらそれが究極的な形でできると思いました」とも語った。

さらにAI時代のアニメ作りに関する話題も。押山監督は「ほとんどの技術者以上にAIが賢くなったとき、チームを経営する立場なら、どっちを取るかという視点には立つと思います。アニメーションでコストがかかっているのは人件費。そのうえクリエイターって問題児が割と多いので(笑)、AIのほうが扱いやすいかもしれないですよね」と予測する。成田氏が「そうすると何が残るんでしょう?」と聞くと、「トップオブトップのような人の審美眼や技術スキルは、なかなかAIは真似できないんじゃないかなと、希望的なものですが。伝統工芸、人間国宝のような技術者もアニメ業界にはいらっしゃる。逆にそれ以外はほとんど太刀打ちできない気がしています」と続けた。

1時間にわたるトークショーの最後に成田氏がぶつけたのは、「最後の晩餐ならぬ“最後の一枚”があるとしたら、何を描かれますか?」という難問。押山監督は長考したのち、「結局、自分の原体験に立ち返っちゃいそうな気がします。自分が若いとき、人に似顔絵をプレゼントしたことがあるんです。似顔絵かもしれませんね」と少し照れくさそうに答えた。

「劇場アニメ ルックバック展 ―押山清高 線の感情」は3月29日まで。チケットは麻布台ヒルズギャラリー公式サイトやローソンチケットほかで販売中だ。会場では藤野役の河合優実、京本役の吉田美月喜による音声ガイドも販売。2月3日・10日の各日17時からは、押山監督のライブドローイングも実施される。

河合優実(藤野役)コメント

(音声ガイド収録の際に)押山監督も立ち会ってくださったこと、吉田美月喜ちゃんと一緒に収録ができたことがとても嬉しかったです。
映画の場面を順番になぞりながら声を出していると、だんだん藤野と京本が自分たちの中に自然と戻ってくるような感覚になりました。

私も展覧会をとても楽しみにしています。
私たちが声を添えたことで、みなさんが藤野と京本というキャラクターにもう一度想いを馳せ、ルックバックという作品の奥行きをより深く感じる助けになっていたら幸いです。ぜひじっくりご覧になってください。

吉田美月喜(京本役)コメント

今回改めて、またルックバックという作品に関わらせていただきとても嬉しく思っています。

私達はもちろん、皆さんにとっても人生に残るような大切なこの作品の展示会が開かれることは、沢山の人に意味があることだと思います。
押山監督、藤本タツキ先生をはじめ、この作品に関わった皆さんの制作に対しての熱を感じられると思います。
そして、もしよろしければ、私が担当させていただいた音声ガイドも楽しんでいただけると嬉しいです。

「劇場アニメ ルックバック展 ―押山清高 線の感情」

会期:2026年1月16日(金)~3月29日(日)
時間:10:00~18:00(最終入館17:30)
場所:東京都 麻布台ヒルズ ギャラリー

(c) 藤本タツキ/集英社 (c) 2024「ルックバック」製作委員会/(c)「劇場アニメ ルックバック展」実行委員会