天上天下唯我独尊 鶴ぼ~ちゃんのアニメPへの道 第2回 J.C.STAFFに行ったら神アニメの監督に偶然出会えたんだがこれは運命だろうか。

鶴房汐恩

アニメ好きを公言するJO1の鶴房汐恩さんが、夢のアニメプロデューサーを目指し、アニメ作りをイチから学んでいく載「天上天下唯我独尊 鶴ぼ~ちゃんのアニメPへの道」。今回はアニメ制作会社・J.C.STAFFに訪問し、サンリオ原作のTVアニメ「ミュークルドリーミー みっくす!」ができるまでを見学させてもらいました。作画部では、鶴房さんが大好きなあのアニメの監督に偶然お会いし……。最後には「JO1の面々と一緒にアニメを作ることになったら?」というお題で、鶴房さんが各部署にメンバーを采配したのでお見逃しなく。

取材 / 西村萌・粕谷太智 文 / 西村萌 撮影 / 上山陽介 ヘアメイク/ 河本茜 スタイリスト / 高久遥可 協力 / J.C.STAFF 題字 / 鶴房汐恩

目次

アニメを生みだす街に到着

JR武蔵境駅にやってきました。実は武蔵野市は、多くのアニメプロダクションや制作スタジオがあることでも知られている街。市内にはJ.C.STAFFのほか、スタジオディーン、STUDIO4℃、スタジオポノック、タツノコプロ、Production I.Gなども社屋を構えています。

鶴房さんが持っているのは、第1回のインタビューでお渡ししたノートと観察用ボード。今日の取材でアニメプロデューサーの仕事に役立つことを学んだら、このノートに随時メモしていっていただきます。

いざ、J.C.STAFFへ

駅から歩いて約1分、J.C.STAFFに到着です。J.C.STAFFは社員197人で、ビルの4フロアを使用。制作管理から、原画、動画、仕上、美術、撮影、CGまで、アニメ制作に関する作業を社内ですべて行っています。ほかのアニメ制作会社では一部業務を完全委託することも多い中、これは大変珍しいことだそうです。

まずは会議室で軽く打ち合わせ。壁の棚にはJ.C.STAFFが手がけた歴代作品のパッケージがずらりと並んでいます。鶴房さんにこの中で視聴済みの作品を聞くと、1つひとつ指を差して教えてくれました(※)。中でも「さくら荘のペットな彼女」は人生で2番目に観たアニメで、ヒロインの椎名ましろがお気に入りキャラだそうです。

※視聴済み作品:「ウィッチクラフトワークス」「監獄学園」「この素晴らしい世界に祝福を!」「斉木楠雄のΨ難」「さくら荘のペットな彼女」「殺戮の天使」「食戟のソーマ」「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」「通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?」「デート・ア・ライブIII」「とある科学の超電磁砲(途中までの視聴)」「とある魔術の禁書目録」「とらドラ!」「緋弾のアリア」「ワンパンマン」

今日見学させてもらうのは、テレビ東京系列で毎週日曜日に放送されているTVアニメ「ミュークルドリーミー みっくす!」の制作現場です。普段は異世界転生もののアニメがお好きという鶴房さん。少女向けのアニメはあまり馴染みがないかと思いきや、妹さんがテレビで観ていたため「プリキュア」や「アイカツ!」シリーズは自然と目に入れていたとのこと。ストーリーやキャラクターの予備知識を学んだうえで、さっそく各部署を巡っていきましょう。

制作部

アニメ制作の全体を統括し、予算、スケジュール、スタッフの管理などを行う部署である。J.C.STAFFでは1つの作品を作るにあたり、プロデューサーおよび制作担当、進行チーフ、制作進行からなるチームを複数構成。各チームで担当話を決め、ローテーションを組んで作品を完成まで持っていく。

憧れのプロデューサー席に

制作部に来てさっそく、前回の取材でお話ししたアニメプロデューサー・松倉友二さんと再会。制作部の本部長でもある松倉さんの席は、部内を見渡せるフロアの一番奥にありました。松倉さんの席に座らせてもらうことになった鶴房さんですが、辺りの床には紙袋や段ボールがいっぱいで、椅子にたどり着くのにも一苦労。机の上にもアニメの原作小説やマンガ、資料が山積みになっています。

鶴房汐恩 これ、何年前の水ですか?

松倉友二 あれっ、消費期限いつだろう。

鶴房 2020年6月って書いてありますね。

松倉 あらら……(笑)。

鶴房 でもわかります、僕も整理整頓は苦手なので。ほかにも見ていいですか?

松倉 どうぞどうぞ。

鶴房 この小説もめっちゃ気になるんですけど、次クールのアニメになるものですか? タイトルの時点でもう絶対に異世界ものですよね。

松倉 そうそう、異世界もの。まだ企画の段階だからタイトルすら公に言えないんだけど、きっと3年後くらいに皆さんの目に触れることになるかな。

鶴房 3年後! 楽しみにしてます。

意外とブラックじゃないアニメ業界

こちらは松倉さんと同じく、プロデューサーの藤代敦士さん。普段どんなお仕事をしているのかを具体的に伺っていきましょう。

藤代敦士 大まかに言うと、納品までの全体的な進行管理です。例えば脚本の方からシナリオが上がってきたら、絵コンテ(映像のイメージを絵と文字で表した設計図のようなもの)を発注します。その絵コンテを監督にチェックしてもらったら、今度はレイアウト(絵コンテをもとに描かれた画面の構図)の発注にかかります。作品が始まるタイミングだと、どういうスタッフを配置するのかを監督と相談しながら決めるという仕事もありますね。

鶴房 絶対忙しいですよね。前もテレビ番組のロケでほかのアニメ制作会社さんに行かせていただいたんですけど、すごい切羽詰まってたみたいで現場の雰囲気がピリピリしてて。やっぱりアニメ業界って時間に追われてるというか、朝から晩まで働いてるイメージがあります。

藤代 確かに納期近くのタイミングだと夜遅くまで仕事することはありますけど、徹夜とかはもうほとんどないですね。たぶん世間的には「アニメ業界って何日も寝られなさそう」みたいなイメージがあるかもしれないですけど、最近は働き方改革の流れもあってか業界全体が変わってきている気がします。うちも定時は10時から19時までで、どんなに遅くても12時には会社を閉めちゃいますね。

鶴房 へえ、勉強になります。ブラックと思われがちやけど、そうじゃないんですね。

締切に遅れてるスタッフに催促するとしたら……

作品をスケジュール通りに完成させるため、ときに制作部では締め切りを過ぎてしまったスタッフに催促をしなければならないことも。今日は鶴房さんに、制作部のスタッフという設定で催促電話のシミュレーションを行っていただきます。

鶴房 うわー、ちゃんとしゃべれるかな。電話ってほぼマネージャーとぐらいしかしないんで。あと水道業者の人とか。

藤代 僕が催促するとしたら、「作業状況どうですか? あと何カット上がってないんですけど……」みたいな感じですかね。優しすぎても舐められますし、かといって厳しすぎてもいけないですし。そこの匙加減はちょっと難しいと思います。

鶴房 わかりました。

鶴房 「あ、もしもし。J.C.STAFFの鶴房ですけど、この前言っておりました『ミュークルドリーミー』の30カット分どうですかね? 一応、期限から5日ぐらい過ぎてるんですけど……。あ、まだですか? どのくらいかかったりします? 僕たちもけっこう切羽詰まってて、巻きでやってもらわないと困るんですよ。さすがに僕たちも仕事進まなくなるんで、寝ずにでもやってもらわないと。明日中とかいけたりしますか? はい、お願いします」……どうですか?

藤代 え、やったことあります?(笑)

鶴房 あはは!(笑)

藤代 実際もまさにこんな感じです。寝ずにやってもらわないと困りますと言ってましたけど、そのぐらい危機的な状況なんだってことが伝わってとてもよかったです。まあ現実的に寝ずにやったらできる量なのかっていうところはちゃんと計算して言う必要があるんですけど、そこは経験でわかってくるところなので。いやあ、もういつでもうちの部署来れると思いますよ。

鶴房 ありがとうございます(笑)。電話の相手の人もがんばるって言ってはったんで、もうすぐ残りのカット届くかなと思います。

寄り目も白目なしもNG

制作部の中でも設定制作と呼ばれるスタッフは、キャラクター設定、美術設定、色彩設定の発注と管理を行っています。「ミュークルドリーミー みっくす!」の作画注意事項には、ぬいぐるみたちの瞳が寄り目だったり、白目がまったくなかったりするものはNGと書いてありました。

ぬいぐるみの身長までしっかり決められているのには鶴房さんもびっくり。「ミュークルドリーミー」の場合は人間とぬいぐるみで大きさがかなり違うので、例えば人間の足元だけを映した構図だと、ぬいぐるみのパースを取るのが大変になってしまうそうです。

作画部

制作部以降、作画部、仕上部など実際の制作を担う部署は“セクション”として括られる。部署やスタッフ間での綿密なコミュニケーションが必要不可欠である制作部に対し、1人で集中する時間が大事なセクションでは机と机の間にすべて仕切りが。作画部では作画監督、キャラクターデザイン、原画、動画チェック、動画と役割がわかれており、50人のアニメーターが働いている。

新人アニメーターが通る最初の道

どのアニメ制作会社でも、アニメーター歴ゼロで入社した場合のほとんどは、原画(動きの要となる部分の絵)を清書し、さらに原画と原画の間に入る絵を描く“動画”という作業を最初に担当することになるそう。

今回は鶴房さんに、「ミュークルドリーミー みっくす!」に登場する赤ちゃん猫のぬいぐるみ・ちあの原画をトレスしてもらうことになりました。作業に関してアドバイスしてくださるのは、動画歴8年の内藤玲さんと松﨑紗弥子さん。上から鉛筆でなぞるだけと思いきや、これが意外と難しいようで……。

内藤玲 まずは原画をタップ(紙がずれないように留める、文鎮のような道具)にセットして、その上から真っ白の作画用紙を重ねます。トレス台の電気をつけると、下からの明かりで原画が透けて見えるようになりますよね。これでトレスができるようになります。

鶴房 おお。このタップもめっちゃ便利ですね。普段でも使えそう。

内藤 ポイントとしては、今自分は何を描いているか考えながら作業すること。目だったらこれは目、手だったらこれは手だと意識すると、変に角ばったりせずに柔らかい線が描けるかなと思います。

鶴房 想像力ですね。

内藤 そう、気持ちがけっこう大事になってきます。あとはキャラクターの愛らしさを表現しようという意識ですね。

鶴房 わかりました。一発目いくの怖いなー。

まずは頭のリボンから描き始めました。もともと絵を描くことはお好きな鶴房さん。松﨑さんいわく“鉛筆持ち慣れ”しているそうで、筆運びもほとんど迷いなく進めていきます。

リボンと輪郭を描き終わり、次は目に移りました。内藤さんが言うには、目は表情の印象を大きく変えてしまう重要なパーツ。鶴房さん、満足のいく線にならないのか何度も何度も描き直します。

鶴房 あかん、目が一番難しい! ちょっと後で修正します。

後半になってくるとさらに作業に慣れてきたようで、リボンの水玉模様を手早くなぞっていきました。

ラストは青の鉛筆に持ち替え、仕上部が行う色トレス(線画と塗り部分の境目が馴染むよう、線画の色を完全な黒ではなく塗り部分と同じ色にする技法のこと)の前準備に。指示線を引き終わったら、作画用紙を裏返しにして色トレスしてもらう部分を塗りつぶしていきます。最初だけ間違って表側を少し塗ってしまいましたが、そこはご愛嬌です。

この原画をトレスするとしたら、プロの内藤さんと松﨑さんでも30分はかかるそう。初心者の鶴房さんだと1時間ほどかかるのではと見込んでいましたが、約40分経ったところで……。

鶴房 できました。

内藤 早い!

松﨑紗弥子 線の濃さが均一ですね。かすれているところがあると、次の仕上部に回したときにうまくスキャンできなくてNGになってしまうんですよ。初めて描いたとは思えないぐらい、とてもいい線が引けてると思います。

鶴房 めちゃめちゃ楽しかったけど、予想以上に難しかったです。ゆっくり描くと線がガタガタなって汚くなるし、勢いよく描いても線の雰囲気が変わってきてしまうし。しかも消しゴムかけたところからまた描き始めるとき、そこからきれいに線をつなげたいのにちょっとズレてしまうのが難しいなって思いました。

内藤 ズレないようにするには慣れが必要なんでしょうがないですね。それでもこのスピードで描けるのはすごいことですよ。

松﨑 そうですよね。あと2~3日研修したら、動画の新人テスト通っちゃいそう(笑)。

鶴房 おふたりも動画をされていて、うまくいかないなって思うことってありますか?

内藤 もちろんです。いまだに自分の線画に満足できていないですし、上手な原画さんが描かれているものをトレスすればするほど落ち込んでしまいます。

松﨑 原画さんの線のまま描きたいのに、その域に達せてないなと悔しくなりますよね。私もまだまだ日々修行です。

鶴房さんの作業風景を一部動画でどうぞ!

「パカ」と「パク」

動画の作業中、机にずっと置かれていたカット袋(原画や動画などの素材を入れて運ぶための袋)。テレビ番組のロケで学んだそうで、鶴房さんはカット袋に書かれた数字の意味を得意げに教えてくれました。このカット袋の場合は、第15話の251番目にくるカットということを表すそうです。

作画監督からの修正指示が入ったカット袋も見せてもらい、鶴房さんは「パカ(線が抜けていたり、色が塗られていなかったりすること)」「パク(キャラクターがセリフを言うシーンなのに口が動いていないこと)」という業界用語を新たに覚えました。

「変猫」のあの人に……

辺りをキョロキョロしていると、鶴房さんが好きなアニメの1つ「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」のBlu-rayが目に留まりました。こちらの持ち主は、10月からNHK Eテレで放送されるTVアニメ「舞妓さんちのまかないさん」の監督を担当する鈴木洋平さん。せっかくなので、監督のお仕事をいろいろ伺うことになりました。

鈴木洋平 「下セカ」好きなの? 変わり者だね(笑)。

鶴房 はい、変態なんで。JO1のメンバーにも好きって言ってる子いますよ。

鈴木 それはそれは……。

鶴房 「変猫(変態王子と笑わない猫。)」もありますけど、もしかして作られてたんですか?

鈴木 そうそう、よくご存知で。監督をやってました。

鶴房  マジですか……! 僕、一番好きなんです。アニメ好きって公言してるんで「何の作品が好きですか?」ってよく聞かれるんですけど、100パー「変猫」って言ってるぐらい。

鈴木 おお、うれしいねえ。

鶴房 ふざけてるだけのように見えて、意外としっかりした内容じゃないですか。そこが面白かったです。

鈴木 そうそう。僕も原作の絵柄を最初に見たときは、ただの明るいラブコメディなのかなって思ったんですよ。でも扱っているテーマはよくよく考えるとけっこう重くて。コメディとシリアスのバランスをどうするかは、当時もかなり悩んだ記憶がありますね。しかも実は「変猫」って、僕が監督の仕事をもらった初めての作品で。

鶴房 えっ、そうだったんですか。

鈴木 わけがわけらないまま、相当怒られながらやってましたけどね。監督ってこういう仕事をするんだよって特に教えてもらえるわけではないので、基本的には人を見ながら真似して。原作があると言っても、自分の判断次第で作品がどうなるか変わっていきますから責任も重大でした。

鶴房 原作のお話もイチから組み直すんですもんね。小説だとそもそも長いですし、風景とかもわかんないから大変そうやなって思います。

鈴木 小説だとキャラクターの心理描写も細かく書かれてますからね。でもアニメにするとナレーションでただ読むだけになっちゃうから、ほとんど省かなきゃいけないんですよ。「変猫」もアニメにできなかった部分はたくさんありますし、ほかの作品でも原作を読んでみると新たな気付きがあって面白いと思いますよ。

鶴房 そういえばですけど、僕ちょっと前に「ようこそ実力至上主義の教室へ」っていうアニメの続きがどうしても知りたくて原作を大人買いしたんですよ。そしたらマンガと思ってたのに、ページ開いたら小説で(笑)。普段マンガすらあまり読まないんで、小説はもっと無理だって挫折しました。

鈴木 ははは(笑)。

鶴房 でもプロデューサー目指すんだったらそんなこと言ってられないですね。ちなみに監督が普段お仕事されてて、やりやすいプロデューサーってどんなですか?

鈴木 やっぱり指示をしっかり出してくれつつ、意見も聞いてくれる人じゃないですかね。たぶん世の中のイメージと全然違うと思うんですけど、実はプロデューサーって監督より圧倒的に偉いんですよ。だから監督はプロデューサーの言うことに基本逆らわない。なので自分の考えを言いたいときに、それがしやすい関係が作れているといいかなと思います。

鶴房 なるほど。

鈴木 僕もだいたい松倉の方針に従っていますけど、かといってそれが嫌なわけではないんです。松倉のことはプロデューサーとして尊敬していますし、松倉がこの方針でと言うならそれが正しいんだろうなと思っていて。僕はその決められた方針の中で、監督として何ができるかなって考えながらやるのが楽しいんですよね。

鶴房 でも鈴木さん、「変猫」も「下セカ」も監督されたじゃないですか。あんなすごいの作れるんだったら、もうプロデューサーになられたほうがいいと思いますよ。

鈴木 何を言っているんですか(笑)。まあ監督とプロデューサー両方やられる方もたまにいますけど、たぶん性質的に正反対の役職なんですよ。プロデューサーって監督よりさらにいろんな人と話さなきゃいけない仕事だから、コミュニケーションが苦手な僕には絶対務まらない。それに比べて松倉はコミュ力モンスターですから(笑)。だから鶴房くんもこうやってお話している感じだとけっこうプロデューサー向きだと思いますよ。

鶴房 いやあ、僕もそんなに……というか女性とおしゃべりするのが苦手で。だからプロデューサーになったら、周りのスタッフを男性で固めるしかないですね。

仕上部

色に関する専門部署。キャラクターの色を決定する色彩設計、カットやセルごとにどの色で塗るべきかを指示する色指定、動画データに着色を行う彩色、正しく彩色されているかを確認する検査というふうに役職が分かれている。女性のほうが男性に比べて色彩感覚が鋭いと言われていることも関係しているのか、社内で女性の割合が一番多い部署であるそうだ。

ちあに色付け

ここでは動画の着色に挑戦させてもらうことになりました。作画部では鉛筆を使って線を描いていきましたが、今度はペイントソフトを使って作業していきます。パソコンをちゃんと触るのは高校の授業以来という鶴房さんですが、仕上部の岡田恵沙さんに操作方法を教えてもらいながら始めていきましょう。

パソコンの画面右側が色指定表、左側が動画のスキャンデータです。色指定表内のパレットで特定の色をクリックし、動画の塗りたい範囲をクリックすると、一瞬で着色できます。

鶴房 えっ、色ってこの手描きのパレットから取れるんですね。左のバーから選ぶんやと思ってました。

岡田恵沙 ソフトを初めて触る方だとそう思われるかもしれませんね。

鶴房 この見本通りに塗らないと怒られますか?

岡田 そうですね……(笑)。でもうまい下手が出るという作業ではないので、丁寧かつスピーディにということを心がけてやってみてください。

鶴房さん、まずは耳の縫い目から塗りを開始しました。かなり狭い範囲なのでピンポイントでクリックするのが難しく、たびたび違う場所に塗ってしまいます。

白はちゃんと塗れているかの確認が難しいです。瞳のキラキラ部分を塗ったら白目になってしまい、一瞬焦る鶴房さん。周りをピンクで塗ると、元の瞳に戻って一安心です。リボンの白い水玉模様も、「入ってる、入ってる」と声に出して確認しながら進めていきました。

これぐらいシンプルな動画だと、プロは5分程で着色できるそう。鶴房さんは約30分かけてようやく完成させました。

鶴房 いやあ、目めっちゃ疲れました……。集中してパソコンにグッて寄っちゃいますし、瞬き忘れるからコンタクトも乾燥して。この部署、だからメガネの人多かったんかな。

岡田 作業はいかがでしたか?

鶴房 楽しさ半分、大変さ半分ですね。やったことない人はパソコンだから簡単と思うかもしれないんですけど、普通に鉛筆で色塗りするよりも難しかったです。特にパーツのフチまで塗るっていうのがめちゃめちゃ細かくて。でも出来としては、サポートしていただいたおかげでまるまる完璧にコピーできたかなと思います。

美術部

作品の美術背景を制作する部署。昔は画用紙に筆とポスターカラーを使って描くというアナログな手法だったそうだが、現在はほぼ100%パソコン作業に。2Dのほか、最近では3Dで背景を作ることも増えている。

曖昧なディテールにしないために

ミュークルドリーミー みっくす!」の主人公・日向ゆめたちが通う中学校を描いてる方がいました。

鶴房 この右上の、秋っていうのはなんですか?

秋山優太 ああ、それは秋山の秋です。

鶴房 秋の設定やと思いました(笑)。

秋山 確かにそうも見えますね(笑)。このマークをつけておいて、それぞれが今なんの作業をやってるかすべて把握してるんです。

鶴房 ええ、怖!

秋山 いやいや、そんな怖いものではないんです(笑)。このマークの色が青だと作業が終わってるということになるんですけど、赤だと作業中ということを表していて。もし赤をいっぱい抱えている人がいたら、まだ余裕がありそうな人に仕事を振るというふうにコントロールをしています。

鶴房 なるほど、みんなのために管理してるってことですね。ところで、横に置いてある空の写真集って見ながら描くためのものですか?

秋山 そうですね。頭にあるイメージだけで描くと平面的な空になっちゃうので、資料を見てボリューム感がある雲とはどんなものかを確認しながら描いてるんです。校舎とかも美術監督が用意してくれた設定はもちろんあるんですが、自分でも参考資料を探して、どうしてここにこれが配置されているのかってことを納得した上で描くようにしてますね。そうしないと寄りの構図になったとき、曖昧なディテールでしか描けなくて空間がもたなくなるんです。

鶴房 ディテールって言葉、僕もダンスやってるときに大事って言われてるところなので親近感湧きます。

CG部

キャラクターや背景、特殊効果など、従来の作画だけでは難しかった映像を3DCGで制作する。中でもデザイングループはスマートフォンやパソコン、ゲームの画面から、食品パッケージ、雑誌の表紙まで、さまざまな小物のビジュアル作りを担当。CGは表現の幅を広げるだけでなく、一度モデリングさえしてしまえば作業効率を格段に上げられることも可能にする。

整理して、補完して、デザインする

ここでは「ミュークルドリーミー みっくす!」に登場する、とある変身アイテムの3Dモデルを見せていただきました。鶴房さんはこのかわいらしいフォルムに見覚えがあるようで……。

鶴房 うわ、妹が持ってたようなおもちゃ! めっちゃ懐かしい!!

應後一貴 日向ゆめが持ってるミュークルレインボウですね。

鶴房 こういうの、1個作るとしたらどれくらいかかるんですか?

應後 設定書をいただいてからは、1~2日であらかた作ります。実際におもちゃとして商品化されるものなので、あとはアニメとしての落としどころを確認して調整していくっていう感じですかね。

鶴房 やっぱ本当におもちゃにするんや! ちなみにこのアイテムはどこから作り始めたんですか?

應後 これは中心の持ち手部分からですね。大きいパーツから作っていって、細かい装飾品をだんだん足していきました。

鶴房 真ん中に入ってるのは飴ちゃんですか?

應後 ええっと、ビーズですかね……?(笑)

鶴房 いやあ、でもこれは2日かかりますね。もっとかかってもいいくらいです。

應後 動きが大きいものだと、もう少し手こずりますけどね。ミュークルレインボウは稼働部分が少ないのでまだ作りやすいですけど、人とかだったら関節が曲がることを考えながら作らないと後々動かせないところが出てきちゃうので。

鶴房 そういうこともあるんですね。

應後 あとミュークルレインボウの場合は3Dの設定書があったんですけど、紙の設定書だと正面と横から見たときの辻褄が合わないとかがあるんですよね。だから自分の中で整理して、どこを補完しなきゃならないかを考えるのが難しいところです。

鶴房 自分で考えて補うってすごいな……。これはめっちゃ頭よくないとできない仕事ですね。

撮影部

作画部、仕上部、美術部、CG部までが作ってきた各データを合成し、メリハリのある画面にするためカメラワークやエフェクトなどの画像処理を行う。ここでの作業でアニメの画作りは完了。あとはJ.C.STAFFの手を離れ、アフレコやダビング、編集に移る。

できる限りのキラキラを

ミュークルドリーミー みっくす!」の撮影管理・東郷義宏さんは、先ほど鶴房さんが原画をトレスし、着色したカットが本番ではどう画像処理されていたのかを見せてくれました。

東郷義宏 「ミュークルドリーミー みっくす!」には毎回キャラクターが決めポーズをするシーンがあるんですが、先ほど鶴房さんが作業されたカットはそのうちの1つです。僕たちはまず仕上部から上がってきた動画をパソコンに取り込んで、動きを付けてあげることから始めます。そうすると動画が画面のタイムライン上に現れるので、タイムシート(カメラワークやセリフのタイミングが、時間経過に沿って書き込まれている用紙)の順番通りに番号を振っていくんですね。そうすると何枚かの動画と組み合わさって、こうやって口が動いたように見えるんです。

鶴房 すご、口開いた!

東郷 あとはレイアウトに従って、ちあが画面下から上がってくるような処理を施しました。単純な処理だけだとカクカクっとロボットみたいな動きになってしまうので、もうちょっと緩やかにしてあげてますね。

鶴房 もう普通にテレビで見るような映像になってきましたね。

東郷 動きをつけた後は、イメージBGと呼ばれる処理を入れていきます。ここでは見せ場ということが小さいお子さんにも伝わるように、キラキラしたエフェクトを足しました。こういうエフェクトは監督から指示があって行う場合もありますし、撮影者の判断で入れることもあります。例えばこれは女の子と男の子がいい感じになるシーンなんですが、もっとムードを出したいということで撮影者が光の加減を足しているんですね。

鶴房 全然違いますね! 左やったら深海に沈んでるふうに見えます。

東郷 あとは「ミュークルドリーミー」特有の処理だと、ぬいぐるみの頬をぼかしてあげる作業があります。ちあに関しては赤ちゃんなので、ほかのキャラクターよりぼかし薄めで、頬の輪郭をハッキリさせることで子供っぽさを出していますね。

鶴房 お化粧みたいですね。

東郷 こういうふうに、撮影部では見栄えを少しでもよくするための作業を行っています。「ミュークルドリーミー みっくす!」はできる限りキラキラを足してあげて、観た人に「かわいいな」「きれいだな」って思ってもらえたらうれしいですね。

さっき学んだあの業界用語が……

見学を終えて部屋に戻ろうとしたとき、真っ暗な部屋でちょうどラッシュチェックが行われていました。ラッシュチェックとは完成映像をチェックし、映像に間違いがないかと、指示通り撮影されているかを確認し、リテイク出しを行うこと。新人だとリテイク箇所を見つけるのは難しいそうですが、鶴房さんは早々に“パカ”を発見していました。

見学を終えて

──お疲れさまでした。6つの部署を回ってみていかがでしたか?

よく、アフレコでキャラクターに命を吹き込むとかって言うじゃないですか。でも今日見学させてもらって、作画だったり背景だったり、そういう1つひとつの作業で作品が徐々に生き生きしていってる感じがしました。ほんまに一瞬のシーンなのに皆さんこだわっていて、たぶんこれからアニメを観る目が変わってくるなって思います。

──もし鶴房さんがJ.C.STAFFで働くとしたら、どこの部署が向いてると思いましたか?

作画ですかね。撮影もいいかもしれないです。あ、いやいや、やっぱり制作でしょ!(笑)

──あはは(笑)。当然のことを聞いてしまいました。

でも絵を描くのはやっぱり好きなので、作画の体験は楽しかったです。撮影も知らないと見逃してしまいそうな効果が面白かったんで、誰か気付くかな?って感じでこっそりなんかを仕掛けたいです。

──各部署の役割も見えたところで、鶴房さんがもしJO1のメンバーと一緒にアニメを作ることにしたら誰をどう振り分けますか?

えーっと、まず制作部が僕ですよね。で、絵が上手い(與那城)奨くんと(佐藤)景瑚くんを作画にします。美術は(大平)祥生と(白岩)瑠姫くん。祥生はカメラが好きでよく写真撮ってるから、背景とかも詳しいと思うんで。瑠姫くんは付き添いで行ってもらいます。

──美術部の作業が白岩さんの得意分野だからとかではないんですね(笑)。

瑠姫くんの得意分野は“王子(キャラ)”なので全然関係ないですね。でも祥生と一緒にやってる姿が目に浮かびました。あとイメージでしかないですけど、CGは木全(翔也)と(川尻)蓮くん。頭いいので(河野)純喜くんもデザイングループに入れます。あとの3人は……いやあ、どこにもいらないかもしれないです(笑)。

──川西拓実さんと金城碧海さんと豆原一成さん。

この人これだなってピンとくる部署がないんですよね。いや、でもやっぱ豆ちゃんは制作部に入ってもらいます。

──好青年で、いろんな部署の人にかわいがられそうですもんね。

拓実くんと碧海には申し訳ないですけど、この世界は向いてないかなと。すみません、僕の勝手な判断です(笑)。

鶴ぼ~ちゃんの取材メモ・感想

次回予告

鶴房さんが「ミュークルドリーミー みっくす!」のアフレコ現場に訪問します。音響監督からの演技指導を受け、アフレコにも挑戦させてもらう予定です。

また載の感想やご意見も、ハッシュタグ「#鶴ぼ~P」で募集中。アニメにまつわる気になることをツイートしてもらえたら、鶴房さんやスタッフが参考にさせていただきます。

鶴房汐恩(ツルボウシオン)

2000年12月11日生まれ、滋賀県出身。サバイバルオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN」にて約6000人の応募者から視聴者投票で選ばれ、世界的な活躍を目指すボーイズグループ・JO1のメンバーとして2020年3月にデビューした。JO1は8月18日、4THシングル「STRANGER」をリリース。今冬には、デビュー後初の有観客ライブ「2021 JO1 LIVE “OPEN THE DOOR”」を開催する。