マンガ大賞受賞「葬送のフリーレン」担当編集が語る思い「普遍的な感情が佇ずむ作品」

「葬送のフリーレン」の担当編集を務める小倉功雅氏。

マンガ大賞2021の結果が本日3月16日に発表され、大賞は山田鐘人原作・アベツカサ作画による「葬送のフリーレン」に決定。その授賞式が、本日東京・ニッポン放送のイマジンスタジオで行われた。

マンガ大賞2021の結果発表に先立ち、ステージにはマンガ大賞2020で大賞に輝いた「ブルーピリオド」の山口つばさが登壇。昨年同様、カエルの被り物で登場した山口はその後の反響について聞かれると、「中学のときの保健室の先生から『マンガ大賞(の受賞)おめでとう』というお手紙をいただくくらい、遠くまで届く賞なんだと思いました」とエピソードを明かす。「ブルーピリオド」の年内のTVアニメ化が決定していることに関しては「新しく解釈してくださって、“アニメ”という作品に作り直していただくことがすごく楽しみ。アニメの制作の末端に関わらせていただいている人間としてもすごく楽しみです」とコメントした。また昨年受賞した際に贈呈されたプライズを仕事場の目の前に飾っているという山口は「たまに見て『がんばろう』という気持ちになっています」と語った。

その後、山口の口からマンガ大賞2021の大賞作品が発表され、ステージには作家陣の代理として「葬送のフリーレン」の担当編集を務める小倉功雅氏が登壇。受賞について「光栄ですし、うれしいです」と喜びをにじませた。小倉氏からは山田とアベのコメントが代読され、山田は「このたびはとても高い評価をいただきありがとうございます。とても面白いマンガばかりがノミネートされているので、まさか大賞を受賞するとは本当に思っていませんでした。このマンガの雰囲気を表現してくれているアベツカサ先生と、楽しく打ち合わせをしてくれている担当編集さんのおかげだと思っています」、アベは「子供の頃から知っている賞なのでとても感慨深いです。山田先生、担当編集さん、アシスタントさん、家族、友人。そして読者の皆さん。たくさんの人に支えられているから今ここにいられるのだと思います。これからも努力を怠らず、もっといいものが描けるように、皆さんへお届けできるようにがんばりたいと思います」とそれぞれメッセージを綴った。授賞式の司会であり、マンガ大賞の運営も務める吉田尚記アナウンサーは「14年間運営をやっていますが、『子供の頃から』と言っていただいたのは初めてですね(笑)」と笑顔を見せた。

原作担当の山田、作画担当のアベによる2人で物語が綴られる「葬送のフリーレン」。自身もマンガを執筆する山田が原作担当として作品を描くこととなった経緯について、小倉氏は「山田先生の前作『ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア』が担当としては名作だと思っていて。次はどういう形でやりましょうかという中で、作画の方をつけるというアイデアがお互いから出て、自然とそういう形を目指していきました」と思い返す。「最初は『ギャグの読み切りを描いていただけませんか』とオーダーをして。そのときに描いていただいたのが、『フリーレン』の1話目のネームほぼそのままで。まったくギャグじゃないなと思いながら(笑)、面白いなと思ったので編集部内に短期集中連載として企画を提案しました」と当時を振り返った。

またアベが作画を担当することとなった経緯については「山田先生のネームが上がったときに、編集部に(企画を)回す前に、(自身が以前から担当していた)アベ先生に打診をして、キャラ表を描いていただいて。それを見た山田先生からも『この方はすごくうまいと思います』ということでアベ先生にお願いすることになり、1話目のネームを描いていただき、それを企画として提出しました」と流れを説明した。吉田アナに「マンガとして出来上がったものを見て手応えは感じたか」と問われると、小倉氏は「ありました」とコメント。「編集部に企画を提出する際はまだ不安もあったのですが、1話目の原稿が上がり、2話目の原稿が上がったところで、とても素敵な作品になるんじゃないかなという気持ちをすごく強く持てました」と述懐。また作中でフリーレンが微笑む際に「むふー」という書き文字が綴られていることについて吉田アナに触れられると、そのようなセリフや書き文字などは基本的に山田によるものが多いと言及した。

そして「葬送のフリーレン」の今後について、小倉氏は「あくまで編集個人の意見ではありますが、せっかくファンの方々に応援していただいている作品になれておりますので、できるだけ長く自由に、先生方が無理しない範囲で描いていただきたいとは思っています」と述べ、「もちろん(作家の)おふたり次第ですし、不要に長くして面白さを削がれてしまうのは違うかな、というのは先生おふたりとも同じ思いでありますので、ある程度のスピードを保ちながら今後も描いていただけるのではないかと思います」と語った。また、実は山田とアベはまだ対面したことがないと言い、山田からのネームを小倉氏がチェックし、アベへ共有のうえ、アベから質問があった際はメールでのやり取りが行われるのだと明かされた。

記者から「制作側として『葬送のフリーレン』はどのような作品だと捉えているか」と質問が投げかけられると、「実は“死”は誰にでも身近にあるというところをとても丁寧な感情で描いている、というのがまず1つあると思います。少し掘り下げたところには前向きさや肯定感があると思っておりまして。山田先生もすごく意識して描いているとは思うのですが、切ない話なんですが読み心地はとてもいいのかなと。前向きで、それぞれの感情や人生を肯定できるような感覚があるのかなと思っております」と口にし、「個人的には、すごく掘り下げたところには“人への興味”というものをうまく捉えて描いている作品なのかなと思っております」と考えを述べた。

また「2人を担当していて編集として驚くことはあるか」と問われると「山田先生からいただいたネームはほぼ直さないです。よくこんなにうまく組み立てて考えてネームに落とし込めるな、というのはシンプルに毎回驚きます。それをアベ先生にお渡しして、『このネームの絵からこういうふう表情を描くんだ』とまた驚きがある。物語の中には繊細な感情があると思うのですが、(アベは)すごくきれいな絵で、特に表情がすごくうまい方だなと思っていまして。なんとも言えない人間の複雑な感情を詰め込んで描かれているというのが、毎回原稿を最初に見させていただくときに『すごいな』と、つい笑ってしまいます」と称賛した。吉田アナから「改めて気づいたんですが、週刊連載でこのクオリティのネームと絵を作り続けていらっしゃるわけですよね」と驚きの声が上がると、小倉氏は改めて「本当に頭が下がる思いです」と讃えた。

そのほか「いわゆる“異世界ジャンル”に分類される作品ではあるが、そのジャンルに詳しくない方にも刺さる作品なんじゃないかと思う」という記者からの言葉に対しては、「もちろん異世界を舞台にしている話なので、異世界ものが好きな人にも読んでいただけたらうれしいなとも思いますが、作家さん2人もジャンルを絞っているわけでもないと思います。普遍的なテーマを描いているので、少年マンガですが老若男女に読んでいただける作品なのかなと。子供の頃に読んだ作品を大人になってまた読んだときに、ちょっと違う感情で読めたりとか。そういう普遍的な感情が佇んでいる作品ではあるかなと思っています」と解釈した。

「葬送のフリーレン」は魔王を倒した勇者一行の“その後”を描く物語。週刊少年サンデー(小学館)で連載されており、単行本の最新4巻は明日3月17日に発売される。なお小倉氏は本日24時よりニッポン放送にてオンエアされるラジオ「ミューコミプラス」に出演する。