映画「記憶の技法」舞台挨拶、吉野朔実作品の初実写化で監督が描きたかったのものは
吉野朔実原作による実写映画「記憶の技法」の初日舞台挨拶が、本日11月27日に東京・ヒューマントラストシネマ渋谷で開催された。
「記憶の技法」は奇妙な記憶喪失癖に悩んでいた女子高生・鹿角華蓮(かづのかれん)が自分のルーツを知るため、孤独な少年・穂刈怜(ほがりさとい)とともに出生地の福岡を巡るミステリー。イベントには華蓮役の石井杏奈(E-girls)、物語のキーパーソンとなる金魚屋の青年役・柄本時生、華蓮を深く愛しながらも重大な秘密を隠し持つ母親役の戸田菜穂、池田千尋監督が登壇した。
2016年に死去した吉野にとって、初の実写化作品となった「記憶の技法」。池田監督は20代の頃に原作に出会ったと言い、「それまでオリジナル脚本を自分で書くのが主だったけど、このマンガを映像化したい、生の景色と人間を通して観てみたいと思って。それを今回叶えさせていただきました」と明かす。また「マンガのラストにもある、人間はここまで変われるんだという部分は絶対やりたいと。一歩前に踏み出したとき、ここまで世界が広がるんだということを見せたいと思っていました」とこだわりを語った。
撮影が行われたのは3年前で、石井は当時19歳。「頭の中がいっぱいいっぱいで、共感したいけどできない部分が多くて。19歳ながらに自分と(華蓮を)重ねながら演じました。きっと今演じたら、また全然違う役になっているだろうなと思います」と語る。そんな石井に対し、池田監督は「19歳の石井杏奈という人間が、本当に生々しくその場に立って生きてくれました」と称えた。
池田監督いわく、石井や怜役の栗原吾郎にいい影響を与えていたという柄本。「(撮影用の)金魚を眺めていたら、監督が石井さんと栗原くんに『柄本さんのああいうところを見て勉強しなさい』と言ってたんです。僕、ただ金魚を見てるだけなのに、芝居のことを考えてるように見せなきゃと思って。その状態から動けなくなりました」と苦笑しながら、撮影現場でのエピソードを述懐する。また石井と栗原のことを「2人のセリフの生々しさに感動して、むしろこちらのほうが勉強になりました」と称賛すると、石井が「柄本さんが来られてから(現場の雰囲気が)変わったのを覚えています。とても刺激的でした」と感謝を伝えた。
戸田は「全身でこの娘を守っていこうという母親でした。現場で杏奈ちゃんを見ていたら愛おしくて。可憐でピュアで、ずっと見ていたい気持ち。なので自然に演じられました」とコメント。石井は「父親役の小市(慢太郎)さんと戸田さんと3人でいると、ゆるーい柔らかい空気が流れていました」と現場を振り返った。
最後に石井は「たくさんの方々に見ていただいて、この映画に込めた思いが届くといいなと思います」と挨拶。池田監督は「この物語の中で主人公は、“記憶に向き合う”ことをします。しかし記憶に向き合うことって過去ではなく、今の自分に向き合わざるを得ないように思うんです。前に進みながら、皆さんも自分自身に向き合うきっかけになってもらえたらうれしいです」と呼びかけた。
(c) 吉野朔実・小学館 / 2020「記憶の技法」製作委員会