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「マンガミライハッカソン」大賞受賞作は“味覚を他人と共有できる”近未来描くSF

マンガ家・脚本家・編集者・エンジニア・学者・学生など、多様な人たちがユニットを組み、世界へ発信する短編マンガ制作を競うプロジェクト「マンガミライハッカソン」の授賞式が、本日11月16日に東京・としまセンタースクエアにて行われた。

「マンガミライハッカソン」は、「東アジア文化都市2019豊島」の一環として行われる企画「国際マンガ・アニメ祭 REIWA TOSHIMA」のプレイベントとして実施されたプロジェクト。「新たな人間性・未来社会・未来都市」をテーマに、ユニットで短編マンガ制作を競う企画で、選出された36名は10月から11月にかけて3回にわたり行われるディスカッションイベントに参加し作品制作に挑んだ。またゲスト審査員を、太田垣康男、小沢高広(うめ)が務めた。

本日の授賞式には「Her Tastes」で大賞を受賞したチーム・MMH_Fのメンバーに加え、デジタルハリウッド大学大学院教授の荻野健一、武蔵大学社会学部教授で「マンガミライハッカソン」を共催するHITE-Mediaの庄司昌彦、編集者・キュレーターで同じくHITE-Mediaのメンバーの塚田有那、イベントのマンガ・アニメ部門を担当する山内康裕ディレクターが登壇した。

まずは山内から「マンガミライハッカソン」の企画意図が説明された。「基本的に個人制作がベースになるマンガの世界では“ハッカソン”が行われる機会が少ない。一方で近年のマンガ業界はしっかりとした監修が付いてるサイエンスフィクションが増えてきている。ということは、マンガ家と研究者が世界観や設定から考えることができるかもしれないと思ったのがきっかけです」と山内は語る。「今回、36名にご参加いただいたんですが、特徴はインプットトーク。事前にいろんな専門家の方に講義をしてもらい、それをベースにいろんな形で表現してもらいました。いい作品を作るというのもありますが、ボーダレス型の参加者がこの場で出会うことができるのが裏テーマとしてあると思います」と振り返った。

実際に出来上がった作品について、山内は「脚本がしっかりしているチームだったり、長期連載できそうな第1話目だったりと多種多様。どの作品も続きが見てみたくなる」とコメント。また庄司は「すでにプロとして活動されている方がいるということで、表には出てこない設定集や脚本の充実がすごい。マンガを読む側でしか関わってない人間からするとすごい発見がありました」と話す。編集者でもある塚田は「面白かったのは、チーム内の対話が作品に浮かび上がってきたこと。これまでだったら出会うチャンスがなかった職種の人たちが出会って、この短期間でどれだけ対話したかが表れていました」と意見を述べた。

そして大賞を受賞した「Her Tastes」を手がけたチーム・MMH_Fより、原作を担当した宮本道人、マンガを担当した竹ノ内ひとみ、デザインを担当した松野美穂、設定・監修の森尾貴広、編集の矢代真也がステージに登場。「Her Tastes」は味覚が他人と共有できる近未来を舞台にしたSF作品。ずっと母親の呪縛から抜け出せない主人公に初めて彼女ができたことから物語が展開される。受賞について、竹ノ内は「チームとしての力というか、それぞれの意見を受け入れてチーム作りできたのがキーじゃないかなと思います」、矢代は「今回、マンガ家と研究者の間をつなぐような仕事が出来たのはよかった」とコメント。また宮本は「チーム全員で獲ったなと。でも出版されるまでがハッカソンだと思いたいので、是非出版社の方とつないでいただけたら。ご興味ある方はよろしくお願いします」と観客にアピールした。

本作の受賞理由について、荻野は「一番面白かったのは、五感の中で味覚に注目したこと。味覚が見えるというのは面白い。味覚って子供のときに覚えたアミノ酸で決まったりするので、そういった裏付けをしていったらもっといい」と語る。庄司は「基本はラブコメですが、この先インド・アフリカの時代が来るっていうリアルな予測も入っているし、味を共有する『カミカミ』というデバイスが強烈で、人間の関係性のあり方まで提示している。そこに未来の食文化、食の流通がどうなるのかもうまく混ざっているのは素晴らしい。何よりチームワークもすごかった」と絶賛した。

また塚田も「審査員の小沢先生も言っていましたが、未来を題材にするとどうしてもAIやテクノロジーが発達したデストピア物が多くなる。今回、なぜざわざわハッカソンにしたかというと、つい思いがちな想像力をジャンプしたかった。そういう意味で、味覚に着目したことや『カミカミ』のアイデアがよかった。期待してたことがピッタリハマった」と賞賛。そして山内は本作は全審査員が満点を付けたと明かし、「やっぱり面白かったですね。作品として作り出す前にどれだけそこに熱量をかけて練っていたかが重要で、今回、育っていく姿を見させていただいた」と続けた。

制作期間を振り返り、矢代は「今回、基本的に皆さんのモチベーションが何なのかを把握するのが大事でした。嫌々関わっても誰にとってもいいことがないので、何がしたいのかを話し合った」と語る。また主人公をマザコンにした経緯については、マンガを担当した竹ノ内が「最近マザコンを研究してる」という話を聞き、そこから組み立てていったことを明かす。竹ノ内は「マザーコンプレックスって、“冬彦さん”のイメージが強かったと思うんですけど、親思いの子とマザコンの何が違うのかなと考えたときに、肯定的に捉えていきたいなと思って」とコメントする。またネームに時間をかけたと言い、矢代は「マンガづくりに置いてネームは大事。原作は文字なので後から直そうと思えば直せるけど、ネームはどう表現するかに時間がかかるので」と話す。ネームを手がける竹ノ内は「ネームは一人で没頭する作業なので。そこに皆さんなんとなく気付いてくれて、じっと待っててくれて(笑)」とチームワークの良さを伺わせた。

また今後の展開について問われると、矢代は「受賞してからもみんなから、この先のアイデアが溢れちゃって、ちょっとヒヤヒヤしてます(笑)。まだ何も決まってないよって」と苦笑いをする。そして「これからもマンガを作るってなると人生変わってきちゃうので。今回も全員がプロとして仕事してたって感覚があるので、この先のお金の設計までハッカソンで出来れば面白かったのかな」と述べた。その後は審査員による、マンガのハッカソンの可能性やマンガとサイエンスが関係性を築く意義についてディスカッションも行われ、イベントは終了した。