「この世界の片隅に」長尺版は「すずさんが多面的に見える」と片渕須直が説明

「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」特別先行版ワールドプレミアの様子。左からコトリンゴ、のん、片渕須直、岩井七世。

こうの史代原作による映画「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」特別先行版のワールドプレミアが、去る11月4日に東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズで行われた。

ワールドプレミアにはすず役ののん、白木リン役の岩井七世、音楽を手がけたコトリンゴ、片渕須直監督が登壇。第32回東京国際映画祭の特別招待作品として上映された本作は、2016年に公開された「この世界の片隅に」に、約30分間の新規映像が加えられる。片渕監督は「この世界の片隅に」が2016年の第29回東京国際映画祭で上映されたことに触れながら、「まる3年経って、(この場所に)帰ってこれました」と挨拶。また片渕監督は制作がまだ途中であることも明かし、「もともとすごく長い映画なのですが、まだあと数分長くなります。実際のすずさんの人生は(映画よりも)もっと長いですが、この作品を通してその人生を感じていただければ」とコメントした。

3年ぶりにすず役を演じることに対し、のんは「前作を何度も観たり、原作を読み返したりする中で、新しいシーンに向かってどう解釈していこうかと悩みましたが、役を構築していくうちにすずさんの皮膚感がよみがえってきました」と語るとともに、「監督への信頼があったので、アフレコスタジオに行ったら、しっかりと強い気持ちを持って臨むことができました」とアフレコを振り返る。作品のファンで劇中の舞台である呉に行き、さまざまな劇場を訪れ10回は映画を鑑賞したという岩井も「アフレコ当日は気張らずリラックスして、監督の言葉に耳を傾けて臨みました」と片渕監督への信頼感を口にした。

本作のために新たな楽曲を書き下ろし、エンディングテーマ「たんぽぽ」を再収録したコトリンゴは、「今作ではすずさんの世界にリンさんが深く関わっていって、すずさんの夫・周作さんも絡んでくる。なので前作で使用した登場人物に関する音楽を発展さて、新しいシーンにつながっていけばいいなと思っていました」と楽曲について解説。さらに再録版の「たんぽぽ」については、「前作から聞いたイメージは変えたくなかった」としながらも、「次回作はなくて、これで本当の完結……なんですかね? なんとなくそういう名残惜しい感じや重厚感を出したくて、アレンジを豪華にしました」と述べた。

また片渕監督は前作について「すずさんと義理の姉・径子さんの関係がどのように変わってくかで、すずさんが進んでいく道が示せたのではないかと思っています」と評しながらも、「でも人間の関係ってそんなに単純なものではないよなとも思っていて。(本当は)もっとたくさんのものに出会って、もっとたくさんの人を見ることになるわけです。今回新しいシーンを加えたことで、すずさんは『こんなことを心の中に抱いていたのかも』『あんなことを思いながら喋っていたのかもしれない』と思っていただける映画になったのでは。よりすずさんという人の人格、存在が多面的になっています」と説明。またのんは本作で周作とリンの過去が明かされることについて「すごく複雑」とキャラの気持ちに寄り添いながら、「嫁ぎ先の呉でリンさんはすずさんに、『絵を描いてほしい』と言ってくれたはじめての人で、すずさんは『もともと自分の中にあるものを認めてもらえた』ということを心の拠り所にしていました。リンさんが大切だからこそ、リンさんと周作さんの秘密は、すずさんにとってどこに感情を置けばいいのか戸惑っている気がしました」と分析した。

「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」は、12月20日より東京・テアトル新宿、ユーロスペースほか全国でロードショー。

劇場アニメ「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」

2019年12月20日(金)より東京 テアトル新宿、ユーロスペースほかにて全国公開

スタッフ

原作:こうの史代「この世界の片隅に」(双葉社刊)
企画:丸山正雄
監督補・画面構成:浦谷千恵
キャラクターデザイン・作画監督:松原秀典
美術監督:林孝輔
音楽:コトリンゴ 
プロデューサー:真木太郎
監督・脚本:片渕須直
製作統括:GENCO
アニメーション制作:MAPPA
配給:東京テアトル
製作:2018「この世界の片隅に」製作委員会

キャスト

のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、花澤香菜、澁谷天外

(c)2019 こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会