4月5日に82歳で永眠した高畑勲を偲ぶ「高畑 勲 お別れの会」が、本日5月15日に東京・三鷹の森ジブリ美術館で行われた。
お別れの会の委員長を務める宮崎駿は、集まった人々に向けて高畑のあだ名「パクさん」の由来について「朝が苦手な男で、東映動画に勤め始めたときに、タイムカードを押してから買ってきたパンをパクパク食べていたから、という噂です」と説明したあと、「パクさんは95歳まで生きると思い込んでいた」と開会の辞を読み始めた。「黄昏時のバス停で、僕は練馬行きのバスを待っていた。雨上がりの水たまりの残る通りを、ひとりの青年が近づいてきた。穏やかで賢そうな青年の顔が目の前にあった」という55年前の出会いに始まり、「僕はパクさんと夢中に語り明かした。僕らは仕事に満足していなかった。もっと遠くへ、もっと深く、誇りを持てる仕事をしたかった」と青年時代を涙ぐみながら振り返る。そして高畑の初監督作品「太陽の王子 ホルスの冒険」制作当時の思い出を語り、「初号で僕は初めて、迷いの森ヒルダのシーンを見た。なんという圧倒的な表現だったろう。なんという強い絵。なんという優しさだったろう。これをパクさんは表現したかったのだと初めてわかった」と声を詰まらせた。「僕らは精一杯、あの時を生きたんだ。膝を折らなかったパクさんの姿勢は、僕らのものだったんだ。ありがとう、パクさん。55年前に、あの雨上がりのバス停で声をかけてくれたパクさんのことを忘れない」という言葉で開会の辞を読み終えると、宮崎は会場に向けて「どうもすみません」と一礼した。
続いて、高畑と共に作品を作り上げてきたクリエイターらによるお別れの言葉が述べられた。東映動画(現・東映アニメーション)の一期生で、「太陽の王子 ホルスの大冒険」の作画監督を務めたアニメーターの大塚康生は、「会社から演出(監督)は誰がいいかと聞かれて、高畑さんがいいと言ったら、彼はスケジュールを守らないからダメだと言われて。それなら僕はやりませんと。高畑さんは徹底的に粘る人でね。『良い仕事をしようとすると長くなっちゃうんですよ』と言っていた」と話し、「一緒に旅行したり、いろいろなところに遊びに行って。尾瀬に行ったり阿波踊りに行ったり。面白い人でした」と高畑との思い出を語った。また「パンダコパンダ」などで作画監督を務めたアニメーターの小田部羊一は「パクさんがいなければ、日本のアニメーションは、世界のアニメーションは、世界の映画は、日本の世の中は、世界は、太い芯棒がなくなってしまいます」と高畑の存在の偉大さをあらわし、「かけがえのないパクさん。どうか戻ってきてください。心からのお願いです」と深い悲しみを訴えた。
スタジオジブリ作品の音楽を多数手がける作曲家の久石譲は「高畑さんとは『風の谷のナウシカ』で出会いました。7時間以上のミーティングが何回もありまして、僕も一生懸命高畑さんと闘って。今日があるのは高畑さんのおかげです」と感謝を述べ、「『天空の城ラピュタ』のときは、宮崎さんからいただいた詩をメロディーにはめていく作業を、2人で何日もやりました。『君をのせて』という歌は、宮崎さんと僕と、そして高畑さんがいなかったら、完成しなかった曲です」と、時折言葉を詰まらせながら語った。「レッドタートル ある島の物語」の監督を務めたマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットは、「高畑さんの作品の英知、その繊細さと美しさに感謝します。私にとって高畑さんは常に、知恵と謙虚さの偉大な手本であり、残りの人生においても導きとなる存在です」と深い尊敬の念をあらわした。
「お別れの歌」として、ミュージシャンの二階堂和美が「かぐや姫の物語」の主題歌「いのちの記憶」を涙をこらえながら笑顔で歌いきると、最後にスタジオジブリ代表取締役プロデューサーの鈴木敏夫が「皆様のお別れの言葉を聞いていて、本当に素晴らしい会になったと思いました。ありがとうございました」とあいさつし、お別れの会を締めくくった。
お別れの会終了後には「ホーホケキョ となりの山田くん」で俳句の朗読を行った柳家小三治、同作で山田たかしに声を当てた益岡徹、「平成狸合戦ぽんぽこ」で主人公のタヌキ・正吉の声優を担当した野々村真、高畑が影響を受けたというアニメ作家フレデリック・バックの展覧会で音声ガイドを担当した竹下景子、そして鈴木が囲み取材に応えた。益岡は「僕が声を当てる前に、その場面を実際に演じてみてほしいって言われたことをよく覚えている。ファンタジーとリアリティを両立させようとしていたんだろうなと思います」と思い出を語った。野々村は「平成狸合戦ぽんぽこ」のアフレコ時を振り返り、「すごく僕たちをリラックスさせてくれて、声を変えてやろうとしても、地声でいいって仰ってくれて。そのままの野々村真なんですけど、映画を観ていくうちに自然と正吉の声として聞こえるようになるんですよね。アニメーションに魂を吹き込むのはそういうことなんだと教えられました」と語った。
鈴木は「いい思い出もあるけれど、そうじゃない思い出のほうが多い」と切り出し、「監督とプロデューサーの仲が良かったら、作品は作れないんですよ。お互い土足で踏み込んでいくような関係だった」と回想。「平成狸合戦ぽんぽこ」の際はスケジュールを守らない高畑のために、本来より公開時期を早めて記載した偽物のポスターを作って貼ったが、全然効果がなかったというエピソードも明かした。「40年間も付き合ってきたけど、一度も緊張の糸を途切らせたことがない。ずっとその関係を続けていると、体の中に高畑さんが住み着いちゃって、出ていかないんです。早くあの世に行ってほしいんですよ。三鷹とか吉祥寺とか、この辺をずっとウロウロして、往生しないんじゃないかって心配です」と笑った。
「高畑 勲 お別れの会」午前の部には、そのほか富野由悠季、押井守、大林宣彦、山田洋次、岩井俊二、樋口真嗣、宮本信子、本名陽子、瀧本美織、柳葉敏郎、角川歴彦、川上量生、西村義明、福澤朗ら関係者1200人が参列。午後の部もあわせると、参列者はおよそ3200人にのぼった。なお高畑の遺作となった「かぐや姫の物語」が、5月18日に日本テレビ系「金曜ロードSHOW!」にてノーカット放送される。