「我々は宇宙人」門脇康平監督、言語化できない感覚が伝わる奇跡がアートの喜び

左から藤津亮太氏、門脇康平監督

長編アニメーション映画「我々は宇宙人」の上映とトークショーが、「第39回東京国際映画祭」の一環として本日10月27日に東京・角川シネマ有楽町で行われた。トークショーには門脇康平監督が登壇し、聞き手をアニメーション部門プログラミングアドバイザーの藤津亮太氏が務めた。なお本記事には映画のネタバレが含まれるため、鑑賞前の方はご注意を。

言語化できない感覚が伝わる奇跡がアートの喜び

9月25日に封切られ、10月25日時点で累計興行収入3億7000万円、観客動員数23万人を突破した「我々は宇宙人」。「第50回オタワ国際アニメーション映画祭」で長編コンペティション部門グランプリ、「第59回シッチェス・カタロニア国際映画祭」でアニメーション長編映画賞を受賞するなど、海外でも多数の賞に輝いている。この現状に門脇監督は「こんなことになるとは思ってなかったです。(制作中は)3年半くらいスタジオと家を往復していただけだったので、こんなに家にいない日々が続くのかと(笑)。今月は半分以上海外で過ごしていますし、舞台挨拶などで地方を巡らせてもらったり、幸せだなあと思います」と笑顔を浮かべた。

翼と暁太郎という2人の少年の、小学生時代から30年にわたる関係性を描く「我々は宇宙人」。全体の構成は企画を立てた5年前から変わらなかったと門脇監督は語るが、一方で完成のギリギリまで脚本やコンテの修正も発生していたという。「答えの出しようのないものを、制作をしながら長い間考える中で、ギリギリ答えを見つけられるのか、見つけられないのか。答えを持っていないところから出発してその問いに向かっていったので、途中で脚本の改稿は起こるだろうと思っていましたし、原画を描かずに取っておく、といったこともありました」と門脇監督。“答えがない状態で作り始める”という負担のかかる選択をなぜ取ったのかという藤津氏の問いには、「僕は言葉で伝えられるメッセージをアートという形で抽象化するよりも、ダイレクトに言葉にするほうが伝わると思っていますし、自分に強く言いたいメッセージが先にあるなら、あえて映画で描くことはないと思っています。言語化できない、感覚は持っているが人に伝えようのない問いや答えを、ギリギリ伝えられるかどうか。そのスリリングさや、それが伝わる奇跡にアートの喜びがあると思っています」と、自身の創作への思いにも触れながら答えた。

ラストシーンを「大変鮮やかで、ここしかない」と藤津氏が評すると、門脇監督は「僕は最初、暁太郎が初恋をどうやって手放すかが、この作品の決着だと思っていたんです」と当初のイメージからの変化を明かす。「制作期間の最後の1年半くらいの頃に、これはどこまでいっても翼と暁太郎の物語であって、2人の関係性に何かしらその後を感じるラストがゴールなのかな、と。そう思っていたら、たまたまパッと降ってきて。暁太郎がいかにもやりそうなことだなって思いますし、翼もいろいろ忘れているにせよ、楽しかった確かな日々は覚えていて、“覚えているよ”ということを伝える。そういうことってあるだろうなと思ったんです」と振り返った。

“生々しさ”と“懐かしさ”へのこだわり

また、「我々は宇宙人」の特徴として藤津氏が挙げたのが「懐かしさと生々しさが共存している」点。そのうちの“生々しさ”につながっているキャラクターの輪郭線の繊細さについて、全編でどのように絵柄をキープしていったかと尋ねる。門脇監督は同作の企画・脚本・監督のみならず、絵コンテ・キャラクターデザイン・作画監督、美術監督、色彩設計・色指定、編集にまでクレジットされているが、「僕が映画の画作りで目指すのは、すべてが画面に揃ったときの、長方形の絵画としてのルック、佇まい。頭の中にあるその1点に向かって、すべての素材を集めていくんです。原画をすべて描けない分、統括をすべてやることで、自分が目指すルックに統一していきました」とこだわりを語った。

もう1点の“懐かしさ”については、コラショの目覚まし時計やガラケー、学校の道具箱や置き傘などのアイテムやそのディテールが注目されている。一方で門脇監督は「雨とか空とか、葉が濡れたらこういう見え方をする、道路が濡れたらこういう足音がするといった、世代も場所も関係ない普遍的な懐かしさがいっぱいあると思うので、だから海外の方でも懐かしい気持ちになっていただけるのかなと思います」とコメント。この“懐かしさ”をふんだんに取り入れた理由については、「懐かしいと感じることで感覚を取り戻していくという工程が必須の作品だと考えていたんです。この作品で演出し、届けたいと思っているストーリーを飲み込んでいただくためには、お客さんが心をパカッと開けて、空いたところに初めて入れることができる。懐かしさで感情が動いたときに心に隙ができて、隙ができたところに自分の演出が入っていく」と狙いを明かした。

そして「我々は宇宙人」というタイトルも、この“懐かしさ”と結びついて生まれたもの。「『昔の友達』『初恋』とかいろいろ出したんですが、全部地味だなと……」とタイトルにはすごく悩んだという門脇監督だが、「何か懐かしいものが見れるのかな、と思ってもらうのが正しい入口だろうと思ったので、懐かしいものを探すことから始めました。童謡や言葉遊び、じゃんけんなど。その中で、扇風機に向かって『ワレワレハウチュウジンダ』ってやっていたのを思い出して、まさにこの作品にふさわしいと思ったんです。タイトルがこれになったから、暁太郎の図工も宇宙人に変えたり、それに合わせて演出を少し変えたところもあります」と明かし、ポスターを指しながら「カッコイイですよね。『我』の形が大好きで……」と笑顔を見せた。

映画「我々は宇宙人」

公開中

スタッフ

企画・脚本・監督:門脇康平
音楽:Yaffle
企画・製作・制作:NOTHING NEW
協力:MIYU PRODUCTIONS
配給:TOHO NEXT・NOTHING NEW

キャスト

翼:坂東龍汰
暁太郎:岡山天音
小夏:山﨑天(櫻坂46)
バタ原:松井ケムリ
戸田聖也:佐野岳
戸田聖也(幼少期):大関れいか
松下エルモ:佐々木ありさ
書道の先生役:エド・はるみ