謎の生き物がなんとなく日常にいる、米代恭が「痴人の愛」を“リミックス”、施川ユウキ原作の愛憎劇

コミックナタリー編集部員が振り返る「8月の新連載」

雑誌やWeb、アプリなどでスタートした新連載を、毎月振り返る「今月の新連載」。版元ごとに担当者が決まっているコミックナタリー編集部では、ほぼ毎日のように始まる膨大な数の新連載を、毎日読んで記事を書き続けてきた。そんな部員たちが、その月に面白かった作品や気になった作品、そのほか最新のマンガ業界のトピックなどを振り返る企画だ。第15回では2026年8月にスタートした新連載を語る。

文 / コミックナタリー編集部

謎の生き物がなんとなく日常にいる「タイムズ・テテパム」

ぞう コミックナタリーで特集をやったMANGABU!の「タイムズ・テテパム」が面白かったです。このよくわからない丸い白っぽい存在が、なんだかわからないまま進んでいくのに、それを受け入れて読んでしまう、読まされてしまう感じが心地よかったです。一気に読んじゃいました。

とり 井上まいさんって「大丈夫倶楽部」の人ですよね。

うさぎ そうです。人外というか、日常の中になんとなくいる不思議な存在を描くのが上手ですよね。テテパムもなんだかよくわからないけど、そのまま読ませてしまうところが井上さんのうまいところかなと思うし、ほかの登場人物たちの日常も心地いい。「ひらやすみ」みたいな雰囲気を感じました。

りす あんなに自然に受け入れられているのはおかしいので、テテパムが謎の生き物に見えているのは、主人公の佐藤だけなのでは?とちょっと疑っています。あと「宇の舟」っていうハイツの名前がちょっと宇宙船を連想させるから、実は宇宙人なのかなと思ったり。

うさぎ そう言われてみると、アパートで平屋が3つ並んでるのも変わった設定ですし、実は何か秘密が隠されてるのかなって想像してしまいますね。

りす 地上に出てる家の部分は宇宙船の一部で、本体は地下に埋まってたりするのかも。そんな妄想が広がるくらい、続きが楽しみなマンガでした。

猫と食事処の店主の珍道中?「人魚喰らわば」

ぞう 「人魚喰らわば」も面白かったです。不老不死が得られる人魚を帝に届けるために、下っ端の役人・ハギが人魚探しの旅に出るお話。人魚なんて実在しないんじゃないかと思っていたら、1話の終盤で手がかりが見つかり……っていう展開で。ハギは猫のような見た目ですが、猫が忠義を尽くすっていうのも面白かったです。犬猫だったら犬のほうが忠実なイメージがあるので。

くろねこ ハギと、ハギに人魚の手がかりを教える食事処の店主・タチバナのやりとりもかわいかったです。だんだん打ち解けてくだけていく感じとか。

りす その2人の珍道中みたいなのがメインになりそうですよね。最初、猫が人魚を探すのにあんまり乗り気じゃないじゃないですか。でも手がかりが見つかったことで、やる気になっていく。仕事ってやることが曖昧だったり、自分の意思でできることが少ないとモチベーションがあがらないけど、やることが明確になったり、自分の裁量が増えてくると面白くなってくるから、そこでやる気が出るの「わかる!」ってなりました。お仕事マンガみたいな感じで。

うさぎ 先月も「イラストレーターさんが描くマンガって、ちょっと変わっていて面白いよね」みたいな話をしましたけど、幡屋誠さんもイラストレーターですよね。八百比丘尼が出てくる場面の描写とか、超常的なものと出会ったときの感覚に説得力があるなあと思いました。

りす イースト・プレス、イラストレーターのマンガ連載が多い印象ですね。すずしろさんの「メイドスケーター」も、メイドさんがスケートボードに乗っている一枚絵から世界観を広げてマンガになった作品ですし。

とり でも言われなかったらイラストレーターとは思わなかったです。ゲーム会社でモンスターデザインをやってらっしゃったみたいなので、その経験が活かされてるのかもしれないですね。

青騎士の王道冒険ファンタジー「学者と狩人」

ぞう 僕は青騎士(KADOKAWA)の「学者と狩人」が面白かった。王道の冒険ファンタジーですが、魔物を駆逐したい人間と共生したい人間が対立するという、ちょっと「ダンジョン飯」を思わせるような世界観があって。

うさぎ 強大な魔獣がいて、それを考え方が異なる凸凹バディが追っていくって、わかりやすくていいですよね。青騎士の作品ってちょっと変わり種なことも多いんですけど、これはすごく正統派なファンタジー。最近の青騎士、ぜひチェックしてほしい雑誌だなって思います。

ぞう 最初のほうに出てきてた学者のリツェルのお父さんがどこ行ったのかとか、お父さんがかけていたメガネをリツェルが受け継いだ理由とか、狩人のヴィザルの過去とかがわかってくると、もっと楽しめそうだなと思いました。

うさぎ お父さんのメガネなんて、よく見てるなあ。

ぞう お父さんの顔がアップになったシーンで、メガネつけてるなーとなんとなく思ったんですよね。そのあとリツェルもつけてるのに気づいて、何かつながりがあるんだろうなと思って。

りす ぞうさんって普段からそれぐらい細かいところも見ながら読んでるんですか? 僕、「今月の新連載」で取り上げる作品はどんなことを話すか考えながら読んでいるから、普段よりも丁寧に読んでる自覚はあるんですけど。そこまでじっくり1コマひとコマ見れてる自信はない。

ぞう この作品に関しては絵力がすごかったので目についたのかもしれないです。

りす なるほど。語りどころを探しながらマンガ読むのって、普段マンガ読むのとは違う読書体験だなと思っていて(笑)。でもそれもあってしっかり読めてるような気もするから、この記事を読む人たちも、そう思いながらもマンガを読むと普段と違った感覚が楽しめるかもしれない。

「あげくの果てのカノン」の米代恭が「痴人の愛」を“リミックス”

ぞう 「捏造・痴人の愛」は谷崎潤一郎の「痴人の愛」のコミカライズですが、 “リミックス”という言い方をしているので、原作とは違う展開になるのかなと。僕は原作を読んだことがないので、マンガを最後まで読んでから原作を読もうかなと思ってるんですけど。逆に原作を知ってる人がマンガを読んだらどう思うのか気になります。

とり 原作小説は読んでいますが、谷崎潤一郎ってねっとりした感じというか、フェティシズムの描写が印象的だと思っているので、それをどう描いていくのか楽しみです。あと「アラサー大正紳士による“理想の妻”育成計画」っていうマンガのアオリ文が面白かったです(笑)。今風な言い方をするとそうなるのかと。

うさぎ ナオミが成長して、逆に譲治が調教されていくんですよね。自分好みの女性を育てようと思っていた男が、むしろ自分自身のほうを作り変えてしまう話。

ぞう 確かに最新話まで読むと、もうナオミの手の平の上で転がされている感じですよね。作者の米代恭さんは「あげくの果てのカノン」や「往生際の意味を知れ!」でも、クソデカな愛情を描かれてるじゃないですか。他者に愛情を与えようとしてる一方で、かなり身勝手なキャラクターが出てくる話を描いていて。愛っていうものの尊さと、それを向ける相手にしか目がいかない盲目さを描くのが得意なんだと思うんですが、そう考えると「痴人の愛」はぴったりな組み合わせですね。

施川ユウキが原作、“盗作”をテーマにした愛憎劇

いぬ ぞうさんが挙げていた「盗作」もよかったです。僕は「バーナード嬢曰く。」とか「鬱ごはん」ぐらいしか読んでなかったから、施川ユウキさんってこういう原作も書くんだなと思いました。他人の絵を盗作した画家の話を描いているマンガ家のお話ですが、最初は作中マンガから始まって、そのあと現実でも同じような出来事が起こるっていう構成も面白かった。

くろねこ 私も面白かったですし、続きが気になる1話だなと思いました。この先はマンガを作る方向に向かいつつ、ちょっとややこしそうな人間関係を描いていくのかな。

とり あらすじには愛憎劇って書いてあるから、もしかしたら人間ドラマのほうに行くのかもしれないですね。

いぬ ちょっと本筋とは逸れるかもしれないんですけど、劇中に出てくる「理想的なスバラシイ絵」をどう表現するのかがすごい気になりました。美術系のマンガとかにすごい絵画が出てきたときに登場人物が感動していたりしますけど、僕はそれがすごいものってわかる教養がなくて。マンガの中で説得力のある絵画を見せるのって大変だろうなっていうのは常々思っているんです。

くろねこ 絵って見る人次第みたいなところもありますね。これがうまくてこれが下手とか、点数をつけられるものではないですから。でもそこがちゃんと描かれないと説得力がなくなるかもしれないし、作品としては大事な部分な気もします。

ぞう マンガっていう媒体を通して素晴らしい絵を見せられても、なかなかよさが伝わらないと思うので、画家のカオルコに取材する過程を描いて、何かしらの葛藤があってこの絵ができたという流れにして説得力を生んでいくのかなと思いました。

りす 施川さんってけっこう原作もやってるんでしたっけ?

くろねこ 最近はよくやられてるイメージがありますね。少し前に始まった「路地裏のアイリス」も原作担当ですし。

いぬ 自分で描いているのとはけっこうテイストが違いますよね。

りす もともと絵柄のわりにはちょっと暗かったり、ディープだったりするから納得な感じもありますけどね。「ヨルとネル」とか「銀河の死なない子供たちへ」はシリアスだった記憶があるし、「サナギさん」もけっこう哲学的だったし、文学への造詣が深いのかなと思っていました。原作として話を書くと作品の幅が広がりますよね。

“江戸無惨シリーズ”最新読み切り「踏絵」

くろねこ 読み切りですが、「踏絵」もすごかったですね。絵描きの女性・お波が、隠れキリシタンを炙り出すための踏絵を制作するお話ですが、怒涛の展開に引き込まれました。

とり 河部真道さんは、前の読み切りの「斬首」のときも話題になってましたよね。画面に引き込む力もすごいし、主人公のお波が一言も喋らないまま話が終わるのもすごいし、お波が何を思っていたのかも伝わってくるのもすごいなと思いました。

りす お波は何を思っていたんですかね?

とり ただ「絵を踏ませたくない」という思いに従っているような印象を受けましたね。

くま お母さんが死んじゃったことに対する復讐心みたいのも、動機としてあるのかなと思いました。

ぞう そうとも取れるし、ただただ踏ませたくないっていうふうにも読めるし、いろんな解釈ができる絶妙なラインで通してますね。最初から最後まで。

いぬ 信仰で踏まなかったというよりは、中心人物のような人が踏まなかったので、全員が踏まないほうがいいんじゃないかと思ってしまったのでは?という描写がありましたよね。果たしてこれは信仰なのか?というのも1つテーマとしてあったのかもしれないですね。

うさぎ 最後はその人だけを狙い撃ちにいってましたもんね。歴史に明るくないんですが、この話って実話ベースなんですかね?

とり 踏絵の名前でネット検索した限りでは、実在するものではなさそうです。もちろん現実の踏絵の歴史とかは入ってると思うんですけど、基本はフィクションだと思うので、そこも含めてそのリアルさに驚かされました。次の作品も気になります。

ぞう “江戸無惨シリーズ”として描かれてますし、これだけ話題になってますから、今後も続きそうですよね。まとめて単行本にするとか、そういう展開もあるかもしれない。

座談会に参加した編集部員

  • いぬ:Kindleの毎週末のセールでマンガをたくさん買ってしまって、読んでいない本が溜まっていく。
  • うさぎ:「封神演義展」楽しみだなー。
  • くま:「生徒会にも穴はある!」のアニメ放送が楽しみです。
  • くろねこ:アニメの「スティール・ボール・ラン」にホット・パンツが出てくるのを待っています。
  • ぞう:「陰キャギャルでもイキがりたい!」のノリが好きです。あの感じで生きていきたい。
  • とり:私を育ててくれた「黒執事」が20周年! 本当におめでとうございます。
  • りす:好きな透明人間は、「ムーミン」の“目に見えない子”ニンニ。