アニメをもっと楽しむための学びの場に潜入、制作・作画・撮影・CGを知る
「この場面の作画がすごい」「この人の演出が好き」……アニメを楽しむ中で、制作工程やスタッフクレジットに興味が湧いてくる人は少なくないだろう。しかしアニメを作ったことがあるわけではない我々アニメファンは、現場のクリエイターが何を思い、どんなふうにものづくりをしているのか、直接知ることのできる機会はまだまだ少ないと言える。
そんな中、2025年1月に東京・立川シネマシティでスタートした「Mercaアニメーションスクール」は、業界内外にかかわらずアニメ制作について知りたい人に向け、広く門戸が開かれた講座だ。業界のトップランナーが教壇に立ちつつも、いち視聴者がただアニメを楽しむためであっても気軽に受講でき、実際に2025年の第1回受講者は3分の2以上を制作者以外が占めた。また連続講座では、「制作」「作画」「撮影」など各過程を通して受講することにより、分業制が進んだアニメ制作を点ではなく線で知ることができるところも特徴だ。連続講座のほか夏季集中講座も展開しており、次回は9月に「演出」をテーマにした集中講座が展開される。
コミックナタリーではそんな「Mercaアニメーションスクール」より、2025年1月から4月にかけて開催された第1期・全6回の様子を、前後編に分けてお届けする。各セクションのスペシャリスト──コアなアニメファンなら目を見張るようなトップランナーが講師に名を連ね、基礎的な知識から作業の具体例まで、映画館のスクリーンを活かしながら教授してくれた貴重な機会。有料の講座のため全貌を記すことはできないが、そのエッセンスのみでも感じ取ってほしい。
※レポートは2025年の開催当時に執筆したもの。
取材・文 / 柳川春香(コミックナタリー編集部)
第1回「制作」舛本和也(TRIGGER)(2025年1月25日開催)
初回講座の前には、主任講師を務めるアニメーション研究者・高瀬康司から、「Mercaアニメーションスクール」の目的について述べられる。高瀬は「特に今回は連続講座であることを重視しました。アニメは総合芸術で、特定のセクションだけで成立するようなものではありません。皆さんにはこれまであまり興味を持たなかったセクションの講座こそ受講してほしい」と説明。また鑑賞者や制作者だけではなく、アニメに隣接する領域でビジネスに携わる他業種の人に、アニメやアニメ制作者に関わる基礎的な知識を共有できる場を設けたいという意図もあるという。「趣味として楽しく学びつつ、ここで得た知識をさまざまな場で活かしてもらえたら」と呼びかけた。
第1回「制作」の講師を担う舛本は、2000年に制作進行としてアニメ業界に入り、2011年に大塚雅彦、今石洋之らとTRIGGERを設立。現在はプロデューサーや制作統括といったポジションでアニメに携わる。「今回の講座に登壇するのは業界の神々みたいな方なんです。僕の役割は、後に登壇する先生たちがどんな仕事をしているのか、そのさわりをご説明すること」と舛本も語るように、全6回の講座の初回に「制作」の回を設けることで、その後の各工程の回が理解しやすくなっている。舛本は「もう1つは、皆さんアニメが好きだと思うので、感想を言うときにマウント取れるくらいの知識は持って帰れるといいかなと思います(笑)」と親しみやすい雰囲気で挨拶した。
まずは「製作」と「制作」の違い、アニメビジネスの仕組みの基本から説明。アニメが「先行投資ビジネス」であること、一方で海外配信の広まりによってマネタイズの仕方が変わってきたことなど、アニメは芸術であると同時にビジネスであることを伝える。続いてTVアニメ各話の制作フローを図式で示し、左から右へと流れていく「ベルトコンベア式」と解説。このベルトコンベア式がアニメ業界の「時間のなさ」の一因になっており、後ろのほうの工程ほどあおりを受けやすいことがわかる。
講座のメインとしては、TRIGGER制作のアニメ「キルラキル」を題材に取り、制作工程を細かく解説していく。企画書、シナリオ、絵コンテ、キャラクター設定などの設定画、コンテ撮、レイアウト、原画撮、動画撮、カラーモデル、カラータイミング撮、背景、本撮……と順を追って中間制作物をスクリーンに投影することで、1つひとつの工程を経てアニメが徐々にできあがっていくさまが非常にわかりやすく伝えられた。
音響に関する解説では、セリフ入りの映像だけでなく、効果音のみが入った映像、BGMのみが入った映像という普段なかなか見られない資料も。それを経て完成映像を観ることで、内容に合わせてセリフ、効果音、BGMの音量などが細かく調整されていることを実感できた。なお「キルラキル」の音響監督は、第6回に登壇する岩浪美和。岩浪の回でもまさにこれと連なる話題を聞くことができ、こうして知識が絡み合っていくのも連続講座ならではの醍醐味だ。
各講座で質疑応答の時間も設けられ、アニメファンの素朴な疑問から、業界関係者による専門性の高いものまで、どちらも歓迎されている。アニメ制作全体を見るポジションの舛本には、アニメ業界の変化や未来予想のような質問が多く寄せられた。そんな中、「10年後にどうなっているかはわかりません。アニメが必要とされなくなる未来だってあると思います」と舛本。TRIGGERといえば業界からもアニメファンからも高い評価を受けるスタジオだが、決して楽観視はしていない様子で「未来はわからない。それでも僕らは作り続けていきます」と力強く語った。
第2回「作画」アニメーター・井上俊之(2025年2月8日開催)
「作画」回で講師を務めるのは、近年は映画「ルックバック」での仕事で注目を集めた井上。アニメーターとして第一線で活躍しつつ、著書「井上俊之の作画遊蕩」や、トークイベント「井上俊之の作画殿堂」など、作画について発信する場も多く持つ。この日の講座の題名は「井上俊之の(よい)作画オタク入門」。業界関係者から“神アニメーター”として名前が挙がる存在でありながら、いち視聴者にも親しみを感じさせる“作画オタク”らしい語り口が魅力的な講座を繰り広げた。
「よいアニメーターはほぼ100%作画オタクなんです」と切り出した井上。「絵を描く仕事をしているわけではないけど、非常に確かな審美眼を持っている、そういうアニメファンの方を集めて鍛えたら、よいアニメーターになるんじゃないか」と半分冗談、半分本気といった様子で語る。その主旨は「よしあしがわかる審美眼を持っていないと、上達することもできない」というもの。だからこそ「よい作画オタク」になってほしいと井上は伝える。
講座では「作画とは何か」「なぜ作画オタクであることが重要なのか」「制作素材の楽しみ方」といったテーマを用意。メインアニメーターを務めた映画「さよならの朝に約束の花をかざろう」のレイアウトや原画をスクリーンに映しながら解説していった。このとき、絵だけではなく書きこまれた文字に注目するよう井上は促す。実際に井上の書き込んだ提案に対し、演出や作画監督がコメントを戻している箇所を指し示しながら、「単に絵を見るだけでなく文字を見ることが、制作素材を見るうえで重要。誰のコメントなのかを意識して見ると面白くなる」とマニアックなポイントを伝えた。
質疑応答の時間には、先ほどの資料を受け「レイアウトとレイアウトチェックの間のやり取りは最大でどのくらいあるのか」という質問が飛ぶ。「基本的には1回で、再提出になるかはケースバイケース。リテイクにならずに描き直されたものが戻ってきて、アニメーターが『ガーン』となることもある」という回答からは、アニメーターのリアルな心情が感じられた。また「ほれぼれするような動きは、動画がすごいのか、原画がすごいのか?」という質問には、「よい原画に動画がさらに磨きをかけることはあります。でも、原画がいまいちだったものが、動画で見違えるようになるということは基本的にはない。逆はある(笑)」という答えも。熱心な受講生たちに向き合うからこそ引き出されるリアルな回答は、連続講座全体を通しての魅力であったと言える。
なお、この日の講座の一部分で資料として使われた、「さよ朝」の原画に関する井上のオーディオコメンタリーは、原画集の特典として今でも入手が可能。そのサンプルはP.A.WORKSのYouTubeでも観ることができる。
第3回「撮影」撮影監督・泉津井陽一(2025年2月22日開催)
アニメにおける「撮影」は、業界外の人間にはなかなか想像がしづらい工程だ。かつてはセル画と背景画を重ね、実際にカメラで1コマ1コマを物理的に“撮影”し、アニメーションを仕上げる仕事であった。デジタル化された現在も、作画や背景などの素材を集めて1つのアニメーションに仕上げる、という根本的な部分に関しては変わらない。一方で、光の表現をはじめさまざまなビジュアルエフェクトを施すことで、アニメ全体の印象を大きく変えることもでき、年々その重要性や注目度が高まっているポジションでもある。
講師を務めた泉津井陽一は、スタジオジブリ映像部を経て、現在はフリーランスとして活躍する撮影監督。自身のnoteでも積極的に撮影について発信を行っている。この日はビジュアルディレクターとして参加した「劇場版モノノ怪 唐傘」の素材をもとに、実際の作業画面を見せながら作業内容をつまびらかに解説してくれた。なお“ビジュアルディレクター”としての泉津井の仕事は、一般的な撮影監督の仕事とは異なるものだという。泉津井は撮影監督の働きについて、「現場を回す役職でもある。誰に頼むか、スケジューリングをどうするか、協力会社にどう割り振るか。撮影で使いやすいようにカスタマイズしたプリセットやテンプレートを作って配布するのも撮影監督の仕事」と、マネジメント的な役割も大きい業務であることを説明した。
アニメの撮影で主に使われるのは「Adobe After Effects」というソフトフェア。「モノノ怪」は全編にわたって和紙に絵を描いたような質感が特徴的な作品だが、その質感をどのように作っていったかを、After Effectsの画面を映し、実際に操作しながら解説してくれた。アニメーターが描いたキャラクターの線をなめらかにする処理、カットの1つひとつに異なるテクスチャを貼り込んでいく作業……目の前で操作されることで、1作品だけでも気が遠くなるほどの作業が行われていることがわかる。また撮影処理で使うための素材を作るには、実際の紙をスキャンしたり、煙の素材を作るためにドライアイスを使って撮影したりと、PC上のみではとどまらない作業を行うことも。違う作品で完全に同じ素材を使い回すことは基本的にないそうで、PCやソフトを使うからといって楽ができる作業ではないということが改めて感じられた。
物理的に「撮影」をしなくなった今も、カメラやレンズの仕組みを理解していることは、撮影において非常に重要なスキルだという泉津井。自身も学生時代は写真部に所属し、今も休みの日には写真を撮りに出かけるそうだ。泉津井は「どのアニメもカメラで撮っている体(てい)で作られています。そのためにレンズを模倣する」と語る。最後に参考書籍を複数紹介してくれたが、そこには「スタジオジブリの撮影術」といったアニメ撮影の本だけでなく、「カメラとレンズのしくみがわかる光学入門」なども含まれていた。
質疑応答では「実写でならできるが、アニメではまだできない、やってみたい表現はあるか」という質問が。泉津井は「すごく大変ではあるが、かなりCGでできてしまう。個人的にはもう割と飽和しているかなと思っている」と実写に近づける方向よりも、アニメーションとしてのプリミティブな表現に興味が向いていると話す。一方で「『ぼっち・ざ・ろっく!』などはシンプルなキャラクターだけど絵作りはリアルで、でもアンバランスには見えない。そこがアニメの懐の深さ。ああいう方向性はやってみたいかもしれません」とも語った。
第4回「CG」CG監督・三好紀彦(2025年3月8日開催)
CGというとアイドルもののダンスシーンや、ロボットやメカのアクションシーンなどを思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし、この日語られたのはそうしたイメージとは大きく異なるCGの使い方だ。「君たちはどう生きるか」をはじめ、スタジオジブリ作品のCGを長年手がける三好は、「風立ちぬ」と「借りぐらしのアリエッティ」を主な例として使いながら「カメラマップ」「ハメコミ」といった技術を紹介していった。
「カメラマップ」は3DCGの空間上に2Dで描かれた絵を貼りつけることで、手描きの美術を活かしながら、カメラワークに合わせて自然に背景を動かすことができる手法。例として使用したのは、バスの後ろの窓から人物が遠ざかっていく様子を映したシーンで、言われなければCGを使っているとはとても思えない。手描きの背景美術をパーツ分けし、3D空間に配置していく、さらに足りない部分はCGスタッフがデジタル上で描き足していく──といった、言葉だけでは説明難しい作業工程を、こちらも実際の画面をスクリーンに映しながら解説してくれた。
「ハメコミ」は作画で描かれた線に合わせて、背景素材や特殊効果などをはめ込んでいく手法。ここで取り上げられたのもまた、人物が扉を開けるだけの何気ないワンシーンだ。ハメコミの手法を使うことで、扉の模様や陰影をリアルに表現する。かといって扉が目立つわけではなく、あくまでキャラクターのほうに自然と目がいくように、この手法が使われている。
続いて例に挙がった入道雲を映した場面もまた、三好自身も「劇場でわかる人はほとんどいない」と語るほど短い場面。手描きの入道雲の絵をバラバラにし、さらに各パーツの陰影や色合い、動きを繊細に変化させて組み合わせることで、刻一刻と変化している入道雲をリアルに表現する。「この処理だけで6カ月かかった」と三好が語る通り、CGだからといって手描きより楽なわけではない、ということがよくわかる例だ。質疑応答の場面で、「CGで嘘はつけない」という言説をどう思うと聞かれた三好が「CGは嘘。よりリアルに見せるためにどういう嘘をつくか」だと即答したことも、これらの作業を見ていれば納得がいく。
全6回の中でも特に筆者の印象に残ったのが、「撮影」と「CG」の回だった。操作画面を見ながら詳しい解説を聞ける貴重な機会であったことや、また隣接する領域の講座を続けて聞くことで役割の重なる部分、そうでない部分への理解も深まった。三好の講座からは、スタジオジブリというある意味「手描き」の代名詞的なスタジオのCG活用を知ることで、アニメにおけるCGというものを捉え直すことができた。また、アニメの表現とソフトフェアの進化の密接な関係も伝わってきたが、一方で日本のアニメ制作者たちがソフトにコントロールされるのではなく、ソフトの使い方をさまざまに発展させてイマジネーションを膨らませてきたのだということも感じられた。
後編:第5回・押山清高(監督)、第6回・岩浪美和(音響監督)へ続く
後編に記した第5回では、第2回で登壇した井上俊之も参加する映画「ルックバック」の押山清高監督、第6回には第1回で触れた音響監督・岩浪美和が登場。最後に主任講師・高瀬康司へのインタビューも掲載しているので、こちらも併せて読んでほしい。
「Mercaアニメーションスクール SUMMER BOOT CAMP 2026──『観る』『考える』『作る』ためのアニメ『演出』ゼミナール」
日時:2026年9月5日(土)、9月6日(日)14:00~17:45
場所:東京都 立川シネマシティ シネマ・ツー c studio
主任講師:高瀬康司
講師:谷口悟朗、榎戸駿+坂詰嵩仁、りく、四宮義俊
料金:先行価格(一般)19800円、先行価格(学生)17800円、通常価格(一般)24800円、通常価格(学生)19800円
※先行価格は2026年8月29日(土)23:59まで。
1日目タイムテーブル
14:00~14:15 イントロダクション:高瀬康司
14:15~15:45 芝居:谷口悟朗(「パリに咲くエトワール」監督)
16:15~17:45 アクション:榎戸駿+坂詰嵩仁(「Fate/strange Fake」監督)
2日目タイムテーブル
14:00~15:30 MV:りく(星街すいせい「プリマドンナ」MV監督)
16:00~17:30 アート:四宮義俊(「花緑青が明ける日に」監督)
17:30~17:45 まとめ:高瀬康司
