8年前の投稿作を連載化「百大兵器譜」、つくみず「少女終末旅行」前日譚、気になる読み切りもいっぱい
雑誌やWeb、アプリなどでスタートした新連載を、毎月振り返る「今月の新連載」。版元ごとに担当者が決まっているコミックナタリー編集部では、ほぼ毎日のように始まる膨大な数の新連載を、毎日読んで記事を書き続けてきた。そんな部員たちが、その月に面白かった作品や気になった作品、そのほか最新のマンガ業界のトピックなどを振り返る企画だ。第13回では2026年6月にスタートした新連載を語る。
文 / コミックナタリー編集部
気になる読み切りがいっぱいあった6月
くろねこ 6月は珍しく読み切りをあげた人が多い月でした。
りす 今井哲也さんの「#512【プロジェクト・キノ】 思い出振り返り雑談と、これからのこと【活動休止】」は、内閣府がやっているサイエンスコミュニケーションプロジェクト「Neu World」のWebサイトで公開されているマンガ。プロジェクトの全容を掴みきれていないんですが、実際に研究されている脳科学とかの技術を題材にしているみたいです。AIが人間とのコミュニケーションを通して学習していく様子を動画配信という形で見せるマンガになっているんですけど、僕が読んで面白いなと思ったのは、科学技術の部分よりも対話によるコミュニケーションの難しさをロジカルに説明しているところ。僕も人と話をしていて「言いたいこと全然伝わってねえな」みたいに感じることがあって、その難しさを言語化してくれてるなと思いました。
うさぎ 人工知能の女の子が、最初は感情表現が乏しいんだけど、アップデートがあって表情でもコミュニケーションが取れるようになって。そこの描写がすごくいいなと思いました。「楽しく過ごせてる?」っていう質問に、ニコッと笑って答えているシーンもそう。最初さらっと読んでしまったんですけど、これはさらっと読んだらもったいないやつだと思ってきちんと読み返しました(笑)。
ぞう この難しい題材でここまで話を膨らませられるのがすごいですよね。AIの子が配信をしていた動画チャンネルを休止することになったという話なんですが、その休止する理由がいいなと。言葉だけじゃなくて音とかジェスチャーを組み合わせてコミュニケーションするって話も気になるし、続きが読めないのが残念なんですけど、ここで終わるのもいいなと思わせる終わり方でした。
うさぎ 80ページ近くあるので読み応えありますね。本で読みたい感じもする。
りす 前回、奥田亜紀子さんの「余白」のときも話したけど、こういう読み切りって単行本にまとまるかわからないですよね。このプロジェクトが終了したら読めなくなるのかな。
ぞう なんらかの形で残してほしいですけどね。
もし寿命がわかってしまう世界になったら…
うさぎ SFっぽい話で言うと、「限りある私たちは…」もよかったです。読み切りとしてすごくキレイにまとまっていますよね。
とり 自分の寿命を調べられるっていう設定は近い未来に実現しそうで、現実にもありえなくはないSFって感じがしました。もし寿命がわかってしまう世界になったら、自分はどう生きるんだろうと考えちゃいましたね。
くろねこ 考えさせられるテーマではありますけど、絵柄とかマンガの雰囲気はポップで読みやすかったです。どうでもいいんですけど、私も学生時代に図書館で仮返却の棚をチェックしてたのを思い出しました(笑)。
うさぎ 寿命の設定はSFとして面白いんだけど、人生計画を立ててもその通りにいかないみたいなのって万人に当てはまるんじゃないかと思って、そこが面白かったです。「水族館でデートする」っていう項目が埋まってないから水族館に行くとか、物語のフリをちゃんと拾っていくから気持ちよく読めました。
りす 最近友達がアプリで婚活してて、若い人と付き合うなんて考えられないみたいな話を聞くんですよ。寿命までわかってしまったら、さらに難しそう。あと、このマンガの登場人物たちは寿命がわかっているから限りある時間の中でがんばろうとしているけど、僕は自分の寿命がわかってしまったら、「どうせあと何年かで死ぬんだし」ってなってしまい、もうがんばれなさそうだなって思いました(笑)。
8年前の四季賞受賞作を連載化「百大兵器譜」
りす 「百大兵器譜」は、アフタヌーンの四季賞を受賞した作品が連載になったパターンですね。
うさぎ 受賞作版がコミックDAYSで読めたので読み返したんですけど、連載版はかなり雰囲気が変わりましたね。
くろねこ 陶延リュウさんは「無限の住人」のスピンオフ「無限の住人~幕末ノ章~」で作画を担当されていたんですよ。けっこう長く連載されてたと思います。
いぬ 確かに、四季賞の受賞は2018年だから8年前ですね。
りす 8年前の投稿作を連載化ってすごいですね。満を持してという感じ。
くろねこ ずっと描きたかったテーマなのかもしれない。
うさぎ 投稿作のときより復讐譚の要素が強くなっていて、そっちに振ったんだなと思いました。投稿作はもっと少年マンガっぽかったというか、爽快感たっぷりのエンタメ寄りに描かれていたので。もともと画作りはお上手でしたが、「無限の住人」のスピンオフで経験を積まれたからなのか、作劇がすごくカッコいいですよね。
りす アクションシーンとかすごいカッコいい。でも双子が町の人と話しているところとか日常シーンはけっこうコミカルなので、このメリハリもいいなと思います。バトルなしの話も読んでみたい。
うさぎ 投稿作の頃のほうがコミカルな感じもあるので、もし気になったら読んでみてください。
女の子ともふもふの動物たちがかわいい「ユラル動物記」
うさぎ 「ユラル動物記」は、主人公なのかな? 第1話のこの女の子、いいキャラクターですよね。
りす 公式のあらすじを読むと、この女の子の話というよりは世界のいろんな場所で暮らしてる人と動物の話なのかもしれない。
うさぎ 「乙嫁語り」みたいになるんでしょうか。
くろねこ 出てくる動物がめちゃくちゃかわいかったです。
りす もふもふのイタチみたいなやつ、よかったですよね。
ぞう ゲッサンの巻末のコメントページで「ユラル動物記」がピックアップされていて、「イワイタチ」って書いてありますね。
りす 架空の世界の文化とか、その生態の解説って面白いですよね。自分は、映像作家の巡宙艦ボンタさんが作っている「ダンジョン&テレビジョン」というインディーズのアニメが好きなんですけど、ダンジョン攻略の様子をテレビ中継するためがんばる話で。その世界でのテレビの扱いとか、文化の設定がすごい練り込まれているのが面白いんですよ。YouTubeで本編映像や設定動画なんかが無料公開されているので、よかったら見てください。
「少女終末旅行」前日譚、本編とのつながりも?
うさぎ つくみずさんの「階層都市断片集」は、コメント欄に「つくみずのマンガからしか得られないものがある」って書いてあって、「わかるわかる」と思いながら読みました。
りす 「少女終末旅行」の前日譚なんだと思いながら読んだけど、「少女終末旅行」とのつながりって出てきてますか?
ぞう 1話に出てくる原子力潜水艦は「少女終末旅行」に出てきた潜水艦と同じだと思います。「少女終末旅行」に、ヌコと呼ばれる核エネルギーを食べる変な生命体が出てくるんですが、それがどうやって生まれたのかとかが、「階層都市断片集」でわかるといいなっていう期待はありますね。
とり 私は「少女終末旅行」を読んでなかったんですけど、すごく面白かったです。潜水艦っていう閉じた空間が舞台なのも面白いし、魚雷の間で寝るんだとか思って(笑)。女の子たちはすごくかわいいのに、海とか潜水艦の物々しい感じのギャップがあって、ぐっときましたね。
りす 僕もほとんど忘れてたんですけど、楽しく読めました。確か「少女終末旅行」も途中までしか読めてないので、これを機会に読み直そうかな。
一番おいしいところだけを読ませてもらえてる
とり 同じくらげバンチの新連載「ファーストペンギン・レクイエム」も面白かったです。作者のタダノなつさんが作っていた告知アニメもかわいかった。
ぞう 設定としては怪異と戦う人たちのバディものですが、キャラクターの造形とか関係性とか会話のテンポとか、興味を引く要素がうまく詰め込んであって、これは話題になるわなって思いました。
とり けっこう残酷なシーンも多くて。生き返らせる能力を持つきのこは、不死ではあるもののアズの悲惨な死を毎回見ないといけないのはつらそうです。
りす 死んでも相棒が生き返らせてくれる信頼感というか安心感というか、この2人ならどうにかなるっていうのはバディもののよさですよね。怖いシーンもありますけど、アズときのこの会話もかわいくて、かわいい子たちが怖いところでキャーキャーしているのが楽しい話。怖いの苦手な人でも読めそう。
うさぎ 僕は怖いの苦手ですけど、あんまりホラーって感じはしなかったかな。怪異と戦うというよりは、怪異が何かを調べるのが目的だから、生還して帰ってくれば終わり。最初、「結局この怪異はどうなったの?」って思ったんですけど、最後のコマにさらっと「収容成功」って書いてあるんですよ。そこを一言でまとめちゃうのも割り切ってていいなと。まさに“ファーストペンギン”の話ということなんですが、一番おいしいところだけを読ませてもらえてる感じがしました。
フェチズム全部乗っけた快作「ビスタ・ダ・ギガンテッサ」
ぞう 「ビスタ・ダ・ギガンテッサ」は、「鍋に弾丸を受けながら」の青木潤太朗さんが原作ですが、フェチズム全部乗っけたマンガを作っていきたいんだなっていう、いさぎよさを感じました。青木さんは人類が全員美少女に見えるし、作画のLABさんは巨大女が好きっていうのを組み合わせた結果生まれた快作ですね(笑)。
りす 巨大女のマンガってたびたび見かけるけど、いまいち楽しみ方がわからないなと思っていたんですよ。僕はその性癖ないから。しかし「ビスタ・ダ・ギガンテッサ」には巨大女のいいところがこれでもかというほどテキストで書いてあるページがあって。それを読んだらなるほどそういうことか、とちょっと納得しました。ただ大きいから好きっていうわけじゃなくて、巨大すぎて危険っていうところと、セクシーやかわいいが混ざり合った存在みたいな。胸元に入ることで、胸が近いドキドキもあれば、ちょっとの加減で潰されてしまうっていうハラハラもあって、そこがいいんだなと。
いぬ この1話って言わば「こういう設定で描いていきますよ」っていうのをメタ的に解説している形なので、2話以降どういう感じになるのか気になりました。
ぞう キャラクター設定がちょっと特殊なだけで、基本的には日本国内いろんなとこを巡る話になるんじゃないですかね。「鍋に弾丸を受けながら」も世界中のいろんなご飯を食べる話ですけど、中身としてはグルメエッセイみたいな感じなので。
りす でもそこに巨大な女が出てくると、普通のコマ割りでは収まらないからただの旅行エッセイにはならなそう。絵作りが面白くなりそうだし、見開きのよさみたいなものが出てきそうな気がします。
ぞう 富士山とか五重塔とか、大きな建造物と並んだりしそうですよね。
社会の闇マンガ革命を起こした?サイコミ
ぞう 平尾アウリさんの「信仰2.0」はサイコミっぽい作品だなと思いました。サイコミはこういうアンダーグラウンドな作品をずっと連載してるイメージ。
くろねこ コメント欄にも「サイコミ名物毒親の気配をもう感じる」とか「サイコミ金曜日に狂気を集めすぎでは」って書いてありましたけど、そのイメージありますね。宗教とか貧困もそうですし、パパ活とか不倫とか風俗とか、関わり合いたくないけど気になる世界というか。
りす 「明日、私は誰かのカノジョ」のブームからなのかなと思いますけど、貧困家族が動画配信する「ファミリー・ショー」もサイコミですし、女の子だけに限らず社会の闇全般をすくい取る媒体になってますよね。ゲスいマンガといえばそうなんだけれど、どの作品にも目が離せない切実さがあっていっちょかみ感がない。下世話だけど真摯というのは、けっこうすごいことだと思います。
くろねこ キャッチーな絵柄と組み合わせたのも大きい気がします。裏社会ものだと「ウシジマくん」「外道の歌」とかリアルな絵柄のイメージが強いですけど、「明日カノ」のをのひなおさんとか、「信仰2.0」の平尾さんとか、かわいらしい絵柄で描かれるところがサイコミっぽい。
りす アプリやWebで無料で読めるところも若者に向いているんでしょうね。実話誌とかでやってるようなエグめの内容を、きちんと若者世代に刺さるようにアップデートしてきている。この流れはなにげに革命なんじゃないでしょうか。社会の闇マンガ革命(笑)。
座談会に参加した編集部員
- いぬ:劇場版「名探偵コナン」の好きな主題歌はB’zの「ONE」でしたが、B’zのライブで聴いた同じく主題歌の「Everlasting」もとてもよかったです。
- うさぎ:結局5歳児へのファーストマンガは「ドラえもん一年生」にしました。
- くろねこ:「ちいかわ」の映画を早く観に行かなければならない……。
- ぞう:「ビション絵日記」はいいぞ。
- とり:「グラン・ローヴァ物語」を読んで最高な気持ちに。細かな髪の毛と服のシワの表現がたまりません。
- りす:あなたのメカ美少女はどこから? 私は「ドラえもん のび太と鉄人兵団」のリルル。
