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マンガ大賞2026 ノミネート作品をマンガ系ライター4人が勝手に大予想

「面白いと思ったマンガを、その時、誰かに薦めたい!」そんな気持ちから書店員をはじめとする有志が集まり、2008年に誕生した「マンガ大賞」。今年で19回目を迎えるこの賞は、もはやマンガ業界には欠かせないアワードだ。賞の選考員は、実行委員が直接声をかけたマンガ好きばかりで、書店員をはじめとするさまざまな職業の人たちが手弁当でこの賞を支えているという。

1月下旬に控えたノミネート発表の前に、コミックナタリーでは4人のマンガライターにノミネート10作品を、マンガ大賞の傾向を分析しつつ予想してもらった。4人共通で挙がっている作品もあれば、各人の好みによる推し作品も。1年間の話題作を振り返りながら、それぞれの予想を楽しんでほしい。

構成 / 坂本恵

※寄稿者を50音順に掲載

マンガ大賞とは?

粟生こずえのノミネート予想作品は……

「半分姉弟」が「CREA夜ふかしマンガ大賞」で大賞を獲ったとき、「これこそ今年のマンガだ」と得心した。「ハーフ」と呼ばれる人たちの問題に切りこむ社会性を主題に据えつつ、まったくお説教めいたところがなく完璧に“エンタメ” をやり切っているのが見事。これが現代マンガの到達点なのだと感服。今シーズンざっくり3冠くらいいくんじゃないかと思った矢先に「このマンガがすごい!2026」オンナ編1位の報が届いた。幅広い層に支持されており、「これ読んだ?」と話題にしたくなる作品である。「このマン」オトコ編1位の「本なら売るほど」もノミネートは間違いないだろう。リアル書店が減少する一方、若い世代による古書店や独立系書店が増えている現実ともリンクしている。

近年の「マンガ大賞」の傾向を考察してみると、ジャンルは非常に多岐にわたっている。あえて特徴を読むなら、キャラクターの魅力が際立った作品が多いように思う。

「「壇蜜」」はここに挙げた中で唯一のノンフィクションコミック。よくぞマンガに描いてくださった! サブカルマンガ家と妖艶かつミステリアスなタレントという組み合わせの意外性だけでもそそられるところに超常現象ネタをぶっこみ、それでいて運命的な恋愛のロマンも感じさせる。唯一無二のアクロバティックな読み口だ。

この類のランキングにファッションヘルスを舞台としたマンガは入りにくそうだけれど、「バルバロ!」にはそんな壁をものともしないポピュラリティがある。ヒリヒリするような現実をウェットにならず、厳しい世の中を生き抜く痛快さがたまらない。

共感したり、応援したくなるキャラクターが物語をぐいぐい引っぱるのは当然だが、そこに〈今〉の核心となるキーワードを挙げるなら「刺さる」であろうか。

そんなわけで夜の世界の女の子たちを主人公とした作品をもう1つ──「みいちゃんと山田さん」。ふんわりかわいらしい絵柄と衝撃的な内容のギャップもインパクト大、SNSでバズった話題作だ。連載誌のマガポケでは常に閲覧ランキング上位をキープ。コメント欄で読者の熱い考察を読むのを楽しみにしている人も多いだろう。みいちゃんのダメっぷりの描写は容赦なく、その痛々しさは読み手を選ぶかもしれないが、決して露悪的な作品とは思わない。フィクションなのに前のめりに登場人物について語りたくなるのは「かわいそう=泣ける」以上の「刺さる」感慨をもたらすからではないか。

ホッとできる心地よさで人気を集める「おかえり水平線」は、高校生の異母兄弟が主人公。丁寧な心理描写や会話の読みごたえに加え、海辺の街の銭湯という舞台設定が秀逸。ドラマ化に加えアニメ化も発表され、さらに人気が高まる「ひらやすみ」効果で銭湯も注目コンテンツに? みんなが憧れるファンタジーとして機能しているかもしれない。バディもの世界にスパダリを投下したみたいな「ホストと社畜」もまだまだ伸びそう。

「邪神の弁当屋さん」は一見ほっこり系に見えて生きる意味、心の糧を問いかける作品。現代の重要な論点であるルッキズムを織りこんだ「林檎の国のジョナ」も、さまざまな価値観の人の言動を緻密に描き、読みながらともに考えていきたい気持ちにさせる物語だ。

さて、大本命の1つに挙げたいのは「怪獣を解剖する」。怪獣学者の女性を主人公に、生物学から環境問題まで臨場感いっぱいに、研究者の直面する現実や生活感も含めて描き切った空想エンタテイメント大作。SFに夢を見るワクワク感を思い出させてくれる新鮮な一撃である。

粟生こずえ(アオウコズエ)

編集者・ライター・作家。「このマンガがすごい!」(宝島社)、「CREA夜ふかしマンガ大賞」(文藝春秋)に立ち上げより寄稿。マンガレビュー、マンガ家インタビュー多数。著書にショートミステリ「3分間サバイバル」シリーズ(あかね書房)、「5分でスカッとする結末 日本一周ナゾトキ珍道中」(講談社)など。SNSはすべて「粟生こずえ」名義。

小田真琴のノミネート予想作品は……

昨年もこの企画に参加させていただいたのだが、的中したのは10作中4作のみ。粟生こずえさんは6作も的中させていたというのに! すごすぎる。今年はもうちょっと頑張りたい。

まず大本命に挙げられるのが児島青「本なら売るほど」。マンガ大賞の選考員には、書店員さんをはじめとした本好きの方が多いものと思われる。本作はすでに「このマンガがすごい!2026」のオトコ編で1位となるなど話題になりまくってはいるが、よりにもよって本を愛する選考員の皆さんが、このあまりにも魅力的なマンガを無視することができるだろうかいやできまい。なにしろ作中に登場する本のセレクトが絶妙すぎるのだ。

「本なら売るほど」以外にも、昨年はKADOKAWA、というか旧エンターブレイン系が豊作で、サイトウマド「怪獣を解剖する」も大変な話題となった。「THE BEST MANGA 2026 このマンガを読め!」第1位は伊達ではなく、最新の生物学から環境問題、社会問題までも射程にとらえながら、上質なエンタテイメントとして完成されている。

近年のマンガ大賞ではトップ10入りすることがあまりなかったエンターブレイン系だが、そろそろいかがだろうか。よいのではなかろうか。よいと思うのだが。ついでに高妍「隙間」も推したいところである。

とはいえマンガ大賞にはもう少しメジャー寄りの作品を好む傾向があるのもまた事実だ。ビーム / ハルタよりも、アフタヌーンやヤンマガ、あるいはスピリッツな感じ。そうすると浮上してくるのが文村公「マンガラバー」や 蓮尾トウト / 仲里はるな「伍と碁」、イシコ「邪神の弁当屋さん」、志村貴子「そういう家の子の話」あたりの作品群である。昨年惜しくも2位となった鍋倉夫「路傍のフジイ」の再ランクインもあり得るかもしれない。「マンガラバー」と「そういう家の子の話」はまだ1巻しか刊行されていないが、2024年の大賞「君と宇宙を歩くために」も受賞した時点で刊行されていたのは1巻のみであったので、問題にはならない。

エンタメ性ということで言えば清野とおる「「壇蜜」」は、我々読者の下世話な好奇心に120%応えてくれる快作だ。それでいて嫌味がなく(品のよさすら感じる)、妻・壇蜜への敬意と愛情にあふれたその筆致は、もはや名人芸の域である。

最後の1作は住吉九「サンキューピッチ」か藤見よいこ「半分姉弟」かで悩んだが、毎年ジャンプ / ジャンプ+作品もコンスタントにランクインしているので、前者としておきたい。

そして唐突に1つ提案なのだが、本屋大賞に海外部門があるように、マンガ大賞にも海外部門を設けてはいかがだろうか? ウリ・ルスト「今日が人生最後の日」(シュークリーム)やユベール / ザンジム「男の皮の物語」(サウザンブックス)など、質の高いグラフィックノベルやBDが、昨年も何冊か翻訳出版された。高い知名度を誇るこの賞が、世界にも多くの魅力的な作品があることを知らしめる縁となってほしいと願うものである。

予想とはいえ、どうしても自分の好みには引き摺られてしまうわけで、世評は高くとも面白いと思えないものは挙げられない。その甘さが的中率の低さにつながっている可能性もあるが、さて、今年はいかに。皆さんもぜひ予想してみてほしい。

小田真琴(オダマコト)

女子マンガ研究家。Web、雑誌などで、おもに大人の女性向けのマンガを選書・紹介しつつ、マンガ家のインタビュー記事も執筆。年末年始はEテレでオンエアされていた「AKIRA」を息子(10歳)に見せつつヒロアカなど昨今の人気作に与えた影響を解説して楽しく過ごしておりました。

小林聖のノミネート予想作品は……

「マンガ大賞」のノミネート作品についてあれこれ予想を巡らすようになると、いよいよお正月も終わったのを実感しますね。

さて、「マンガ大賞」の個人的な傾向分析は去年の予想で書いており、今年も基本は変わりません。幅広い人に薦めやすくポジティブな作品、勢いのある作品、レギュレーションラストイヤーの作品、ヒットのきっかけがほしい作品という点を踏まえて予想しています。加えるなら「社会への眼差しみたいなものが意識に入ることも多い」という点でしょうか。

今年真っ先に頭に浮かんだのは「本なら売るほど」。ド派手にバズるような作品ではないですが、刊行当初から話題になっており、実際「このマンガがすごい!2026」のオトコ編1位をはじめ、「ダ・ヴィンチ BOOK OF THE YEAR 2025」のコミックランキング1位、ブクログの「年間ランキング2025」マンガ部門1位など、各種アワードで名前が挙がっています。年齢問わず楽しめて、心が温まるヒューマンドラマは「マンガ大賞」の傾向にもドンピシャ。勢い・内容両面から、ノミネートはまず確実でしょう。

次も「このマン」戴冠タイトルになってしまいますが、「半分姉弟」もすぐ浮かんだタイトルです。「マンガ大賞」でもここ数年対話やコミュニケーション、多様性のような視点の入った作品が目立つように、社会への眼差しというのも重要な要素。いわゆる「ハーフ」と呼ばれる人たちの日常と葛藤を描いた本作はやはり本命の1つです。

社会や生き方というところでいうと、雁須磨子先生の「起承転転」も注目作。2020年には40代独身女性を主人公にした「あした死ぬには、」が入っていますが、本作は50代独身女性を描いた作品。妻や母といった役割から外れたまま年を重ねるという、まだロールモデルが確立されていない生き方にスポットを当てているこの作品も、名前が挙がりそう。

寂しさや居場所のなさのようなものを描いた作品という点では根が近い「東京最低最悪最高!」も今回は予想に入れておきます。鋭すぎて地獄みたいなえぐり方をする作品はやや「マンガ大賞」では票が逃げる印象はありますが、それをひっくり返すだけの作品パワーを感じます。

同じくちょっと重めではあるけれど入れたいのが「ミハルの戦場」。戦場になった日本で狙撃手として生きる少女と、元狙撃手のバディものですが、戦争アクション的な要素に加えて、子供を育てるようなヒューマンな部分も印象的です。

話題性抜群のタイトルとしては「「壇蜜」」を。清野とおる先生が、結婚経緯を含めて妻・壇蜜さんを描く実録エッセイというつかみがまず強いんですが、中身が予想以上に特濃。読むほどに壇蜜さんがわからなくなり、それでもどんどん知りたくなる、呪術めいた力があります。また、話題という点で言えば、3球しか全力投球できないピッチャーを主人公にした「サンキューピッチ」も。主人公たちそっちのけで監督の阿川先生をやたらとネットで見かけましたが、作品としてもキャラクターの強さに息をつかせぬ展開など現代エンタメマンガとしてのパワーが強烈です。

ヒットのきっかけがほしいと思わせる作品としては、人間にされた神様がお弁当屋さんとして暮らす「邪神のお弁当屋さん」に注目。わかりやすいドラマチックさがあるわけではないですが、温かい読後感のある作品で、こういう賞をきっかけに広がってほしいと思う人は多そう。

近いところでは、宇宙からやってきた三角形の物体が人間として暮らしはじめる、優しくちょっと切ない「三角兄弟」も。上下巻完結で、このタイミングで入らなければチャンスがないので、挙げておきたい人がいることを予想して候補に入れます。同じくこれが最初で最後のチャンスとなる単巻タイトル「友達だった人 絹田みや作品集」も挙げておきたいです。言葉にできない寂しさや悲しさに寄り添って包んでくれるような掌編が集まっています。刊行レーベルの熱帯は良作がたくさんあるので、レーベルごと注目してほしいですね。

小林聖(コバヤシアキラ)

1981年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。インタビューやレビューなどマンガを専門に執筆。長年Twitter上で年間マンガアワード「俺マン」運営なども行っていた。

ちゃんめいのノミネート予想作品は……

今年もこの季節がやってきました。書店員を中心に、各界のマンガ好きな選考員たちが「今いちばん面白い、人に勧めたいマンガ」を選び、表彰する「マンガ大賞」。近年は、マンガプラットフォームの多様化やジャンルの細分化に伴い、マンガ賞そのものが増えすぎて、「結局どれを参考にすればいいのかわからない」という声も耳にします。

そんな中、本賞は今年で19回目。個人的には、着実に歴史を重ねてきた堅実な賞であると同時に、マンガ業界にとって欠かせない存在だと感じています。例えば、今でこそ当たり前になったマンガ原作のメディアミックスも、振り返ってみれば、「マンガ大賞」受賞作が次々と映像化へと展開されていった流れがありました。素晴らしい作品がより多くの読者へ届き、さらに広がりを見せていく。その起点の1つとして、本賞が担ってきた役割は大きかったように思います。

さて、実は昨年もコミックナタリーさんの本企画「マンガ大賞 ノミネート10作品をマンガ系ライター4人が勝手に大予想」に参加させていただいたのですが。果たしてその結果は……1位「ありす、宇宙までも」(売野機子)、2位「路傍のフジイ」(鍋倉夫)はしっかり的中していたので(やったー!)今回は、昨年と同じ軸をベースにしつつ、一方で昨年の選考員コメントから読み取れた変化や気づきも加えながら、予想していきたいと思います。

まず、1つ目の予想ポイント。それは昨年も挙げた、社会の中で透明化され続けてきた存在に光を当てる物語、あるいは世界や社会の歪みに真正面から切り込む作品群です。雑に括ってしまい恐縮ですが、いわゆる“社会派”と呼ばれる作品たち。社会の出来事は結局、読者である私たち自身と地続きなのだから、こうした作品が賞を通してさらに読者を広げていくことには、大きな意義があると感じています。この観点で言えば、“ハーフ”と呼ばれる人たちが直面するリアルや本音を描いた「半分姉弟」、そして台湾と沖縄の歴史的共通項を紐解きながら“今”を思考する「隙間」は、かなり高い確率でランクインするのではないでしょうか。というかしてほしい!

2つ目に挙げたいのが、社会派と隣り合うテーマでもある「わかりあえなさ」を真摯に描いた作品たち。近年はこのテーマの作品が特に豊作で、とんでもなく精鋭揃いな印象があります。実写ドラマ化で社会現象を巻き起こした「じゃあ、あんたが作ってみろよ!」、そして「林檎の国のジョナ」「ルリドラゴン」。なかでも「ルリドラゴン」は、京都アニメーション制作によるアニメ化が決定しており、京アニが初めて手がける週刊少年ジャンプ作品のアニメ化という点でも、大きな話題を集めています。

3つ目は、昨年の選考員コメントを踏まえたうえでの予想になりますが、読んでいて感じたのは「ニューヒーロー・ヒロイン、そして新しいドラマ」への強い欲求です。昨年で言えば、劇薬のような存在感を放った「ドカ食いダイスキ!もちづきさん」の望月さんもいれば、「路傍のフジイ」のフジイさんのように、生きづらい世の中でそっと心を軽くしてくれる、バファリン的な人物像も高く評価されていました。

そう考えると、50代、何者にもなれなかった女性の人生が転がるように動き出す「起承転転」。そして、ファッションヘルスで働く女性たちの日常を、軽やかさと生活感で描き出す「バルバロ!」は、いずれもランクインするのでは?と予想。また、清野とおる先生が妻・壇蜜氏への“潜入記録”として描いた「「壇蜜」」も外せない1作。

そして最後に、新しいドラマという観点で忘れてはならないのが「怪獣を解剖する」「本なら売るほど」。「怪獣を解剖する」は、超巨大怪獣という厄災を巡る物語。エンターテインメントとしての強度を備えつつ、主人公が挑む解剖調査という現場からは、災害大国に生きる私たちだからこそ受け取れる気づきがあるはずです。「本なら売るほど」は、新刊ではなく「古書」を介して紡がれるヒューマンドラマで、作中に登場する本は実在のもの。さらに装丁も文庫本を思わせるデザインが施され、リアルな手触りとしても“本”とマンガが邂逅する感触を与えてくれます。

ちゃんめい

マンガライター。マンガを中心に書評・コラムの執筆のほか作家への取材を行う。宝島社「このマンガがすごい!2024、2025、2026」にてアンケート参加、その他トークイベント、雑誌のマンガ特集にも出演。