2016年に始動した「KING OF PRISM」シリーズ(以下「キンプリ)の最新作、「KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-」。8月16日に封切られ、3カ月以上経つ今も応援上映を中心に、ロングラン上映を達成している。さらに10月25日にはラージフォーマット版「も~っと煌めく!KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-」が上映開始。4DXのみならず、日本アニメーション史上初となるSCREENX上映を行ったことでも話題を集めた。
SCREENXとは、正面のスクリーンに加え「ウイング」と呼ばれる左右の壁面にも映像を投影し、270度におよぶワイドなスクリーンを用いた上映フォーマット。観客を取り囲むように映像が投影されることで、まるで作品そのものに入り込んだかのような異次元の没入感を得られる。
これまで日本でSCREENX上映が行われたのは、「猿の惑星/キングダム」「ゴジラ-1.0」などハリウッド大作や邦画のアクション大作、またはBE:FIRSTやSEVENTEENといったアーティストのコンサートフィルムが多くを占める。そんな中、決して大作アニメであるとは言えない「KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-」が、なぜ日本アニメ初のSCREENX上映へと至ったのか。同作のプロデューサーであるエイベックス・ピクチャーズの磯輪のぞみ氏と、SCREENX制作を担当したCJ 4DPLEX社の映像プロデューサー・Moon氏に、実現までの舞台裏やSCREENX版に込めた思いを聞いた。
取材・文 / サメ映画ルーキー 構成 / コミックナタリー編集部
「KING OF PRISM」とは
歌、ダンス、プリズムジャンプを組み合わせた総合エンタテインメントショー“プリズムショー”。そんなプリズムショーに魅了された個性豊かな少年たちが、観る人の心をときめかせるプリズムスタァを目指し、さまざまな試練や困難に立ち向かっていく。TVアニメ「プリティーリズム・レインボーライブ」のスピンオフとして2016年に劇場版第1作「KING OF PRISM by PrettyRhythm」が公開され、観客がペンライトを振り歓声を送る“応援上映”の盛り上がりでも話題を集めた。前作の劇場版「KING OF PRISM ALL STARS -プリズムショー☆ベストテン-」から約4年の時を経て公開された最新作「KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-」は、2019年に上映およびテレビ放送された「KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-」に新規パートを加えて再構成したもの。11月23日時点で興行収入4億円を突破している。
話を聞いたのはこの人
磯輪のぞみ(エイベックス・ピクチャーズ)
「KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-」より「KING OF PRISM」シリーズのプロデューサーを務める。これまで携わった作品にはTVアニメ「オリエント」や「Dance with Devils」などがある。
Moon SooHong(CJ 4DPLEX)
4DXやSCREENXといった上映システムを開発した韓国の企業・CJ 4DPLEX社で、映像プロデューサーを務める。ハリウッド作品から「KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-」まで、同社が手がけるアニメーション作品のSCREENX制作を一手に担う。「KING OF PRISM」ではミナト推し。この日もさまざまなミナトグッズを身に着けてインタビューに臨んでくれた。
きっかけは「AnimeJapan 2024」での3面スクリーン
──磯輪さんは今作から「キンプリ」のプロデューサーを担当されているかと思います。本作公開後のファンの盛り上がりをどのようにご覧になっているかなど、公開から数カ月経っての今の素直なご感想をお伺いできますか。
磯輪のぞみ ずっと作品についてきていただいている熱いファンの皆さんがいることは認識していましたが、前作からかなり期間が空いていましたし、果たしてどれだけの人が来てくれるのかという不安がある中で、企画・上映がスタートしました。映画は公開から1カ月ほどで上映が終了することも多い中、今もさまざまな劇場で上映していただいており、こんなにロングランできているのは本当にありがたいなという気持ちです。
──これまで「キンプリ」では4DXでの上映は行っていましたが、SCREENX上映は「キンプリ」はおろか、日本アニメーション史上としても初の試みとなります。「キンプリ」はこの世で最も面白いエンタメの1つだと確信していますが、作品の規模的にはこうしたタイトルがSCREENX上映されることは極めて異例だと思います。どのような経緯で実現したのでしょうか?
磯輪 もともと、弊社では韓国のアーティストのコンサートライブフィルムのSCREENX版を上映していたという背景があります。そんな中で今年の3月、「KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-」の情報解禁の翌日に「AnimeJapan 2024」がありまして。エイベックス・ピクチャーズとしてブースを出していたんですが、その企画の1つとして縦長のスクリーンを3面使って「キンプリ」の応援上映の体験ができるというコンテンツを提供したんです。そこにいらっしゃったCJ 4DPLEXの方から、「これができるのであればSCREENXも可能ではないか?」というご提案をいただいたのがきっかけです。
Moon SooHong CJ 4DPLEX社の社内では、エイベックスさんとこれまで取り組んできたようなアーティストのライブ映画以外のジャンル、特に日本のアニメーション作品にSCREENXを広げていくべきだ、という考えがありました。ハリウッド作品では実写に加えてアニメーションのSCREENXに取り組み始めていましたが、日本の作品では実写映画でしか実績がなかった。では実際に日本のアニメをSCREENXにするとして、どんな作品がいいかと社内で検討していた段階で、社内の人間がエイベックス・ピクチャーズさんのブースを拝見したんです。そこで「キンプリ」とSCREENXの相性のよさを確信しました。SCREENXが提供できる“没入感”を活かすことができますし、プリズムショーや作品の内外で行われるペンライトを使った応援というスタイルが、CJ 4DPLEXがこれまで手がけてきたコンサートライブフィルムとも似ていて。日本のアニメーションを初めてSCREENX化するのであれば、「キンプリ」が一番フィットしているだろうと考え、エイベックス・ピクチャーズさんに「ぜひやってみたいです」と提案させていただきました。
SCREENX制作は“空間の再構成”
──CJ 4DPLEXさんのほうからのご提案だったんですね。その後実際にご覧になって、「KING OF PRISM」という作品への第一印象はどんなものだったのでしょうか?
Moon もともと「キンプリ」は韓国でも有名な作品で、日本アニメにおいて応援上映というスタイルの開拓者であることもよく知られていますし、独特な文化を持ったコンテンツであることは私も知っていたのですが、SCREENXの制作以前は作品そのものを観たことはありませんでした。今回、制作を始めるにあたって「KING OF PRISM by PrettyRythm」「KING OF PRISM -PRIDE the HERO-」「KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-」をすべて拝見しましたが、特に一条シンらエーデルローズ生7人を描いた「Shiny Seven Stars」はユニークな笑いやキャラクター造形、ストーリー性が面白くて一気見してしまいました(笑)。スタァたちに愛情を持つようになると、今回の「KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-」で披露される彼ら1人ひとりのプリズムショーが大事なものだと思うようになりましたし、ショーのディテールに込められた意味を知ることもできました。例えばミナトにとってのマグロや、カケルにとっての動物たちが持つ意味など、ステージに配置されたどんな小さな要素にも意味が込められていることがわかって、そうした観点からもSCREENXとの相性のよさを確信しました。
──「KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-」はSCREENX化する意図がなく制作されたものだと思います。SCREENX版の画角の調整はかなり苦労されたのではないでしょうか?
Moon 確かに企画段階からSCREENX化、つまり左右のスクリーンが想定された作品ではありませんでしたが、実はほかのハリウッド作品などでも基本的にそこは同じです。ただ、今後は企画段階からSCREENXを念頭に置いた作品も増えるかもしれませんね。「KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-」の場合は、第一に「どうすればファンが一番喜ぶんだろう?」という観点から制作が始まりました。画角の調整に関しても「キンプリ」という独特な作品自体の魅力や、ファンとのつながりを意識して行っています。
──そもそもSCREENXのウイング部分の制作とは、具体的にどういった手順で行われるものなのでしょう。
Moon 実写映画の場合、現場で撮影された素材やVFX、3Dモデルを再配置し、自社のVFXスタジオで左右のウイング部分を制作しながら、「どこにカメラがあるのか?」を意識して空間そのものを再構成していきます。ただ、アニメ映画は少し事情が変わります。例えば「カンフー・パンダ4 伝説のマスター降臨」では私がドリームワークスの制作ラインに直接出向き、SCREENXにおいて必要になる素材をレンダリングしてもらいました。つまり、必要な素材をどれだけいただけるか、そして制作会社とどれだけ緊密な関係を持てるかがSCREENX化において重要となります。
磯輪 アニメ制作会社さんにとって自社で保有している素材は“財産”なので、そうした素材を外部に提供していただくこと自体が高いハードルです。そのため、ご提案をいただいてからすぐにSCREENX化が決まったわけではなく、まずはSCREENX化について本作のアニメ制作をご担当いただいているタツノコプロさんや、本作を制作いただいたクリエイターの皆様にご納得していただけるか、どういう素材をどのような形ならお渡しいただけるか、どういう素材があればSCREENX制作ができるのか……といったすり合わせを重ねて、今回のSCREENX化の実現に至ったという流れですね。
Moon 今回は日本アニメ初のSCREENXであり、CJ 4DPLEX社としてもこれまで経験がない試みでした。参考にできる作品がまったくないわけです。素材の調達という点でも、ハリウッドのアニメ制作会社とはやり取りがありましたが、日本のアニメ会社とは経験がありませんでした。そうした意味で、制作上のハードルがあると考えていましたが、結果としては、タツノコプロさんからもたくさんのアイデアを提示していただき、制作全体の過程が今までにないほどスムーズでした。さまざまなアイデアやフィードバックをいただきながら制作をするのが楽しかったですし、その結果としてファンの皆さんが楽しんでいただけるものになったのではないかと思います。
「十王院のロゴが左右に出たら面白いと思います」
──左右に空間が広がるだけでなく、劇中に登場するテレビCMのシーンで、十王院グループのCMのウイング部分に十王院マークが表示されていたり、「ドラマチックLOVE」でクリスマスの飾りやスタァの姿を映すなどの遊びも印象的でした。
Moon 劇場での試写を行う前に、シミュレーションの状態で磯輪さんとタツノコプロさんに2回ほどQC(クオリティチェック)として観ていただいたんですが、最初はCMパートにはウイング部分がなかったんです。十王院グループだけでなくハニープロテクトのCMも同様で、CMならウイングは必要ないのではないかと。ところが、タツノコプロさんからいただいたフィードバックの中に、「十王院のロゴが左右に出たら面白いと思います」「ハニープロテクトがシュッと左右から入ってきたら面白いと思います」といったものがあり、「なるほど、確かにファンが喜んでくれそうだ」と思って入れ込みました。
「ドラマチックLOVE」のクリスマスの飾りは、CJ 4DPLEXのVFXアーティストのアイデアです。クリスマスライブで披露されたプリズムショーなので、その雰囲気を表現できる素材を配置しました。また、左右に現れるスタァの姿はSePTENTRIONからのファンサービスでもありますが、ファンの皆さんにもっともっとSePTENTRIONを見てほしい!という我々の思いも込められています。
──磯輪さんはSCREENX版について、どういう観点から監修を行ったんでしょう?
磯輪 私のほうから相談させていただいたのは、予告との兼ね合いです。SCREENX版の予告編もCJ 4DPLEXさんに制作していただいているんですが、本編をご覧になったときにファンの皆さんがガッカリされないよう、ウイングは予告以上にというお願いをさせていただきました。先ほどの十王院のロゴなど、面白いアイデアはほとんどタツノコプロさんの発案です。
Moon SCREENX版の制作はもともとタツノコプロさんが想定していなかったものにもかかわらず、「SCREENXでスクリーンを広げるならこうすればもっと面白くなるんじゃないか、こうすればいい効果を生むんじゃないか」というアイデアを先に出していただけて、フォーマットへの理解やリスペクトが非常に感じられました。日本においてSCREENXはまだそこまで馴染みのあるフォーマットではないと思うんですが、タツノコプロさんは深い理解をお持ちだなと。CJ 4DPLEX内部の試写でも十王院のロゴは大ウケしていましたし、ファンも喜んでくれるだろうと確信しました。公開が始まってからXの反応を見ていたんですが、モニターを3つ置いて十王院のロゴを左右に並べて「これで私もSCREENX」というポストを見かけて爆笑しました(笑)。「やっぱりロゴを入れてよかった!」と思いましたね。
五十嵐雅さん、本当にカッコいい
──ほかに、「キンプリ」のSCREENX制作は特にここが楽しかった、というところを教えてください。
Moon 制作にあたってしっかりと「キンプリ」を観ることになって、それまでは笑える部分がある作品だとは知らなかったんですよね。例えばOver The Rainbowのパートでも、「ここは笑っていいところなのか? ファンはどう思っているんだろう?」と混乱することもありましたが(笑)、自分でファンの反応を調べたり、「キンプリ」に対する知識を増やしていったりしながら解消していきました。私はミナトの次にカヅキさんが好きなのですが、プリズムアフレコのシーンを観てドキドキしたりかわいいなと思ったりもして、そうやってスタァそれぞれの個性を知りながら、そしてときに笑いながら作業をしていったのはとても楽しかったです。
──今名前が挙がりましたが、10月の舞台挨拶で寄せられたメッセージでもおっしゃっていた通り、Moonさんはミナト推しなんですよね。ミナトのどんなところがお好きなのでしょうか。
Moon 最初にミナトにハマったきっかけは、「KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-」の楽曲の中で「Sailing!」が一番好みに合っていたのと、あと声がとてもイケメンだなと思いました(笑)。試写で映像を観た際に、ミナトのプリズムショーの海と宇宙というワイドな情景がSCREENXと一番フィットしそうだなとも感じました。その後「SSS」を観たときも、ミナトのエピソードが一番響きました。私も長女で、これから親孝行もしないとだし大変だな、という思いがあるんですが、ミナトは海のように広い心を持って、家族だけでなくエーデルローズのみんなをしっかり守っていく。その姿に魅力を感じました。10月の舞台挨拶の後、声優である五十嵐雅さんが、「海を隔てていても、同じ感動を得られるんだ」と韓国語でポストしてくれたんです。韓国の「キンプリ」ファンとしてとても心に響きましたし、制作チーム全員が感激の涙を流しました。ミナトと同じように、五十嵐さんも温かい方だなと思いファンになりました。声も顔もイケメンです。(日本語で)五十嵐雅さん、本当にカッコいい!
“没入感”と“現場感”を楽しんでほしい
──最後に、SCREENXで観る際にぜひ注目してほしいポイントがあれば教えてください。
Moon SCREENXは、正面のスクリーンに加えて左右にウイングを設置し、作品への没入感を出すためのフォーマットです。CJ 4DPLEXとしては、映画の鑑賞文化や映画自体が変わっていく中で、SCREENXは新技術を用いて最先端のフォーマットを提供しているという誇りをもって制作しています。常に念頭に置いているのは、空間の拡張性をどうやって提供するかという点です。それがライブドキュメンタリー映画であるなら“現場感”をどう伝えるかが重要になってくるのですが、「KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-」も同じことを意識していました。例えばユキノジョウのプリズムショーでは、最初の定式幕を左右のウイングの端から端まで広げることで空間の広がりを演出しています。それ以外にも、CMシーンのハニープロテクトだったり十王院のロゴだったりでも、また異なった“現場感”を出そうとしています。観客のペンライトもただ配置したのではなく、「どうすればプリズムショーのど真ん中にいる気分を味わえるか?」を意識しています。通常の上映と比較して空間がどう拡張されているか、どうやって“現場感”を演出しようとしているかを感じていただけるとうれしいですね。
磯輪 通常のSCREENXだと、ウイング部分をこんなに長い時間使うことはないそうです。今作は本編対SCREENXのウイング効果比率が過去最大となります。それはQCの時に「ここ足せますか?」「ここも足せますか?」という相談ばかりしてしまった結果ではあるんですが(笑)、それにご対応いただいてとても感謝しています。「キンプリ」の場合、応援上映も加わるので、観ている感覚としては普通の映画の10倍、20倍の没入感を味わえる作りになっています。ぜひそこを観ていただければなと思っています。
Moon SCREENX版の上映が始まる前に、日本へ「キンプリ」の応援上映を観に行ったんです。でも応援上映がどんなものかを知らなかったので、例えばハニープロテクトの胸を叩くところで手を叩いたりとかができず(笑)、もっと勉強してから行くべきだったと思いました。今度来日する際も応援上映に行く予定なので、次はばっちり手を叩きたいです!
(c)T-ARTS/syn Sophia/エイベックス・ピクチャーズ/タツノコプロ/KING OF PRISM Project