「遊☆戯☆王」シリーズのデュエル構成・彦久保雅博に聞く、熱き決闘の舞台裏

TVアニメ「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ」ビジュアル

20年以上の歴史を持つテレビ東京版のアニメ「遊☆戯☆王」シリーズには、「監督」「シリーズ構成」などと並んで、ほかのアニメでは見かけない「デュエル構成」という役職がある。字面からなんとなく内容を想像できそうなものの、いざ「一体どのような仕事なのか?」と問われると、長年のファンでも明確に答えられる人はいないのではないだろうか。そこでコミックナタリーではデュエル構成をシリーズ初期から担当し続けている彦久保雅博に取材。具体的な仕事内容や、それが作品のどんな魅力につながっているのかを聞いた。

取材・文 / 齋藤高廣

原作のデュエルをOCGルールで描いた第1作

──まず初めに彦久保さんの経歴を教えていただけますか。

アニメ専門学校のゲーム系学科を出て、最初はゲーム会社でアーケードゲームの開発、企画、ディレクションなどをやっていました。そのあとフリーになりまして、ゲームの開発に何本か携わらせてもらっているうちにアニメ「遊☆戯☆王」シリーズに関わることになり、今はこっちがメインになってますね(笑)。アニメ「NARUTO -ナルト-」シリーズの忍術創案もやっていた時期がありました。

──どのような経緯で「遊☆戯☆王」シリーズに携わることになったのでしょうか。仕事中に「マジック:ザ・ギャザリング」のデッキを組んで遊んでいたところを見つかったのがきっかけという話をどこかで拝読したのですが……。

その通りです(笑)。開発に携わっていたゲームの現場で遊んでいたのを、そのゲームのプロデューサーに見つかってしまって。その方がのちに「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ」(以下「DM」)にも携わることになり、「お前カードゲーム好きだったよな」と声をかけてもらいました。その連絡が来たのがアニメ放送前の1999年冬頃だったかな。

──「DM」当時はまだ役職名が「デュエル構成」ではなく「デュエル設定」でしたね。このときはどのような仕事をしていたのでしょうか。

原作の「遊☆戯☆王」で描かれているカードゲームと、そのとき実際に子どもたちが遊んでいた「遊戯王オフィシャルカードゲーム」(以下OCG)はルールが少し違うんですね。そこでアニメ化にあたり、原作のデュエルをOCGのルールで再構成してほしいというオーダーを受けたのが始まりです。「アニメでこの原作シーンをやるなら、ここにこういうカードを入れてサポートすれば同じような展開でいけると思います」みたいなことをダーッと書き連ねて。また「乃亜編」などのアニメオリジナルストーリーでは、デュエルの流れは考えましたが、使われるカードはほとんど原作に登場するものでやりくりしていましたね。

──原作のデュエルをOCGルールに沿って調整するような役割だったと。次作の「遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX」(以下「GX」)からは完全にオリジナルストーリーが展開されていきますが、企画段階から携わっていましたか?

「GX」のときは僕が知らないところですでに企画が動いていたようです。学園ものをやることなどは決まっていて、僕は参加することになったときに「融合召喚を軸にしたらいいのではないか」というアイデアを出しました。当時のOCGではあまり使われていなかったと思いますが、以前から融合召喚は「遊☆戯☆王」ならではの面白いシステムだなと思っていたので……そうしたら高橋(和希)先生も乗り気になってくれて。

──OCGの販売元であるKONAMIから「融合召喚を軸に作ってほしい」という打診があったわけではないんですね。

カードもストーリーも基本的にアニメ制作側が作っていて、KONAMIさんがそれをもとにOCG化を検討するという順番でしたね。とはいえ、もちろんKONAMIさんに提案いただいたカードを使うこともありました。今でもこの体制はあまり変わっていないですが、昔よりもKONAMIさんと連携するようになっています。

──では監督や脚本家と話し合いながら、彦久保さんの方でカードやデュエルの流れを作っているようなイメージでしょうか。

「GX」のときはそんな感じで、「このキャラクターはどういうデッキを使うか」というコンセプトを決める会議を設けていただいていました。とはいえひとくちにデュエル構成といっても時期によってやり方は違って、今はこういう会議はしていないです。でも結局やっていることは同じで、監督と脚本家さんとKONAMIさんにカードとデュエルのアイデアを提案して、「ここはもうちょっと派手にしたいな」といった要望があればそれを受けて調整するという仕事ですね。

──デュエル構成の仕事をするうえで必要な能力はなんだと思いますか?

うーん、わかんないなあ……(笑) 。でもデュエル構成は基本的には調整役なんだろうというか、何か突出したものが必要なわけではないと思っていて。僕よりデュエルに詳しい人、お話作りがうまい人、企画を思いつく人ってそれぞれにいると思うし、どちらかというと僕はどれにも興味があって満遍なくかじっている、広く浅いタイプなんですよね。だからこそやれているのかな、という気はします。カードだってゴリゴリにSFっぽいものから、かわいいものから、ふざけたものからいろんなジャンルがあると思うんですけど、なんとなく全ジャンル作ってきていますし。

──いろんな分野に通じているからこそ、脚本家などそれぞれの分野のスタッフの相談に応えたり、提案したりできるということでしょうか。

そうかもしれないですね。あとは悪ノリができるというか、ものづくり全般を楽しめるということは大切じゃないかと思います。

──彦久保さんにとって仕事していて面白いと感じるところや、デュエル構成をやっていてよかったと思うところはどこですか?

デュエルの流れを作っていて、意図せずにライフポイントがギリギリ残ったり、ちょうど0ポイントになったりすることがあると面白いです。「うわ、こういう数字になった!」って感動して、人に見せたくなりますね(笑)。あとはカード名を考えたとき、一応ほかの版権ものに出てくるネーミングと被ってないか検索するんですが、出てこなかったときは「よっしゃ!」とうれしくなります。

──「遊☆戯☆王」のカードには凝った名前のものも多いですよね。「遊☆戯☆王ZEXAL」(以下「ZEXAL」)に出てくる「No.101 S・H・Ark Knight(サイレント・オナーズ・アーク・ナイト)」というモンスターの名前が印象に残っています。SilentのSとHonorsのHとArkで「シャーク」と読むことができたり、このカードをエースモンスターとして使うナッシュにも関係する名前になっていたり。

あれは綴りを見て「いけるぞ!」と思ったんです(笑)。シャークと呼ばれていた男がナッシュになり、じゃあどんなカードを使うんだよと。そのとっかかりとしてエースモンスターを考えるところから始めて思いつきました。

──カオスエクシーズ・チェンジしたときの名称も含め、まさにナッシュを象徴するようなエースモンスターでした。

あとこの仕事をしていてうれしいのは、子供に喜んでもらえたときです。「GX」に万丈目準という、呼び捨てされると怒って「万丈目さんだ!」と返すキャラクターがいるんですが、放送当時、子供たちが真似して「万丈目ー!」「さんだー!」と楽しそうにふざけているのを見たことがあって。

──なかなかそんな場面に遭遇できることはないですよね。

そうなんです。「万丈目さんだ!」は脚本家の鈴木(やすゆき)さんが考えたセリフで僕発信ではないのですが、作品に参加していた一員として、あの瞬間は一生忘れないですね。この子供たちのことを現場で(脚本家の)吉田伸さんにも話したんですが、実は吉田さんがこのエピソードをきっかけに考えたのが「一! 十! 百! 千! 万丈目サンダー!」のかけ声だったりします。

「バトルシティ編」の闇遊戯vs海馬で自信がついた

──ここからはアニメのエピソードを振り返りながら、具体的なお仕事について聞いていきたいと思います。彦久保さんには事前に、デュエル構成の立場から会心のエピソードを3つ挙げていただきました。まず1つ目は「DM」の第131話「激突!神(オシリス)VS神(オベリスク)」です。

「オシリス」と「オベリスク」の戦いは原作でも少しだけ描かれていますが、このエピソードはアニメオリジナルの要素が多いんですね。脚本を担当した吉田(伸)さんに「神と神の激突、もっと見たいよね」と言われ(笑)、展開を膨らませることになったんです。でもその後の展開を原作と揃えなければならないうえに、「オシリス」は手札の枚数によって攻撃力が変わるので、それも調整しなければいけない(笑)。しかも2体のバトルは描きたいけど、両方ともすぐに破壊されないようにしなくてはならず。難しかったですけど、やってみたらなんとかできたので自信がつきました。

──このエピソードは闇遊戯の手札の増減や、魔法・罠カードの応酬が激しく、とてもスリリングでした。「DM」でも指折りの印象的なエピソードです。

ここが印象に残っているという方は多いと思うのですが、実はかなりアニメオリジナル要素が多いということは意外と言われていなくて。僕と吉田さんは内心密かにガッツポーズしています(笑)。

──2つ目に挙げてくださったエピソードは「GX」の第140話「空前絶後・超融合発動!」ですね。

ここを選んだ理由は、エピソードもそうですが「超融合」というカードへの思い入れが強いからですね。「GX」では「融合って魅力的なカードだよね」ということを表現したかったのですが、「超融合」はいわばその集大成と言えるカードで。

──ほかにも「GX」ではそれこそジムが使う「化石融合-フォッシル・フュージョン」や、亮が使う「パワー・ボンド」など印象に残る融合カードが数多く登場しますが、そのあたりも融合召喚の幅を広げるために考案したということですね。

そうですね。

──彦久保さんの脚本回でもありますが、ジムのデッキテーマでもある「化石」に絡めて、化石を発掘することと十代の心の奥に迫っていくことが重ね合わされているのが印象的でした。

僕はカードの名前やテキストとキャラクターの思いが重なるような展開が好きなんです。だから自分で脚本を書くときは、そういう展開にするために最初に作っていたデュエルを脚本に合わせて変えちゃったりしますね。またほかの脚本家さんと仕事をするときは、例えばデュエルが一方的な展開になると負けている側に強気なセリフを言わせづらかったりして、ドラマの起伏も作りづらくなるので、デュエルとドラマのバランスについては「こうしたらどうですか」と提案させていただくことがあります。

──確かに「遊☆戯☆王」シリーズのセリフ劇はデュエルの二転三転する展開に合わせて作られているものが多いですね。さて3つ目に選んでいただいたエピソードは、「遊☆戯☆王5D’s」の第33話「復讐の劫火!かつての友 鬼柳京介」です。

このエピソードは“インフェルニティ”という新しいテーマを提案できたのがよかったんです。

──鬼柳が使うインフェルニティデッキは、手札が0枚のときに強力な効果を発揮する“ハンドレスコンボ”が特徴ですね。

実は僕は、正直カードゲームの魅力は、原作の「遊☆戯☆王」が一通り表現し尽くしていると思っているんです。例えばデッキ破壊とか、特殊勝利とか。こちらは原作がやったことをちょっとずつアレンジさせてもらっているだけで、あんまりそこにオリジナリティはないと思っていたんですよ。その点で、インフェルニティは唯一「俺が考えた」と言えるテーマなんです。そこが気に入っています。

──インフェルニティのギミックはどのように思いついたのでしょうか。

遊星やその仲間たちってゴリゴリに強いじゃないですか。そこにかつて遊星、ジャック、クロウをチームリーダーとして率いていたほどの奴が出てくるとなったら、なんかカッコつけなきゃいけないなっていう気持ちがあって。そこで必殺コンボを持っているほうがいいよねと、インフェルニティを考え出しました。今でも「カードゲームで手札0枚が強いなんて、普通は思い付かないだろう」って思いますね。

──確かに、普通カードゲームでは「手札=アドバンテージ」という思い込みがありますよね。その点では、遊星が「奇跡の軌跡(ミラクルルーカス)」という罠カードを使う第35話のシーンも印象的です。相手が1枚ドローするという効果は手札を与えてしまうので本来デメリットのはずだけど、それを逆手にとって鬼柳のハンドレスコンボを封じるという展開には驚きました。

ありがとうございます(笑)。視聴者をどう驚かせるかということは常に考えていますね。「そんなことするんだ!」って展開はやっぱりエンタメになると思うので。

一番デュエル構成が難しかったのは「VRAINS」、モンスター勢揃い展開は「最初から覚悟している」

──「5D’s」の後も「ZEXAL」ではエクシーズ召喚、「遊☆戯☆王ARC-V」(以下「ARC-V」)ではペンデュラム召喚、「遊☆戯☆王VRAINS」(以下「VRAINS」)ではリンク召喚と、新しい召喚方法がどんどん作られていき、デュエルも複雑化していきますよね。ついていくのも大変だったのではないでしょうか。

そうですね。「ARC-V」のペンデュラム召喚やペンデュラムモンスターの設定も大変でしたが、特に難しかったのは「VRAINS」です。OCGもこの頃にはデュエルの展開が高速化していて、できることも多くなっていましたから。「ここでこれをやらない理由がないよね」となってしまう。

──やれることは増えたけど、そのぶん最適解が強すぎて、アニメのデュエルを作る立場からすれば選択肢がなくなってきてしまったというか。

そうなんです。例えばSoulburnerの転生炎獣デッキはよく回るので「これを使うと絶対にこのルートを通って強いモンスターが出てきちゃうよね。そうすると勝っちゃうな」みたいなことがあって(笑)。勝たない展開を作るのが難しいんですよ。シリーズ構成の吉田(伸)さんに「エクストラリンクやりたいよね」と言われて作ったデュエルなんかも、エクストラリンク自体はなんとかなるけど、「なんでわざわざそんな面倒なことをするの」というドラマ上の必然性を持たせるのが大変だった。それに必殺級の強力モンスターが何体も並ぶので「これすぐ勝っちゃうよ、どうするんだよ」と(笑)。

──考えるのは大変だろうなと思いつつ、視聴者からするとエクストラリンクは大変見応えがありました。ほかには「ZEXALII」第141話の遊馬VSナッシュで、ナッシュとその仲間たちのエースモンスターであるオーバーハンドレッド・カオス・ナンバーズの7体が揃うくだりがありますよね。ああいう召喚の条件が厳しいモンスターを何体も並べなければならない勢揃い展開も難しいと思うのですが、どうですか?

ああ、でもああいうのは最初から覚悟してるんですよ、「どうせやるっていわれるんだろうな」って(笑)。ある程度は前もって準備しています。でも「絶対こんなことできないだろうな」って視聴者が思っているものほどやってみせたい気持ちはあって、大変ですけどやり遂げたときの喜びは大きいですね。

──彦久保さんは3つの劇場版にも携わっていらっしゃいますよね。これらの仕事もTVシリーズとは作り方がだいぶ違って苦労されたのではないかと思うのですが、劇場版ならではの工夫はありましたか?

劇場版ではなるべくデュエルが複雑にならないように気を付けていました。「遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS」のデュエルは複雑になっちゃったかなという気はするのですが、その分、何が起こっているのかが視覚的にわかるような演出にしようと桑原(智)監督と話していましたね。モンスターがパワーアップしていることなどは映像を見ればわかるようにしようと。これはTVアニメとは違う作り方でしたね。

アニメのシーンを現実で再現できるのが「遊☆戯☆王」シリーズの醍醐味

──2020年から、彦久保さんはOCGとルールが異なる「遊戯王ラッシュデュエル」(以下、ラッシュデュエル)を扱った「遊☆戯☆王SEVENS」でデュエル構成を担当されています(※取材は「SEVENS」放送中の3月下旬に行われた)。この作品では制作陣も一新されていますが、今までと大きく仕事のやり方が変わった点はありますか。

大きいのは、カードについて最初からKONAMIさんと擦り合わせるようになったところですね。「GX」の頃からアニメでのカードの登場と、発売のタイミングを合わせたいという野望があったんですが、理想に近い形でそれができるようになってきています。

──「遊戯王ラッシュデュエル」は通常召喚(※)の回数制限がない、手札が5枚になるようにドローできるなどスピーディーなルールが売りかと思うのですが、OCGとはいわゆる“インフレ”の仕方が違うのでしょうか。

※モンスターや魔法カードなどの効果を使わずに、手札からモンスターをフィールドに召喚またはセットすることを通常召喚という。OCGでは基本的に、通常召喚を1ターンに1回しか行うことができない。

そうですね、また方向性が違うと思います。今のところはいい塩梅のインフレで調整できていると感じますね。一発逆転できるようになっているし、自分で遊んでいても、デュエル構成を考えていても楽しいです。カードについて言えば「SEVENS」は作風がコミカルなので、「ZEXAL」のときに多かったようなおふざけカードをいっぱい作れていますね。

──4月から放送の「遊☆戯☆王ゴーラッシュ!!」も楽しみにしております。最後に「遊☆戯☆王」シリーズの魅力だと思う点について、お聞かせください。

やっぱり、実際のカードを使ってアニメのシーンが再現できるところですかね。ロボットアニメなんかだとなかなかロボットに乗って……というわけにはいかないですから。カードさえあればあとは想像力で補って、ごっこ遊びができることが「遊☆戯☆王」シリーズ最大の魅力なんじゃないかと思っています。

彦久保雅博(ヒコクボマサヒロ)

ゲームクリエイター、脚本家。専門学校を卒業後、ゲーム会社に就職したのちフリーに。2000年に放送スタートしたアニメ「遊☆戯☆王」シリーズのデュエル構成を担当しているほか、「NARUTO-ナルト- 疾風伝」の忍術創案も務めた。

(c)スタジオ・ダイス/集英社・テレビ東京・KONAMI