JO1・鶴房汐恩がアニメ制作現場に行く前に
アニメ好きを公言し、過去にインタビューで「いつかアニメをプロデュースしてみたい」と語っていたJO1の鶴房汐恩さん。そんな鶴房さんのアニメプロデューサーへの道を応援すべく、アニメ作りをイチから学んでもらう連載をスタートさせることになりました。「とある魔術の禁書目録」「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」シリーズなどを手がけるアニメ制作会社・J.C.STAFF協力のもと、制作スタジオ、アフレコスタジオ、音響制作会社など、アニメが作られるさまざまな現場を鶴房さんが見学しに行きます。
まずは現場見学に行く前に、鶴房さんにこれまでのアニメ遍歴を聞いてみました。またJ.C.STAFFの松倉友二プロデューサーをお招きし、鶴房さんがインタビュアーとなってアニメにまつわる気になるアレコレを質問しています。さらには連載タイトルを悩みに悩んで決める様子もお届け。鶴房さん直筆の取材後記まで、大ボリュームの内容をお楽しみください。
取材・文(松倉友二への取材は除く) / 西村萌 取材(松倉友二)・取材後記 / 鶴房汐恩 撮影 / 上山陽介 ヘアメイク(鶴房汐恩) / 佐々木美香 スタイリスト(鶴房汐恩) / 増田翔子
目次
鶴房汐恩インタビュー
現実逃避でアニメを観てみた
──鶴房さんの連載、いよいよ始まります。いつかアニメプロデューサーになることを目指して、アニメがどうやってできるのか学んでいきましょう。
よろしくお願いします。
──今日はまず、鶴房さんのアニメ遍歴を伺えればと。事前のアンケートでは「ニセコイ」がアニメにハマるきっかけとなったと答えていましたが、これはリアルタイムでご覧になったんですか?
リアルタイムじゃなくて、韓国にいた頃なので2018年の5月くらいですね。高3のときに韓国に行って芸能事務所の練習生になったんですけど、最初は言葉もわからないし、日本人も周りにほとんどいなくて。それまではアニメに対してあんまり関心がなかったんですけど、あまりにもその状況がつらすぎて現実逃避のつもりで観てみたんです。そしたらめちゃくちゃ面白くて。
──「ニセコイ」の世界に逃げ込んでいたんですね。
そうです。うらやましいなーって観てて(笑)。
──自分はこんなにも大変なのに、画面の向こうのキャラクターは青春を謳歌してる、と。
はい(笑)。ほかのアニメを観てても、この世界に行ってみたいなっていうのをずっと考えてました。ネットで異世界に行く方法を調べたら、なんかの文字と記号を書いた紙を枕の下に入れて眠るっていうのを見たんで、1回やってみたこともあります。まあ、行けるわけなかったですけど(笑)。
──あはは(笑)。
今の僕があるのは、あのときの大変だった経験があったからこそだと思いますけど、当時は本当にアニメに支えられたなと思います。
歌詞にエスカノールの「天上天下唯我独尊」を
──今はどれくらいのペースでアニメを観てるんですか?
最近はありがたいことに忙しくさせてもらっているので、週に2話ぐらいしか観られてないです。今だと「七つの大罪 憤怒の審判」と「呪術廻戦」ですね。
──アンケートでも、好きなアニメベスト3に「七つの大罪」を入れてましたね。
「七つの大罪」は第1期がけっこう残酷やったんですよ。人がいっぱい殺されたり、キングってキャラクターが親友のヘルブラムを自分の手で殺すシーンがあったりっていうのでめっちゃ泣いて。僕、泣く=大好きになる人なんで。
──泣くほど心動かされたということですもんね。好きなキャラクターはいますか?
十戒のエスタロッサが好きです。常に自分のペースを崩してないところがいいなと。大罪の中だとエスカノール。この前、JO1の曲で歌詞をメンバーと分担して書いたんですけど、僕のパートにはエスカノールの技から「天上天下唯我独尊」っていう言葉を入れたんです(笑)。
──言われないと絶対に気付かないですね(笑)。
エスカノールも傲慢の罪なだけあって、自分を持ってるところがカッコいいなと思います。
「変猫」はハッピーエンドだからこんなにも好き
──お好きなアニメベスト3に挙げていた「ノーゲーム・ノーライフ」と「変態王子と笑わない猫。」についても教えてください。
「ノーゲーム・ノーライフ」はほんま何回観たやろ。全体を通してだったら5回ぐらい観てて、好きなシーンだけだったら10回以上は観てますね。この後に何が起きるとかもわかってるんですけど、それぐらい好きです。
──その繰り返し観たシーンはどこですか?
主人公の『 』(くうはく)が、フリューゲルっていう種族のジブリールと具象化しりとりで戦うところです。終盤の駆け引きがもうめちゃくちゃすごいんですよ。カッコよすぎるなと。
──『 』は毎回のゲームで視聴者の想像を超えてきましたよね。
もしかしたら、この作品がアニメプロデューサーになりたいって思った原点かもしれないです。こういうふうに観る人をいい意味で裏切るようなアニメを僕も作りたいなと思って。
──そうなんですね。もう一方の「変態王子と笑わない猫。」は、今日この後お話を聞くJ.C.STAFFのアニメプロデューサー・松倉友二さんが制作に携わった作品です。
実は僕、アニメの中で一番好きなのが「変猫」なんです。正直タイトルだけ見たら、普通のラブコメなんかなって思うじゃないですか。まあラブコメではあるんですけど、けっこう深い内容というか、これもまた予想を超えてくる展開で。やりよるな、と(笑)。
──最終話は見事ですよね。陽人がなぜ幼少期の記憶をなくしているのかが明らかになる。
あそこは泣きました。しかもハッピーエンドでしたよね。やっぱり悲しい結末だと、こうなってほしかったとか、僕やったらこうするのにとか思っちゃうんです。「変猫」は面白くてハッピーだから、たぶんこんなにも好きなんやと思います。
拓実くん、「五等分の花嫁」に関しては僕より詳しい
──最近、JO1のメンバーにおすすめしたアニメはありますか?
大平祥生に「盾の勇者の成り上がり」をおすすめしました。僕、異世界系のアニメをめちゃめちゃ観るんです。その中で主人公が最初から強いのもいいんですけど、弱いところから経験を積んでいって徐々に強くなっていくみたいのも好きで。やっぱりはじめは観てて悔しいんですけど、後から逆転するのがスカッとして気持ちよくて。祥生も同じ感想を言ってました。
──JO1では木全翔也さんもアニメ好きとして知られていますが、鶴房さんと大平さんと木全さんで一緒にアニメ鑑賞をされたこともあるそうですね。
そのときは「リゼロ(Re:ゼロから始める異世界生活)」を観ました。僕はもう観てたんですけど、どうしても2人におすすめしたくて強制的に観させました(笑)。
──あはは(笑)。おふたりはなんと言ってました?
祥生は泣いてましたね。第18話とかだったと思うんですけど、スバルがどうがんばっても死に戻りしてしまって、もう限界だってなったときにレムが言葉をかけてくれて。「スバルくんと結婚して、将来子供が生まれたら……」みたいなことを言ってる時点でもうやばそうやったんですけど、最後に「……いいえ、ゼロから!」のときにはもう号泣で。祥生、そのシーンだけ何回も観てるって言ってました。
──そういえば、川西拓実さんと佐藤景瑚さんも最近アニメにハマっていると耳にしました。
景瑚くんとは「七つの大罪」の話をよくしますね。アニメも観てますけど、マンガのほうを全部読んでるみたいで。拓実くんのほうは、そのハマってるアニメって「五等分の花嫁」だと思うんですけど、「あのシーン好きや」とか「誰推しなん?」とかめっちゃ言ってくるんですよ。たぶん「五等分」に関しては僕よりも詳しいと思います。
──意外な一面です。川西さんは誰推しなんですか?
えーと、二乃やったかな。拓実くん、最初に「この素晴らしい世界に祝福を!」を観てて、めっちゃ面白いって言ってたんです。その後すぐに「五等分」を観はじめて、1日で全部観たって言ってたんで、けっこうオタクの素質あると思います。
──ちなみに先ほど話題に少し出ましたけど、鶴房さんは「リゼロ」のレムと「彼女、お借りします」の更科瑠夏を“俺の嫁”としてたびたびご紹介されていますよね。2次元で好きになるキャラクターに共通点ってありますか?
やっぱり自分のことを好きでいてくれる人かなって思います。「変猫」の月子もそうですけど、主人公のことをめっちゃ好きじゃないですか。振り向いてもらえるように一生懸命なのがかわいらしいなあって。だから容姿とかはあんまり関係ないかもしれないです。
──そうなんですね。推しのグッズとかは買ったりしますか?
レムのフィギュアは持ってます。でも3年前とかだったら、欲しくても絶対恥ずかしくて無理やったんですよ。でも逆に今はオープンにしてて、ファンの人たちにもフィギュアの影が見切れてる写真を「嫁の影が映ってます」ってメールで送ったりして。
──それにはどういう心境の変化があって?
自分のモットーが“素”なんですけど、ファンの人たちに僕のことをもっと知ってほしいなと思って。ありがたいことに、みんなギャップがいいとか、隠してないところがいいって言ってくれて。そうやってありのままの自分を受け入れてくれるのが本当にうれしいなと思ってます。
異世界系のアニメだったら主役は祥生
──ここからは本題に入って、アニメ制作についてお話していきましょうか。先ほども「ノーゲーム・ノーライフ」がアニメプロデューサーになりたいと思った原点とおっしゃっていましたけど、声優さんとしてアニメに出たいとか、アニメーターとして絵を描いてみたいとかではないのが少し珍しいですよね。
絵を描くこともめっちゃ好きなんですけど、歌詞を書いたり、頭の中であれこれ考えたり、そもそも自分で何かを作ることが好きなんです。だから声優さんとかアニメーターより、企画をイチから考えるプロデューサーになりたいなと。アニメを作るのって簡単なことじゃないと思うんですけど、挑戦してみたいです。
──アニメプロデューサーになったら作りたいアニメの構想はあるんですか?
やりたいこと言うのはタダですもんね(笑)。まずはやっぱり、最初に僕を救ってくれた「ニセコイ」みたいなハッピーエンドのラブコメを作りたいです。主人公は変わってるというか、僕みたいな人。好き勝手やって、友達とふざけてばっかで、全然モテない感じのキャラクターがいいです。だけど、そのアニメではなぜかヒロインたちに取り合いされるみたいな。たぶん僕、肯定された自分を作りたいんだと思います。
──というと?
この業界に入ると、優しい意見もあれば、やっぱり厳しい意見もあるじゃないですか。だけどアニメの中ではそうやって全部肯定されるのもいいなって。
──なるほど。その主人公役をJO1のメンバーに演じてもらうなら誰にしますか?
それはやっぱり自分です。
──プロデューサー兼主役なんですね。
欲張りですかね(笑)。でもラブコメじゃなく、異世界系やったら祥生かな。
──その理由は?
祥生の声ってけっこう特徴的というか、僕の中では主人公の声で。メンバーに豆ちゃん(豆原一成)って子がいて、最年少なんですけど、JO1が結成されたオーディションでも1位でデビューして、世間の人からすると主人公的なポジションに見えると思うんです。祥生は野心がありながらも、それを前面には出さずに自分の中に秘めがちな子。だから僕の好きな主人公が成り上がっていく系のアニメだったら、祥生にやってほしいなって思います。
美術背景は全部手描き?撮影部ってなんですか?
──この後は鶴房さんにインタビュアーとなってもらい、アニメプロデューサーとはどんなお仕事なのかを松倉さんに聞いていただきます。緊張しますか?
僕、そんなに緊張しないタイプなので大丈夫です。
──お、頼もしいです。ではインタビューの前に資料を見て、大まかにアニメ制作の流れを頭に入れておきましょう。
すご! こんなに過程があるんですね。
──部門ごとの業務内容も見られますよ。
へえー、美術背景って全部手描きなんかな? あ、この美術背景の後にCG付くんや。
──従来の技術と最新のデジタル技術を組み合わせているそうですよ。
撮影部ってのも、なんですか?
──ええっと、いろんなデータを合わせて最終的なアニメ映像として……。
すみません(笑)。こういうのを直接質問したほうがいいですよね。
──積極的でありがたいです(笑)。ではさっそく、松倉さんをお呼びしましょうか。
松倉友二プロデューサー(J.C.STAFF)インタビュー
作品がより面白くなるようにプロデュースするのが仕事
鶴房汐恩 JO1の鶴房汐恩です。よろしくお願いします。
松倉友二 J.C.STAFFの松倉です。鶴房くん、めちゃくちゃ関西弁だね。
鶴房 え、敬語でも出てますか?
松倉 出てるね(笑)。僕は京都出身なんですよ。
鶴房 僕、滋賀です。
松倉 同じ関西ってだけだけど、それだけで好感度アップ(笑)。
鶴房 ははは(笑)。実はさっきまで僕緊張しないタイプなんでとか言ってたんですけど、今ちょっと緊張してます。
松倉 全然硬くならないでいいですよ。業界的に秘密なこと以外はなんでも答えますので、ざっくばらんに聞いてください。
鶴房 ありがとうございます。じゃあ早速ですけど、松倉さんは今の僕とちょうど同じ20歳のときにアニメ業界に入ったと聞いて。どういう流れで働き始めたんですか?
松倉 実は僕、アニメ業界に入る前はゲーム業界にいたんですよ。
鶴房 似てるけど違いますね。
松倉 そうそう。鶴房くんがまだ生まれる前の時代だけど、ゲーム業界がスーパーファミコンだメガドライブだって盛り上がってる時代。ゲーム業界で働くときのアドバンテージになるかなと思って、アニメの学校に行って勉強してたんです。アニメ勉強してますって体でゲーム会社で働かせてもらうことになったから、学校の授業は適当にこなしつつ(笑)。
鶴房 そしたら最初はアニメもあんまり興味なかったんですか?
松倉 子供の頃は観てたけど、学生時代とかはほとんど通らなかったなあ。だけど縁あってJ.C.STAFFに入社することになって、やっぱり仕事を任されたからには何かしら形にしたいなと思ってがんばったわけですよ。
鶴房 今何年目ですか?
松倉 今年で30年目かな。
鶴房 すげえ……。僕アニメプロデューサーってなりたいって言ったんですけど、どういう仕事なのか詳しくはわかってなくて。
松倉 プロデューサーの仕事としては大体2種類あります。アニメを作るにはお金がかかるでしょう。そのお金を集めた、またはお金を出資してくれたということでクレジットされているプロデューサー。あとは自分みたいに、アニメを実際に作ってるプロデューサーがいるんです。またアニメを作るタイプのプロデューサーにも、自分のやりたいことをスタッフと相談しながら決めていくタイプもいれば、1人で全部こなせちゃうタイプの人もいる。僕はどちらかというと人と話すことで考えがまとまっていくから、自分のアイデアメモをもとにみんなと一緒に詰めていく感じかな。だから思い通りのものができることもあるし、当初考えていたものとは全然別のものになることもある。
鶴房 やっぱり思い通りのものができたらうれしいし、別のものになったら残念って思うんですか?
松倉 うーん、でもそんなことはないよ。別のものになっても、代わりのいいところが当然生まれるからね。作品がより面白くなるようにプロデュースしていくのが僕の仕事でもあるから。自分では思いつかなかった要素を監督とか声優さんが入れていってくれて、1つの作品として形になってくる。その過程が楽しいんだよね。
鶴房 なるほど。作品のアイデアはどういうときに考えてるんですか?
松倉 基本的には常時考えてるね。
鶴房 今でもですか?
松倉 今もです。やっぱり作るからにはウケたいから、今どんなものが喜んでもらえるかとかはアンテナを張るようにしているかな。だから人に会ったときもそうだし、テレビを観てるときもそう。それとはまた別に、自分が何か感じたことを伝えたいっていう気持ちが昂ったときにも企画を立てたりします。
鶴房 僕もパフォーマンスしてないときも、ダンスとか歌のことは常に頭の中にあります。業界は違いますけど同じなんですね。
声には好みが現れる
鶴房 僕、「変態王子と笑わない猫。」がめちゃくちゃ好きで。あれはどういうふうに作っていったんですか?
松倉 あれは映像メーカーさん(DVDなどの映像ソフトを作る会社)から企画の提案をいただいたんですよ。それから原作を全部読んで、どこまでだったら1クールに収まってちゃんとオチもつくのかとかを考えて。カントクさんのキャラクター原案を、あのアニメーターさんにキャラクターデザインしてもらったらどんな絵になるかなあとかいろいろ妄想しました。キャラデザだけじゃなく、監督も脚本もそうですね。どのスタッフでどういうふうに作っていくのかを頭の中で組み立てて。
鶴房 頭こんがらがりそうやわ……。
松倉 ははは(笑)。
鶴房 「変猫」以外にもいろんなアニメを作ってこられたと思うんですけど、ヒットする作品の特徴とかってあるんですか?
松倉 やっぱりキャラクターがいいことかな、生き生きとしていること。ストーリーが面白いというのは大前提ではあるんだけど、話が面白いだけとか、絵がキレイなだけっていうのはなかなかヒットしないんですよ。
鶴房 キャラクターがいいっていうのはビジュアルですか? それとも設定なのか声なのか。
松倉 トータルですね。絵はなるべく上手なほうがいいし、声もキャラクターに合っているほうがいい。あとはそのキャラクターが、ほかのキャラクターと掛け合いをしたときに楽しそうに動いているとヒットに結びつきやすいなと感じますね。
鶴房 そうなんですね。あと個人的にちょっと気になったんですけど、ヒロインに自分の好みとかって反映されたりするもんなんですか?
松倉 声に関しては、割と個人の好みが現れるジャンルかもしれないね。だから自分の中でヒロインをやるべきだなと思う声も、けっこう傾向が偏っちゃったりする。例えば水瀬(いのり)くんなんかは「ダンまち(ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)」でヒロインをやってもらったんだけど、ほかのタイトルでも重要な役によく選んじゃうんですよ。でもいい声だなあと思うから、こればっかりはしょうがないよね。
アニメを観るハードルはなるべく下げてあげたい
鶴房 1話って大体どれくらいで作るんですか?
松倉 いろんな工程を踏むから、1話だと2、3カ月だね。
鶴房 1話だとCM抜いたら20分とかですよね。何カ月もかけて一生懸命作ってるのに、こっちは暇なときに観て、一瞬で観終わっちゃうじゃないですか。そう考えたら、ちゃんと観なあかんなあ。
松倉 それぐらい軽い気持ちで観てほしいっていうのもあるけどね。一番悲しいのはね、観てくれないことだから。いろんな楽しみ方があっていいと思うんだよ。なんでもかんでも、セリフを1つも聞き逃さないようにしなきゃとか思って観るのは疲れちゃうじゃない。
鶴房 そっか、アニメを観ることが苦になっちゃいけないですね。
松倉 できればアニメを観るハードルはなるべく下げてあげたいし、いろんな人に喜んでもらえるように幅もできる限り広げてあげたい。それが、うちの会社のポリシーの“なんでもやる”につながってるのかもしれないね。
鶴房 ちなみに、自分の作ったアニメが完成したら何回も観るんですか?
松倉 うーん、作ってる過程で何回も観てるからなあ(笑)。
鶴房 「飽きた!」みたいな(笑)。
松倉 もちろん、もう一度観たいなって思うタイトルもいくつかはあります。心が弱ったときとかね。
鶴房 僕、けっこう苦しめられてる時期にアニメを好きになったんですけど、プロデューサーさんとかでもつらいときに観たくなるもんなんですね。
松倉 あ、でも僕の場合はまたちょっと意味合いが違うかもしれない(笑)。過去にがんばって作ったアニメを観ると、「あの頃の俺、こんな大変なことができたんだよなあ……」って思えるんだよね。
鶴房 あはは(笑)。自分の気持ちを上げるために観るってことですね。
松倉 そうそう。そのためだけど、よくできた作品とかは結局ホロっと泣いちゃったりね(笑)。
何を作りたいのかを見定めることが大事
鶴房 簡単にアニメプロデューサーになりたいって言いましたけど、今日話を聞いていて、やっぱり大変な仕事やなって思いました。
松倉 いやいや、やりたいっていう気持ちが一番大事だから。この業界って、何かをやりたいって思っている子が何かをできる場所でもあるんです。逆に言っちゃうと、何もしたいことがない人からは何も生まれない。チャンスも巡ってこない業界なので。
鶴房 大変な分、やりがいもありますか?
松倉 やりがいはありますよ! 自分から何かを発信して、それを観た人たちからリターンがくる。喜ばれることもあれば怒られることもあるけど、一般的な仕事をやってるとなかなかそういう反応を得られることって少ないじゃない。だけどアニメは毎週毎週放送があって、そういう機会がしょっちゅうだから。自称だけど“プロデュースタイトル世界一”って言ってしまうぐらいたくさんのアニメを作ってるのは、この仕事が好きだからこそですね。
鶴房 世界一! すごい人と話ししてたんや……。
松倉 僕も、アニメプロデューサーになりたいっていう鶴房くんを応援しますよ。
鶴房 うれしいです。最後に、これから本格的にアニメ作りについて学ぶ僕にアドバイスをいただけますか?
松倉 まずは、アニメプロデューサーとして何を作りたいのかをちゃんと見定めることが大事かな。俺も実際プロデューサーと言ったって、シナリオが書けるわけでもないし、絵が描けるわけでもない、演技ができるわけでもない。何もできないわけですよ。何もできないからこそ、いろんな人の力を借りてアニメを作ってる。だから自分の中で作りたいものをしっかり持っていれば、どんな人とどうやって作ったら形になるのか、自然に考えられるようになっていくと思いますよ。
鶴房 わかりました。がんばります!
連載タイトル考案・執筆
──松倉さんのお話を聞いて士気も高まったところで、次回からの本格始動に向けて連載タイトルを考えましょう。決まったら、紙に筆で書いてください。
うわー、書道久しぶりやわ。硬筆は3段までいったんですけど、毛筆はあんまり得意じゃなくて。でもやってみます。
──一応、こちらのほうで「鶴房汐恩、アニメプロデューサーへの道」というタイトル案も用意はさせていただきました。
あ、そうなんですね。でも正直、それだと僕っぽくはないんですよね。
──鶴房さんらしさを入れるとすると?
鶴房汐恩の前に「天才」を付けるとか。
──なるほど。でも「天才」という言葉と、アニメ業界をこれから学んでいくというフレッシュさがなんかしっくりこない感じがします。
あとは「異才」とか「期待のルーキー」とか。
──うーん、悩みますね。でも「鶴房汐恩」という名前を最初に持ってきて、パッと目に留まりやすいほうがいいとは思います。
そっか。
──鶴房さんらしさがありながら、連載としてわかりやすいタイトル。
ほんまに僕の色を出すんやったら暴走しますけど。
──暴走……。では一度、勢いで紙に書いてみますか? 字面を見てまた考えてもいいですし。
オッケーです。
──真剣ですね。一言もしゃべらない。
できました。
──「天上天下唯我独尊 鶴ちゃんのアニメPへの道」。
ダメですか?
──いや、ダメではないんですが……。あと、鶴ちゃんと呼ばれているイメージがあまりなくて。
(何か書き足す)……これでどうですか?
──「鶴ぼ~ちゃん」。
鶴ぼ~ちゃんです。いいタイトルじゃないですか?
──鶴房さんが自ら考案したということは伝わりますね。
僕はめちゃめちゃいいと思います。え、よくないですか?
──ご本人の気持ちが一番ですもんね……(笑)。わかりました、次回からこの連載のタイトルは「天上天下唯我独尊 鶴ぼ~ちゃんのアニメPへの道」でいきましょう。
鶴ぼ~ちゃんの取材後記
次回予告
鶴房さんがいよいよアニメの制作現場へ。今日お世話になった松倉プロデューサーが働く、J.C.STAFFにお邪魔します。制作部、作画部、仕上部、美術部、CG部、撮影部……鶴房さんもどこかの作業に挑戦させてもらうかも? 更新は6月を予定しています。
また連載の感想やご意見も、ハッシュタグ「#鶴ぼ~P」でお待ちしております。アニメにまつわる気になることをツイートしてもらえたら、鶴房さんやスタッフが参考にさせていただきます。
鶴房汐恩(ツルボウシオン)
2000年12月11日生まれ、滋賀県出身。サバイバルオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN」にて約6000人の応募者から視聴者投票で選ばれ、世界的な活躍を目指すボーイズグループ・JO1のメンバーとして2020年3月にデビューした。JO1は4月28日、3RDシングル「CHALLENGER」をリリース。今冬には、初のライブツアーを開催する。
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