板垣巴留トークイベントで「BEASTARS」制作秘話明かす「そろそろタイトルの回収を」

「BEASTARS原画展 ~板垣巴留の世界~」の様子。

「BEASTARS」板垣巴留によるトークイベント「板垣巴留トークイベント『動物に託した思い』」が、本日3月9日に東京・明治大学アカデミーコモンにて行われた。なお本記事には「BEASTARS」本編に関する内容が多数含まれているので、ネタバレを避けたい方はご注意を。

本イベントは現在、東京・明治大学の米沢嘉博記念図書館1階展示室にて開催中の個展「BEASTARS原画展 ~板垣巴留の世界~」の一貫として実施されたもの。フリー編集者・粟生こずえによる進行のもと、「BEASTARS」制作秘話や作品の成り立ちについてのトークが行われた。まずは板垣の絵について、現在の画力を身に着けた経緯が語られる。美術学科のある高校に進んだ理由について、板垣は「小さい頃から絵を描いていたので、美術学科なら絵を描く時間が長いだろうなと期待して。でもわりと過酷だったんですよ。画力によるヒエラルキーがあって(笑)」と当時を振り返り、「友達がトイレに行っている間に、その子のノートにラクガキをして見せつけたり(笑)。挑発するんですよ」とエピソードを披露した。さらに高校時代の思い出について「美術の先生が担任の先生だったんですが、本当に美術を愛している先生で……わりと偏執的に(笑)。でもこんな生き様があるんだと、視野が広がった気がします」と語った。

美大受験を目指していたという板垣は、高校卒業後、武蔵野美術大学の映像学科に進学する。「最初は油絵学科を目指していたんですけど、ギリギリで映像学科に進学を決めて。私、意外と真面目なところがあるので、『油絵で食っていけるわけない』って気付いて(笑)。映画が好きだったから映像学科に」と直前に進路を変更した理由を明かす。さらに大学受験では、キーワードに即した物語を書くという試験があったといい、「椅子」というキーワードに対し「タンポポの綿毛が公園の公衆便所に埋まって、『私は人生のイス取りゲームに負けたんだ』っていう話」を綴ったと述べると、観客からはどよめきのような笑いが起こる。板垣は「負けん気がめっちゃ強くて(笑)。ひねりすぎてよくわかんなくなってましたけど、一応合格しました」と苦笑した。

進学した映像学科で、板垣はさらなる現実を知ることに。「3年生ぐらいになると、機材とかパソコンでどれだけ編集できるかの知識比べになってきて。知識なんて暗記すれば得られるものなのに、個人の感性が後回しになっている空気があって……って、めっちゃディスってる(笑)。でもそれに最後まで馴染めなくて。それからマンガを描くようになりました」と、当時を振り返る。さらに大学で役に立ったことを問われると、照明の勉強が楽しかったと答え「照明がどういう効果を生むか、人の心理をどう表すかみたいな講義が面白くて。それは今のスクリーントーンで役立っているかも知れないです。少年マンガは上からのライトが多いんですけど、もっと色々やったほうが楽しいし表現の幅が広がる気がして。『BEASTARS』をたまに映画っぽいって言ってもらえるのは、それが理由かなと」と考察した。

粟生から物語の構成力について褒められた板垣は「うーん、でも1巻ぐらいまでは、マンガのことをよく分かってなかったんですよね。少年マンガを読んでこなかったので、聞きかじりの知識を寄せ集めて描いてました。食殺事件を最初に描いたのも、この世界で1番起きちゃいけない事件を1話目に出すことで世界観を説明しようと思って……。でも担当さんから『犯人誰なの?』って聞かれて『え? 決めないといけないの?』って(笑)」と、先々まで決めずに描いていたことを明かすと、客席からは驚きの声が上がった。

さらに粟生が制作した資料を元に「BEASTARS」の細やかな設定についてトークが展開される。チェリートン学園の寮の中で、種族がかぶらないよう部屋割りされている理由について板垣は「寮を小さい社会と考えて、動物のサイズも千差万別で入れるようにしてます。犬科にはボスっていう、めっちゃ小さい子がいるんですけど、小動物に対して、大きなコロとかレゴシは気を遣わなきゃいけないってことを学べるじゃないですか。小動物は絶対大変だから、大きいほうが気遣わなきゃいけない。理不尽かなとは思うけど、それが正しい様子かなって」と説明。さらに作中に登場する“飛行免許”については「車の免許と一緒ですね。空も免許がないと危険ですし。私、免許持ってないからわからないけど、交通ルールの試験とかあるんですよね。そういう感じです」と答える。そんな板垣に、粟生は「やっぱり(作品の)世界の神だから、スラスラ答えが出てくるんですね」と関心していた。

肉食することで中毒症状に悩まされる設定については「やっぱり生きた肉とか鮮度が高いものになればなるほど、中毒症状が起きやすいですね」と語り、さらにレゴシが生きたルイの足を食べたエピソードについては「悩んだんですけど、やっぱり本当のことを描かないと駄目だろうと。あそこで誰かが助けに入ったり、レゴシが食べるのを拒否するっていうのは、ストーリーとしては成立するけど、嘘になっちゃう。レゴシが狼であることを否定するストーリーにはしたくなかった」と続けた。しかしそのエピソードが掲載された11巻のAmazonレビューは荒れたと言い、「私、エゴサはしないんですけど、Amazonレビューはチェックしてまして(笑)。すごい怒ってましたね。でもそれって好きな人に『ずっと童貞でいて』っていう感じじゃないですか」と述べた。

また「BEASTARS」の婚姻制度に話が及ぶと、前科持ちになったことで草食動物との婚姻ができなくなったレゴシについても語られる。最初からその展開になることを決めていたのかと聞かれると、板垣は「全然考えてなかったです(笑)。ただ肉を食った罰は与えないとなと思って、じゃあハル関連かなって」と解答。粟生が「せっかく(2匹が)いい感じになったのに、驚きました」と返すと、「でも週刊連載ってそんなもんですよ(笑)」と飄々とした様子だった。

さらに海洋生物が、動物とは違う“海洋語”を話すことを「海は外国っていう扱いですね。海は陸とは価値観が相当変わっていて。魚って1回にたくさん卵を産むから、陸よりも命を軽く扱っている部分があるんですよ。だから陸の動物からも『アイツらは危険な思考だ』って思われている。宗教観が違うみたいな感じかな」と明かす。そして今後の展開については「そろそろタイトルの回収をしなきゃいけなくて(笑)。12巻、13巻でだいぶ種を巻いたので、そろそろ回収できるかな」と述べた。

イベントの後半は、事前に募集した読者からの質問に答えるコーナーに。一番多く寄せられたという「彼氏にしたいキャラクターは?」という質問に対し、板垣は「いろいろ難しいんですけど、お付き合いすると考えるならビルかな。異性としてかなり意識しているのはゴウヒンなんですけど、私の手には負えないだろうなと(笑)」と解答。さらに「ビルは遊んでるしチャラいんですけど、ちゃんと社会とは折り合いつけてるし。『BEASTARS』の登場人物で一番幸せになると思う。レゴシは絶対嫌。めんどくさい」と続け、笑いを呼ぶ。また「BLや百合は描かないのでしょうか。私は先生のBLを拝読してみたいです」という率直な質問には、苦笑しながらも「でもBLも百合も『BEASTARS』で描いていると言えば描いているので。やっぱり深い関係性を描こうとすればするほど、恋愛に似た感情になると思うんで。でも同性愛のキャラとかいたら面白いかも」と述べた。

また人が動物に見えることがあるかという質問に「相当いい人だと動物が浮かびますね。でも動物として見えるっていうのは相当いいんですよ。それだけキャラが立ってるってことだから」と解説。「動物ってデザインからしてキャラが立っているので、それを連想させるっていうのは相当恵まれたルックス。ちなみに今の担当編集さんはアオダイショウ(笑)。秋田書店はいい人が多いですね」と述べる。逆に動物が人に見えることがあるかと問われると、「動物は動物で完成されてしまってるからなあ。人間が1番デザイン的にはダサいので……洗練されてないんですよね。動物を人間に変えるなんて失礼なことはできないですねえ」と断言し、観客を笑わせた。

さらに「肉食と草食が交配して子供を身ごもった場合、双方の特徴を持って生まれることがありますか」という質問には「レゴシは、ルックスは狼の特徴だけなんですけど、おじいちゃんがトカゲっていうのは最初から決めていて。1話目ではしごの降り方がおかしいんですよ、レゴシ。逆さまになりながらはしごを降りているんです。それは一応伏線というか。あとハイイロオオカミは決して大きい動物ではないんですけど、レゴシが大きいのはコモドトカゲが大きい動物だからで。おじいちゃんの特徴を結構受け継いでるんです」と解答。さらに「だからハーフってなるとどうなるのかなっていうのは、レゴシのお母さんの話を後々描きたいなと思ってます」と続け、会場を盛り上げていた。

最後、板垣が「『BEASTARS』はもうちょっと続くかなと思うので。最後までお付き合いいただければと思います。アニメもよろしくお願いします」と挨拶をし、トークイベントを締めくくった。「BEASTARS原画展 ~板垣巴留の世界~」では会期を4つに分け、会期ごとのテーマに沿って合計約150点の原画を展示。2月22日から3月18日までの第1期は「肉食と草食」、3月21日から4月15日までの第2期は「思春期と大人」、4月19日から5月13日までの第3期は「女性と男性」、5月17日から6月9日までの第4期は「レゴシとルイ」といったテーマが設けられる。また会場では原画のほか、アナログで描いているという板垣の作画の様子を映像で上映している。なお5月18日には「人と獣の間-擬人化動物マンガの中の『BEASTARS』」と題したイベントも予定されている。

BEASTARS原画展 ~板垣巴留の世界~

期間:2019年2月22日(金)~6月9日(日)
※火、水、木曜日は休館(祝日の場合は開館)
会場:米沢嘉博記念図書館1階展示室

第1期「肉食と草食」

期間:2019年2月22日(金)~3月18日(月)

第2期「思春期と大人」

期間:2019年3月21日(木・祝)~4月15日(月)

第3期「女性と男性」

期間:2019年4月19日(金)~5月13日(月)

第4期「レゴシとルイ」

期間:2019年5月17日(金)~6月9日(日)

人と獣の間-擬人化動物マンガの中の「BEASTARS」

日時:2019年5月18日(土)16:00~17:30
場所:米沢嘉博記念図書館 2階閲覧室
出演:宮本大人
料金:無料 ※会員登録料金(1日会員300円~)が別途必要

(c)板垣巴留(秋田書店) 2017