「さくらももこさん ありがとうの会」、まる子から「大人になったあたしへ」と手紙
去る8月15日に53歳で永眠したさくらももこをしのぶ「さくらももこさん ありがとうの会」が、本日11月16日に東京・青山葬儀所にて行われた。
式場前の庭園では、さくらの代表作「ちびまる子ちゃん」のキャラクターたちが正装をし、パネルとして参列者たちをお出迎え。式の開会前は「おどるポンポコリン」「ゆめいっぱい」「走れ正直者」など、さくらとゆかりの深い楽曲がかけられている。式場内は“さくら”にちなんだピンク色のカーペットが敷かれ、明るい印象。さくらプロダクションがデザインしたという祭壇は、さくらが生前好きだったという、ダリアやトルコキキョウなどの花3万本で装飾されている。中央には彼女の出身地・静岡県が有する富士山のモチーフが。その横をカラフルな風船や、まる子やコジコジなど、さくらの作品に登場するキャラクターがにぎやかに囲んだ。
式の冒頭、TARAKO、賀来千香子、吉本ばななが、さくらへ“ありがとうの言葉”を順に述べていく。アニメ「ちびまる子ちゃん」でまる子役を務め、実際にさくらの声とそっくりだというTARAKOは「本当に先生がいなかったら、人生変わってたと思う。私、『まる子』で売れるまで、結構つらい生活をしてたんです。ずっとバイトしてたし、声優デビューしてもバイトしてたし、貧乏はお得意だったんですけど……ももこちゃんの声と似てて幸せでした」とにこやかに話す。また「私がプライベートのももこちゃんをあまり知らないので、この人が一番知ってるんじゃないかって人に改めて挨拶を」と切り出し、「3年4組、さくらももこ。通称、まる子」とキャラクターの声色で語り始める。「大人になったあたしへ。まずは何を置いてもこれだね、よくぞ夢を叶えてくれました。アンタほんとえらいよ! おめでとう。大人になったあたしへ。プライベートはなんか色々あったみたいだね。でもまあ、あんたもあんたの作品もたくさん人に愛されたんだから、人生、バランスなのかもしれないね。大人になったあたしへ。お酒はまあ、ヒロシの娘だから飲むだろうと思ったけど、タバコまでやっちゃうとは、あんたすごいね! タイムマシンがあったら、身体が悲鳴上げる前に『おいおい、ほどほどにしろよ』って言いたかったよ。大人になって、天使になったあたしへ。そっちはどうだい? いやいや、きっとまだまだこっちで、今日は絶対このへんでウロウロしてるよね。桑田(佳祐)さんいるけど、しがみついちゃダメだよ。一緒に歌うんだろうなあ、大きな声で踊りながらね。あたしは昔、あんたのせいでずっとこの歌が頭にあったから一節歌うよ。『かわいそうだよー ズボンのおならー 右へ左へ泣き別れー』……三日三晩うなされたよ。最後に、大人になって天使になって、天国へ行くあたしへ。そっちでもたまにまる子描いてよね。コジコジや永沢や、ちびしかくでもいいから、どこに行っても描き続けてください。生まれ変わってもずっとずっと、あたしは丸くてちっちゃくて、プリンが好きで百恵ちゃんが好きでマンガが大好きな、さくらももこです。またね」と締めくくった。
次に女優で、27年来の友人という賀来は「さくらさんと私の出会いは、さくらさんの『もものかんづめ』を私がいちファンとして拝読し、お手紙を出したことがきっかけでしたね。ワクワクドキドキしながら、さくらさんのご自宅兼アトリエに伺い、初めてお会いしたさくらさんはちびまる子ちゃんそのものでした」と振り返る。また賀来は「今年のさくらさんの誕生日に、私が舞台があり、プレゼントが遅れてしまうとメールを送らせていただくと、さくらさんから『体調がイマイチでなかなか会えなくて残念です。早く元気になって、千香ちゃんに会いたいです』と返信が届きました。私もすぐに、『無理しすぎずがんばって、会えるのを楽しみにしています』とやりとりしました。私はさくらさんが初めて本心を言ってくれたことと、自分も心から応援してくれたことで一瞬うれしいような気持ちになりましたが、もしかしたらそれは、さくらさんが弱くなってきているのかもしれないという不安に変わりました」と、直近のさくらとのエピソードを明かす。「私たちの願いは叶いませんでした。さくらさん、寂しいです。本当に、もう一度会いたかったし、笑い合いたかったです。私はさくらさんを天才だと思っています。まる子ちゃんもコジコジもエッセイも大好きですけれど、あとがきも素敵でした。さくらさんなりの照れ隠しなのか、新聞もテレビもそんなに見ないからと謙遜しておっしゃっていましたが、世界の女性、日常の尊さ、幸せでいることの感謝など、すべて俯瞰で物事を捉えながら、目の前のことの大切さを呼びかけていらっしゃいました。あたたかくて柔らかなタッチも、緻密な描写も、さくらさんの作品は永遠です」と称賛した。
作家で友人の吉本は「プロの声優さんとプロの女優さんの後で、私にできることは自分の作った文章を読むことだけです。なので、私の書いたものを読ませていただきます」と始め、「私が小説家になった本当のスタートのところで、対談のお仕事でももちゃんに出会いました。歳もほとんど同じで、日本中に注目されていた2人はすぐに仲良くなって、毎週のように会うようになりました。手をつないで、あの恐ろしい自分たちのブームの嵐の中を駆け抜けたのです」と述懐する。お互いに近所だった荻窪のスーパー銭湯に行き、身分がバレないようにサウナの中では秘密のあだ名で呼び合ったり、おそろいのムームーを着てごはんを食べたりしたと言い、当時について「楽しくあっという間に過ぎていった、確かな青春がそこにあったのです」と語る。吉本はさくらの夫と大ゲンカしてしまい、しばらく疎遠になっていたそうだが、さくらに子供が生まれ、会いに行ったことをきっかけに再び会うようになったそう。「ももちゃんの絵は一見子供の絵みたいなのであなどられがちですが、彼女は限りなく天才でした。ヨーロッパの香りがする独自の色彩感覚と、研ぎ澄まされた線。彼女がカラー原稿を描くところを見ていると、確信を持って色をつけていて、まるで魔法のようでした。そしてすごいことに、彼女は最後の最後まで絵が上手くなっていきました。ついさっきまでグータラしたり、おしゃべりしたり、ゲラゲラ笑っていた、子ザルみたいな彼女は、ペンを持つとスッと集中して、本当に美しい大人の女性、絵の天才に変身するんです。私はその変身の瞬間を、もっともっと長い間見ることができると思っていました」と悔やみながら、「若いとき、いつも『かわいいけどちょっと意地悪なおばあさんになりたい。そのとき着る服まで考えてる。将来おばあさんになるのが楽しみだと言っていたのに。本当に残念です、寂しいです。気が小さいのにどこまでもダイナミックで、かわいくずる賢いのに、小さい子みたいに純粋な優しさがあって、人生を大きな遊びのように駆け抜けていってしまったももちゃん。会えばいつまでも24歳の、恋愛や仕事の話をし続けられる頃に戻れた私たち」とさくらとの楽しい時間を思い返す。最後に「ももちゃん、さくらももこさん。私たちの時代に『ちびまる子ちゃん』を、『コジコジ』を、そしてたくさんの素晴らしい絵と文章を残してくれてありがとう。どこまでもクールでシュールで乾いた笑いをありがとう」と感謝を伝えた。
ここで家族ぐるみで親交があったという、尾田栄一郎から届いたメッセージが司会者によって読み上げられる。「さくら先生との出会いは、お互いの作品のサイン交換からでしたね。話せば話すほど、さくら先生の面白さは増していきました。動画を見せてくれましたね。『この前さ、踊ったんだ』と見せてくれたのは、自宅でひょうきんな踊りを踊るさくらさんの映像でした。『なにをやってるんだ、この人は! 本当にあの大作家か!?』と笑いつつも、そのふざけて人を笑わせる姿はまさにちびまる子ちゃんでした」と手紙はさくらとのたわいもないエピソードから始まり、「誰かがこんなことを言っていました。マンガ家は作者が死んでも、キャラクターが代わりに生き続ける。まさにちびまる子ちゃんはあなたの分身だから、この先もずっと日本中の子供たちを、家族を楽しませてくれます。みんながあなたを忘れません。最後はいつも通り(の呼び方で)。ももちゃん、あまりの突然のお別れで寂しいです。闘病中は誰にも会ってくれなかったので、僕らの頭に浮かぶももちゃんはずっと変わらない笑顔のままです。天国ではゆっくり休んでくださいね。今まで本当にありがとうございました」と言葉を贈った。
次は、2010年にアニメ「ちびまる子ちゃん」で主題歌を担当した木村カエラからメッセージが。「さくら先生、と先生の名前を心で呼ぶ日々がずっと続いています。訃報を聞いた日、真っ先に自分の描いた絵本を手に取り、先生が書いてくれた帯のコメントを眺め、本を抱きしめました。そこに書いてある『カエラちゃんからの優しい贈り物です。さくらももこ』のメッセージ。優しいのは先生です。涙が止まりませんでした」と述べる。また「本当に、子供の頃からさくら先生に育ててもらった感性がたくさんあることに驚いています。今は、さくら先生を思い出すたびに、先生が『がんばれ!』と声をかけてくれている、そんな気がしているよ。先生が天国から見ていて喜べるような、楽しめるようなものを作らなきゃ。そう思ってます」と読み上げられた。
献歌を担当するのは、2012年4月から2017年10月にかけてアニメ「ちびまる子ちゃん」のエンディングテーマ担当した桑田佳祐。アニメに使用された「100万年の幸せ!!」はさくらが作詞、桑田が作曲を務めている楽曲で、当時のことを桑田は「7年前でしたが、直々に先生からお手紙を頂戴しまして。内容を拝見しましたら『まる子ちゃん』のテーマソングを書いてくれということだったんですけど。もう、2枚目の便箋から、さくらももこ先生らしい字で、歌詞とタイトルが全部書いてありまして。『あ、歌詞指定かよ』『すげえなあ』って思ったんですけども(笑)。あと全部ね、Aメロ、Bメロ、サビっていうのも書いてくださいまして。最後に、大変お忙しいところ、こんな勝手なお手紙書いて申し訳ない、もしダメだったら断ってくだいねみたいなことは書いてくださったんですけど、断れませんなあと。断るわけにはいきません」と経緯を語る。そして「なんの恩返しもできておりませんし、またいつかお会いしましょうということだけ言わせていただきます」と挨拶を締めくくり、「100万年の幸せ!!」を参列者の手拍子を受けながら披露した。
「さくらももこさん ありがとうの会」では、さくらのイラストやエッセイを交え、さくらの人生を振り返るVTRも上映された。主人公のさくらにTARAKOが声をあて、物語は少女だったさくらが自身のペンネームを決め、マンガ家を志すところから始まる。楽しいことだけ考え続け、夢を追い続けたというさくら。ナレーションのキートン山田により「やりたい放題、世間を盛り上げ、世間を感動させ続けてきたももこよ。今頃一体、どこを旅しているというのか。あなたがかけた呪文にかかり、あなたの生んだ楽しい世界の中で、これからもたくさんの笑顔が生まれるであろう」と語りが入ると、「さくら、ありがとう」「ズバリ、ありがとうでございます!」「サンキュー! ベイビー!」「さくらさん、ありがとうね」などと、「ちびまる子ちゃん」のキャラクターたちが次々と感謝を述べる。最後にコジコジが「さくら祭りみたいだね」と言うと、山田がいつものように「アハハ」と笑う。そしてさくらが、「私こそありがとうだよ、ね。まる子。ね、コジコジ」と言い、「これからもずっと楽しいこといっぱいあるよ! みんなー!」と続ける。「さくらももこの楽しい世界はまだまだ続く」というナレーションによって語られ、映像は締めくくられた。