縦画面で見せるには一人称が重要?タテ読みマンガ界のトップランナーが語る“縦”の演出

「ラスボス少女アカリ~ワタシより強いやつに会いに現代に行く~」と「神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~」のビジュアル (c)岸馬きらく・酒ヶ峰ある/集英社 (c)江藤俊司/疾狼/3rd Ie/ナンバーナイン
集英社のジャンプグループによるタテ読みマンガアプリ・ジャンプTOONが、5月29日にリリースから2周年を迎える。コミックナタリーはこのタイミングで、ジャンプTOONリリース時に連載がスタートし、同アプリを牽引してきた「ラスボス少女アカリ~ワタシより強いやつに会いに現代に行く~」の原作担当・岸馬きらくと、2022年にLINEマンガで連載がスタートし、国産のタテ読みマンガとしてヒットを飛ばしている「神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~」の原作者・江藤俊司の対談を実施。互いの作品の見どころから、ヨコ読みマンガとの違い、タテ読みマンガならではの演出や見せ方について聞いた。
「ラスボス少女アカリ~ワタシより強いやつに会いに現代に行く~」あらすじ
岸馬きらく / 酒ヶ峰ある
異世界のラストダンジョンに君臨する魔王・アヴァロン。誰にも倒してもらえぬまま1万年以上をダンジョンで過ごす彼は、“自分を倒してくれる存在”を求めて別世界へ転生することを決意し、いじめを苦に自殺した地球人の女子高生・アカリの体に入り込んだ。己よりも強い者に出会うべく、アヴァロンはアカリとして彼女が在籍していたハンター養成学校に通い始める。
「神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~」あらすじ
江藤俊司 / 疾狼 / 3rd Ie / Studio No.9
異界からの脅威に対抗する超人的存在・プレイヤー。いじめられっ子の主人公・有明透晴(アリアケスバル)は、既存の金・銀・銅のどれでもない、“虹”ランクのプレイヤーに選ばれる。血液を自在に操るスキルを手に入れ、生活も立場も一変。戦い続ける日々の中、徐々に世界を救う存在・“救世主”としての頭角を現していく。
高度なコントロールができるネーム原作と、化学変化が面白い文字原作
──「ラスボス少女アカリ」と「神血の救世主」は、コミックナタリーが主催した「タテ読みマンガアワード」でともに2年連続ランクインしました。お互いの作品の印象はいかがですか?
岸馬きらく 「神血の救世主」は主人公・透晴と大我の兄弟対決がヤバいですね。読んでいて泣きそうになりました。
江藤俊司 ありがとうございます。
岸馬 画面もそうだし、展開もテンポよくいろんなものをきっちり詰め込んでいてすごく丁寧に作っていると感じました。「神血」の連載が始まった当時のWebtoon、タテ読みマンガって今ほど成熟してなかった気がしているんですが、そんな中でクオリティがほかの作品と比べてずば抜けてたと思います。
江藤 「神血の救世主」は、ちょうど日本でこれから国産のタテ読みマンガをやっていくぞという機運が高まりはじめた頃に声をかけていただいて立ち上げた作品なんです。だから、まずは先行作品の研究から始めました。当時「俺だけレベルアップな件」がすごく売れていたので、そのへんも意識して現代ファンタジーにしたり。
岸馬 そうなんですね。僕は分析ってあまり気合いを入れてやらないんですよね。分析して作り込むのってうまくいく確率は上がるんでしょうけど、やればやるほど精度が上がるわけでもないと思っていて。すごく丁寧に分析した場合と、軽く分析した場合でそこまで大きな差が出ないというか。もちろんまったくやらないのはダメですけど。
江藤 それは本当にそうですね。じゃあ、「アカリ」もものすごく分析して作ったわけじゃない?
岸馬 僕の場合は普段からたくさんネタを考えているんで、それを編集さんに出して選んでいくというのが多いですね。「アカリ」の場合は、「誰かに自分を倒してほしいと思っている主人公」というのが最初のアイデアです。
江藤 「アカリ」ってすごく新鮮でしたよ。僕は割と構造で見るので、アカリのボスキャラとしての組み立て方がいいなと思ったんです。誰も倒せないラスボスとして生きてきた魔王が、いじめられっ子の少女・アカリに転生するっていう、いわゆる最強主人公の話じゃないですか。そうすると、周りのキャラクターが主人公にどうアプローチするかっていう設計になるわけです。その答えとして、周りのキャラクターががんばって主人公を倒そうとするっていう形にしてある。しかも、アカリは何段階も変身するけど、各段階で攻略法があったりするじゃないですか。そこが面白い。
岸馬 そのへんはもう最初に決めちゃっていましたね。第1話を考えた時点で最終話までの展開を担当編集さんには話してました。
江藤 じゃあもう終点が決まってるんですか。
岸馬 決まってます。というか、原作は書き終わってます。
江藤 そうなんですか! 連載中に加筆修正したりとかは?
岸馬 基本はしないです。作品は生き物だと思っていて、大幅に加筆すると迷走しちゃうところもあるので。まあ、僕は文字原作だから一気に書いてしまえるというところもあると思います。江藤先生は「神血」に関してはネーム原作なんですよね?
江藤 僕は文字原作もネーム原作もやるんですけど、「神血」はネーム原作です。文字原作は1話につき2~3時間で作るので一気に書き上げてしまうこともできると思いますけど、ネーム原作だと無理ですね。コントロールできることは格段に増えるけど、その分時間がかかる。やろうと思えばいつまでも手を入れられちゃいますし。だから、毎週うなりながら描いてます(笑)。
岸馬 僕も「アカリ」の最初のほうはコンテみたいなものも描いてたんですが、(作画の)酒ヶ峰ある先生が天才なので、すぐに「もうおまかせしちゃおう」ってなりました(笑)。
江藤 そこは文字原作の楽しさですよね。化学反応の回数が1つ増えるから、予想以上のものができたりする。
タテ読みマンガに本当の天才が出てくるのはこれから
──分析の話もありましたが、おふたりはタテ読みだから意識したことはありますか?
江藤 トレンドで言うと、当時のタテ読みマンガを見ると、ヒット作のストーリーはいくつかのパターンに定型化されている感じでしたね。だから、ストーリーはパターンを踏襲して、キャラクターと演出で勝っていかないとと思ってました。
岸馬 ヒット作はいろいろあったけど、キャラ人気が高いタテ読み作品ってほぼなかったですもんね。
江藤 海外発の作品は主人公以外のキャラクターがそんなに立っていなかった印象で、そこは逆にチャンスだと感じました。サブキャラクターでいいキャラを出していけばそれだけで差別化できるんで。
岸馬 僕らは日本のマンガで育ったので、キャラの立たせ方は自然に身についてますからね。その感覚を持ったまま、タテ読みの演出や見せ方をがんばってやっていけばよかった。
──タテ読みの演出や見せ方って例えばどんなものでしょう?
江藤 スマホで読むものなので、没入感や臨場感を大事にしてますね。話も、最初はとにかく主人公の透晴に集中する形にしたり。
岸馬 一人称の視点にするのが大事ですよね。
江藤 そうです。そこはヨコ読みマンガとかなり違いを感じます。
──一人称視点というのは?
岸馬 「アカリ」だったら、アカリというキャラクターがその世界を見たときに、こう感じるだろうというのと同じような気持ちを読者が持てるように作る。例えば、主人公が面白いと思っているようなら面白い演出をするし、怖いと思っているなら怖い演出にする。読者が主人公の視点を通じて世界を見ているようにします。
江藤 YouTubeショートとかTikTokって縦画面じゃないですか。あれって時間が短いだけじゃなくて、登場人物がすごく少ない。だから、一人称っぽくて没入できる。ヨコ読みマンガもそうなんですが、映画やドラマみたいに画面が横のメディアはやっぱり三人称視点が得意なんです。やっぱり縦と横ではかなり読み味が変わる。さっき話に出した「俺だけレベルアップな件」がそうで、紙で読んだときよりも、縦スクロールで読んだらより面白く感じて。
岸馬 でも、これから入ってくる人は大変ですよね。当時より全体の作品レベルがかなり上がっている。それこそ「神血の救世主」だってめちゃくちゃ研究されてるでしょうし。
江藤 僕はタテ読みに本当の天才が現れるのはこれからだと思ってます。今ってまだプロダクションとか編集部から「タテ読みやりませんか?」って声をかけられて始める人が多いと思うんです。でも、いい作品、人気作が増えていったら、自分から「タテ読みがやりたい」と始める人も増える。そうなったときに、本当の天才が出てくるんじゃないかって。
岸馬 横ほど研究され尽くしてもいない面白さはありますよね。
江藤 まだまだ新しい表現があると思います。で、天才が出てくるには読者側のリテラシーも上がらないといけない。ユーザーも育ってないと、新しくて面白いものが受け止められず売れないで終わってしまったりしますから。今は売れてる作品がそのリテラシーを育ててるところでもあると思うので、売れている作品ほど新しいこと、変なことをやってほしいなと思ってます。
(取材・文 / 小林聖 撮影 / ヨシダヤスシ)