読み切り即連載化「ローワライ」、人気シリーズの“正統続編”、現代人の心の闇?
雑誌やWeb、アプリなどでスタートした新連載を、毎月振り返る「今月の新連載」。版元ごとに担当者が決まっているコミックナタリー編集部では、ほぼ毎日のように始まる膨大な数の新連載を、毎日読んで記事を書き続けてきた。そんな部員たちが、その月に面白かった作品や気になった作品、そのほか最新のマンガ業界のトピックなどを振り返る企画だ。第8回は2026年1月にスタートした新連載を語る。
文 / コミックナタリー編集部
ちばてつや賞を受賞した読み切りが即連載化「ローワライ」
うさぎ 「ローワライ」はちばてつや賞を受賞した読み切りの連載化で、Xでも公開されて反響を呼んでいた作品ですよね。読み切りとして完成度がすごく高かったので、連載になってどうなるんだろう?と思っていたんですが、第2話の冒頭では耳の聞こえない主人公の“音のない世界”をこだわって描かれていたり、連載として読ませる力もちゃんとあるんだと感じました。漫才の話ですけど、漫才以外の日常パートも会話劇としてすごく面白い。「セトウツミ」が好きな人とかにも刺さると思う。
ぞう 読み切りがそのまま連載の1話になってるんですか?
うさぎ 絵に手を入れたのかなっていうところもありましたけど、気づいたのは数カ所で、構成とかはほぼ一緒でしたね。
ぞう 読み切りで終わっても、次の作品が楽しみになる完成度の高さだったと思うんですけども、2話以降もちゃんと面白いのはすごいですね。
くま お笑い芸人のマンガを描くのって、ネタの面白さに説得力がないと成立しないというか、ハードルが上がるだろうから、単純にすごいなと思いますね。イチから設定を作るファンタジーマンガとかとも違う難しさがありそう。
くろねこ 多分いわゆるギャグマンガと、マンガで漫才を表現するのとではまた違うでしょうしね。実際に作中でやってる漫才を芸人さんが漫才として再現しても、笑ってもらえるとは限らないじゃないですか? 会話のテンポとか全然違うと思いますし。
うさぎ フリップ芸とマンガの相性がいいんでしょうね。連載開始記念の対談の中で、NON STYLEの石田さんも言及されてましたけど。
くま 音のないマンガだからこそ耳が聞こえないっていう設定とも合わせて、表現の可能性があるのかもしれないですね。
ぞう この連載では度々話題になってますけど、どうやって漫才のネタを考えてるんですかね。お笑いとかコメディ系をやってるマンガ家さんたちを集めて、どうやってネタ考えてるのか語り合ってもらいたいです。
新人作家の読み切りの役割にも変化が
うさぎ 読み切りの話になりますが、「ローワライ」とちばてつや賞つながりで、同じくちばてつや賞受賞作の「楽園」が最近SNSで話題になってましたね。
とり すごく面白かったです。設定こそSFですけど、人間のドラマ的な部分にも焦点が当たってるし、くすぐられるモチーフとかが多くて、SFに明るくない私でも面白く読めました。
くま 全然マンガと関係ないアカウントのおすすめ欄にも流れてきましたね。
とり 作品自体もバズってるし、作品に関して触れたほかの作家さんのポストもバズってるし、みたいな感じでしたよね。
いぬ 僕のXのタイムラインには全然流れてきてなくて、話を聞いててニュースサイトで働いている身としてちょっと危機感を感じている(笑)。でもジャンプ系の作品は流れてくるから人によるのかな。
くま マンガファンの間だけじゃなくて、それ以外にも広がってる本当のバズりって感じがしました。
ぞう でもSNSでバズるようなマンガって基本的にWebかアプリの作品ですよね。紙の雑誌だけに載ってる作品はこういうときになかなか取り上げられないなと。もう雑誌だけでいろんな人に届けるかは難しんだなって思いましたね。
くま 小学館は紙の雑誌の新連載でも、発売日には第1話がアプリやWebで読めるようになっていることが多いので、SNSですぐ話題にしてもらえるように考慮してるのかもしれないですね。
くろねこ 読み切りの役割というか、立ち位置は完全に変わりましたよね。昔は新人さんの力試しというか、連載には至らない作家さんの練習の場所みたいなイメージでしたけど、今は読み切りで読者がつくかどうかまで見るようになったなと。編集者さんや出版社側の意識も変わってるんだろうなと思います。
うさぎ すごくよくわかります。新人作家はまず読み切りを何本か描いてスキルアップしていくもの、という時代があったと思うんですけど、今は環境が変化したせいか、それに伴って作家さんの質も変化しているのか、もう“最初から仕上がってる”読み切りマンガを目にする機会が多いですよね。SNSでもそういう読み切りがバズる傾向にあったり、作り手側もきっと意識しているでしょうね。
「クローズ」「WORST」の“正統続編”の意味は?「ダストランド」
くろねこ 私は「クローズ」「WORST」の大ファンなので、「ダストランド」が始まるのをすごく楽しみにしてました。お話としてはまだ助走というか、本題に入るのを待ってるみたいな状況ですが、とにかく久しぶりにシリーズの新作が読めてうれしいっていう気持ちが強いです。
くま 展開的には、まだ種まき段階という感じなんですかね。
ぞう そうですね。なんで少年時代から描いてるんだろうと考えてたんですけど、彼らが成長して、全員が鈴蘭高校に入るんじゃなく、例えば鳳仙学園に入るキャラクターがいて、道が分かれる展開もありそうだなと思って。もしそうであれば少年時代から描くことでドラマが生まれるし。
くろねこ なるほど。個人的には過去の作品との関係性とか時系列が気になってます。「WORST」から何年後ぐらいの世界なのか、もしかして親世代ぐらい離れちゃうのかなとか。
ぞう 現時点だと絶妙に時代を感じないですよね。スマホとかも出てこないし、団地やサンドバックがあるおじさんの家とかは昔の建物っぽくもあるし。でもこの子供たちの親とか親類が過去のキャラクターなんじゃないかなと。何かしらのつながりがないと、「クローズ」「WORST」の正当続編って大々的に打ち出さないと思うんですよね。
くま 正統続編っていうのは血がつながってる的な意味なのかも……?
くろねこ でも親子まで離れちゃうと、現実のヤンキー文化との違和感が出てきそうで。「クローズ」や「WORST」に出てきたようなヤンキーって、もう現代に存在しないじゃないですか。
くま 確かに今の時代、リアルに拳で抗争とかやってる高校生っているのかな(笑)。今の時代の不良って闇バイトとか、半グレの世界に染まるみたいなイメージがあります。
くろねこ 自分なりの正義があってケンカしてる、みたいな硬派なヤンキーが出てくるのは「クローズ」「WORST」シリーズの魅力ですからね。あと武装戦線っていうバイクチームがあるんですけど、バイクチームなんてさらに存在しなさそうじゃないですか。私は武装が大好きなので出てこなかったら悲しいから(笑)、個人的には昔の設定のままやってほしいです。
くま まあ現代にヤンキーがいるかどうかなんて気にせず描いても、そこまで違和感ない気はしますけどね。
くろねこ ファンとしては、そこは全然ファンタジーでいいです(笑)。
AIの“今”を描いたマンガ「キシモジン」
うさぎ 「キシモジン」は今しか描けないマンガだなという印象を受けました。離れて暮らしている母親が、実はAIかもしれないと気づいてしまった主人公の話ですが、今ぐらいのAIとの距離感ならありえそうな話としてすごく引き込まれるし、もっとAIが進化したら古く感じてしまうかもしれない。
くま 確かに今ってその辺りの瀬戸際ですもんね。ある程度まで技術が育ち切ったら騙す、騙されないっていう感覚を超える状況になっている気もするし。私も中途半端なAI生成動画には騙されないぞって思ってるけど、たまに普通の動画として観ていて「あれ? これってAIか?」ってなるときがあるから、読者もその微妙なラインにいる気がする。
くろねこ 人によってもまだズレがあるじゃないですか。割と察知できる人とまだわからない人とで差があるし。
うさぎ 完結までに世界がどのくらい変わっていくのかわかりませんが、本当に今描いて今読むべきみたいな、絶妙なタイミングのマンガですね。
くま 子供の頃から母親とオンラインで会い続けてたらそれが当たり前になっていて、疑問を持つタイミングがなさそう。あと自分の親が実は里親だったとしたら、そこに愛はあるから、血はつながってなくても私たちは本当の家族だ、みたいな関係性に向かっていけるかもしれないけど、AIが親だったらそもそも親側には感情そのものがないかもしれなくて……って考えると、ちょっとつらい気持ちになりますね。そういう展開も描かれるのかなと想像すると、続きが楽しみです。
とり そもそもすごくサクサク読めました。母親がAIだったという種明かしのところや、主人公の女の子がAIについてネットを検索してる部分の見開きは、彼女のショックを受けた、意味がわからないという心境みたいなものがすごく伝わるような描き方で。圧倒されました。
SNSでつながった相手のこと、どこまで知ってる?
くま 現代っぽい話でいくと、「竜崎天音(または藤井美鈴)さんについて」はありそうでなかったサスペンスで面白かったです。SNSでつながったオタクってどれだけ仲良くなってもなかなか本名とかの個人情報やパーソナルな部分は明かさないことが多いから、そこをフィーチャーしてサスペンスとして描くのはなるほどなと思いました。描き方にリアリティを感じていたので、第1話の最後に被り物したYouTuberが出てきたときは突飛な展開になるのか……?と思ったけど、第2話を読んだら、最近でもいじめ動画の拡散とかが話題になっていましたけど、暴露系インフルエンサーのこととかも描かれていく作品なのかなと思って。そこで第1話で感じたリアリティさは損なわれてないと感じました。
くろねこ こういうオタク同士の人間関係に共感できる読者も多そうですよね。それこそSNS上で知り合いが亡くなったのを知るとか、そういうのもけっこう今は増えてると思いますし。
くま オタクの描き方も解像度が高くてよかったです。サスペンスが描きたくてこういう設定を持ってきただけだったら、「面白いけどちょっと違うんだよな……」と突っ込みたくなるところも出てきそうだけど、その辺の違和感がないので入り込みやすかったです。
ぞう あらすじでは「バディミステリー」って書いてあるので、主人公と暴露系YouTuberの2人が協力していく話だと思うんです。でも現時点では2人が仲良くなる絵が浮かばないので、どうやって信頼関係を築くのかなと。そこも含めてくると人間ドラマとして面白くなりそう。まあYouTubeで数字を稼ぐために生きているようなキャラだから、彼に共感させるのは難しそうですが。
くま そこは嫌な奴でいてほしさはありますけどね(笑)。現実の暴露系インフルエンサーにも完全に寄り添えることはないので、マンガでも無理に共感はさせないでほしい。
ぞう 確かに。そこは貫きつつ魅力的なキャラクターになっていったらいいなって思います。
うさぎ これはCOMIC BRIDGEレーベルの作品ですね。COMIC BRIDGEの代表作というと、映画化もされた「マイ・ブロークン・マリコ」だと思いますが、人と人との結びつき、関係性の濃密さを大切にしているレーベルという印象があります。もちろん編集者や作家さんによって考え方はさまざまだとは思いますが、そういうところを丁寧に描いてくれるんじゃないかと期待できますね。
これは果たしてBLなのか…?「世界で一番しあわせ!」
くま “推し”が出てくる流れで言うと、「世界で一番しあわせ!」も楽しく読みましたが、これってBLなんですかね?
くろねこ 私もまったく同じことを思いました(笑)。でもBLだとしてもさわやかで抵抗感とかはないし、アルコさんらしいキャラのかわいさと読みやすさです。
うさぎ 男オタクがイケメンじゃないのに嫌味な感じなく描かれているの、さすがアルコさんだと思いました。
くま 汚すぎても嫌だしきれいすぎてもなんか嫌なので、ちょうどいい(笑)。同じくアルコさんが作画の「消えた初恋」も自然な流れでBLっぽいストーリーに進んでましたよね。あれもジャンル分けするとしたらBLなのかもしれないけど、BL作品としてアピールしてたわけではないですよね?
ねずみ 「消えた初恋」はBLとは謳ってなかった気がしますね。
くま 今の段階では、同性同士で結婚しようとしてることにお互いなんの疑問も持たず進んでるし、恋愛感情があるかどうかも描いてないですよね。なので萌えるBLって感じで読んでいいのかわからないけど、ほっこりできるいいマンガ。
ねずみ 3話で初デートしてるんですけど、アイドル側が本当にオタクを愛しているのか、つい瞳の輝きを見てしまいました(笑)。アイドルの人物像がまだ掴みきれていなくて、ただお金の事情でオタクを利用してるんじゃないかとも少し勘繰ってしまいます。
くま 確かに、今の段階ではダメなホストにも見えてくる(笑)。アイドル側の感情があまり読み取れないからかな。
とり でもアイドルになった理由が「喜んだり幸せそうな人を見るのが好き」って言ってたじゃないですか。だからそれが素で、そういうキャラなのかなって私は見えました。
くろねこ 読者がどっちなんだろう?って混乱するのを狙ってるのかもしれないですね。
くま 誘導されている可能性はありますよね。でもアイドル側もきっと悪い奴ではないんだろうなと、安心して読んでいいマンガなんだろうなという気はしています。これが連載されているのがサイコミとかだったら、ちょっとわからないけど(笑)。
現代人の心の闇を感じる「にこにこ元気☆ハッピーちゃん」
ぞう 「にこにこ元気☆ハッピーちゃん」はめちゃくちゃ笑っちゃいました。多分笑うような内容ではないんですが。
くま 笑えるのか。私は全然笑えなかった(笑)。家があの状態なのはセルフネグレクトだと思うので、とにかく早く病院に行ってほしいと思った。
うさぎ 個人的には、わかるけど、わかるからこそ笑えないというか……。だから「めちゃくちゃ笑える」って感想は興味深い。読み手によって受け取り方が大きく分かれそうですね。
くま 笑って読めるのは健康的なのかもしれない。共感できるところがある人は心配が勝つのかも。
くろねこ 私もどちらかと言うとしんどさのほうが伝わってきてしまったかなあ。
くま コメント欄もそんな感じですよね。私は第2話でハッピーちゃんが帰宅して、PCのマウスを触っているコマが出たときに、脳内に一瞬で「ネットで炎上している人をウォッチングして安心する」みたいな展開が思い浮かんだんですよ。でも実際は動物の赤ちゃんの名前の公募に応募するっていう展開で……心がきれいすぎるなと思いました(笑)。ハッピーちゃんは全部自責で生きている人だから余計しんどいんだろうな。
ぞう 確かに、全部自分の中で解決してますよね。SNSに罵詈雑言を書き込むとかそういう発散の仕方をするわけでもなく、全部自分の中で抱えて全力で走ってお酒飲んで。
うさぎ つらいのに無理にポジティブであろうとしたり、しんどさを日常的に強いお酒でごまかしていたりって、危険信号のオンパレードなんですよ。もちろん、あえてそういうふうに描いているんでしょうけど、全部悪化ルートの入り口に見えてしまって複雑になるというか……。
いぬ 僕は読んだときに「(ドカ食いダイスキ!)もちづきさん」味を感じて。実際にそういう感想もあったんだけど、でももちづきさんは生活の中で思い悩んでいるとかじゃなくて、お腹が空いているだけな気もするからな(笑)。
うさぎ 「もちづきさん」には、不思議なカタルシスがあるじゃないですか。
くま でも最近ホラー展開になってません? ドカ食いしてるもちづきさんがかわいく描かれていたけど、実際の姿は……みたいな。
くろねこ ああ、正月太りの回ですね。
とり かなり話題になってましたよね。
いぬ 僕も食べるのが好きだから、どちらかというと「もちづきさん」のほうが読んでいて怖さを感じてしまうかも。上司のおじさんが甘いものを食べようとするたびに背後に死神が現れるのとか、自分に重ねてしまう(笑)。
くま 私はもちづきさんも病んでるというか、ドカ食いでいろいろ発散している人のマンガだと思って読んでます。自分も似たようなことしちゃうから、心身ともに気をつけないといけないなっていう啓蒙マンガとしても受け止めている。
とり 最近は世間的にもメンタルヘルスにフォーカスされることが多いので、作家さんもそういう人たちへの共感を意識しているのかもしれないですね。そういった方面でも注目を浴びている作品なので、今後の展開で病院に行く流れが出てくるのであれば結果救える人もいるのではないかと思ってしまいますが……。
くま そうなのかな?
うさぎ まあ、ハッピーちゃんの健康を気にしながらハラハラ読むようなマンガでは決してないだろうから……。
くま 「ハッピーちゃん」は「早く病院に行ってくれ」と思ってしまうところまで含めてのギャグマンガかなあと思ってます。
座談会に参加した編集部員
- いぬ:最近でかつよちゃんのことばかり考えています。グッズの供給が少ない……。
- うさぎ:原画展に行くのが好き。複製原画は、家に飾る場所がなくても買ってしまう。
- くま:「ミラノ・コルティナ2026オリンピック」開会式のヤマザキマリさんの解説、めちゃくちゃ面白くてわかりやすかったです。
- くろねこ:冬季五輪で「銀のロマンティック…わはは」が注目されてうれしい。日本の宝。
- ぞう:「囚人転生」ますます面白くなってきてるのでオススメです。えげつないマンガが好きな人はぜひ。
- とり:「クジマ歌えば家ほろろ」のアニメ楽しみです。
- ねずみ:今年こそ、「講談社 春のマンガまつり2026」で当選したい。
