「機動警察パトレイバー」初期OVAの制作を回想、最新作は“全8本”でアフレコ済み
「機動警察パトレイバー」シリーズの初期OVA「機動警察パトレイバー アーリーデイズ」が、「第1回 あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」内で本日12月13日に上映された。上映の間にはメカニックデザインの出渕裕、脚本の伊藤和典、映画祭のジェネラルプロデューサーを務める真木太郎氏、バンダイナムコフィルムワークスの代表取締役社長・浅沼誠氏が登場した。
司会のアニメーション評論家・藤津亮太氏に呼び込まれ、まずは「ヘッドギアメカ部の出渕です」「ヘッドギア文芸部の伊藤です」と揃って挨拶し会場を和ませた出渕と伊藤。当時のことを覚えているかと聞かれ、伊藤が「ギャラをもらってないんじゃないか?」と言い出すと、客席で観ていた真木氏が「払ってますよ!」と答えて急遽登壇する流れに。真木氏は当時在籍していた東北新社のプロデューサーとして「パトレイバー」立ち上げに関わった立場。さらに真木氏に話を持ち込んだ、当時バンダイに在籍していた鵜之澤伸氏の存在に話が及ぶと、同氏のもとでアシスタントを務めていた浅沼氏も客席からステージに招かれ、4人でトークする運びとなった。
押井守が監督を務め、1988年に全6巻・全6話で発売されたOVA「機動警察パトレイバー」。当時を振り返って真木氏が「OVAを4800円(という低価格)で売ると鵜之澤さんが言ったのが面白かった」と話に乗った決め手を述べると、浅沼氏は「鵜之澤さんが『真木さん。お金半分出してくれ』って言ったら、その場で『わかった、やろう』と。みんな30歳手前くらいですよ」と2人の勢いに驚いたことを明かす。
1本1万円が当たり前だった時代に4800円で販売するという薄利多売の戦法を取った同作。AXIAのCMを入れテープ代を安くしてもらう、16ミリフィルムを使うなどの工夫も行ったが、やはり制作費は厳しかったという。伊藤が「だからレイバーはほとんど動かないし、監督が押井さんになった。押井さんなら6本の配分をうまくできるだろうと」と話すと、1本単位のOVAより、あらかじめ6本のシリーズものとして発注することで制作費を押さえたというエピソードも浅沼氏から語られた。プロモーションの場もなかったため、押井監督や出渕、伊藤らも全国を回ってプロモーションを行ったという思い出話にも花を咲かせた。
そんな苦労を経て制作されたOVAは大ヒット。特に5話・6話には真木氏も「関われてよかった」、浅沼氏もFAXで1枚ずつ送られてくる脚本を読みながら「こんなに面白いアニメの脚本があるんだ」と思ったという。劇場版が決定したのちに第7話が制作され、第7話のみ吉田光伸が監督を務めているが、伊藤が「吉永さんは職人だからやりやすい。押井さんは職人というよりクリエイターだから、よくわかんないなってところがたまにあるんだよ(笑)」と押井監督を評する。藤津氏は「もともと『パトレイバー』は(通常のアニメで言う)番外編のような匂いがする作品ですが、第7話で初めて普通の回が出てきた」と話す。これについては出渕と伊藤も同感のようで、出渕は「『パトレイバー』の本質というのはこの、“番外編っぽさ”のあるものの連続体なんじゃないかっていう気がしてるんです。自分にとっては第7話のほうが(本編に対して)番外編っぽい」と語った。
2026年には新作「機動警察パトレイバー EZY(イズィー)」のプロジェクトが本格始動することも伝えられている。出渕が監督、伊藤がシリーズ構成・脚本を務め、真木氏と浅沼氏も関わる同作。2022年にはパイロットフィルムも公開されているが、キャラクターデザインなど、パイロットフィルムと実際の本編では制作スタッフが異なっているという。さらにアフレコが収録しているということ、“全8本”で構成されることなども明かされた。
出渕は「最初は監督をする気じゃなかったんですが、でもやってて楽しいです。今の時代に『パトレイバー』ってどうなんだろうと懐疑的にも思ってたんですが、最初のOVAみたいな形のものは、今のアニメの中にもそんなにないんですよ。やってみたら楽しいな、というのが自分の手ごたえ」と明るい表情。最後にも改めて「最初のOVAのような、王道ではなく番外編的なものの連続体としての『パトレイバー』を目指していく所存です。それが『パトレイバー』だ、と思っている方には、期待を裏切らない出来になってるんじゃないかと思います」と自信を見せた。
「第1回 あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」は12月17日まで愛知県名古屋市内で開催中。細田監督作の特集上映や、各国のクリエイターによるトークセッションやカンファレンス、国内外の作品が参加する長編コンペティションが展開されている。
