劇場アニメ「犬王」のジャパン・プレミアが、本日11月3日に東京・TOHOシネマズシャンテで行われ、監督を務めた湯浅政明が上映後のQ&Aに出席した。
「犬王」は湯浅が監督、松本大洋がキャラクター原案、野木亜紀子が脚本を手がけるミュージカルアニメ。古川日出男の小説「平家物語 犬王の巻」を原作に、室町時代に活躍した実在の能楽師・犬王と、盲目の琵琶法師・友魚の友情が描かれる。この日のイベントは現在開催されている、「第34回東京国際映画祭」の一環として実施された。
着席した湯浅監督の隣には、この日がお披露目だという松本が手がけたポスタービジュアルが。湯浅監督は「かわいいカッコい」とこのビジュアルの感想を述べ、笑顔を見せた。作品のどこに興味を持ったかという質問には、「企画をいただいたときに、犬王が当時のポップスターであったと説明されて、一緒にロックミュージシャンの写真も見せられて面白いと思いました」とオファーをもらった際のことを振り返る。さらに湯浅監督は実在の人物を扱う今作について「歴史の話って、音楽に関しても、芸能に関しても、人々に関しても今残っているものから想像する話がすごく狭い。もっと広いイメージが有るべきだと思っていた」と自身の考えに合致したこともあり興味を惹かれたことを明かした。
犬王そして友魚の2人を軸に物語が展開される同作。湯浅監督は、時代背景もあり成り上がりが難しい中でも自身の境遇に逆らって這い上がろうとする2人に魅力を感じたと話す。続けて「僕が1番興味を持ったのが、犬王がすごく明るいということ。宿命を背負うと暗くなるものなんですけど、彼がそういう時代になぜ明るくいられたのかが魅力的だと思うし、そういう人に自分もなりたい。今の時代に犬王みたいなキャラクターを観ることで勇気をもらえると思った」と考えを述べた。
キャラクター原案を務めた松本へのオーダーを聞かれた湯浅監督は「松本さんの絵が大好きなので、できるだけ自由にやってほしい」と伝えたことを明かす。一方で犬王と友魚に関しては細かいやり取りがあったそうで「2人の主人公をできるだけ若くしたかった。犬王の形が変わっていくというのを映画としてどう見せるかというところで、いろいろ話し合いました」とキャラクター作りでのこだわりを語った。
映画の中で重要な役割を担う「平家物語」は、敗けた平家の残らなかった話を琵琶法師が拾い上げて語り継ぐことで生まれた物語。湯浅監督は「犬王」が「古川さんが現代から犬王、友魚がいただろうという話を拾っている」と過去の出来事を伝えていくという点が「平家物語」と似た成り立ちをしていると自身の考えを伝える。さらに「物語を残せなくても、その物語を分かりあった2人がいたことが重要だと思っている。人を理解するのはすごく難しいことだけど、簡単に『こいつ嫌な奴』とか『分かんない奴』と決めつけるんじゃなく、その中で理解してあげるのがいいと思うし、どんな人にもよき理解者がいたほうがいいということがテーマになっている」と出会いによって変わっていく2人に込めた思いを話した。
犬王役のアブちゃん(女王蜂)、友魚役の森山未來についての話題では、湯浅監督が役への理解を深めるために森山に琵琶を実際に習ってもらった事を明かす。さらにアブちゃんについては「歌唱指導もアブちゃんが先頭になってやってくれた。アブちゃんが犬王になっていくような感じがしましたし、こちら側もそうなるように作っていった」と作詞も依頼したというアブちゃんの演技を褒めていた。
最後の挨拶で湯浅監督は「一人ひとり感想を聞きたいところですけど(笑)」と観客を見渡し、にこやかな笑顔を向ける。続けて「公開まで半年以上あるので、できるだけよい感想をつぶやいていただいて、盛り上げていけたらなと思います」と冗談を交えながらほがらかな雰囲気でイベントを締めくくった。「犬王」は2022年初夏に全国ロードショー。
「犬王」
2022年初夏全国公開
スタッフ
原作:古川日出男「平家物語 犬王の巻」(河出書房新社刊)
監督:湯浅政明
脚本:野木亜紀子
キャラクター原案:松本大洋
音楽:大友良英
総作画監督:亀田祥倫、中野悟史
キャラクター設計:伊東伸高
監督補佐:山代風我
作画監督:榎本柊斗、前場健次、松竹徳幸、向田隆、福島敦子、名倉靖博、針金屋英郎、増田敏彦、伊東伸高
美術監督:中村豪希
色彩設計:小針裕子
撮影監督:関谷能弘
編集:廣瀬清志
音響監督:木村絵理子
音響効果:中野勝博
録音:今泉武
音響制作:東北新社
歴史監修:佐多芳彦
能楽監修:宮本圭造
琵琶監修:後藤幸浩
アニメーション制作:サイエンスSARU
配給:アニプレックス、アスミック・エース
キャスト
アヴちゃん(女王蜂)、森山未來、柄本佑、津田健次郎、松重豊、片山九郎右衛門、谷本健吾、坂口貴信、川口晃平、石田剛太、中川晴樹、本多力、酒井善史、土佐和成
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