大友克洋がピーテル・ブリューゲル「バベルの塔」をもとに作り上げた絵画作品「INSIDE BABEL」の完成お披露目発表会が、去る4月13日に東京のDNP銀座ビルにて行われた。
かねてから好きな画家の1人にブリューゲルを挙げている大友。このたびオランダのボイマンス美術館に所蔵されている「バベルの塔」が24年ぶりに来日するにあたり、同作からインスピレーションを得た作品の制作に挑んだ。「INSIDE BABEL」では「バベルの塔」の内部を描くことをテーマに、塔にざっくりと切り込みが入れられている。大友は塔で生活する人々や建設作業の様子を想像しながら考察を重ね、内部構造のスケッチを50枚以上執筆。コラージュ・アーティストの河村康輔がそれに色を付け、まるでブリューゲルが描いたかのような作品に仕上げている。
会場には大友と、本作を共同制作した河村が登場。制作のためボイマンス美術館を訪れたという大友は、「バベルの塔」の実物を目にした感想を「500年前の絵には思えないくらい鮮明で、見とれてしまいました」と語る。中心部を空洞にした理由について聞かれ、「空洞じゃなかったとしたら、塔自身の重みで潰れてしまうんじゃないかな。材料が少なくて済むメリットもある」と見解を述べた。原画に合わせて描くが故の苦労もあったようで、「塔の構造が真円ではなかったため、想定していたよりも空洞を小さくしなければならなかった」とコメント。「中心線に合わせてパースをつけていく作業が本当に難しくて……。遠近法を勉強し直しました」と笑みを浮かべた。
塔の内部を描くケースは珍しく、現地の学芸員でもわからないことが多いという。原画をつぶさに観察していくうちに新たな発見もあったそうで、「ボイマンス美術館の学芸員に、『入り口はどこですか』と尋ねたんです。そしたら『それはわからない』と言われて。でもやってるうちに、これが入り口なんじゃないかという門を見つけたんです」と解説。大友は続けて、「塔の左側に川が流れているんです。そして手前にきちんと出口がある。これはきっと、塔の真ん中にも川が流れているに違いないと思った」と着想を語った。
新しく描かれた部分のテクスチャーは、撮影したブリューゲルの絵を素材として切り貼りすることで、繊細な筆のタッチを再現した。河村は「大友さんと、どれだけ『バベルの塔』に近づけるかを目標にしていたんです」と制作時の心構えを話す。編集ソフトのレイヤー数は2万5000を超えていたそうで、河村も「そんなレイヤー数になったのは人生初。切り貼りしているというより、絵を描いている感覚に近かった」と苦労を明かした。それを聞いた大友は「レンガ1つでも、場所によって全部パースが変わってくるんですよ。これを1つずつ調整して貼っていくんだから、時間もかかるし、すごく大変だったと思います」と河村にねぎらいの言葉をかける。河村も出来栄えには満足しているようで、「どこを作ったのか、自分でもわからなくなることがあった」と自信をのぞかせた。
絵にはちょっとした遊び心も。大友は塔の上方を指しながら「最後に遊びで“バケモノ”を描かせていただきました。ベルギー王立美術館にある、ブリューゲルの『墜落天使』です」と紹介。「ディテールを観ていったら、10分20分かかると思う。本当に細かく描いてあるので、ぜひ足を運んでいただき、近くで観ていただきたい」とコメントした。
「INSIDE BABEL」は、4月18日より東京都美術館で開催される「ブリューゲル『バベルの塔』展」にて公開。複製原画や関連グッズも販売される。
ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝-ボスを超えて-
会期:2017年4月18日(火)~7月2日(日) ※月曜は休室、ただし5月1日は開室
時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで、金曜は20:00まで開室)
会場:東京都美術館 企画展示室
観覧料:当日券 一般1600円、大学生・専門学生1300円、高校生800円、65歳以上1000円、中学生以下無料