海野つなみのマンガ家生活30周年を記念したイベント「+1東京お茶会」が、去る1月19日に東京・LOFT9 Shibuyaにて行われた。
昨年2019年に大阪で行われた「大阪ほろ酔い夜会」に続き、今年2020年でマンガ家生活31周年に突入する海野が主催する本イベント。海野と、Kiss(講談社)の担当編集・鎌倉氏に加えて、シークレットゲストとして麻生みことと二ノ宮知子が呼び込まれ、乾杯の音頭で幕を開けた。
イベントは事前に海野のブログに寄せられたアンケートの結果をもとに進行していく。まず最初のお題は「好きな海野作品キャラについて」。票が一番多かった「回転銀河」の“ミス・ニュートラル”和倉ちゃんが話題に上がると、海野は「実は和倉千絵という名前は友達の早稲田ちえちゃんから名前を取りました」という裏話を明かす場面も。二ノ宮が「和倉ちゃんは海野先生なのかなって思ってた。こういう視点でいつも人を見てるのかなと」と海野と和倉ちゃんが似ていると話すと、海野は「どのキャラクターも自分の一部をクローズアップさせるけど、ここまで極端ではない。自分に似てるかって言われると似てるけど、自分そのものではないですよね」とキャラクター創作について言及した。
また「彼はカリスマ」の知華ちゃんが好きなキャラとして話題に上がると、海野は「“屈託がない”という設定1本で押し通したキャラ(笑)。『あんた屈託がないわねえ』って常に言われているキャラクターで、何を言ってもニコニコしてポジティブなことを返してくれるっていう子なんですけど」と説明。「ヨックモックのドゥーブルショコラオレを初めてもらったとき、『知華ちゃんの持ってたお菓子だ!』と感動しました」という読者の声に、「知り合いのマンガ家さんにも、『海野さんといえばドゥーブルショコラオレを思い出すんですよね』って言われました! でもみんな好きでしょ? ヨックモック。お歳暮とかでもらうとうれしいですよね」と会場を和ませつつ「私の作品はこういう固有名詞が多いんですよね」とも語る。固有名詞が多く登場する理由は「そのほうがリアル感が出るから」とし、「嫌なんです、“ワクドナルド”とか(笑)。そういうのより本物を描きたいんですけど、だんだん固有名詞を使うのも厳しくなっていますよね」と話すと、二ノ宮や麻生も同意してみせた。
オムニバス作品となる「回転銀河」の話題では、第1話「イノセント・イノセンス」が近親相姦の話だったこともあり、いろんな雑誌のコンペにかけられ、掲載まで8年もの時間がかかったというエピソードが飛び出す。「でも私、『小煌女』っていうSFとか、時代ものの『後宮』とか、どこに出していいのって話が多くて」と言うと、すかさず麻生が「白泉社かな……」とポツリ。これには会場も納得と言わんばかりの大きな笑いに包まれた。またオムニバスということもあり、「ほかで描けなかったような話は全部『回転銀河』の登場人物ってことにして描いてしまえみたいな(笑)。ほんとに便利なシリーズ。前によしながふみさんが『きのう何食べた?』の中だったら描きたい話が全部描けるっておっしゃっていて。私の中では『回転銀河』がそうだったなと」と述懐すると、二ノ宮が「じゃあまた続きを」と促す場面も。海野も「担当の鎌倉さんは『まだ完結してない』って言うんです(笑)。私は終わりましたって言うんですけど。でもこのシリーズはいつまでもできるような形式だから、描きたくなったらいつでも戻れるっていう、ホームですね」と回答。二ノ宮も「続きがあったら読みたい」と改めて返すと、客席のファンも大きく頷いた。
「しびれる名ゼリフ」を紹介するコーナーでは、麻生が「新しい言葉を作り出すんじゃなくてぴったりくるものを提示してくれる」と海野作品のセリフについて持論を述べる。二ノ宮も「(『逃げるは恥だが役に立つ』に登場する)“小賢しい”っていう言葉もそうなんだけど、ぴったりくるものが多いんですよね」と同意した。名ゼリフとして読者から寄せられた「逃げ恥」の平匡さんの「一人でなんでもできるけど でも安心って実は人が与えてくれるものなんだって思ったんですよ」というセリフを紹介しつつ、海野は「別に普通のセリフじゃない? たぶん名ゼリフと呼ばれるものって、受け取る人が自分の一部を乗っけてるんですよね。だから描くほうは何も考えてなくても、受け取る人にとっては特別な言葉になる」と分析。二ノ宮が「海野さんの場合はドヤ感がないんですよ。『いいセリフ言ってやった』みたいな」と話すと、海野も「そうですね、ここで平匡さんがカメラ目線で『安心って……』みたいに言い出したらドヤ感がでるんでしょうけど(笑)」と切り返しつつ、「読み飛ばしたい人は読み飛ばしてもらって構わないし、引っかかってくれる人は引っかかってくれたらいいな、くらいのスタンスで描いてるし、あんまりメッセージ性を込めすぎるとしんどくなっちゃう」と、自身の創作論について展開した。
海野作品が与えた「日常生活への影響」というトークテーマで「とにかく一番多かったのは手帳」と海野が切り出すと、参加者一同からは納得の声が。1998年刊行の「Telescope Diaries」において、大学生になったばかりの主人公・雪が兄の婚約者・幸(さきは)の持っている手帳に憧れるというエピソードで、憧れるけれども自分らしい手帳を買おうと月の満ち欠けが入っている手帳を選ぶというシーンが、ファンに大きな影響を与えたという声が多く寄せられたようだ。鎌倉氏が、海野ファンは手帳が好きだという声が多かったため「逃げ恥」9巻特装版に手帳をつけることになったと切り出すと、海野も「いろいろ制約があったんですけど『月の満ち欠けはどうしても入れてください』ってお願いしたんですよね(笑)」と振り返る。
そのほか固有名詞が多く登場する海野作品ならでは、「西園寺さんと山田くん」でのコムシノワ、「Telescope Diaries」でのハッチポッチステーションなど、作品に登場した固有名詞に関する話題も。また「雨が降ってもサンサンサーン♪」「ブラックマヨネーズの“ヘイヘイオーライ!”」「ノックは無用!」などの話題が登場するも、大阪ローカルなそのネタに会場の反応はイマイチ。海野も「皆さん東京の人だからわからないですよね? 関西だったらドッカンドッカン、大爆笑ですよ!(笑)」とつっこみ、笑いを誘っていた。最後に会場のファンからの質問コーナーや、サイン入り複製原画などが当たる抽選会などが行われ、海野の「31周年も、よろしくお願いします!」の声でトークイベントは盛況のうちに幕を閉じた。