描きたいのは料理より職人「蒼太の包丁」思い出の万願寺唐辛子など振る舞われたトーク

イベントの様子。左から本庄敬、末田雄一郎。

末田雄一郎原作による本庄敬「新・蒼太の包丁」2巻の刊行を記念したイベント「“蒼太の料理”を食べ尽くす&作家の創作秘話トーク」が、去る8月25日に東京・板前バル新宿店で開催された。

「蒼太の包丁」に登場する料理の提供に加えて、本庄と末田によるトークが披露された本イベント。会場となった板前バル新宿店には、劇中に登場する「神かわ」の板長・古元のモデルとなった小出料理長が身を置いており、このたびのイベントも小出料理長の申し出によるものだと紹介された。会場は超満員で、挨拶に立った小出料理長も「普段ここまで大盛況になることはない」とコメント。末田も「小さな店に何人入るかというギネスチャレンジのよう(笑)」と冗談を飛ばした。イベントには「江戸前の旬」のさとう輝らマンガ家仲間も多数参加しており、末田が来場者に彼らを紹介する一幕もあった。

この日、来場者に振る舞われたメニューは、「松花堂弁当」「鱒の姿造り」「鰹の登り造り」「万願寺唐辛子の素焼き」「鰯のつみれ汁 味噌仕立て」。また「イカの黄金焼き」「万願寺唐辛子の射込み揚げ」といった料理が再現され、一角に展示されていた。料理のテーマを聞かれた末田は「冬の料理を出すのは無理なので、季節感で選びました」と説明。本庄は「蒼太の包丁」4巻収録の「『甘い』記憶」で描かれた万願寺唐辛子のエピソードに強い思い入れがあるそうで、「実は当時、『もう辞めようかな』という気持ちだったんです。料理にもそんなに興味がなかったし、いろんなストレスが溜まって、『もう面倒くせえや』って。ただこのエピソードの原作をもらったときに、ビビビッと来て。もう少しがんばってみよう、本気で料理マンガをがんばろうと思ったんです」と懐かしそうに振り返った。

ていねいに盛り付けられた「鱒の姿造り」や「鰹の登り造り」がお目見えすると、本庄は「完璧に想像で描いたやつが、そっくりそのまま再現されている。素晴らしい」と賞賛。小出料理長は「『鰹の登り造り』はどうやって再現すればいいかわからなかったんですけど、こうやって盛り付けられているのはあまりないと思いますので、ぜひご覧になってください」と話す。

再現料理を見た末田は「自分で食べたものをマンガに描いてるわけじゃないから、初めて気が付くことがあってびっくりする」と切り出すと、「私たちは特に料理が好きなわけでも……」と口にして会場を笑わせる。末田は続けて、「『蒼太の包丁』を読んだことがないであろう人に、『末田先生は料理に詳しいんでしょ?』と聞かれるんです。でも、俺は料理のことなんか描いてないぞ、と。職人さんの話を描いているんです」とその真意を伝えた。

イベント終盤では、本庄と末田の直筆サイン入りイラスト色紙や料理グッズなどが抽選でプレゼントされた。また手ぶらで帰る人が少しでも少なくなるようにとのはからいで、本庄は自分の出身地である北海道・寿都町のグッズ、不要になった“見開き原稿”などを持参。単行本にイラスト付きでサインを入れるなど、最後までファンと触れ合っていた。

「新・蒼太の包丁」は北海道出身の料理人・北丘蒼太を主人公に描かれる、料理人マンガ「蒼太の包丁」シリーズの新作。銀座の老舗料亭「富み久」で板前修業を積み、東京・練馬に自分の店「富み久 カムイ」を構えた蒼太が、東京オリンピック開催を前におもてなしの真髄を考えていく。俺流!絶品めし(ぶんか社)で連載中だ。

提供された料理と出典

・鱒の姿造り(「蒼太の包丁」10巻 第1話「花ノ井は知っていた」)
・鰹の登り造り(「蒼太の包丁」17巻 第9話「職人たち」)
・松花堂弁当(「蒼太の包丁」2巻 第8話「大相撲とアラ」)
・鰯料理(「蒼太の包丁」14巻 第3話「青柳の本意」)
・イカの黄金焼き(「蒼太の包丁」2巻 第3話「黄金の記憶」)
・万願寺唐辛子の射込み揚げ(「蒼太の包丁」4巻 第5話「『甘い』記憶」)