山口貴由が板垣恵介に出会った当時の印象は「矢沢永吉をベースにした人」

左から板垣恵介、山口貴由。

週刊少年チャンピオン(秋田書店)の創刊記念日である本日7月15日に、東京・秋葉原UDXで行われた「週刊少年チャンピオン 創刊50周年大感謝祭」にて、「バキ」シリーズの板垣恵介、「覚悟のススメ」の山口貴由、チャンピオン先代編集長の沢考史によるトークショーが行われた。

板垣と山口は、小池一夫の劇画村塾の出身。6期生の板垣が劇画村塾に入門した頃、5期生の山口のもとには、「すごい後輩が入ってきた」と噂が届いていたという。山口は当時を振り返り、「僕はコンプレックスが原動力だったし、暗い人間だった。顔に自分の値段が書いてあるなら、自分は10万円ぐらいしか書いてないわけ。でも彼は、その時点で『億』(と書いてるように見えた)。彼は矢沢(永吉)をベースにした人だなって。マンガ家っぽくなかった」と、板垣の不遜なキャラクターを表現する。

これを聞いた板垣は「俺は6期生だったから、パンフレットに(5期生の)彼の写真が載ってました。写真を見てたから、その頃からターゲットだよね」と山口を意識していたことを明かす。山口から「マンガ家っぽくなかった」と表現されたことに対しては、「俺は自衛隊出身なんだけど、その頃に矢沢さんの『成り上がり』を読んで『こんなふうに生きてみたいな、お金持ちになりたいな』って。それで選んだのがマンガだった」と語り、司会の天津向から「(山口に)ダイレクトに伝わってるじゃないですか。顔に『億』が出てるってまさに『成り上がり』ですよね」と驚かれていた。

2人の共通点を聞かれた沢は「やっぱり2人とも小池先生のお弟子だから、ベースは同じ。でも全然出方が違うのが素敵だなと」と回答した。これについて板垣は「村塾で同じ授業を受けてるんだからキャラクターの立て方は似てる」とコメントし、一方の山口は「沢さんが言うには、僕と板垣さんのマンガはキャラが立っているだけで絵になるんだ、と。キャラがいて、その服がなびくだけで(マンガ家として)やっていけるんだ、って言ってくれたんですよ」と述懐した。

続いて沢が「刃牙」シリーズに登場する範馬勇次郎の誕生秘話を語る。「刃牙の親父はすごいキャラにしなきゃいけないっていうときに、トマス・ハリスっていう人の『レッド・ドラゴン』っていう小説を読んだら、背中に大きなドラゴンの入れ墨を入れているキャラがいて面白かったんですよね。その話を板垣先生にしたら、次のネームで出てきたのが、背中の筋肉が鬼の顔になっている範馬勇次郎ですよ。すげえなと思って」と明かす。向が「自分の中に落としこんで、(入れ墨ではなくて)進化させたんですね」と驚くと、これを聞いた板垣は「おっしゃる通り、俺のほうが全然上手だった(笑)」と自画自賛。さらに「打ち合わせでは『背中から手足にかけてドラゴンの入れ墨があって、勇次郎が動くとドラゴンの手足も動く』みたいな話だったんだけど、そのあとプロのボディビルダーの写真を見たら、それが平家蟹(の甲羅)みたいに、顔のように見えたんだよね。『全然こっちのほうがいいじゃん』と思って出したのが、顔に見える筋肉。解剖学的に言うと、正しい筋肉の形はしてないんだけど、人と違うって部分も含めて勇次郎の才能」と明かした。

一方の山口についての話題になると、沢が「板垣先生は山口先生のことをずっと非常に高く評価されていて。『(週刊少年チャンピオンに)曽田(正人)と山口(貴由)に帰ってきてもらわないとダメだ』ってことをずっとおっしゃってますね。『山口が相撲を描いたらすげえと思うんだよね』とも言ってました」と明かすと、これには山口が「板垣さんの描く筋肉を見てると、とてもじゃないけど相撲は描けない」と謙遜する。しかし板垣は「山口くんが描くとね、お相撲がスポーツにならない。かならず神がかったものになることが容易に想像できる。相撲は神事の側面を持ってるわけじゃない? ただのスポーツじゃないでしょ。そういうものを彼に描かせると、独特のニオイを発するんだよね。神様が近くで見てるんだろうなと思える厳粛な空気感を描ける」と根拠を明かしつつ、「だけど彼が相撲を描かないから、俺が(「バキ道」で)描いたんだよ(笑)」と笑った。

最後に向が壇上の3人について「沢さんと作家さんはそれぞれ二人三脚でいい関係ですよね」とコメントすると、板垣が「(沢は『グラップラー刃牙』の)初代担当なんだけど、生涯担当だと思ってるんで」と沢への思いを明かし、鼎談は終了した。