安彦良和原作による劇場アニメ「ヴイナス戦記」の上映会が、本日5月24日に東京・新宿ピカデリーにて開催された。
1989年に劇場公開された「ヴイナス戦記」は、巨大な氷惑星の衝突をきっかけに、人類の移住が可能となった金星(ヴイナス)を舞台にしたSF作品。原作の安彦自らが監督も務めた本作は、その後30年にわたって“封印”という形でDVD、Blu-ray化されてこなかったが、7月26日にHDリマスター版の映像を収録したBlu-rayが発売される。公開30周年の節目にパッケージ化されるにあたり実施されたこの日のイベントには、安彦とアニメ評論家の氷川竜介が登壇した。
大きな拍手で迎えられた安彦は「新作のロードショーのような感じがします(笑)」と客席を埋めたファンを見て笑みを浮かべる。続けて「30歳よりも若い人はいますか?」と問いかけるとポツリポツリと挙がった手を見て、「あなたが生まれるより前に作った作品なんですよ」と長い年月を感じさせる言葉をかけていた。安彦とは長い付き合いだという氷川は本作が30年近く“封印”されてきたことに触れつつ「平成を丸ごとすっ飛ばして、令和の時代に現れるみたいな。そんな出方もすごくカッコいいなと思います」と上映への喜びを語った。
今回の上映ではBlu-rayに収録されるHDリマスター版がスクリーンにかけられたことから、その映像について感想を聞かれた安彦は「あまり上映していなかったのでフィルムが綺麗なままだったそうです。これは封印のなせる技です」とHDリマスター化にあたりフィルムの保存状態がよかったという裏話を披露。公開年の1989年に結婚したという氷川は「(ヴイナス戦記が)婚約時期のデートムービーだったんです。映画っていうのはそういう思い出も封じ込めながら残っていくものなんだと思いました」と当時を懐かしんでいた。
またイベントでは、本作でスウ役を演じた原えりこからのメッセージが届いていることが伝えられ、それをMCが読み上げる。「当時、人生に迷走していた」と振り返る原のメッセージでは、オーストラリアに1カ月以上の旅に出ていた際に本作のオーディションの話をもらったことなどが明かされる。原は「アフレコ後のダビングにもずっと立ち会い、スタッフと一緒に作り上げたという感覚が強い」と、思い入れの強い本作が改めて劇場で上映されていることへの感動を綴った。
本作が“封印”されていたことについて安彦は、パッケージ化の話があった際に断りを入れたことが封印につながったと告白。会場では安彦がパッケージ化を断った編集者からの手紙が読み上げられ、「『ヴイナス戦記』の封印が解かれたことにホッとしています。安彦さんとの仕事の中で生まれていた痛みの1つがなんとか消えてくれそうです」との一節に、「悪いことをしたなと反省しております」と現在の心境を伝えた。
本作が公開された当時の劇場アニメについて氷川は、1984年公開の「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」、1987年公開の「王立宇宙軍 オネアミスの翼」、1988年公開の「AKIRA」、1989年公開の「機動警察パトレイバー the Movie」など錚々たる作品が並んでいたことを解説。さらに「画面密度がどんどん濃くなっている」と、細部にまでこだわった作画へと移り変わっていく転換期にあったことを話した。
「ヴイナス戦記」の公開後に一度アニメ業界を離れた安彦も、「しんどい時代が来たなという感じでした」と述懐。「(宮崎アニメのような)よいものと、オタク的なものが両側から来て、僕は中途半端でそのどちらにも立てなかった。そこに大友(克洋)や庵野(秀明)さんが入ってきて」と当時を振り返った。
イベントの終盤には、本作にカーツ役で出演している池田秀一が会場に来ていることが安彦から伝えられ、会場がざわつく場面も。また本作が東京・キネカ大森ほかの劇場でも上映されることが発表されると、安彦はフランスで開催されるアヌシー国際アニメーション映画祭でも本作がスクリーンにかけられることに触れ、「どういう風の吹きまわしか、30年前よりも多くの人に観てもらえるんじゃないかな」と笑顔を見せた。
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