第2回さいとう・たかを賞の受賞作が、真刈信二原作によるDOUBLE-S「イサック」に決定した。
「イサック」は、後に30年戦争と呼ばれる激しい戦いの最中にあった17世紀の神聖ローマ帝国を舞台に、傭兵として現れた「イサック」と名乗る日本人男性の戦いを描く歴史活劇。月刊アフタヌーン(講談社)にて連載中で、単行本は5巻まで刊行されている。
「勇午」などで知られる原作の真刈は「予想もしなかった今回の受賞を励みに、より面白い原作を書くことでチームの共同制作を盛り上げていきたいと思っております。ありがとうございました」とコメント。また作画のDOUBLE-Sは「毎話ストーリーについていくだけでやっとの状態なのにこのような賞を受けることができ、少しは認めてもらえたかなと大変嬉しく、光栄に思っております」と感謝を述べた。
受賞作品のシナリオライター、作画家、プロデューサーとしての担当編集者(または編集部)には、それぞれ正賞としてさいとう・たかをデザインによる「ゴルゴ13像」を進呈。シナリオライター・作画家のそれぞれには副賞として賞金各50万円が贈られる。なお2019年1月11日に授賞式を開催。また同日18時に公式サイト内の特設ページにて、最終選考会の会議録を公開する予定だ。
一般財団法人さいとう・たかを劇画文化財団が創設したさいとう・たかを賞は、シナリオと作画の分業により制作され、2015年9月1日から2018年8月31日の期間中に単行本第1巻が刊行された作品を顕彰するマンガ賞。審査員にはさいとう・たかを、池上遼一、長崎尚志、やまさき十三、作家の佐藤優が名を連ねた。
受賞者コメント
真刈信二
「イサック」がこのような賞を頂いたことは、原作者としてたいへん光栄です。「イサック」は原作者、作画家、編集者の他に、私の原作を韓国語に訳してくれる翻訳家と、作画家、翻訳家を私たち日本サイドに結びつけてくれる代理人をも含めたチームの作品です。予想もしなかった今回の受賞を励みに、より面白い原作を書くことでチームの共同制作を盛り上げていきたいと思っております。ありがとうございました。
DOUBLE-S
前作が終わって、いくつかの企画をいただきましたが「次は1人でストーリーも描いてみたい」と思っていた最中に真刈先生のシノプシスに出会いました。真刈先生の作品は面白いし、ハード感ある作品が好きでしたがそれも古い作品ということもあり、正直期待していませんでした。しかし、シノプシスの最初の一文で描きたい!と思いました。なんでもない文章でしたが、次はストーリーも自分で書こうと考えていた私にはあまりに圧倒される一文でした。その後、1話の全体シナリオをいただいて、作画を引き受けたことを後悔しました。自分に描けるか不安だったからです。
毎話ストーリーについていくだけでやっとの状態なのにこのような賞を受けることができ、少しは認めてもらえたかなと大変嬉しく、光栄に思っております。選考していただいたさいとう・たかを先生、審査員の方、素敵なストーリーを書いてくださる真刈先生や担当編集の方、そしていつも読んでくださる読者の皆様に感謝申し上げます。
荒井均(講談社 アフタヌーン編集部)
「男がたったひとり、かたき討ちのため日本から神聖ローマ帝国にわたり、戦場で戦う」という、真刈さんの着想がまず素晴らしいです。さらには日本人なら刀、という先入観を覆し、火縄銃で戦う主人公、というのも今作の大きな魅力です。
DOUBLE-Sさんは画力に優れた漫画家ですが、「カッコいい男をてらい無くカッコよく描ける」のが特に良いところだと思っています。真刈さんの生み出した骨太なストーリーやキャラクターを見事に漫画にしています。
真刈さんは大阪在住でDOUBLE-Sさんはソウル在住です。東京と大阪とソウルとでメールを駆使して打ち合わせをして、17世紀のヨーロッパを舞台にした漫画を生み出しているのは、なんだかとても現代的で刺激的だと感じています。
選考委員コメント
池上遼一
銃士として戦う日本人傭兵の火縄銃に刻印された“文字”がアイテムとしてうまく生きており、主人公の生きざまに素直に共感できる。確かな資料による裏付けが、スペクタクルな作品のテーマを解りやすく魅力的なものにしている。エンターテインメントを追求したストーリー展開とキャラクターの個性、箴言ともとれる名言も素晴らしい。コマ割りや絵の表現スキルにもただならぬ才能を感じ、戦争シーンなどはハリウッド映画を観ているような臨場感に圧倒される。
佐藤優
歴史をよく勉強した上で、中世ヨーロッパに日本人が出現したらどうなるかという思考実験を行っている。火縄銃を狂言回しのツールにしているところも面白い。
また、日本のシナリオライター・編集者と韓国の作画家の分業という制作体制は、コミックの次代に向けての新たな展開を感じさせる。
長崎尚志
画もストーリーも素晴らしい!
青年向けのコミックにおいて、この種の題材で定着した作品は少ない。よくこれだけマニアックなジャンルをメジャーなものに仕上げたと感心したし、こういったテーマを今の時代に堂々と出してきたことにも気概を感じる。
やまさき十三
江戸時代の鉄砲鍛冶職人が戦乱の中世ヨーロッパを舞台に傭兵のスナイパーとして活躍する奇想天外の設定が成功したのは、作画家の圧倒的な画力によるところが大きい。
登場するキャラクターもいいし、戦闘シーンも非常に迫力がある。
「日本人って何だろうか?」ということを改めて考えさせられる、刺激的な作品。
さいとう・たかを
緻密な絵には圧倒されるし、コマ運びもうまい。ストーリーの流れもよくできている。
非常に達者な作品である。