花とゆめ・LaLa・メロディ・ヤングアニマルの白泉社4誌による合同のイベント型マンガ賞「白泉社即日デビューまんが賞2018」が、去る7月29日に東京・ワテラスコモンホールにて開催された。コミックナタリーでは、克・亜樹の講演をレポートする。
「いつも仕事場にいて人の前に出ないので緊張しています。でも今日はマンガ家を目指している人のためにちょっとでも役に立てれば」と挨拶して克のトークがスタート。「僕は大学1年生から投稿を始めて、1983年にデビューしました。もともと、少女マンガ家になりたかったんです。恋愛マンガをすごく描きたくて。だから最初はぶ~け(集英社)に投稿したり。ホラーが好きだったからホラーも描いたんですが全然ダメで、花とゆめ(白泉社)に出した恋愛ストーリーで賞を獲りました」と投稿時代を述懐する。
また月刊少年エース(角川書店)にて連載していた「天空のエスカフローネ」について「大学の先輩にあたる、ボンズの南(雅彦)さんに描いてくれと言われて。河森(正治)さんが大学ノート2~3冊にびっしり書いたものを『原作だよ』って。打ち合わせも何度もしましたね」と振り返った。「エスカフローネ」連載中に、白泉社の編集から「エロをやろう」と持ち込まれたという「ふたりエッチ」。「でも、エロは売れない。買うの恥ずかしいじゃないですか。だから言い訳として『このマンガは普通のエロマンガとは違うんだ!』とプラスアルファが欲しくて、『ウンチクやハウツーを入れて描いてもいいなら』と編集者に話しました」と、「ふたりエッチ」の誕生エピソードを語った。
週刊少年サンデー(小学館)などでラブコメディを連載していた克は「サンデーでキスシーンを描いたとき、『ああ、俺キスシーン描いちゃったよ!』と思ったんです」と新人時代を懐古しつつ、「脱ぐのは何回も描いてましたし、作中でセックスさせるのも1度描いたことがあった。でも『ふたりエッチ』を描いてる途中で『いいのかなあ』って(笑)」と連載初期に戸惑ったこともあったと明かす。
そして会場のスクリーンに大きく「デビュー~『ふたりエッチ』ヒットまで」と講演のテーマが描かれていることに対し、「まるで『ふたりエッチ』がゴールみたいに書かれるのは嫌です。今はちょうど『ふたりエッチ』だけですが、別の雑誌とかでも連載をやるように心がけていて、できれば3本くらい同時にやりたい。『ふたりエッチ』がダメになっても、もう1本あれば切り替えられる。そう思ってやってるけどなかなか『ふたりエッチ』から切り替えられなくて」と心情を吐露する場面も。
来場者からの「好きな映画、観ておいたほうがいい映画は?」という質問には、「七人の侍」や「きっと、うまくいく」が好きだと答えつつ、「つまらない映画を観たら、『駄作だった』って思うだけじゃなくて、自分がどうしてそれをつまらないと思ったか、分析したほうがいい。僕もFilmarksに書いてる」と回答。また「ふたりエッチ」の今後について問われると「結婚しても終わりじゃないとか、エッチしたら終わりじゃないとか、“終わりがない”のが『ふたりエッチ』。自分の中にいくつかテーマがあって、40代後半の人の恋愛話は描かなきゃいけないと思ってる。自分も50歳を超えたから、自分より5つくらい下の人のことが描けるようになったんです。今の自分の年齢の話ってなかなか客観的になれないから」と構想を明かした。最後には「マンガは描いて描いて描くしかない。どんどんいろんな作品を描いてください。諦めたら終わりだと思うけど……どっかで区切りをつけなきゃいけないときもあって、難しい。5年後くらいを考えながら、がんばってください」とマンガ家志望者が多い観客にエールを送り、イベントは幕を閉じた。
克の講演のほか、福山と池によるデジタル作画講習や若杉公徳、木村昴、吉田尚記アナウンサーの公開ラジオ収録など各種イベントも行われた「白泉社即日デビューまんが賞」は、今回で2回目となるマンガ賞。会場には4誌の合同出張編集部が1日限定オープンし、持ち込まれた全原稿を批評して審査する。受賞者は即日決まり、賞金は会場で手渡し、希望するマンガ誌でのデビューもその場で決定。大賞を受賞すると、白泉社の総合エンタメアプリ・マンガParkに作品が掲載される。今年は无鐘エリク「ホームレス ゴスペラー」が大賞を受賞。本日7月30日にマンガParkにて公開された。