米代恭「あげくの果てのカノン」の完結を記念したトークイベントが、去る7月23日に東京・青山ブックセンター本店にて実施。米代と、「あげくの果てのカノン」と同じく月刊!スピリッツ(小学館)にて「映像研には手を出すな!」を連載中の大童澄瞳によるトークが展開された。なお本記事には「あげくの果てのカノン」のネタバレが含まれているので、未読の方は注意しよう。
ともに月刊!スピリッツが紙媒体での初連載となる米代と大童。お互いの作品について聞かれると、大童は「あげくの果てのカノン」の第一印象は「うわ、俺には読めない!」だったと明かす。「キャラクターの感情の掘り下げがものすごくて。かのんのようなピュアすぎる、イノセントな感情は僕の中にもあるんですが、自分自身の感情とシンクロしてそれに耐えられなくなるような感じだった」とその言葉の意味を説明。自身の姉とも「月刊!スピリッツの中で一番“ヤバい”作品と話していた」と続けた。
一方の米代は「映像研には手を出すな!」について「クリエイターを目指す人はみんな読んだほうがいい」と太鼓判を押す。アニメ制作に挑む女子高生3人組のうちの1人・金森さやかの名前を挙げ、「彼女の視点があるかないかで、趣味を商売にできるかどうかっていう考えがかなり変わってくると思う」とコメント。「私も昔は趣味から商業のマンガを描くようになったときに、商売のことを考えたりビジネス書を読んだりしていたことがあったんですけど、最近は全然やれてないから『私、金森の精神を忘れてる!』って(笑)、そういうことも思い出させてくれる」と述べた。
それぞれ作品を作る際に大事にしていることについて問われると、米代は「目が離せない状況や、何かよくわからないことが目の前で起きているのを見るのが好きなので、(読者も)そういう感覚にさせたい」と語る。大童は「前回の反省」を大切にしてることとして挙げ、「前の巻ではやれなかった描写を次の巻でやろうと考えたり、反省反省(の繰り返し)でやろうっていうのが物語の軸にもなっていますね。というのも『映像研』の中でもキャラクターたちが物語を作っているので、自分の反省の意識が投影される」とその意図を明かした。
またイベントでは今回のテーマである「ハッピーエンド(もしくは地獄のはじまり)の作り方」についての話題へ。「あげくの果てのカノン」の最終回に対し、ハッピーエンドに感じる人、バッドエンドに感じる人、読者は2つの意見に分かれているという。来場者に「ハッピーエンドとバッドエンド、どちらだと思うか」と挙手が求められると、会場はややハッピーエンド派が優勢。ハッピーエンド派からは「かのん視点で見たら(境先輩と再会できるので)ハッピーエンド」、バッドエンド派からは「努力して境先輩と離れたのにその期間がもったいない」などの意見が飛び出す。米代はそんな意見について「どちらも正しい。そういうふうに見えるように描けたらと思っていた」と納得の様子。大童は最終回を読んで「『こんなんハッピーエンドに決まっとるやん!』と思った」と言い、「『その人たちが目指す幸せとは何か?』というところに注目して考えたときに、最後のかのんの表情や境先輩がどう対応するのかを想像すると、あの状況はハッピーエンドだと言えると感じた」と振り返った。
担当編集の金城小百合氏は「高校生から30歳になっても1人の人しか好きで居続けられないというのは、呪いのように感じる。本人はしんどいんじゃないかと思うし、ハッピーエンドとは思ってなかったです」と意見を述べる。「人間にとっての幸せは何か、私達はいつ幸せなのか」とも考えを巡らせ、米代も「かのんは境先輩に恋をすること以外に生きる実感が湧かないキャラクターなので、人間として成熟しようと一度離れたけれども、再び境先輩を見た瞬間に中毒的に好きという気持ちがあふれる。かのんにとってはハッピーエンドだけど、穏やかな生活はもうできないだろうし、その状況を30歳、40歳になっても続けていくことが果たして幸せなんだろうか」と思案した。
司会から「例えば、かのんと先輩が結婚する終わり方は考えていた?」と聞かれると、米代は「初めの初め、設定を考えている段階では、世界が滅亡した中、誰にも祝福されない2人だけの結婚式を挙げるみたいなイメージがあったんです。だから骨組みみたいなものは最後まで残っていたのかな」と述懐。続けて米代自身は本作のラストをハッピーエンドだと思うか、バッドエンドだと思うかという質問に対して、「ズルい言い方なんですけど、私はずっとメリーバッドエンドをやりたいと思っていて。ハッピーともバッドとも言えないようなラストをやりたいと思っていたんです。見る人次第で変わってくるような感じにはしたくて。なので再会した2人がどうなるかは読者に委ねようという終わりにしました」と答えた。またイベントの最後には米代が次回作についても言及。「まだ話せないが、進行中」であることが明かされた。