昨今、往年のアニメのリマスター上映や、Blu-ray化などのニュースをよく目にする。名作からマニアックなOVAまで、その作品の多くは20年以上前に制作された手描きのセルアニメだ。アナログで制作され、音源やセルが失われている作品もある中、どのように美しく蘇らせているのか、不思議に思ったことはないだろうか。
コミックナタリーはその技術の謎に迫るべく、アニメや実写作品のリマスター映像制作を行っているIMAGICAエンタテインメントメディアサービス(以下、Imagica EMS)に潜入。「天使のたまご」「銀河英雄伝説」「宇宙戦艦ヤマト 劇場版」など、数々のリマスターを手がけてきた同社のメディア営業グループ課長であり、アーカイブコーディネーターを務める水戸遼平氏、デジタルレストレーションスーパーバイザーの中村謙介氏に取材を行い、その技術を紐解く。
取材・文 / 伊藤舞衣 撮影 / 玉越信裕
リマスターの作業フロー
「リマスター」という言葉を一言で説明すると、過去に制作された映像や音声を復元し、現代の映像媒体で再生できるようにする技術だ。フィルムが劣化してしまったり、フィルム映写機の減少により上映の機会が減ってしまったりした作品がデジタル化されることで、多くの人が昔の作品に触れる機会を作ることができる。
今回取材したImagica EMSのデジタル修復事業は、およそ25年前から始まった。これまで明治時代の映画や、昭和に制作された数々の映像の修復をしてきた同社は、アニメを“比較的最近の映像”と捉えているという。ただ、100年以上前の実写映像と比較して素材の状態がいいとはいえ、そのリマスターへの道のりは決して平坦ではない。
Imagica EMSは、デジタルで制作された作品のリマスターも手がけているが、今回はフィルム作品のリマスターの事例を解説してもらった。リマスター作業は、大まかに以下のような流れで行われる。
プランニング・素材選定
どのようなリマスター映像に仕上げるかを作品サイドと相談し、プランを作成。そのプランに応じて、適切な素材を選定する。
補修・クリーニング
経年の劣化などにより傷んだフィルムやテープといった素材を補修し、汚れを取り除いていく。
スキャン・デジタイズ
補修した素材をデジタルデータとして取り込む。
レストア
画面の揺れや、素材に写り込んでしまったゴミ、音声のノイズなどを取り除き、修復する。
グレーディング
映像の色、明るさ、コントラストを調整する。
同期・巻つなぎ
映像と音声を合わせ、分割されている素材を1つにする。
マスタリング
完成したマスターデータから、劇場上映、テレビ放送など、用途に適したデータを作成する。
どんな映像にするか、方針を決めるプランニング
補修作業を始める前に、まず「どのような方針で修復を行うか」を決めるところから始まる。作業の基準を決める重要な役割を担うのが、水戸遼平氏が務めるアーカイブコーディネーターだ。作品により方針はさまざまで、当時スクリーンで上映された映像を再現する方向性だけでなく、作品公開当時にできなかったことをリマスター時に表現したり、現代のデジタル作画のアニメのような滑らかなタッチに見せたりするという方向性もある。
「作品公開当時にできなかったこと」の例を尋ねると、水戸氏は「多いのは塗りミスの補修ですね。服の一部の色が抜けていて、当時は直せなかったものを修復することがあります。『それが思い出』と言うファンもいれば、『意図していたものではないから直したい』という監修者サイドの思いもあるので、そういったところも含めて話し合ってプランニングします」と答える。なお実写映像では、スタッフが映り込んでしまったシーンや、時代劇なのに電線が映ってしまったシーンで、映り込みを消すこともあるのだとか。当時のミスも含めて“味”として残すのか、本来思い描いていた映像に近づけるのか。見せ方次第で作品の印象が大きく異なる重要なポイントだ。
当時のミスを補うだけではなく、表現の幅を広げることもある。例えば映像であれば、より鮮やかな色味にしたり、音声においては当時モノラルだった作品を立体音響にしたりすることも可能なのだ。
水戸氏は「プランニングの際、クライアントや監修者にどんなところを映像の“売り”にするかを、よく確認します」と述べる。売りとなるポイントはすべての工程に影響を与え、映像の付加価値や公開プラン、ひいては広報にも関わってくるのだと、販売まで見据えて語った。こうして希望に合わせて、どの作業をどの程度するのかを決めていくのだが、やりたいことを詰め込んでしまうと時間も費用も青天井になってしまう。限りある時間や、クライアントの予算に合わせて落としどころを見つけるのも、水戸氏の重要な仕事だ。
リマスターに必要なものは?プランに合わせた素材の選定
プランが決まると、プランに合わせた素材の選定を行う。セル画アニメのリマスターにおいては、多くの場合“ネガ原版”が素材として用いられる。ネガ原版とは、セル画と背景を合わせて撮影したコマ(画像)が連なる、いわば映像の大もととなるオリジナル。アニメの映像素材と言われてセルを思い浮かべる人もいるかもしれないが、セルはあくまで中間素材という扱いで、大切に残す場合もあるが、破棄されたり誰かの手に渡ったりすることも多い。また仮にセル画や背景が揃っていても、再撮影をすることで異なる映像になってしまう。補修というよりは新たな映像作品を作るに等しいため、再撮影をすることは100%ないと言っていいだろう。これが、セルが失われていてもリマスターできる理由だ。
ではネガ原版がない場合はどうするのか。ネガ原版は、ほとんどの場合大切に保管されているが、なんらかの理由で失われているケースでは、ネガ原版から複製した“プリント”を使用する。プリントはテレビ放送時や劇場上映時に配られるフィルムで、オリジナルにはおよばないものの多くの情報量を持っているため、ネガ原版の代替として使用されることもある。
世界にたった1つの原版を預かる補修作業
素材が決まれば、フィルムの補修・クリーニングがスタート。ネガ原版は大切に保管されていても、経年劣化で乾燥したり、上映用のプリント作成のために何度もプリンターにかけられることで、両端の穴の状態が劣化していったりする。アニメではなかなかないものの、100年前の実写映像のネガ原版となると、触れるだけでボロボロと崩れてしまうものもあるのだとか。「これが最後のデジタル化、というような状況もあります」と水戸氏は言う。
Imagica EMSは、フィルムの物理的な補修を行うスタジオを大阪に構えている。ここでフィルムのダメージ部分やつなぎ目を、専用のテープなどを用いて補修していくのだ。また汚れや油が付着したフィルムは、状態に応じて機械だけでなく手作業でのクリーニングも行う。Imagica EMSでは、専用の溶剤を用いたウェットクリーニングを採用。通常のクリーニングでは消えない傷を目立ちにくくする効果もあり、複製やデジタル化と併用することでより高品質な映像に仕上がる。
補修・クリーニングを終えたフィルムは、そのまま大阪スタジオでスキャンの工程へ。フィルムは豊かな情報を持ち合わせている。光を当てて投影すれば大きなスクリーンに映し出せるほどの精細さがあり、ある意味解像度の制限がないとも言える。そのフィルムを高解像度でスキャンすることで、4Kなどに対応したサイズでデジタル化が可能となっている。これまで記録媒体はVHSからDVD、Blu-ray、そして4Kへと進化してきたが、将来的にさらに上位の規格や新たなサービスが登場したとしても、それに合わせたサイズでデジタル化して展開することが可能だろう。初めからデジタルで作られた映像は解像度の上限が決まっているため、高解像度化にあたってはむしろフィルムのほうが優位なのだ。
スキャンは1コマずつ行われ、静止画としてデジタル化される。昔は1コマスキャンするのに数秒かかっていたそうだが、最近はスキャナの性能も上がり、リアルタイムに近いスピードでフィルムを回しながらスキャンすることが可能になったという。1秒の映像は24コマの静止画から成り立っているため、90分の映像をスキャンすると、生成される静止画の数は少なくとも12万9600枚。90分のフィルムを4Kサイズの非圧縮データとしてスキャンしたデータをまとめると、7テラバイトほどのデータ量になる。こうしてスキャンされた大量のデータが東京のスタジオに到着し、次なるレストアの作業が始まるのだ。
なお大阪のスタジオと東京のスタジオは、常にオンラインビデオ通話がつながっている状態で、細かな確認や連携、コミュニケーションが行われている。筆者もスタジオの様子をオンラインで覗かせてもらったところ、特殊な道具や薬品、機材などが並んでおり、映像のスタジオというより“研究室”といった様相だった。
一方、音声はどのような素材を使用しているのか。映像であればネガ原版を使用するのがほとんどだが、音声の場合はフィルムに記録された音声だけでなく、業務用の磁気テープを使用することもあり、時代や状況により素材はさまざま。素材により工程は異なるが、磁気テープの場合は磁気を記録する磁性体が剥がれてしまっているものに熱を加えて補修したり、フィルムと同じような形状のテープの場合は、劣化した部分をテープで補修したりする。また映像は大切に保管されていても、音声テープは十分な配慮がされないまま保管され、劣化してしまうケースも少なくはない。そんなときは、テレビ局にある放送用のテープを活用する場合もあると話す水戸氏。その表情からは、素材選びから大変な苦労があることがうかがえた。
「天使のたまご」で見る、途方もないレストアのゴミ除去
デジタル化された映像と音声は、修復作業となる“レストア”の工程に進む。映像のレストアについては、デジタルレストレーションスーパーバイザーの中村謙介氏が、「天使のたまご」の素材を用いて実演しながら解説をしてくれることに。「天使のたまご」は制作当時主流であった16ミリのフィルムではなく、その4倍に近い面積の35ミリフィルムで撮影されている。公開から40年以上経った今も4Kにリマスターされ、劇場のスクリーンで上映しても美しいのは、このフィルムのサイズも大きく影響しているという。
レストアを行うレストアルームに足を踏み入れると、薄暗い部屋の中にパソコンが数台並んでいた。中村氏は、まずリマスターにおけるImagica EMSのポリシーについて「僕らはマイナスの状態の素材をなるべくゼロにして、上映されていた当時の映像を再現することをポリシーとしています。『修復』と『修正』という言葉は混同されがちですが、『修正』はもともとあったものを変えてしまうというニュアンスが強いので、あえて使うのを控えているんです」と語る。“映像の劣化に対する処理は行うが、映っているものに手を加えない”というのが基本的なスタンスだ。
映像のレストアでは、映り込んだゴミの除去や、画面の揺れの補正、光の明滅の補正を行う。中でも手間がかかるのが、映像のゴミの除去だ。フィルムに付着したホコリなどの汚れは、点状の影などになって映像に映り込んでおり、専用のソフトでスキャンしたフィルムを1コマ1コマ確認してゴミを除去していく。
専用のソフトには、ゴミを自動検出して消す機能が備わっている。しかしそれは「映像に突然出現する点や線を認識して消す」という処理をするため、雨や星といった映像内で動き続ける点や線もゴミと認識して消してしまう。ゴミ以外のものが消えないように、マスク処理などを用いながら1コマ1コマ目視での精査をしなければならないのだ。宇宙が舞台の作品など、多数の星が描かれたシーンが何度も展開されるアニメのゴミ除去作業などには骨が折れるという。
逆に自動検出では除去することができないゴミもある。それはフィルムではなく、制作時にセル画自体に付いた傷やホコリ。そのようなゴミは数コマにわたって映り続けるため、自動検出が反応しない。そのため目視で発見し、手作業で前後のコマから適切な絵を移植して消す対応を取る。
消してはならないものだけでなく、自動検出されなかった消すべきゴミも、1コマずつ確認する必要がある。想像するだけで気が遠くなるような作業だ。「十数万というコマ数があるので、この作業に一番時間がかかります」と中村氏は言う。一日中ゴミの除去をしているわけではないとしつつ、90分程度の作品であればこのほかの作業も含めて、レストアには3カ月程度の時間を要すると明かした。
映像の質感をコントロールするのも、レストアの作業だ。フィルム特有のざらざらとした粒子感を映像の“味”として活かすのか、最近のデジタルアニメのように滑らかな質感にするかはプランニング次第。「天使のたまご」リマスター時について中村氏は、「押井守監督には、滑らかな質感にすることもできるが、そうすることで曖昧なグラデーションも少し軽減されてしまう可能性がある、というリスクも説明しました。最終的にはフィルムっぽさを残す判断になりましたね」と振り返った。
このようにレストアの作業は時間も手間もかかるため、作業中に方針の変更が起こるとかなりの痛手となる。監修者に最初にサンプルを見せ、細かな確認を行って方針をすり合わせながら、膨大なデータを処理していく。
一方、音声のレストアでは、プツプツといった音や、低音・高音のノイズを除去していく。作品によっては再構成と言っても過言ではない作業が必要な場合もあり、「天使のたまご」はもともとモノラルの音声をあえてセリフ部分だけ分離させ、サラウンド化した。これまでにはアフレコのテープからOKカットすべてをデータ化しなおしたり、劇伴の音源を再ミックスしたりした作品もあるという。ただ、作品によっては当時モノラルだった音声を、立体音響など最新の音響に合わせることが必ずしも正義ではない。音声もリマスターの方針や予算、作品に合わせてプランニングがされていくのだ。
色彩表現の可能性を広げるグレーディング
レストアに加えてもう1つ重要な工程が、色を整えるグレーディング。ネガからスキャンしたデータは光の情報をアナログとして記録しているため、テープなどのデジタルデータとは異なり、幅広い色や明るさの情報を持っている。写真でいうところのRAWデータのようなものだ。このデータを使い、退色補正を行いながら上映当時の色を復元していくのが基本だが、ここでは監修者の立ち会いのもと、最新の技術を用いた新たな色表現を行うこともある。その1つがHDR化だ。
HDRとは、従来の映像信号であるSDRに比べ、明るさと暗さをより広く表現できる規格。HDRはフィルムが主流の時代にはなかったため、HDR化することは復元というより、ある意味クリエイティブな作業だ。作業にあたっては監修者に立ち会ってもらい、オリジナルの世界観を尊重しながら、そのポテンシャルを最も美しく引き出す調整を行っていく。
SDRからHDR化する際に大きく見え方が変化する例として、水戸氏は“白”を挙げた。例えば白いライトが描かれているシーンでは、SDRでは単に白飛びしていた部分も、HDRでは実際の光のような眩しさや輝きをリアルに表現できるようになる。一方で、この明るさが強すぎると意図せず鑑賞者の目を引いてしまい、本来の演出の邪魔をしてしまうのだ。「明るくできるからといって、すればいいかというとそういうことではない。バランスや作品の雰囲気を考慮して調整していくのがHDR化の面白さでもあり、難しさでもある」と語った。
なおHDR化する際も、SDRでのグレーディングは行うので、HDR化する場合は2回グレーディングを行うことになる。複数グレーディングをする例として、復刻版はSDRで上映当時の色味を再現し、別バージョンとしてHDR化して攻めた色味に調整することもあると水戸氏は紹介した。
補修を終えた映像と音声を同期する巻つなぎを終えると、“デジタルソースマスター”というマスターデータが完成する。このデータは非圧縮で保存するケースが多く、これをもとにして劇場上映用、テレビ放送用、Blu-ray Disc用など用途に合わせてデータを作成。デジタルソースマスターは90分の作品でおよそ5~6テラバイトほどの容量だが、劇場用は100ギガ、放送用は50ギガ程度に圧縮される。クライアントへはマスタリングした映像だけでなく、一番いい状態であるデジタルソースマスターを納品することもあり、そのデータをもとに新たなバージョンを作成した実績もImagica EMSにはあるという。こうして多くの工程を経て、マスタリングされた映像がやっと我々のもとに届くのだ。
リマスターで知った、もう一度作品を世に送り出せるという喜び
さて、リマスターに関わる仕事は重要だが、裏方的な役割が大部分を占めており、決して目立つ職種とは言えない。多くのリマスター映像が届けられている今でこそ、その仕事が認知されているが、以前はそれほど多く知られてはいなかっただろう。そんな中、なぜリマスターの仕事に携わるようになったのか、水戸氏と中村氏に聞いてみた。
2人は最初からリマスターの仕事を志してImagica EMSに入社してきたわけではないという。中村氏は3DCG制作を学んでいた学生時代に編集作業の面白さに目覚め、「編集といえばIMAGICA」と考えて現在のImagica EMSに入社。当時はまだ専門の部署すら確立されていない時代だったが、業務の一環としてデータのゴミ除去を担当したことをきっかけに、デジタル修復事業をゼロから築き上げ、その中心人物の1人となった。
一方水戸氏は、映画好きが高じて映像に携われるIMAGICA(現Imagica EMS)に入社。初めは営業のような業務を担当していたが、縁あってリマスターに関わるようになり、技術も好きで勉強していたところ、技術兼営業のような動きを担うようになった。水戸氏はしっかりとプロセスを踏んで、オリジナルに近い見た目を維持できているか考えながら復元していくリマスターの作業に、やりがいを感じたという。「関係者だけではなく、たとえ関係者が亡くなられていたとしても、ファンやご遺族に復元された映像を観て喜んでもらえる。大事にされてきた映像を蘇らせ、もう一度作品を世に送り出せるということに、面白さとやりがいを感じています」と話し、「あと、『自分が小さい頃好きだった監督と、この作品で一緒にお仕事できるんですか!?』みたいなことが起こるのは、この分野ならではだと思います」と無邪気な笑顔を見せた。2人がリマスターに携わるようになったのは、Imagica EMSという会社が持つ映像業務の幅広さがきっかけとなったと言えるだろう。
「あくまで主役は作品」作品を未来に届ける技術者は偉大な裏方
今回の取材の中で、たびたび「作品を改変しない」ことを強調してきた2人。水戸氏は「僕らの仕事は作品が主役」と言い、中村氏も「当時の映像の再現を目標にしているので、『自分の色を出さないように』と心がけているのは、ある意味こだわり」と続く。その一方で、最近はリマスターの技術も知ったうえで作品を楽しんでいる人も増えているそうで、「ずっと僕たちの仕事は裏方だと思っていたんですが、技術に注目してもらえることも、作品を楽しむうえでの1つの付加価値になれているのかなと思うようになってきました」と、うれしさを滲ませた。リマスターの技術はあくまで映像を自然なかたちで届けるためのものだが、たまには劇場で修復された映像や音、技術者の思いを感じながら鑑賞するのも、また一興なのかもしれない。
技術は日々進化しており、フィルム作品も最近のデジタル作品のような見た目に近づけることもできる。その中で水戸氏らはただ映像をきれいにするのではなく、監修者に「どんなことができるのか」を丁寧に説明して選択肢を提示し、作品が目指す映像に仕上げてプロジェクトの意義を果たすのだ。「マイナスの素材をゼロの状態にして、ゼロから先を監修さんと一緒に作っていく。これはもはや新作の制作に近い作業なので『みんなで作っている』という気持ちで取り組んでいます」と中村氏は言う。水戸氏はそれに同意しながら、最近ハリウッドでは再び新作をフィルムで撮影することが増えているが、そのフィルムもスキャンされ、ゴミの除去とグレーディングが行われていると説明。これはまさに、リマスターと同じ工程を踏んでいる。「基本的な作業フローは同じなので、リマスターもある意味、新作を作るのとそんなに変わらない。リマスターでも、新作と並べられるくらいの情報量を届けられていると思います」とその価値を伝えた。
リマスターにかける思いを尋ねると、まず水戸氏は「古い作品であっても、観たことがないならその人にとっては新作と同じ価値があると僕は思っている」と自身の考えを示す。そして「古いという理由で観る選択肢から外れてしまうのはすごく惜しいので、リマスターにより技術的・品質的にも新作と並べて遜色がないところまで修復して、作品を観てもらう機会を作りたい」と述べ、「もしリマスター作品の上映があったら、劇場で観てほしいです」とメッセージを送った。
筆者はこれまで、リマスターされた映像の美しさに感動しながらも、その労力をあまり意識せずに映像を楽しんでいた。今回の取材で、普段何気なく観ている映像は途方もない労力と時間、作品へのリスペクトで生まれていることを知り、申し訳なさを感じたほどだ。しかしそれを水戸氏と中村氏に告げると、2人は「それが本来の映像の楽しみ方」だと当然のように答える。「観る人の気が散ってしまうような画面の揺れやゴミを除去して、作品に集中できる環境作りをすることが僕たちの目標です。観てもらってこその映像作品ですから」と語る中村氏。作品を未来に届けるという偉大な仕事をしながらも、あくまで裏方であることを貫く姿勢に筆者はますます感銘を受け、リマスターに関わる人々に足を向けて寝られない気持ちになるのだった。