「第39回東京国際映画祭」アニメーション部門の一環として、特集「女性監督、それぞれの世界」のシンポジウムが本日11月1日に開催された。シンポジウムには劇場版「名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)」の永岡智佳監督、「金の国 水の国」の渡邉こと乃監督、劇場アニメ「ベルサイユのばら」の吉村愛監督が登壇。自身のキャリアやそれぞれの演出スタイル、今後挑戦したい作品についてなど幅広く語り合った。
“女性監督”であることは仕事に影響する?
まず開始前に、アニメーション部門のプログラミングアドバイザーである藤津亮太氏より、このシンポジウムの企画意図が語られた。日本のアニメーション産業が始まった1950年代、女性が関わるセクションは仕上げや動画が多く、作品の意思決定に関わる部分に女性が参加するようになったのは、70年代末から80年代にかけてのこと。大きな変化は2000年代以降であり、制作環境のデジタル化や職場環境の改善により女性が増え、現在は監督・演出・プロデューサーを含め多くの女性がアニメ業界で働いている。藤津氏は、そうした業界外からは見えにくい女性監督のキャリアや制作現場の話を伺う意図で企画したものだと説明。その後は聞き手を横浜国立大学大学院教授の須川亜紀子氏へと委ねた。
このように“女性監督”というくくりでの企画ではあるものの、永岡監督、渡邉監督、吉村監督の3人は、仕事において自身が女性であることはほとんど意識していない、と口を揃える。一方で渡邉監督は「発注の際に『女性監督がいい』と言われることはあります。特に少女マンガが原作の作品は女性の視聴者が多いですし、ここは拾ってほしいというポイントを、女性目線で拾ってほしいということかなと、ポジティブに捉えています」と作品ジャンルとの関連性に言及。永岡監督は「『紺青の拳』の宣伝の一環で『初の女性監督』という文言が付いていたときは、『これが宣伝になるんだ』ってびっくりしました。私たちが意識していなくても、お客さんや宣伝においてはそうじゃない部分もあるのかなと感じています」と話し、それぞれ周囲からの見え方に多少性別を感じる部分もあるようだった。
「ベルばら」のオスカルを描ける人は少なかった
ここからは3人の監督それぞれのキャリアと、今回映画祭で上映された監督作についての話題に。劇場アニメ「ベルサイユのばら」の吉村監督はサンライズ出身だが、「子供から社会人になっていく過程に、ロボットアニメが全然入っていなかった。今もロボットものはお仕事を受けていなくて、少女マンガをやるほうがしっくり来ています」と振り返る。2025年に公開された劇場アニメ「ベルサイユのばら」は、言わずと知れた少女マンガの金字塔を完全新作としてアニメーション化したチャレンジングな作品。渡邉監督は「原作マンガを知っていると、『あのマンガがこう(映像になって)出てくるよね』って感じがすごくあって。今これを観れてる私ってすごく幸せだ!と思ったんです」、永岡監督は「クオリティがめちゃくちゃ高くて作画も麗しいし、チームの熱意が映像から出ている」とそれぞれ絶賛した。
また永岡監督は「皆さんオスカルは描けたんですか?」と、昨今のキャラクターデザインとは異なる「ベルばら」のキャラクターを、アニメーターが描けるものなのかと質問。吉村監督は「やっぱり描ける人は少なかったです。一生懸命描いてくださるんですが、どこかオスカルじゃなくて。最後のひと味をキャラクターデザインの岡(真里子)さんに担ってもらいました」と、制作時のこだわりを明かした。
「チャレンジするのが好き」とたびたび口にしていた吉村監督が今後やってみたいジャンルは「ホラー」。「アニメでホラーって、どう驚かせるの?と言われますが、それにチャレンジしたい。あとは自分の年齢が上がってきて、体力が持たなくなってきているので、演出監督だけじゃなく、幅を広げていろんなことができるようになりたいです」と意欲を語った。
子育てしながら制作した「金の国 水の国」
「金の国 水の国」の渡邉監督は、同作を手がけたマッドハウスの所属。2023年公開の「金の国 水の国」は、制作時期がコロナ禍の最中であり、さらに渡邉監督は子育て中でもあったという。「子供を産んだ後は監督をやるのは無理かなとも思っていたんですが、周囲がフォローするからやってみないかと会社で言ってもらえて。会社と夫の理解があり、生まれた子供がなんとか1年くらいなら耐えうるタイプだったという、偶然の産物的なところもあるんですが、周りの人の理解があるかないかで、成立するかどうかというのはありますね」と経験を交えて語った。
公開当時、映画館に「金の国 水の国」を観に行ったという永岡監督は「映像からチーム一丸になってやっているのがわかる。ぜひ観てほしいです。キャラクターもめちゃめちゃ動いてて超かわいいです。あとでサインください!」と大絶賛。吉村監督は「『ベルばら』では初見の人がどういう場所、どういう雰囲気のところでキャラクターがお芝居しているのか意識してレイアウトを作ったんですが、『金の国 水の国』はそこがすごくわかりやすく作られていて、こういうふうにやりたかった」と、異国を舞台にした作品ならではの難しさについて触れた。原作がもともと大好きだったという渡邉監督は“キュンポイント”を聞かれ、「犬のルクマンが穴に落ちてしまうシーンは、かわいそうに見えるように私がコンテを切っています。ルクマンのかわいさで前半を引っ張ろうと(笑)。中盤の、夜のシーンは『キュンキュンの代名詞、浅香守生監督にここは振ってしまえ!』と(笑)、そんな采配でやってました」と回想した。
もともとマンガオタクだったと自称する渡邉監督は、「原作の根幹を揺るがさないようにしつつ、『マンガ読めばいいじゃん』と思われないアニメ、観た後に原作を手に取ってもらえるアニメになるよう心がけています」と自身のこだわりを伝える。また今後やりたいジャンルとして「ギャグ」を挙げ、「ギャグは映像的な実験や若手のアイデアが入れやすいんです。そういうアイデアのぶつかり合いがあると現場も活性化するので、うちの会社でやらせていただけると面白いんじゃないかなと思います」とアピールした。
皆が作ってきた江戸川コナンを受け継ぐこと
劇場版「名探偵コナン」では2019年の「紺青の拳」、2021年の「緋色の弾丸」、2024年の「100万ドルの五稜星」で監督を務めている永岡監督。歴史も人気も絶大の「コナン」を手がけるうえでは、「これまで携わった方々が作ってきたキャラクターから大きく外さないのは大事なことだと思います。皆さんが思い描いている江戸川コナンがいると思いますので、皆さんが作ってくれたキャラクターを受け継ぎつつ、私が思う江戸川コナンを少しだけ入れる」と、コナンだけでなく長期シリーズで心がけているポイントを伝える。「紺青の拳」の話題になると、吉村監督が「恋愛ドラマをしっかり見せていただいて。『手つないじゃってるじゃん!』みたいな(笑)。キュンキュンしちゃいました」と笑顔で話し、渡邉監督も「両片思いのじれじれとかも大好物で。『100万ドルの五稜星』を観たときは、早く告白してしまえばいいのに!でも劇場版で告白成功しないか……ってなったり(笑)」と熱弁。TVアニメで平次と和葉がついにカップルになったことをお祝いするなど、恋愛描写の話題で大いに盛り上がった。
永岡監督自身のキャリアについては、「『銀魂』でコメディのテンポ感、『コナン』でレイアウトと芝居作りの大事さ、『うたの☆プリンスさまっ♪』で表情の作り方、愛されるキャラクターの作り方を学ばせていただいた。いろんな系統をやったことで『永岡ならこうするよね』って芝居の作り方ができていって、『多聞くん今どっち!?』では思いっきり出ていたと思います」と振り返る。「愛されるキャラクター作り」について聞かれると、「私はけっこう動かすタイプなので、セリフと表情をなるべくリンクさせたい。自分で芝居をしながら絵コンテを描いたりして、ちゃんとそれができるかどうか確認しながら動かします。TVアニメはやりすぎてしまうと大変なことになるので制限はかかるんですが、やれるときはやります(笑)。そうするとキャラクターたちの表情が豊かになって、魂が入って、声優さんの声とリンクしていって愛らしくなる。どの作品でも心がけています」とこだわりを明かした。
また20代で業界入りしてから20年ほどのキャリアを経て、自分の考え方が徐々に変わってきたと述べる永岡監督。「20代のときは演出への門を開きたいという強い気持ちがあり、30代は“自分の色ってなんだろう”と、一番クリエイティブに対して熱い気持ちがあった時期。40代に入って、私の下についてきてくれる若い演出さんのことを考えるようになりました。自分の演出の仕方を見て、いいなと思ってくれたら若い子たちがそれを自分のものにして、となっていったらいいなと思います」と、下の世代へのエールも伝えた。