雑誌やWeb、アプリなどでスタートした新連載を、毎月振り返る「今月の新連載」。版元ごとに担当者が決まっているコミックナタリー編集部では、ほぼ毎日のように始まる膨大な数の新連載を、毎日読んで記事を書き続けてきた。そんな部員たちが、その月に面白かった作品や気になった作品、そのほか最新のマンガ業界のトピックなどを振り返る企画だ。第16回では2026年9月にスタートした新連載を語る。
文 / コミックナタリー編集部
弓道をテーマにした青春もの「ビビビっと和泉くん」
りす 今月は「ビビビっと和泉くん」が面白かったですね。主体性のない主人公が初めて自分で選んだのが…… “ビビビっ”ときた弓道だったという話。弓道がうまくなって大会に出てっていうよりは、青春ものというか、自分探しみたいな話になるのかな。作中でも弓道の先生が「弓道は人と争うものではなく、自分と向き合うものです」と言ってるし、このボンヤリとした主人公がどう成長していくのか。1話から先が楽しみで、自分も“ビビビっ”ときちゃいました(笑)。
うさぎ 弓道部って憧れますよね。それこそ今中学生だったら、弓道部がある高校に進学したいくらいの勢いで、弓道に憧れがあるかもしれない(笑)。たまに電車とかで弓を持っている学生を見ると、「弓道部だ、カッコいいな」って思うし。
ぞう 最初の見開きの、先生が弓を引いているシーンめちゃくちゃカッコいいですよね。
くろねこ マンガとかアニメではたまに弓道部って出てきますけど、現実だと珍しいですよね。
りす 弓道部の実態って全然知らないな。弓道部のマンガも、珍しいってほどじゃないけどそこまで多くはないですよね。西炯子さんの「ひらひらひゅ~ん」とか?
くろねこ くらもちふさこさんの「花に染む」とかもそうですね。でもスポーツマンガというよりは、弓道を題材にした青春ものみたいな作品が多いかもしれない。
くま 僕は新聞社のスポーツ部にいたときに取材したことがあるんですけど、京アニの「ツルネ」から入った人が多かったです。ちょっとオタクっぽい雰囲気はあるかもしれないです。
りす 確かに、スポーツなのに文化部っぽい匂いがしますもんね。
弓道、書道、アイスホッケー……ちょっと珍しい部活マンガ新連載
りす 部活マンガつながりで言うと、「イッピツアヤル」も面白かったです。主人公が「斐(あやる)」っていう名前で、初対面の人には読めないし漢字を書くのもバランスを取るのが難しいしで嫌なんだけど、お母さんがつけてくれた名前だから愛着はあるっていう。そこの愛憎入り交じる感じとか、自分の名前の字ぐらいうまく書けるようになりたいっていう主人公の思いがちゃんとストーリーに絡み合っていて、心に残るいい1話でした。書道マンガも弓道マンガと同じぐらい珍しいですよね。
いぬ さっきの弓道マンガもそうですけど、主人公がその競技や部活をやるにいたる理由がちゃんとわかる作品が僕は好きですね。この作品も書道をやるようになるまでの動機が丁寧に描かれていてよかった。
とり キャラも魅力的ですよね。字がうまくなってやるって気持ちだけで、部屋を埋め尽くすくらいの数を練習できてしまう集中力みたいなのも、平凡なキャラだったら見られないと思いますし、どこか1つ魅力的なポイントがあるように思います。書道のことはまったく詳しくないんですけど、書道部の潤くんが、偉大な書家が残した美しい文字を自らの書に取り入れていくシーンを見て、そういう楽しみ方があるんだなっていう気づきがありました。
うさぎ 書道っていう要素以外にも、メインの3人の関係性とか、面白くなりそうだなと思いました。
とり 「スラップショットガールズ」もテンポよくてめっちゃ面白かったです。アイスホッケーがテーマですけど、これも部活ものになるのかな?
うさぎ 部活ものになっていきそうですね。第1話では主人公の虎走くるみと、アイスホッケーとの出会いが描かれていますけど、第2話からは新しく入学した学校が舞台なので。
ぞう アイスホッケー部もあまり見たことないですよね。地理的な制約で寒い地域のほうが盛んだと思うんですけど。
くま 苫小牧や八戸とかで全国大会があるんですよね。ただクラブチーム化しているので、部活というよりは高校をまたいでクラブチーム同士で試合やってるみたいです。
ぞう あと部活ものでよくある、こんなにお金かかるんだ問題も出てきて面白かったです。アイスホッケーはやっぱりお金かかりますよね。装備がいっぱいありますし。
くろねこ 今月はちょっと珍しい部活マンガの新連載が多かったですね。
篠原千絵のミステリーロマン「斎宮幻視譚」
くろねこ 篠原千絵さんの新連載も始まりましたね。最近「天は赤い河のほとり」がアニメ化されましたけど、篠原さんもずっと現役で活躍されててすごいなあと。絵も相変わらずキレイですし。
とり 「斎宮幻視譚―いつきのみやのとこよひめ―」は、斎宮という神に仕える皇女を描くミステリーロマンです。斎宮皇女(いつきのひめみこ)が自分以外には見えない、同じ姿の女の子・常世姫とともに、悪事を働く人を懲らしめる……というようなお話で。まだどんな展開になるかはわからないんですが、続きが気になる作品です。個人的にキレイにまとまっている1話よりも、まだ何が起きるかわからないような1話のほうが続きを読みたいなって思うんですよね。1話がまとまりすぎてると、それで満足してしまうこともしばしばで。
りす 第1話が読み切りみたいによくできていて、これで終わりでもいいなみたいな作品って増えてると思うんですよね。そのほうが満足感も高いし、ネットでも話題になりやすいし。でもまとまりすぎている1話って、面白くても2話以降は読んでないものもある気がしますね。
くろねこ かといって、あまりにも話が進まない1話だと続きも読んでくれないでしょうし……。新人さんとかにはなかなかできないですよね。
とり 確かに。新人さんは1話で読者の心を掴まないといけないから、難しいですね。
「攻殻機動隊」の“同日譚”は、士郎正宗版を知らなくても読める
ぞう 「攻殻機動隊」の新作「GLITCH WITCH」も話題になってますね。“同日譚”と謳われていて、原作と同じ時系列でどんな話になるんだろう?と思っていたら、警察のバディものみたいな感じで読みやすかったです。「攻殻機動隊」っぽい、ちょっと難しい要素も入ってはいるんですが、士郎正宗版を知らなくても問題なく読めると思いますよ。
りす 「攻殻機動隊」って言われると難しそうなイメージありますけど、いいSFものとして面白く読めました。
うさぎ 作画担当の東直輝さんが、「攻殻」の世界観を違和感なく描いているのもすごいなと思いました。
ぞう 最新話でしゃべる猫みたいのが出てくるんですよ。デフォルメがきいたかわいい感じのキャラで、見た目はかわいいけど、中身は賢人っぽい雰囲気のあるしゃべり方で。この子がいることで作品の雰囲気が明るくなりそうだなと思いました。それに「人形使い」っていうワードが出てきてるんで、今後、どんなふうに「攻殻機動隊」とリンクしていくのかも気になります。
クトゥルフの知識がなくても楽しめる「ノイズリング」
りす 「ノイズリング」は、太古の生き物とか深海から来る謎のものとか、もういかにもクトゥルフという感じで面白かったです。
いぬ 僕も面白かったです。めちゃくちゃ展開が速くて、公開されている話を一気に読んじゃいましたね。各話の最後のページがすごく印象的なシーンで終わるので、引きとかもめっちゃくちゃ考えて作ってるんだろうなと思いました。
ぞう 僕はクトゥルフ全然わからないんで、わかる人が見たらもっと面白いのかなと思いながら読みました。クトゥルフって原典がいっぱいあるんで、その中のどれをもとにしているのか気になります。
りす 普通にホラーものというかサスペンスものとして面白いから、そんなにクトゥルフ知識を必要とはしない印象ですけどね。
ぞう 設定として使いやすいのかなっていう作り手側の事情もちょっとありそうですよね。
りす 確かに。今のクトゥルフって都市伝説とかきさらぎ駅みたいな感じで、みんなで共有して使って面白くしていくIPみたいなものとして機能してそうな気はしますね。
はらだの青年誌初連載「あくえん」
くろねこ 「あくえん」はどうでしたか? はらださんの一般誌の連載っていうだけでかなり注目度が高いですが、BL要素がない一般向け作品の連載はほぼ初めてな気がします。
りす 青年誌初連載、と書かれてますね。自分はBLに詳しくないので、はらださんの作品はそこまで熱心には読んで来なかったんですが、さすがに面白いなって思いました。めちゃくちゃ先の展開が気になるサスペンス。
いぬ 面白かったです。
ぞう 僕はBLを描いてる作家さんっていうことを全然知らなくて読んだんですが、まったくその香りがしなかったです。
りす はらださんって、一般誌でもいけそうなふんわりしたBLじゃなくて、ガチのBLでめちゃめちゃ人気の人ですよね。連載開始時のコメントに「お声かけもらってから8年たっててびっくりしました」ってあったし、声かけられたけど最初は断ってたのかもしれないですね。
くろねこ 人気作家さんなので、シンプルに順番待ちだった可能性もありますけどね。青年誌での連載としてホラーサスペンスを持ってきたのはちょっと驚いたんですけど、BLでもけっこうドロドロした重たいお話も描かれるので、なるほどなと思いました。
りす 謎がいっぱい仕掛けられてて、まだどうなっていくのかは全然わからないけど読ませる1話って感じでした。予知の力、みたいな設定が出てきてますけど、僕はタイムリープものなんじゃないかと思ってます。
ぞう この手のサスペンスものって、ある程度話が進まないと何が起きるのかわからないですからね。謎が解けたらそこで終わっちゃうので。でも1話から面白そうな雰囲気はめちゃくちゃ感じました。
普段はBLを読んでない人にも届ける“ふんわりBL”
ぞう 「遺影がない」と「顔に出さない男たち」は、くらげバンチで“ふんわりBL”っていうキャッチコピーをつけて公開された読み切りです。どちらもBLっぽい要素もあるんだけど、がっつりBLではないという感じです。面白く読みました。
くろねこ 「遺影がない」は話題になってましたよね。永井三郎さんはBL好きには有名な方ですし。
ぞう 死んだ父が残した写真から展開される話ですけど、お母さんがマイク持ってめちゃくちゃキレてるシーンとか、お父さんの昔好きだったっぽい男の人との思い出とか、息子の1人が家族とちょっと違う雰囲気があったりとか、写真1枚でこんなに話広げられるんだなと思いました。
りす 面白かったです。読み切りと言わず、この家族の話をいろいろ読んでみたいですね。
ぞう 「顔に出さない男たち」も、読み切りとしての完成度が高いなと思って。最後のメガネの主人公が笑うラストシーンとか、めっちゃいい顔してて、終わり方もよかったです。
りす 僕はそもそも男なんであれですけど、やっぱりエロ要素なしBLは楽しく読めるなと思って。でもガチのBL好きからすると、エロなしのライトBLみたいなのってどうなんですかね?
くろねこ どうですかね。BLって定型美みたいなのがあって、エッチシーンまで描かれて完成するみたいな……。エロがまったくないと、話としてはよくてもちょっと物足りないって人はけっこういるんじゃないですかね。
りす 確かにBLって一般誌にもいけそうな雰囲気の作品でも、残り2話ぐらいはがっつりエロっていうの多いですよね。
くろねこ エロはそんなに求めてないけど、男の子同士の恋愛が読みたい、みたいな需要もあるとは思うんですけどね。それこそライトBLは、ガチのBLは苦手意識がある人とか、エロはあんま得意じゃないっていう読者がターゲットだと思いますし。
うさぎ KADOKAWAにも、“ゆるキュンBL”と謳っている作品群があります。「佐々木と宮野」とか「みなと商事コインランドリー」とか。コミックジーンやジーンピクシブでの展開なので、主なターゲット層は中高生かもしれませんが、性描写が苦手な人にも向けているのかもしれませんね。
くろねこ 作家さんにも一定数いると思うんですよね。そんなにがっつりエロを描きたいわけじゃないけど、男の子同士が描きたいって人。
りす ライトBL系のレーベルって、昔から定期的に立ち上がりますよね。自分はエロ要素なしBLって好きな雰囲気の作品が多いから、割と歓迎なのだけど。長続きせず終わっちゃうレーベルも多いから、そんなに愛好家は多くないのかな……。
ぞう ふんわりBLはレーベルとして立ち上げたわけじゃなくて、くらげバンチの中にある1つのコーナーくらいな立ち位置のようです。今はそれがちょうどいいのかもしれないですね。個人的にはBLが本当に好きな人と、普段はBLを読んでない人の間をつなぐような作品がもっとあればと思うので、そこもふんわりBLには期待してます。
座談会に参加した編集部員
- いぬ:アニメに向けて「美味しんぼ」を読み返しています。
- うさぎ:好きな青春弓道マンガは「青武高校あおぞら弓道部」。
- くま:「生徒会にも穴はある!」アニメ始まりましたね。キャストがピッタリで最高です!
- くろねこ:「萩尾望都×山岸凉子×大和和紀 三人展」が素晴らしかったです。圧巻でした。
- ぞう:「れんげとなると!」の“酔っぱらい”こと葉山さんの担当編集がついに登場して上がりました。「れんげとなると!」はいいぞ!
- とり:過去の連載でも話した「白眉の司」、1巻がめちゃくちゃ面白かったです! 続きが気になる!
- りす:「サイバーパンク: エッジランナーズ2」一気見してしまいました。BD屋のお姉さんかわいいーと思ったら、最初しか出番なかった。